2-3.牛のような何か
おはようございます。
こちら、「おうちの朝ごはん」リポーターの多夢和です。
今日は、お姫様のおうちの朝ご飯を頂いちゃいましょう。
わー、すごいですね。
朝からステーキ……、というか焼肉?ですよ奥さん!
うーん、この味!調味料を何も入れず、素材の味をそのまま楽しめますね!
……すみません。いい加減、勘弁してください。
4日連続で朝晩調味料なしの牛肉を焼いたもの、さすがに飽きました…。
なんかこう、もうちょっと何とかできませんかね。
塩に胡椒、醤油に味噌、ちょっとでも使えればだいぶ味が楽しめると思うんですが。
あぁ、主食も忘れずに。ごはんか食パンを頂ければ。
現代社会の食事に慣れた自分には、正直なところ限界が近かった…。
食事のあと、俺はシャルロッテさんに抱えられて馬車に乗せられた。
行先は知らない。
しかも、シャルロッテさんはここ2日ほど俺を放してくれない。
開放されるのは食事やトイレ、そしてシャルロッテさんが移動するときのみだ。
マリアゲルテさんとも食事以外は会えてない。
シャルロッテさんとじぃやとアドマさん、そして数人のメイドが俺がこの四日で出会うことができる人間のすべてだ。
たま~に、その人たちの会話で公爵とか伯爵とかの名前が出てきてるけど、まぁ今はスルーでいいだろう。
……ドメインとかバック・マッツとかちょっとツッコミたい名前が多かった印象しかない。
あとは歴史と世界観の勉強になったくらいかな。
建国の士、ドルエス・アレクシス・ドリステリアと6人の仲間たち辺りは何回も出てきたから、嫌でも覚えた。
その後に英雄と呼ばれた人たち、特に人類最強と呼ばれた、ルルエス・ナスティーユをはじめとしたこの世界の英雄譚。
あとよくは覚えてないけど、神々の名前や若干の国名。
この国はカムイ神国・商工連合王国・イルムランド王国・クレアナ聖国と友好関係にあるらしい。まぁ、その国がどこにあるかとかわからないんだけど…。
しかし、ちょっと興味をそそられたのはルルエスの英雄譚。
人類最強。
元の世界では、ゲームや漫画を好んでいた俺だが、やはりその言葉にロマンを感じる。
固有名詞はよくわからなかったが、とにかく色々な人間に師事をしたらしい。
そのせいか、後世に作られた色々な物語に登場しているらしい。
元の世界でいうところの哪吒とかそんな感じなのかもしれない。
そんなことを考えていると、シャルロッテさんに抱え揚げられ馬車に乗せられた。
え?なに?どこ行くの?
俺をのせた馬車は次第に石畳の道から山道へと進んでいった。
その山道をさらにガタゴトと揺られ、山間の道を進んでいき、石だらけの川原にたどり着いた。
そして、そこでシャルロッテさんと一緒に降りることとなった。
え?まじでなんなん?
ま、まさか捨てる気ですか!?
ペットを山とかに捨てるのはいかんのだぞ!
撤回!撤回を要求する!!
俺はシャルロッテさんの腕のなかで暴れて、抗議する。
もちろん、シャルロッテさんに傷がつかないよう、加減をして。
しかし、シャルロッテさんはそんな俺をしっかり持って放さない。
「ハイハイ、暴れないで下さい。あ、見てくださいアレクさん。あれがウーマですよ」
シャルロッテさんが俺を抱えなおし、抱えながら器用に川のそばにいる動物に指をさした。
そしてそこには……
牛がいた。
その姿は俺の知る褐色の牛…、ジャージー種に近い。
蹄のある足に、太い胴体。頭にある角に、どことなく憎めない顔。
……ただし、ある一点で決定的にソレとは違っていた。
……首が長い。
馬のように長い首に鬣がついている。
「馬か牛かどっちかにしろよ!?」
思わず突っ込んでしまった。
もっとも、発音はニャーとしかできなかったが。
俺の心の叫びをどう受け取ったのか知らないが、俺の声を聴いたシャルロッテさんが、俺の頭をなでながらこう答えてくれた。
「怖くないですよ、アレクさん。とっても温厚で臆病な動物ですので」
違うの。怖いから叫んだんじゃないの。
ツッコミたいだけなの。
なんなの?このキメラ。
さすが異世界。
それじゃ地面の草食べにくいだろう?とか思っていると、
川辺にあった低木の葉を食べていた。
そうか。よく考えたらここは牧草地じゃない。
食べ物が違うのか。
よく見ると、蹄も馬のような平原に住む動物のものではなく、ヤギやカモシカのような山岳地帯にすむ動物のものに近い。ぶっとい指のようだ。
元の世界の牛は…、どうだったかな。どっちかというとヤギっぽかったような気もしないでもない。
ん?ウーマの一頭がこっちに近づいてくる。
ウーマはそのままゆっくりと、俺とシャルロッテさんに近づき、目の前来て少し首を下げた。
ちょうど、シャルロッテさんに抱えられた俺の目の前に顔が来ている。
なんだろう…と、少し身を乗り出す。これがいけなかった。
べロリ。
長い舌で舐められた。
「……くっさ!?超くっさ!?」
驚いて抗議すると、さらに舐められた。
ベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロベロ。
舐めすぎ!舐めすぎ!
