9-7.冒険者への道・ギルドにて
「おぉ!これがギルド!人間の姿で見てもデカいんだな!」
前来たときは猫の姿だったから、もっとデカく見えてたけど、人間の姿でもデカく感じる。
俺とガラハド、それにイドバルドとゴルディは連れ立って冒険者ギルドに足を運んでいた。
目的は、俺達の冒険者登録をするためだ。
イドバルドはまだ病み上がりなので俺が運んできた。さらっとゴルディも肩に乗っていたので実質、2人運んで来たことになる。
因みにお姫様抱っこして運んできた。
流石に、前皇王を肩に担いで来るのは気が引けた。
なので苦肉の策だ。
何が悲しくて、おっさんをお姫様抱っこしなければならんのか。
「なぁ、ほんとに登録するのか?」
「え?登録しちゃまずいか?グレイも一応登録したって言ってたけど」
「いやそりゃ、貴族や王配が登録しちゃいけないルールはないが……」
俺を連れてきたガラハドが目線を背後に向けた。
その後、グワンと血走った目でこちらを振り向いた。
「だからって!前王と王配と訳のわからん鉄の塊の後見人なんて前代未聞だぞ!?」
あはは……。まぁ思いつきだしな。
イドバルドは冒険者復帰しようかとか話していたし、俺は俺で、今のうちにファンタジー世界を楽しみたい。
ゴルディはおまけだが、冒険心をくすぐられるって言っていたから、冒険もしてみたいだろうと思って誘ったのだ。
「大丈夫、大丈夫。ほら、実力は3人とも確かだし」
「そういう問題じゃねぇ!?」
俺はガラハドを落ち着かせるために、ポンと肩に手をおいて、笑顔で語りかける。
「それにな、ガラハド。何事にも『初めて』ってことはあるものさ。批判を恐れず、最後までやり抜いたものこそ、世に名を馳せるものと……」
「そんな名言風に言っても騙されないからな!?」
……ちっ、ダメだったか。
妹なら、これで騙せたんだが。
「良いから!良いから!とりあえず入ろう。それに、ここに居たほうが目立つぞ」
俺は周りに目を向ける。
通りがかる人が若干の奇異の目をこちらに向け始めている。
主に、買い物帰りの奥様方が多い。
今は、荷物の運搬やら戦後処理やらで、皇都の男達は仕事が満載だからな。
出払っているのだろう。
女性も結構な人数が働きに出ているはずだけど、男女関わらず、家ので仕事している人もいるしな。
俺達はガラハドの先導でギルドの大きな扉をくぐる。
中は以前来たように、飲み屋のようなエリアと、2つのカウンターがあり、それなりの数の人が居た。
「おーい。登録だ。両ギルド共、登録担当を出してくれ」
ガラハドが声を出してギルド職員を呼ぶ。
するとその声に真っ先に反応したものがいた。
「あれ?ガラハド様?それに神獣様?……って、へ、陛下まで?どうしたんですか?いったい?」
グレイだ。
何やってるんだ?こいつ?
手に持っているのは、弁当か?
「え、いや普通に婚約者達と食事をしに来ただけですけど」
達?あぁ、そういえば婚約者ってたしか西ギルド職員だったっけか。
にしても、達とは?
「へ、陛下!?」
そんなことを考えていたとき、パタパタとグレイの後ろから走ってくる少女がいた。
それに3人の女性が続く。
「む、君は……確か、ハマー男爵の娘の……」
「ティナでございます。陛下」
ティナ嬢がいかにも貴族っぽい礼をする。
カテーシーだっけ?
