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8-4EX.冒険者バルクス

前回チラッと出てきたダンジョンの発見経緯。

時系列としては公爵来訪くらいの頃です。

事件自体はすでに解決しています。

 俺の名はバルクス。

 このドリス皇国じゃ、結構名の知れた冒険者をやっている。

『黒鉄の騎士』というパーティーで『黒蹄』のバルクスとか呼ばれている。

 大袈裟な二つ名だと思う。


 俺はフィルボルの中でも特別な存在として生まれ落ちた。

 こういった存在は、他の存在でも度々生まれている。

 ドワーフではエルダードワーフ。

 エルフではハイエルフといったような特殊な存在だ。

 フィルボルではそういった存在のことをエニグマと呼んだ。

 平均身長が人間の半分ほどしかない普通のフィルボルと違い、身長が人間ほどあり、筋力がつく。

 それでいて、特性はフィルボルのものを受け継いでいるから完全な上位存在と言ってもいいだろう。

 事実、里でもそのように扱われる。

 それに嫌気が差して、冒険者なんてやっているわけだが。

 だが、この広い世界には上には上がいるということを知らされた。


 神獣。


 俺たち黒鉄の騎士のトップメンバー……。天災級が五人揃い、かつ国の中でも実力上位のメンバーが束になって掛かってもそれを軽くあしらってしまえる、そんな存在。


 俺達はそいつとの試合で完敗を喫し、俺はまた旅に出た。

 神獣と呼ばれた存在が召喚したであろう一匹の魔物を連れて。

 こいつはどうも着いてきたいようだったので、俺と同行している。

 餌や世話が大変だなと思ったが、そんなことはなかった。

 こいつは一人で魔物を狩れるし、トイレや寝床の世話も必要ない。

 むしろこちらが助けられているくらいだ。


 今回の目的地は国の東、アルバンド男爵領。

 アルバンド男爵の爵位は、現在セレーノ伯爵に受け継がれており、セレーノ伯爵の支配下にある。

 そしてセレーノ伯爵領の中でも四番目に規模の大きい、アルバンドの町に来ている。

 商人で賑わう街角で取引されているのは古着や衣服の材料となる毛や綿を買取る問屋、そして食料や日用雑貨を売る商店が多い。

 ここはセレーノ伯のお膝元だから、そういった店が多いらしい。

 逆に服を売る店は少ないな。

 たしかこの地方では服は女性や足の悪い者、子供達の内職の人気職だったな。

 ブラブラと市場を回っていると、珍しいものが売られているのが目に止まった。

「よっ!兄さん!どうだい、ひとつ?安くしとくよ!」

 威勢のいい声で店員が声をかけてくる。

 俺は一つ、手にとって品を眺めた。

 何の変哲もない、小さな、本当に小さなベルだ。

「これは、この辺だと珍しいな」

「お兄さん、お目が高い!実はそれ、とある職人が手慰みに作ったものでしてね。出来がいいってんで、売りに出されたもんなんでさぁ。今じゃ、その弟子たちが東のオルガン男爵領で一大工房を築いて生産してるって話さ」

「手慰みに作った品にしては値段が……」

「おっと!兄さん!慌てちゃいけねぇ!これはその中でも特別さ!」

 どう特別というのだろうか。

 手慰みと言うからには余った材料やらなんやらで作られているのは変わらんだろうに。

「こいつはその一派の頭領、つまり職人その人が作った品でな。弟子の作品は数あれど、職人本人の作品はこれを含めて二十あるかないか。しかも、こいつは魔導具でね!追跡の魔法が掛かってるのさ!」