息ができん!殺す気か!?
「うふふ…、ずいぶんそのウーマに気に入られたようですね」
シャルロッテさんが口元を抑えて笑う。
いやいや、そんな微笑ましい場面じゃなかったでしょ!?
俺、舐め殺されそうになってましたよ!?
「舐めるのはウーマの愛情表現なのですよ?」
人間位体格があればそれもかわいく感じるかもしれませんがねぇ…
この小さな体で顔をめっちゃ舐められると色々やばい。
顔はべとべとだし、息はできないし、くさい。
あと、ほのぼのした場面ではあるかもしれませんが、後ろに控えてる護衛さんたち、めっちゃ構えてますやん。絶対これ、「姫様の安全を~」とか考えてるぞ。
あ、護衛のうちの二人はこの前の夜に喋っていた二人か。
ん?護衛五人のうち一人に何か違和感を覚えた。
なんていうか、ほかの護衛とみている場所が違う気がする。
それと、動揺しているというか、ちょっと挙動がおかしい。
バグったゲームのキャラみたいになってる。
ほら、ほかの護衛もちょっと怪しんでるみたいだぞ。
あ、逃げ出した。
なんで?
そんな露骨に逃げたら……、ほら、他の護衛につかまった。
すっごいうなだれて連れていかれてる。
なんだったんだ?よくわからん。
ちなみに、この件について俺が詳細を知ったのは数日後だった。
この時は、そんなことになってるとは思いもよらなかった。
……あと、いい加減なめるのやめてくれませんかね…
~ある執事と衛兵の会話~
「首尾は?」
「は。滞りなく。すでに実行犯の男は捕らえ、尋問は進んでおります。主犯が判明するのも時間の問題でしょう」
「主犯……、やはり単独犯ではなかったか…。して、いったい何を計画しておったのだ?」
「はい。ウーマの放牧時に飼料として使用されていたアラドーの低木に、ジイズの木の挿し木がされておりました」
「ジイズの木だと!?まったく、ふざけたことをしおって……」
「はい。姫様の公務を狙ってのことでした。ジイズの葉によってウーマが暴れ、事故を起こすことを期待したようです」
「愚かな……、そのような不確定要素の多い計画を立てるなど……」
「えぇ、しかし効果的です。さすがは元魔物。家畜化されているとはいえ、その力は大きいです」
「しかし、肝心のその葉を喰わなかったせいで計画が露見するとはな…」
「えぇ、まったく。しかし、本当に幸運でした。実際、かなりの数のジイズの枝が見つかりました。それらに全く口をつけていなかったのですから」
「ほんとうにな…。しかし、あまりにこちらに都合がよい気がするのだがな…」
「はい、さらに調べではアレクシス様の活動範囲にも挿し木がされているのが確認されました。おそらく、姫に近しいアレクシス様を狙ったものでしょうが…、幸いこちらも数日間姫様と行動を共にしていたおかげで大事に至らずに済みました。まるで何か特別な力でも働いているような……」
「………いや、考えすぎだな。ともかく、今後もよろしく頼む。……お前にとっては嫌な役割だろうが」
「いえ……、わが弟が起こした不始末。私の手で解決して見せましょう」
「……よろしく頼む」
「はっ!」
遅くなりまして申し訳ございません。
少しだけ解説を行うとウーマがジイズの挿し木部分を食べなかったのは、多夢和君のスキル『ラッキースター』が働いたからです。
アラドーの低木
家畜の飼料に使用される低木。もっさりとした外見に太い枝が特徴。
主にウーマなどの放牧時に使用されている。
ジイズの木
アラドーの低木に似た葉をつける木。
動物に極度の興奮作用をもたらす成分が含まれている。
基本的には気付薬として乾燥させて煎じたものを少量摂取する。