9-12.『仮面』の管理人
少し短いですが
「両方ぶっ飛ばす!?何考えてるんだ!お前!?」
ガラハドが俺を怒鳴りつける。
「聖上、流石に魔王と、それを圧倒する力の持ち主を単身で攻略するのは無茶なのでは?」
イドバルドが俺を制す。
そんなにおかしいこと言ったかな?
「まぁ、まて。とりあえず、俺の話を聞け」
まず、フェニクスは手負い。
しかも今現在、苦戦している。相当、力が落ちているのは間違いないだろう。
仮面ローブの方は俺の直感だが、多分、だいたらぼっち。……いや、あの老紳士ジェイムスといったか。あいつの関係者だろう。
姿がそっくりだし、あいつの出す気配は老紳士のそれに似ている。
あいつには借りがある。
ガラハドとヴィゴーレの父親である公爵を廃人にして、皇国を混乱させてくれたしな。
流石にこのまま放っておく理由はない。
この場で両方仕留められれば御の字だろう。
「てかんじで、仕留めておかない理由はないわけなんだ」
「うーん。しかしなぁ」
「アレクシス。簡単に言うが、相手は魔王、そしてそれに準ずる力を持つ者だぞ?そんな簡単にどうにかできるのか?」
「正直な話、できるかどうかわからないな。俺は戦いに関しては素人だし」
「聖上、では一体どうするおつもりか?」
俺はイドバルドの言葉に少し詰まりながらも、こう答えた。
「決まってる。レベル差でぶちのめす」
そういうと、3人が3人とも頭を抱えた。
えー、そんなにおかしいかな。
国に被害が出る前に対処するのは当たり前と思うんだが……。
俺たちが大穴の前につくとその大穴から下の様子が伺えた。
影さんの視界を使って下の安全を確保する。
下で行われている戦いは流石に上空方面までは届かない。
届かないというか、両者とも平行的な闘いをしているからこっち方向に攻撃が飛んでくることはない。
俺達は身を潜めて安全を確保する。
「とりあえず、俺が突入して機会を伺うけど、皆はどうする?」
「どうするって言われたって……」
「とりあえず、我らはここで待ったほうが良いのではないか?聖上の小さなお姿であれば、向こうにバレる心配も少ないだろう」
「もしも危なそうなら私達も突入しよう」
そうか、ポーションイーターの姿で気配寸断で近づけば確かに危険も少ないか?
その方が飛び降りるよりもいい気がしてきた。
「じゃあ、行ってくるよ。あとよろしく」
俺は3人にそう告げて、ポーションイーターへと変化する。
氷室さんにも怒られたが、やっぱり猫の姿で喋れないのは厳しいな。
服も毎回着直しだし。
やっぱり今度、ミリアさんやバロンにスキルについて聞いておいたほうが良いかもな。
そう考えながら、俺は下をよく確認して、穴の中に飛び込んだ。
と、その時。
フェニクスの吐いた炎が、仮面ローブに弾かれてこっちへ向かってきた!
え、嘘だろ!?おい!
話が違うぞ!
俺は思わずスキルを発動し、防御姿勢を取った。
炎は俺に届くことはなかったが、衣系スキルのせいでまるで爆発したように周囲へと拡散し、煙を上げた。
影の視界からその様子を見ていたが、相手は2体ともこちらに気付いてしまったようだ。
えぇい!ままよ!
俺は煙が晴れる前に人型へとなり、急いで着替えた。
やがて煙が晴れると、そこには人型の俺の姿が。
幸い、飛翔の衣の効果で中に浮かぶことができるので、地面に叩きつけられることは無かったが。
あっかーーーーーん!
完全に気づかれた!!
しまった!
ここは防御じゃなくて隠れるべきだった。
「んー?ボクチンの楽しみの邪魔をするのーは、一体誰ですかねー?」
ピュウゥゥゥゥイ!
2体の敵から殺気が向けられる。
お邪魔虫を先に排除しようという考えなのだろうか。
えぇい。こうなったら仕方ない!