 ほぅ?それは面白い。

 丁度、旅の相棒につける物を探していたし、ちょうどいいかもしれない。

「今なら金貨三枚でどうだい?」

 やはり少し高いな。

 金なら冒険をこなせば腐る程手に入るが。

 後でフィリオに何を言われるか分かったもんじゃない。

 少し値切るか。

 いや、フィリオの性格からして値切ったら黒鉄の騎士のイメージがとか言いそうだな……。

 しまった。どうすればいいんだ。

「ん?あんたもしかして、『黒蹄』のバルクスかい?『黒鉄の騎士』の?」

「ん、あぁ。確かに俺はバルクスだが……」

 そう答えた瞬間、店主に肩を叩かれた。

「ハハハッ!やっぱりそうか!」

 なんだか店主が嬉しそうだ。

 一体なんだっていうんだ。

「いや、すまねぇ。実は俺はあんたたちに少し恩があってな。あんた、ここからずっと西にあるカラマントって街を覚えているか?」

「カラマントだと?」

 カラマントはここからずいぶん西、ドミニオ公爵領とドリス公爵領の境にある町だ。

 勢力的にはドミニオ公爵の街だったな。

 しかしこんな男に会った記憶は……。

 あの町で何かした記憶といえば……。

「もしかして、お前。パラスパーダのおっさんの知り合いか?」

「ご明察!パラスパーダの舎弟の一人!商人のユングと申します!」


 パラスパーダ。

 アレはめんどくさい依頼だった。


 パラスパーダはあの町の市民の顔役。

 そのパラスパーダが忽然と姿を消した。探してほしい。というものだった。

 依頼者は何と地元の貴族。

 その地を収める領主、カラフト男爵その人だった。

 カラフト男爵とパラスパーダは過去に一緒にやんちゃした仲だそうで、カラフト男爵は彼の失踪を大層心配していた。

 詳細は省くが、屋敷を探し、ダンジョンへ潜り。

 手がかりから手がかりへ。

 結局、パラスパーダを見つけたのは街のはずれにある古民家。

 そこに踏み込んだ時、俺たちが見つけたのは……。


 ボンテージに身を包んだパラスパーダが悪党を張りつけにしている姿。


 言っていなかったが、パラスパーダは筋骨隆々の男で、女言葉を好んで使う。

 更に性的志向は男に向いているという徹底ぷり。

 パラスパーダを誘拐した男たちは逆にその毒牙にかかってしまった、という結末だった。

 なんというか。同じ男として誘拐した男たちに同情した。

 性的志向は人それぞれとは言うが。


「ちょっとまて。お前、パラスパーダの舎弟っていう事は……」

「ち、違うぞ!俺はノーマルだ!普通に嫁もいますし!」

 なんだ。違うのか。

「ちょっと残念がってないか?」

「いや、そりゃ。あんな面白い生き物の舎弟ってなるとな。どんな面白いやつかと」


 まぁ、俺たちとしては、貴族の依頼もこなせてそれなりに懐も温かくなった。

 結果としては良い依頼だったといってもいいだろうな。

 アレさえ直接見なければ、だったが。

 テルミスなんて泡を吹いて倒れていたからな。

 今思い出しても、あの顔は傑作だった。



「まぁ、そんなわけで、俺はあんたに恩があるわけだ!そいつの代金はいい!持っていきな!」

「いいのか?」

 流石にそれは気前が良すぎないだろうか。向こうも商売だというのに。

「構わねぇ!あんたは金貨三枚じゃ納まらない人の命を助けてくれたんだ!遠慮はするな、もっていけって!」

 ……あの結末を知らないからな。

 まぁ、くれるというなら、もらっておこう。



 俺は小さなベルを腰につけたバッグにしまう。

 このバッグも魔道具で、同じカラマントの魔道具職人に作ってもらったものだ。

 腰につける小さなサイズのバッグでありながら、それなりの大きさの背負うバック程度の内容量がある。

 勿論、重さは感じない。

 ヴィゴーレなんかは鍛錬できないとか言う理由で、これをあまり使わないのだが。

 俺たちのパーティのためにカラフト男爵が口をきいてくれて、パーティーに合計三十。

 特急で作ってもらった。

 俺はそのうちの二つをもらっているわけだ。


 ちなみに、うちのパーティーは全部で十三人。

 ヴィゴーレ、フィリオ、ロティ、テルミス、俺の天災級が五人と、災害級が四人、戦争級が四人だ。

 戦争級の一人なんて全員に配ったバッグの余りをすべて引き受けたので『バッグ男』なんて呼ばれ方をしていたな。


 まぁ、そんな話はどうでもいい。



「すまないな。次に何かあるときは、格安で請け負ってやるよ」

「ハハハッ!そいつはうれしい!」

 そういう、男の顔は言葉とは裏腹に少し沈んでいた。

「?どうかしたのか?」

「あ、あぁ。すまねぇ。あまり、あんたに世話をかける気はないんだが……」





 俺が聞いた情報はそれなりにとんでもない情報だった。


「人が消える日?」

「えぇ。ここだけの話、ここ数ヶ月、決まった曜日に人が消える日があるんだ。初めは一人、次の月には二人、その次は三人って具合に。先月は六人消えた」

「なんだそれは?」

「詳細はギルドに聞いてくれ」

「なるほど。すでにギルドに出回っている情報か。次に人が消えると思われる日はいつだ?」

「……明日だ」

「ギルドの職員たちはそのことは?」

「知っているはずだ。それに、消える場所もわかっている」

「どこだ?それは?」

「ここから東に行ったところに、ちょうどそれが始まる前にがけ崩れで発見された洞窟が見つかったんだ。おそらく、そこだ」

「なるほどな」

 さて、一体、何が待っているのやら。

 こんな楽しそうなこと、放っておくにはもったいない。

バルクスの役目はここまで。

パラスパーダ、職人、カラフト男爵は今後出てきます。


カラフト男爵はノーマルです。

髭の似合うダンディなおじさまです。

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