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9-4.浅き夢と久々の

5日連続は厳しかった。

ストックがないので……。

「っつっっっっっっっっっっかれたぁ」

 俺は自室の机に突っ伏して大きく伸びをした。

 なんせこの数日、書類の山、山、山。

 今までは、この辺りの裁決はじいやさんがやっていたらしいが、そのじいやさんが居ないからな。

 改めて、じいやさんの凄さを感じる。じいやさんはこれに加えて、大臣としての仕事もしていたらしいからな。

 というかシナーデさんやシャルロッテさんがしろって話だが。

 結局、国王の裁決が必要な案件なんて、そんなにないってことかな。

「なんじゃ、随分お疲れじゃの?」

 なんだ、居たのかノブナガ。

「はははっ。国主としての仕事量に圧倒されたかの」

「まぁ、そりゃあ……」

「なに、あの程度の仕事量、儂の若い頃に比べたらまだまだ序の口じゃぞ?」

 そういえばこいつも一応、国主だっけか。あれ?大名って国主でいいのか?

 俺の感覚で言うと、国主というより、領主って感じなんだが。

 まぁ、細かいことはいいか。

「で、さっきからなにしてんの?」

 ノブナガが手に持った盃をぐいと呷る。

「プハー!生き返るのぅ!何と言われても、ただ晩酌を楽しんでおるだけじゃが」

「いや、なんで俺の部屋で晩酌してるのか聞いているんだが。……まぁ、いいか。居てもいいけど、俺、少し休むから頼むから邪魔しないでくれよ」

「おぅ、任されたぞ」


 そう言って、俺は目を閉じた。

 こんな感覚はいつ以来だろうか。

 仕事で3日、4時帰りしたとき以来かな。

 そういえば、昔、怖い夢を見て寝ることに恐怖を覚えた時期があったっけ。

 たしかあれは、今見てるものは脳が目を通して認識させているもので、実際の形は違うものかもしれないって、何かのアニメか漫画で見た後だったと思う。

 俺が色とか、形とかってものに興味を持った出来事だった気がする。

 懐かしいな。

 そんな懐かしい記憶を思い出しながら、俺の意識は微睡の中に溶けていったのだった。










 だだっ広い草原に、俺は立っている。

 草原にはぽつりぽつりと、石が並んでいる。

 背の高い柱状の物。

 平たいテーブル状の物。

 様々な形はあるが、そのすべては当然無機質で、どこか冷たい、寂し気な印象を受ける。

 他の動物の姿はない。

 そのうちの1つ、平たい石の上に突如として、1人の人物が現れ、平たい石に腰掛けた。

 頭からすっぽり覆い隠す古ぼけた黄色いローブに、人の丈ほどもある鐘のようなものがついた古ぼけた杖、ちらりと見えるローブの端から見える足元には革の靴ではなく、古代ローマの剣闘士が着けるような、紐を組み合わせたサンダル……カリガやボーンサンダルと呼ばれるような形状の靴を履いている。

 不思議なことに、その人物からは生気は感じられない。

 俺は近づいてそいつの顔を覗き込む。

 覗き込んだそいつの顔は……、暗闇だった。

 深く、光の届かない、深淵の闇。

 不思議なことに、そこに鼻や口は見えないのに、息遣いだけははっきりと聞こえてくる。

 バッと、俺は身を引いてローブから少しだけ距離を取る。




 "我が名はハイータ。かつて、幸運と情熱を運んだもの"


 どこからともなく、声が聞こえた。

 それに続けて、どこからともなく羊の群れが現れた。

 気づけば俺とそのローブは羊たちに囲まれていた。


 "運命という、強大な怪物と闘うものよ。心せよ。"


 そのローブが立ち上がる。

 俺は、なぜだかそのローブに目が釘付けになり、動けないでいた。


 "心せよ。その過程で自らの心が怪物となり果てぬよう。"


 ローブが一歩、また一歩、俺の方に歩みを進めてくる。


 "心せよ。汝が永く、より深く、深淵を覗く時、深淵もまた汝を覗いていることを。"


 動けない俺を今度はローブが見えない顔で覗き込む。


 "我が名はハイータ。汝の行く末に、幸多からんことを。幸福と春風のあらんことを。"


 その顔は。


 ()()()()()。邪悪なまでの無表情さと、紅く、爛々とした瞳だけが映っていた。












「うわぁぁぁぁぁ!?」

 俺は浅い眠りから飛び起きた。

 一瞬、ノブナガに叩き起こされたのかと思ったが、ノブナガは部屋の隅で壁を背にして眠りこけていた。

 なんだコイツは。

 全く護衛の意味がねぇ。

 まあ、さっきまで酒飲んでたし、仕方ないか。

 あれ?じゃあなんで俺は飛び起きたんだっけ?

