2-2.猫がいない世界
12/29 知り合いからツッコミがあったので補足
多夢和君が見たボードはこの国のアルファベットで36文字+4文字で構成されたドリス語のウィジャ盤のようなものです。
文字の教育をする際に使用されます。基本的には筆記体のような形状で書かれています。
多夢和君が示した文字は後世で「猫」を意味する、アルファベットの羅列を指しています。
多夢和君本人には翻訳されて見えているので「猫」と示したと思っています。
わかりづらくて申し訳ありません。
はい。ただいま絶賛反省中です。
まぁ、ちょっとビックリして爪を出してメイド服のコルセットを引き裂いてしまった俺が悪い。悪いんだが……
「わかっていますか!?アレクさん!!」
正直な話、動物にガチ説教かましてる人間ってどうよ。なぁ、シャルロッテさん。
「そもそも!女性の衣装というのは…」
いや、俺、今、猫だし。
わりと真面目に俺のいた世界からすると、イタい……いや、確かにしつけのためにするこはあるけど……
「……聞いていますか!?アレクさん!」
女性の服を切り裂いて、女性の服について諭される猫……。うん。情けない……
説教が終わると、俺は首根っこを掴まれてシャルロッテさんの部屋へと連行された。
お説教の続きとして強制的に勉強に付き合わされるそうだ。
シャルロッテさんは俺を部屋に連れ込むと、「ケージ、オープン」と発し、小さな金属製と思われる檻を取り出した。
そして俺をそこに入れた。
ってちょっと!!いくらなんでもこれはないでしょ!?
抗議するように出入り口の扉をガチャガチャとすると、
「しばらくそこで反省しててください」
と、静かながらもすっごいドスの利いた声で言われた。
怖い!シャルロッテさん、超怖い!
仕方ないので、檻の中でおとなしくすることにした。
だけども、ただボーっとしているのもなんなので、今回もシャルロッテさんの勉強を盗み聞きすることにした。
やがて、自習をしているシャルロッテさんの部屋にアドマ氏が入ってくる。
そして勉強が始まった。
内容は、歴史・数学(というか会計)・(よくわからないけど)魔法学・薬草学(生物学っぽい?)、そして神学。
一つわかったことは、どうもこの世界では俺の世界の中学生レベルの内容が高等教育とされているようだ。
ほかのものに関してはよくわからないが、5桁の10項以上の計算や二次関数っぽいものがメインで勉強していた。
ぽいものというのは、表記が足し算っぽいためだ。掛け算がないってことはないと思うがちょっと面倒な計算してるな。
実業校卒業・専門学校卒業の俺でもなんとかついていける。
まぁ、数学以外の勉強は基礎ができてないから全くわからんのだけどな!
それでも二つほど、有益な情報を得ることができた。
一つは魔法に関してだ。
魔物や魔獣、歴代の魔王が使用する魔法は魔力を直接、望みの形に変換するため、魔力の総量により威力が高いが、精密な操作やコスト面で難がある。
一方、人間の魔法は魔力を直接操ることはせず、その手順を【呪文】や【動作】といった形で複雑化している。これにより、精密な操作やコスト面で優れるが、魔法の威力や柔軟性に乏しくなってしまうというもの。
もう一つは歴史について。
どうも教科書?の内容を聞いていると、この世界、約2500年前のドリス皇国建国から中世の世界観を保っているらしい。俺の元居た世界からすると、ずいぶん文化の発展が遅い。紀元前5世紀って元の世界の世界史だとどのくらいだっけ?
スパルタ人が活躍した時代だっけ?…違ったかもしれない。
俺、世界史はあんまり点数よくなかったんだよなぁ…
まぁ、歴史上の話って後世の伝記で格好が変わってたりしてるから、そのまま今聞いた話と一緒ではないんだろうな。
アーサー王伝説やシャルルマーニュ伝説で、いかにも中世っぽい甲冑を身にまとった騎士が出てくるのと同じ理由だ。
…そう思いたい。
さすがに、2500年間全く発展もなく歴史を過ごしていた…なんてことはないだろう。
あ、でも俺たちの世界でも文化や技術をさせてきたのは一部の天才や、戦争だったように思える。逆に言えば、争う必要がなかったと考えたほうがいいのか?
いや、でも魔獣とかいたよな?そっち方面で発展はなかったのか?
……よくわからん!
とりあえず、放置!
