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9-3.執務室にて

奇跡の4日連続更新!

「そうですね、まず国内の食料状況ですが、こちらをご覧ください」


 おかしい。

 なぜこうなった。

 今、俺は王の仕事のための部屋、所謂執務室にあたる部屋にいた。

 あの事件からは既に1週間の時間が経過している。

 俺の目の前には大量の書類があり部屋にはドラディオとクルクス、そしてバートラントが控えている。

 捌いても捌いても終わる気がしなかった。



 あの日、初めてこの国の王と面会した日。

 俺は王の心臓に纏わりついていた黒い糸に対して、攻撃をした。

 思いつく限りのスキル全部のせ。

 そのおかげが、王に纏わりついていた黒い糸は霧散し、王自身も、峠は越えたようだった。

 今は回復のため、シナーデさんが付き添ってはいるが、今まで寝たきりだったのが嘘のように快方へと向かっているようだ。

 結局、あの時は以前にあったような怨嗟の声は聞こえなかった。

 代わりに、城の一室がめちゃくちゃになった。

 刃物で切りつけられたような傷や、爆発痕まであったというから驚きだ。

 長年使っていなかった部屋らしく、物置のようになっていたらしいので、別段城の生活に支障はなかった。

 部屋自体も、「ん?あのくらいなら簡単に直せるぞ。なんせ私の体の一部だからな」とゴルディがあっさり直してしまった。

 しかし、部屋自体はともかく、絨毯や窓まで直っているのは何なんだろうか。

 人のことは言えないが、コイツも大概な気がする。

 なお、なぜかその一室に猫……フォレストキャットが8匹、ポーションイーターが12匹、ウィッチキャットが8匹、合計28匹増えた。

 召魔スキルを使った覚えはないんだが?

 仕方ないので全部、街に放った。

 グレイに首輪を用意してもらうことにしよう。

 前に召喚された個体は全部着けてるしな。




 そんなことがあった翌日。

 俺は王からあることを告げられた。

「一度、宣言自体はしてしまったからな……仮でも王たるものが前言を違えるのは良くない。家臣からのイメージが、悪すぎる。……と、言うことでシャルロッテとマリアゲルテの事、頼んだぞ。神獣様……いやアレクシス殿」