「あんまり、うちの敷地で暴れないでほしいんだけど。出来れば、平和的に解決したいし」
そう言うと、仮面ローブが狂ったように笑った。
「ハハハ、ハハハハハ!アーッハッハ!平和的解決?この状況下で、ソレを言いますーか!?人間風情が?ハハハ!可笑しくて腹がねじ切れちゃいますーよ!ねじ切れるどころか一周回ってエターナッちゃってまーすよ!!」
そう言うやいなや、仮面ローブがこちらに向けて魔法……衝撃波を放ってきた。
目前に衝撃波が迫る。
俺は衝撃波を風魔法でかき消して対処した。
しかし。
衝撃波は囮。
かき消した直後、俺の眼前に3本のナイフが迫る。
あっぶなっ!!
俺は反射的に魔法剣を使用して逆袈裟切りにナイフを切り払った。
何とか対処はできた……って、うおぉい!
ナイフを切り払った俺にフェニクスから放たれた炎が目前に迫ってきていた。
こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉ!
俺は魔法剣に火魔法を意識し、今度は袈裟切りに叩きつけた。
俺の魔法剣はフェニクスの火を切り裂き、左右に分断した。
「ん~。なるほーど!それなりに出来るようでーすね!」
くそっ!こいつ、こっちを完全に格下に見てやがる!
ふざけんじゃねぇ!
いきなりこんなぶっ放してきやがって!
ソッチがその気ならこっちにも考えがあるぞ。
俺は両手を前にして魔力を込める。
そして、土魔法を発動した。
発動した土魔法のイメージは、岩石を槍のようにして放つだけのものだ。
しかし、ここは四方を岩と土に囲まれた洞窟の中。
どうなるかは想像に易いところだろう。
幾千、幾万もの石の槍は、対象に殺到する。
これなら逃げる場所もないし、ちょっとはピンチになるだろう!
食らいやがれ!奴畜生!
しかし、俺の思ったようにはならなかった。
まず、フェニクスは一鳴きすると、自分の身体の周辺に火魔法を展開。
俺が以前使ったような火の結界を展開し、飛んでくる岩の槍を溶かしまくっていた。
それでも、すべては溶かせないのか、いくつかは結界をすり抜けて体へと当たっていた。
ピュゥゥゥゥゥゥゥゥゥイ!
フェニクスが苦痛の声を上げる。
この石の槍自体は十分に聞いているようだ。
一方、仮面ローブは……、ってなんじゃそりゃぁ!?
仮面ローブは石の槍を避け続けていた。
ただ避けるだけではない。
四方八方からほぼ同時、もしくは多少の時間差をつけて飛んでくる石の槍を避けるだけでも頭のおかしい話だが、こいつのおかしさは常軌を逸脱していた。
人間の腕の関節って逆向きに180度曲がるものだっけ?
いや、ないよ!
普通にないよ!
腕の関節だけではない。
体中の関節があらゆる方向に曲がっていた。
関節だけではない。
まるで骨がないような動きだ。
……正直な話、気持ちが悪い。
蛸みたいなやつだなおい!
「んー!なんという魔法!なんという魔力!さてーは、君が噂の『神獣様』ですーね!」
石の槍の嵐を気色の悪い動きで避けながら仮面ローブがそんなことを呟いた。
「一応確認しておくけど、噂ってなんだよ」
「ボクチンの仲間の一人が君の事、話してたーよ。強力な魔力を持つ魔物で、試作の『種』でも敵わなかったってーね」
試作の『種』?何のことだ?
「『種』の管理人、老紳士ジェイムスを退けたその力は驚愕に値しまーす」
ってやっぱり、あのうさん臭い爺の仲間かよ!
俺は、魔力を籠める。
特大の石の槍だ。
しかし、そいつはそれを、軟体動物のような動きであっさりと回避してしまう。
「一応、聞いておくぞ。お前、名前は?」
その言葉に、仮面ローブが笑い始めた。
何かおかしいことを言ったのか?
「ハハハッ!アハハハハハハハッ!いいでしょう!ボクチン達の障害になるかもしれない君の頭の中にしっかりと刻み付けるといいでーす!」
仮面ローブが、フードを外し、その顔……というか白い仮面が露わになった。
「ボクチンは『緋色の黄昏』教団最高幹部の一人!『仮面』の管理人、主殺しのバルバトス!世界にわが主の御力を伝えるものでーす!」
そう仮面が、バルバトスが、高らかに宣言したのだった。
エターナッちゃって。
本来の意味とは違います。
バルバトスは『メビウスの輪』のような、という意味で使っていますが、この世界、メビウスの輪というのは認識されていないので。
その言葉ができるのはもう少し先の話です。