城にもよくその礼をする人たちが来ているから流石に覚えた。
この世界のカテーシーはやり方で色々意味が変わるみたいだけど彼女のカテーシーは前大臣(正確には王権がシナーデさんに移ってもまだ大臣だった。これからシャルロッテさんや俺が内定を出すそうだ)の奥様方がやっていたものと同じ、既婚女性がするものと同じに見える。
……正直な話をすると、俺はこの意味の違いがわからないのだが。
「ははは。以前あったときはまだほんの子供であった君が、結婚とは。時が経つのは早いな」
……イドバルドには分かるらしい。
すごいな。流石、王族。
「いや、あれくらいは覚えないといけないと思うぞ。お前も」
えぇ……まじか。
俺はグレイを見た。
俺の視線に気づいたグレイはブンブンと大きく首を振った。
……だよな。わからんよな。
「ところで陛下、本日はどのようなご用向でこちらに?」
「あぁ、それはな……」
「それは俺から説明しよう。ギルド側の職員も来てくれ」
イドバルドの言葉を遮って、ガラハドが答える。
すると、他の職員と思われる人たちが駆け寄る。
ギルド側のって言うのは、もう一つのギルドのって意味だったか。
確かグレイの婚約者は西ギルドの職員だったはずだし。
ガッ!とガラハドがギルド員の方を掴んだ。
そのまま、顔を近づけて凄む。
「いいか、気をしっかり持てよ。今から重要なことを言うぞ」
すぅ、っとガラハドが息を整える。
「こいつらを冒険者登録してもらいたい」
「……は?」
「……はい?」
たっぷりと間を置いたガラハドがそう伝えると、一瞬ギルド内を静寂が包んだ。
ギルド職員たちは総じて、何いってんだこいつ、といった感じでガラハドを見ている。
まあ、気持ちは分からなくらない。
「あの、ガラハド様?えっと、ご冗談でしょうか?あ、箔付けのための登録ですか?」
箔付け。
貴族の子弟には良くあることらしく、登録だけして実際は活動しないと言うことは各ギルドでそこそこの数が報告されている。
特に継承権のない子弟に多いらしい。
理由はこの世界でもニートと言うのはあまり好まれていないから。
つまり、登録することで、少しは働いているという、実績作りの為の登録だ。
ただ活動しなくても、登録料と継続料さえ払えば続けてしまえることから、一時期、問題視されていたが最終的には貴族に関与されるよりはマシ、と落ち着いたようだ。
現在では暗黙の了解として広まっているらしい。
というのも、ギルド職員や幹部となるには、もとから職員としてギルドに就職したものを除けば、登録しそれなりの実績を上げたものに限られるらしい。
貴族でも、きちんと試験や面接を受けたものは職員として採用されるし、例えそれが平民出身であっても、変わることはない。
ただし、幹部や教員となると話は変わってくる。
ギルドや西ギルドであれば冒険者として実績……、隊長級や戦争級への昇進が必要だし、商業ギルドであれば、一定の商業実績か革新的な商法(この場合の商法とは例えば、新商品の開発及び安定供給、商売方法、一時期のブームなどの事だ)と言うのが必要になってくるそうだ。
つまり、それなりの知識と経験が要求されるということだ。
この為、箔付けで登録した貴族子弟が長続きしたり、幹部に取り立てられることは少ないそうだ。
なので、下手に突いて貴族を怒らせたり、金銭や権力で干渉されるよりは放置しておこう、との判断なのだろう。
社会生活って面倒だなぁ。
「気持ちはわかる。だけど、冗談じゃないし、箔付けでもない。この三人は、本気で、冒険者登録をしようとしている」
ギルド職員とグレイが、うわぁ……、といった感じの顔をした。
よほど面倒なことになると思ったんだろう。
「いや、私は別に登録できなければそれでいいのだが。ここにも無理矢理連れてこられただけだし」
ガラハドがせっかく登録してくれようとしているのに、ゴルディが余計なことを言っていたので、小指を口の部分に突っ込んでおいた。
「むぐっ!?」
ホログラムでは口の部分は突起のようになっていたのだが、この姿のゴルディはきちんと口がある。
喋るたびに動くのできちんと声帯のある器官なんだろう。
「むぐ、むぐぐ、むぐぐぐぐ!むぐ、むー」
お?
何を言っているかわからなかった、ゴルディの声が止まった。
何か抗議しようとしていたようだが、そのことはあきらめたようだ。
さすがにかわいそうなので指を抜いてやった。
「まったく、何をするんだ!はっ!まさか私に乱暴する気か!自費出版誌みたいに!」
「しねぇよ!ってかなんでそのセリフ知ってるんだ!?親父の時代にはないだろ!?そのセリフ!?」
「ヒロの部屋にいくつか生殖をテーマにした自費出版誌があって、そこで似たようなことをされていた。戦いに敗北したヒロインが敵の幹部に……」
「わーわーわー!聞きたくない!聞きたくないぞ!親父の性癖なんて!」
流石に予想外だった。
親父、ソッチの趣味があったのか。
いや、っていうか、当時親父っていくつだ!?
そんなもん持ってるものなの!?
「暴行されそうになったが、結局ヒロインが逆に暴行していた」
って結局、言うのかよ!?
っていうかソッチかよ!?親父の趣味!?
知りたくもなかった事実!!
というか、おふくろ、たしか魔法戦士だっけ?
ってことは親父、まさか……。
これ以上考えるのはやめておこう。
それで盛り上がった結果が俺だとは、少し考えたくなかった。
「あの?そちらのお二人はいったい何をされているので?」
「気にするな。俺にもわからん」
……グレイの婚約者とガラハドに気を使われた。
身内ネタもほどほどにしておかないと、周りを困惑させるという事を、俺は覚えたのだった。