 なんか夢を見ていた気がするが、夢の内容は思い出せなかった。

 まぁいいか。

 所詮、夢は夢だ。

 現実になることもあるまいし、覚えていないならそこまで重要な内容では無かったということだろう。


 ん?

 なんだこれ?

 俺は自分の手の中に古ぼけたコインが握られていることに気づいた。

 その両面は元々何が描いてあったのかもわからないほどくすんだ色で、デコボコとしたコインは到底ここ数年のものとは思えない。

 なんだろうな、これ。

 よくよく目を凝らしてみると、どうも片面は直線を星の形にしたような、五芒星を歪ませたような形。

 裏面は歪な三角形?いや中心で交わっているように見えるからTをひっくり返して底の中心を押し上げたような形か?

 何れにしても古すぎていて判別はつかない。

 うーん。謎だ。

 いつの間にこの部屋にこんなものが。

 まぁ、考えたって仕方ないな。




 りりりり!

「うわっ!とととっ!」

 驚いた。

 思わずコインをお手玉してしまった。

 なんだ?一体?

「多夢和殿でござるか?」

 って、アスティベーラか。

 ってことはこれ世界間通信か。

「あぁ、なんだ。アスティベーラか。なんかすごい久しぶりだな。この感じ」

「それは拙者も思ったでござる」

 まぁ、いいか。あの女神のすることだし。

「そういえば、拙者の妹のリディはどうでござるか?きちんと働いているであろうか?」

「ん?あぁ、リヴィアーデさんの事か。そういえば最近、うちの猫を里に届けるとかでしばらく見てなかったな。なんか帰ってきてるみたいだけど」

「え、猫って、あの猫でござるか?」

「あー、まぁ俺の眷属みたいなもんで、戦争級の魔物らしいけど」

「あー、そういう感じでござったか。まぁ、戦争級が里の警護をしていると思えば……、いや、それはいいことなのでござろうか?」

「いいことなんじゃない?ちゃんと守ってくれればちょっとやそっとの事じゃどうにもならないだろうし」

「そうでござるなぁ……」

「っていうか、俺の妹の方はどうなってるんだ?」

「夢殿でござるか?うん、まぁ、元気でござるよ。……怪人を素手で屠る程度には」

 何やってくれてるの!?うちの妹!?

「夢殿って基本的にパワータイプでござるからなぁ……、うちの課長と良い勝負でござるよ」

 課長?課長ってなんだ?

「あぁ、こちらの世界に転移した土門龍夫殿でござるよ」

 あ、そういう事か。

 そういや、俺ら以外の転移者も全員交換転移なんだよな。

「ちなみに、ソッチに転移したって人、名前とかわかるのか?」

「えっと、……土門龍夫殿、伊達貴美子殿、日高闘志殿、高橋宗重殿、大宮加輪殿でござるな。ちなみに拙者も、こっちでは山科勝成を名乗っているでござるよ」

「いや、そっちじゃなくて元の名前の方は?」

「あぁ、確か……。ドンドルド・ラグオン殿、ダルキー殿、ガガ・ギギ殿、タチバナ・ムネシゲ殿、エリザベート・ルクレイツィア・ロックハート・カロリング殿でござったかな?」

 フルネームで覚えてるのかよ。

 意外と記憶力すごいのな。こいつ。

 しかし、確かめたかったことは聞けたな。

 エリザベート・ルクレイツィア・ロックハート・カロリング。

 グレイと交換で転移した女性に違いないだろう。

 あー、やっぱりそっちに移動してたか。

 ってことは彼女が姉に会えることは少なくとも俺たちが戻れるようになるまではないわけだ。

 なんかすこしおセンチな気分になるな。

 最低でも俺が再開を見れることはないわけだな。

「そっちはどんな人物が転移したでござるか?」

「あぁ、それがこっちはまだ2人しか出会えてないんだよなぁ」

 グレイと氷室さん。

 後の2人はいや、2人といっていいのか、とにかく別口っぽいからなぁ。

「っとしまった!そろそろ時間でござった!」

「ん?なんか用事でもあったのか?」

「うむ!少年探偵アーサーの時間でござるよ!」

 ってアニメかよ!?

 お前。大分現代に馴染んでるな!?

「今回は解決編でござるからして!絶対に見なければ!」

 いや、そんなことより情報収集をだな……ってほんとに切りやがった!?

 ってかこの通信、俺たちで切れるの?まじで?

 おい!ちょっと!








 ……だめだ。反応がない。

 あんの、むっつりエルフがぁぁぁぁぁぁぁぁ!

はい。ようやく具体的な名前が出てきました。

若干の名前の入れ替えがおこっていますがわざとですので気にしないでください。


有名セリフのちょっとした改変です。

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