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8-9.次元をさまようもの

ちょっと短いですが

 空虚な瞳を持つ体から、焦燥と悲壮感のたっぷり籠もった怨嗟のような叫び声が放たれる。

 その声は頭に直接響いてくるようだ。


「グレイ!()()()はやばい!早くこっちへ逃げてこい!」

「あわ、あわわわ……!」

 四つん這いで逃げてくる姿は、とても情けなく見える。

 先程までのちょっと頼れる感じはどこへ行ってしまったのか。

「む、無茶言わないでくださいよ!?マジで怖かったんですから」

「確かに、あれは……」

「あぁ、こんなやばいやつ、今まで一体どこに隠れていたんだか」

「アレ?」

 それを聞いたグレイがゆっくりと振り返る。

 そして、グレイは見てしまった。いや、認識してしまった。

 ()()の姿を。

「ひっ、ひぃ!!……あ、あぁ……」

 恐怖でおかしくなったのか、ひきつっていた顔を歪ませ、グレイが笑った。

「はは……は、はは……」

 焦点があっていない。

 仕方ない。

 俺はグレイの後ろから声をかけることにした。

「落ち着け、グレイ!あんなのファンタジーじゃよくあることだろ!」

 声をかけたが、グレイは渇いた笑いを続けるばかりだった。

 うーん。どうしようか?

 ふと、足元に先程グレイが手にしていた、属性石が転がっているのが目に入った。

 俺はそれを素早く蹴り上げ、手でキャッチすると、グレイに押し付ける。

「は、はは……って!あつっ!熱い!神獣様、熱い熱い!」

 正気に戻ったようだ。

 良かった。

「戻ってこれたみたいだな。大丈夫か?」

「あ、はい。ありがとうございます。でも、こんな怪物がいるなんて……」

 その言葉にバルクスが答えた。

「漏らさなかっただけ、肝が座っていると思うぞ。一般人なら、気絶していても可笑しくはない」

 確かに、こいつを見ていると、どこから生まれるのかわからない不安が生まれるな。

 そういう特性を備えた魔物なのかもしれない。

「バルクス、遠藤さん。全員を連れて、ここから逃げれるか?」

「無理だな。せめてこいつが起きてくれればわからんが」

「流石に、2人を抱えてあの魔物群は抜けられないと思います」

 うーん。やっぱりか。

 仕方ない。

「じゃあ、仕方ないな。お前たちを入り口に転移させる」

「て、転移!?」

「説明している暇はない!町に着いたら警戒と忠告を頼むぞ。出来たら騎士団にも伝えてくれ!」

 俺は問答無用で転移魔法を発動した。

 氷室さんとグレイ、それにバルクス、テルミス、遠藤氏、クリアンティーナさんを対象にして発動した転移魔法の魔法陣は彼らを光で包み、光が晴れると彼らの姿はそこにはなくなっていた。




 さて。

「待たせたな。これで思いっきりやり合えるぞ」

 別に待っていたわけではないだろうが、俺は()()()にそう声をかけた。

 そもそも()()()に俺の言葉は言葉は通じるのか?



 ……オナジダ。



 何だ?

 また何か語りかけてきている。



 オナジダ。



 今回は返してじゃないんだな。

 と、言うことはやっぱりコイツにも意志のようなものがあるのか?




 カエシテェェェェェ!!



 うわっ!危ねえ!

 突然、襲いかかってきた。

 咄嗟に身を引いて避けると、ソイツには壁にぶつかり、上からガラガラと崩れた瓦礫が降り注いだ。

 しかし、ダメージを受けた様子はない。

 ムクリと起き上がり再び空虚な目をこちらに向けた。

 うわぁ。

 その様子はさながらゾンビゲームに出てくるボスキャラのようだ。

 俺は一気に近づき、手刀で()()()の肩を狙う。


 ぎゃあぁぁぁぁ!


 異様な皮膚から紫に近い血が吹き出した。

 しかし、その傷はすぐに再生されてしまう。

 まじかよ。


 しかし、手刀で叩いてわかったのだが、()()()の皮膚は異常に硬い。

 鉄でも叩いているようだった。

 現状、チートステータスの俺がそう感じるのだから他の奴らはもっと大変だろう。

 せめて、剣とか槍とか武器を持ってくればよかったかな。

 そう考えていた俺に目掛けて、ヤツは再び腕を振り抜く。

 刃物のように鋭利な爪が俺の前をかすめ、同時に風圧、いや風の刃が放たれるが俺は身をかがめて避けることに成功した。

 どうしたものかな?

 ふと、俺の頭に練習試合の時の記憶が蘇る。

 出来るか?

 俺は風の刃を掻い潜り、後ろに飛んで距離を取ると土魔法を意識する。

 魔物の魔法はイメージだけで完結する。

 逆にイメージさえしっかりしておけばどんな魔法でも使えると取るべきだろう。

 俺は地面から生えた棒を意識する。すると、俺の手の中には石でできた剣が出現した。

 よし!成功だ。

 更に火魔法を意識すると、石の剣が炎に包まれた。

 こっちも成功。

 名付けて、『魔法剣』。魔力をまとわせた物体に魔法の力を移す魔法。要はゲームなんかによくある魔法と物理の合わせ技だ。


 ピコン。

 新しいスキルを獲得。

『魔法剣(ランク:E)』を獲得しました。


 視界の端でそんな表示が出る。

 が、今はそれどころではない。



 ヤツがその剣を見て、少し怯んだように見えた。

 何だ?もしかして火が弱点なのか?

 そんなことを考えているとヤツが一本、後ろへ下がった。

 すると()()の姿はスゥと消えてしまった。

「えっ!?」

 瞬間、後ろから強烈な気配がした。

 慌てて身をかがめると、俺の頭のあった場所をヤツの腕が通過する。

 どうやら後ろから奇襲されたようだ。

 まじかよ!

 ()()()、そんなこともできるのか!?

 俺は振り向きざまに手にした剣を降るが、その剣は空虚を切るばかりだった。


 これは、もしかして転移能力か?

 だとすれば、突然現れたり、皇都に出現したのも納得がいく……か?

 自分でも使っておいて何だが、チートな能力だなぁ。

 だったら……。


 俺は再び、魔法を意識する。イメージするのは影の牢獄。

 影による他の魔法を遮断する球形の結界だ。

 これでどうだ!!


 って、ファ!?

 影魔法の牢獄をあっさりすり抜ける瞬間を見てしまった。

 意味ないじゃん!!

 あ、そうか!

 イメージしたのが魔法遮断だからか。

 ちゃんとイメージしないと効果が反映されないのか。

 もうちょっと柔軟な感じでやってほしいな。

 なんて、ちょっと贅沢過ぎるか。


 くそ、また転移しやがった。

 また後ろか?

 いや、違うな。

 どこ行きやがった?

 ……出てこないな。


 よく考えると、こいつの転移は俺の転移とはだいぶ違う。

 俺の転移はすぐにポイントに出てくるのに対し、ヤツの転移は出る位置、時間もバラバラだ。

 もしかして、()()は次元的な物を移動しているのか?




 次元を自在に移動する魔物か。

 さしずめ、『()()()()()()()()()』って感じか。



 そう考えていた、俺の足元から急に腕が生えた。

 俺はその腕に足首をつかまれ、地面の中へと引きずり込まれた。

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