 いつ宣言したんだ、いつ。

 そんなツッコミを入れようとしたが、家臣を呼びつけたときには既にしていたらしい。

 だからこその家臣団のあの反応だったそうだ。

 完全に嵌められた。

 くそぅ。

 まぁ、そんなこんなで王権は現皇王から、皇妃であるシナーデさんに返還され、シナーデさんが今年中の引退を宣言。

 王権は彼らの長女であるシャルロッテさんに継がれることとなり、シャルロッテさんが俺を婿に迎える宣言をしたものだから、さぁ大変。

 僅か一日で俺は次代皇王候補となってしまった。

 勿論、マリアゲルテさんを推す声もあった。

 彼女の待遇があまりに不憫だと。

 さらにマリアゲルテさんは白薔薇の騎士団副団長で素質も十分だと。

 だが、そんな声を押し切ったのはシャルロッテさんの発言だ。

「それなら大丈夫です。マリアもアレクに嫁ぎますから。それに……私達は、()()()()()()()()()()()()()()()から」

 ……とんでもない発言をしてくれた。

 俺は驚愕の顔をしたままその発言の主を見ていることしかできなかった。

 おぉ!と沸き立つ場内。

 少しだけ残念そうなのはクルクス団長と、恐らくシャルロッテさんやマリアゲルテさんに婿入しようとしていた貴族のみ。

 なんでもクルクス団長はマリアゲルテさんの婚約者候補の一人だったらしい。

 四十半ばのおっさんと15歳のマリアゲルテさんじゃ犯罪臭しかしないが。

 どちらが次代の皇王になるのは間違いないが、もし狙った方が皇王から漏れた、つまり降嫁したとしても、皇王の姉妹の結婚相手という事で大きな権力を得られる。

 そんな政略結婚の道具として見ていたわけだ。

 勿論、クルクス団長がそういう人ではないというのはわかっている。

 短い期間だが、この人の誠実さは見ていてわかる。

 なんというか。

 ロウフィスやアマンダと気が合いそうな感じだよな。


 まぁ、いずれにしても言ってしまったものはもうどうしようもないが。

 そんなこんなで、俺は今、執務室に押し込められているのだった。


 ちなみに、先日ふと気になってシナーデさんの影に潜ませた影魔法と感覚を連結すると、色々ととんでもないことを聞いてしまった。

 シナーデさんの嬌声と、最近どこかで聞いたような水音。

 回復したばっかりで何しとんねん。こいつら。

 俺にこんなこと押し付けて。元気すぎだろ。










「聖上?」

 俺がボーっと考え事をしていたせいか、ドラディオに声をかけられた。

「ん?あぁ。大丈夫。聞いてるよ」

 余談だが、あの一件から、ドラディオは俺の事を神獣様でもアレクシスでもなく、聖上と呼ぶようになった。

 なんだかこそばゆいからできれば別の名前にしてほしいんだが。

 それにつられてか、クルクスとバートラントも聖上と呼ぶようになった。

 ちなみにシャルロッテさんの権力下での体制はまだ決まっておらず、この3人は仮で続投している。


「それで、食料増産の件ですが……」

「あぁ、それだったら……とりあえず、農業の方法を変えてみようか」

「方法、ですか?」

 俺は女神からもらったチート本(各600ページ全5巻!)の知識を披露した。


 輪作を採用して、畑を回すこと。

 シャトワの街から種類を問わず魚や貝を仕入れ、その骨や殻を砕いて灰と混ぜ、肥料とすること。

「ドリアードのミリアさんに今、植物の改良を頼んでるから。まぁ、あとはほどほどにやっとけばいいんじゃないかな」

 どうせ農業に関してはすぐには結果は出ないしな。

「魚の骨や貝の殻とはいったい……」

「まぁ、説明はめんどくさいし、多分理解もできないと思うから。とりあえず、だまされたと思って直轄領だけでもやってみない?」

 正直、俺に説明できるとは思わないし、カルシウムだのカリウムだのリンだの言ったところで理解できるとは思わない。

 なんせ文化レベルは中世だしな。

 地球だって、確立されたのは18世紀だって書いてあったし。

 だけど、この世界の農地はこの改革は最適だと思った。

 なんせ、土地や畑は基本的に領主のもの。

 大地主は領主から任命された者がほとんど。

 つまり、こういうことを実験するにはやりやすい環境が整えられているのだ。

「なるほど。かしこまりました。すぐに手配いたします」

「あぁ、あと、ノブナガ達に米と大豆の事について聞き取りしておいてくれ。多分、今後役に立つと思うから」

「米と大豆、ですか?」

 両方とも、日本を現代まで支え続けた現実チート作物だ。

 米は麦よりも収穫量が多く、大豆は様々な食料品に化ける可能性を秘めている。

 ノブナガの部下の一人、ナガヒデがおにぎりを持っていたことからも、最低でもコメがこの世界にあることは確定だろう。

 もしこの気候でも作ることができれば、きっと食糧難の解決策になるだろう。

 いや、もしかしたら交易をしていたわけだし、すでに知っている人がいるかもしれないけど。



「それで聖上。実はお耳に入れておきたいことが」

 バートラントが大量の書類と決裁を行った俺に声をかけてきた。

 なんだ、いったい。

「はぁ。それが、確かな情報かはまだ確認が取れていないのですが、どうやら現世の魔王、フェニクスが行動を始めたようなのです」

「現世の魔王?」

 なんだそれ?

「はい。現世の三大魔王のうちの一体のことです」

 バートラントが教えてくれたところによると、この世界には魔王と認識されている魔物が三体いる。

 勿論、ノブナガやヘリオンはそのなかにはいってはいない。

 あくまで、今現在、人間達にAランクを超えている、と認識されている魔物たちだ。

 ヴァンパイアのアンデッド(何を言ってるかわからないと思うが、俺にも(以下略))ジェームズ・モーグ卿。

 デュラハンのザックハーツ・ガート・ロメロイ。

 そして、火を纏った鳥、フェニックスのフェニクス。

 この三体の内、フェニクスが住処である大陸北部の島から、南西方面、つまりこの国に向かって飛んでくるのが確認されたとのことだ。


 え、なにそれ。

 怖い。


「御身には無用な心配かもしれませんが、人の世で危険視され続けてきた魔物です。警戒なさるのがよろしいかと」


 え、なんだそりゃ。

 出来ればこっちに来ないでほしいなぁ。

 いや、そんなここばかり都合よく問題が起きるわけないよな。

 はっはっはっ。




「あともう一つ、これはクルクスの方から」

 ん?今度は一体なんだ?

「その、……実は一部貴族の方々から、聖上に謁見を求める声が多数上がっておりまして。なにとぞ、ご配慮いただきたく」

「えぇ……、だからそれは正式な就任まで必要ないって言ってたじゃん」

「えぇ。しかし、一部の……主にシャルロッテ様やマリアゲルテ様に婿入りを狙っていた連中や前皇王の引退に立ち会えなかった者たちですが、その方々からの陳情の数がかなりの数になっておりまして」

 なんでそんなことに……。

「恐らく聖上への取り入りか、何か弱みを握ろうとする企てかと」

 うぇ……。恐るべし貴族社会。

 しかし、うーん。確かに要らないといわれたとはいえ、挨拶もしないのは元社会人としてどうだろうか。

 うん。ここは覚悟を決めるべきかもしれない。

 っと、そうだ。あいつを巻き込むか。

「わかった。やろう、その謁見」

「よろしいのですか?」

「あぁ。ただ、一つ条件がある。こんな感じで手配してもらいたい」

 俺は紙に書いたメモをクルクスに渡す。

「拝見いたします。これは……」

 これなら多分、俺への注目は薄れるだろう。




 …………すまん、グレイ。


まだ、皇王ではありません。

王配でもありません。

予約状態です。

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