「失礼いたします」
アドマ氏による勉強が終わった後、ノックの音が響き、じぃやさんが入ってくる。
何事かと思っていると、じぃやさんは書類の束をシャルロッテさんに渡した。
「アレクシス様の種族調査の件ですが…」
「何かわかったのですか?じぃや」
「……残念ながら、ピクチャーに記録されたアレクシス様の姿見をもとに各方面を捜索いたしましたが、アレクシス様のような魔物の姿は確認することができませんでした」
「そうですか……」
……は?
いやいや、俺ただの猫ですよ?
あ、いや種族名はポーションイーターだったか。
「正確に言えば、非常に近しい種族と思われるものはいました」
そういって、じぃやさんは一つの本を取り出した。
「……それは?」
「魔獣図鑑です。主に兵士級から災害級の魔物が掲載されております」
「なるほど……、では近い種族というのは?」
「こちらです」
じぃやさんが広げたページには左面に魔獣と思われるトラの絵が描いてあり、右面には長ったらしい文章とともに、でかでかと赤い字で危険!と書かれていた。
「これは……、災害級……」
「はい。ブラッディフォレストタイガー。過去に確認された、ダイタル帝国を崩壊させたといわれる、災害級の魔獣です」
「ダイタル帝国を……崩壊……」
「あくまで、伝承の範囲……ではございますが。ですが細部はずいぶん相違があります。おそらく近縁種ではないかと。ほかにも…」
じぃやさんがパラパラと別のページをめくると、虎のほかにも獅子に近い魔獣がそこには書いてあった。……といってもシャルロッテさんの後姿を見ながらちらっとしか見えなかったんだが……。
「ガイストレオ……、カラミティタイガー…、マンティコア…、デュポンタイガー…。どれも最低でも隊長級以上の危険な魔獣ですか…」
「はい。しかし、どの魔獣とも特徴が一致せず、新種かと思われます」
じぃやさんたちが、なんだかむつかしい話をしている。
まぁ、正解を教えてあげたいのは山々なんだが、俺、猫だからしゃべれないんだよなぁ……。
あと、なんで虎とかライオンの魔獣はいるのに猫の魔獣はいないのか?
普通に猫くらいいるんじゃないのか?
え?もしかしていないの?猫。
「魔物図鑑や、動物図鑑のほうがどうでしたか?」
「もちろん調べておりますが、該当する種族は見つけられませんでした」
……いなかったらしい。
そんなことないと思うんだけどなぁ。
そんなことを考えているとシャルロッテさんが、先ほどのブラッディフォレストタイガーのページを開いて俺のほうを向いた。
「アレクシスさん、あなたはこのブラッディフォレストタイガーさんですか?」
ちがいます。
俺は全力でブンブンと横に首を振った。
断じてブラッディとかカラミティとかやばそうな名前ではない。
「…やっぱりアレクシスさんは、ほかの魔物よりかなり賢い気がするのですが…」
まぁ、中身はほとんどおっさんですし。
見た目はニャンニャン!頭脳は大人!その名は…
むなしぃ……
そんな一人芝居をしているとシャルロッテさんが、ボードのようなものを持ってきてくれた。
ボードにはいくつかの文字が書いてある。
これは、あれだ。いわゆる50音順の乗った50音表。
もちろん、俺の知るものとは文字の数が違うが…
「あなたの種族を私たちに教えていただけませんか?」
君は猫に何を求めているのかね…?
はぁ、とため息をつきつつも俺は前足を伸ばし、文字をいくつか指し示す。
正直、俺にこの文字は理解できていないのだが、言語理解のおかげか、正しいと思われる文字を指し示すことができた。
「【ポーションイーター】または【猫】」
彼女たちが理解できるかはわからないが、きっと理解してくれるだろう。
じぃやさんがすっごい顔をしている…。まぁ、普通は動物が文字を理解してるとは思いたくないわな。
そんなやり取りをしながら、俺は釈放され、今日も飯にありつくことができた。
………なお、今日の晩飯もウーマとかいう牛っぽい肉の味付けのないステーキだった。
かなしぃ……
「ネコ科」はいても「家猫」は存在していません。
代用の動物が存在しており、猫とは似つかない姿をしています。
今日から忙しくなるので更新が少し止まります。ご了承ください。
この忙しい期間に新しい話を進めるのと並行して既存の話の修正や改稿を入れていこうと思います。よろしくお願いいたします。