7-11.大天使と戦乙女
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オウガ族追加
犬追加
「遅くなりまして、申し訳ございません。ご主人様。大天使ガブリエル、遅ればせながら、只今まかり越しました」
「いや、なんでもう一回言ったし」
アニメのCM明けや次週の初めじゃないんだから。
「すみません。意外と反応が鈍かったので……」
はははっ。このお茶目さんめ。
にしても、この天使とか言うのは一体……。
「ガブリエル?ひょっとして神話に出てくる聖女を選定する天使か?」
いきなりどうしたおっさん。
「いや、神話時代の大天使だぞ。創世神話にも名前があるくらいだ。知らんのか?」
知らんのか?って言われてもな。
この世界の神話をちゃんと見てないし。
というか、ガブリエル、ガブリエルか。
確か元の世界では聖母マリアにキリストを受胎したことを告知した天使だっけか?
あれ、もしかしてこの天使もそっくりさん枠か?
「いかにも。私は光の神より遣わされました使徒。創世の時代から人々を見守るものです。オーガスト・ロイマン。貴方の覚悟、光の神は喜んでおられますよ」
「おぉ!傀儡にされていた儂を労ってくださるとは」
ガブリエルがおっさんのハゲ頭に手を伸ばし撫でた。
おっさんは跪いて、涙を流している。
「間違いを犯すことは罪ではありません。その間違いを正す勇気、オーディナは称賛していますよ。これから、幾多の困難が待ち受けているでしょうが、その勇気、忘れないでください」
「ありがたき……ありがたき幸せ。今の言葉、しかと胸に刻みまする」
「頼みましたよ」
なんだか、二人の間でいろいろ解決してしまったようだ。
いや、まぁいいんだが。俺を完全無視して話を進めているな。
あ、教皇が館の中に……。
「ふぅ。さて、改めまして。大天使ガブリエル、まかり越してございます。ご主人様、って、あら?」
あ、うん。いいんだけど。
ごめん、時間切れだ。
君がおっさんと話しているうちに既に時間切れになってしまった。
俺の身体は人間から猫の身体に戻っていた。
仰々しいやり取りをしていたせいだぞ。
「すみません。まぁ、あの手の人間には形式的な物も必要ですので」
ってあれ?俺の声聞こえてる?
ここは俺の部屋ではないはずなんだが。
「はい。光の神より、貴方が普段動物の姿でいるとお聞きしておりますので、動物の神から交信方法をお聞きしてきました」
動物の神?なにそれ、俺知らないんだけど。
「あー、えぇ。確かに動物の神もそのように申しておりまして。結局、植物の神からテレパシーのスキルをお借りしまして」
へぇ。ってテレパシーって植物の神の分野なのか?
「いえ、そういうわけでは。ただ植物の神は食べるとスキルが身に着く実を作るという特別な力を持っておりまして」
なるほど。流石は神様。
そんな力もあるのか。
「まぁ、人の身で使えるものではありませんが」
そうなのか。
残念。
俺もテレパシーもらおうと思ったのにな。
やっぱりバロンやエリザベスを見てて思ったけど、あれば便利そうだよなそれ。
「え?」
「えっ?」
急に驚かれたので思わず驚き返してしまった。
「え、なんか俺、おかしいこと言いました?」
「い、いえ。そうですね、おそらく使えると思いますよ。今度、植物の神にお願いしておきましょう」
よろしく。
有用なスキルはあっても困らないからな。
「で、後ろの彼女らはなんだ?」
大天使の登場ですっかり聞くタイミングを失っていたが、彼女の後ろには3人の女性がいた。
見た目は……、騎士っぽい。
が、その外見は個性がある。
1人は白髪に近い、いや銀色っぽい長髪の女性。手には杖……いや、アレは槍か?を持っている。
1人は眠そうな顔をしている茶髪のショートボブの女性。こっちの槍は槍とわかるな。1人だけ剣も帯剣している。
1人は……うん。なんというか。筋肉がすごい。武器も持っているようには見えない。
なんというか、戦乙女って感じの3人組だ。
「そうでした。ご紹介します。左から戦乙女族のロタ、エルルーン、スルーズです。戦乙女族の中で特に有能な者を選りすぐりました。何なりとお申し付けください」
本当に戦乙女だった。
っていうか戦乙女族?
「はい。彼女たちは天使と交わった、人間やエルフ達の末裔です」
天使と交わった?
つまり天使族の子孫?
「いえ、正確に言えば子孫は交わった種族になります。死後、彼らの魂を天使族が拾い上げ、神によって新たな体を与えられた種族が戦乙女族となります」
幽霊みたいなもんか?
ん?なにか違和感が……、彼ら?
あれ?戦乙女族なのに男もいるのか?
「?それはいますよ?男女が居ないと生物として成立しませんから」
あ、うん。はい。
やっぱり異世界だった。
俺の世界の常識は通用しないようだ。
しれっと鑑定の魔眼を発動する。
彼女たちは……だいたい、40後半くらいのレベルか。
ガブリエルは70代!?
うっそだろ、お前。
「これでも、神のお世話をする役割がありますから」
しれっと言ってのけるあたりこれがこの世界の普通なのか。
「で、結局何しに来たんだ?」
俺を優しく抱えるガブリエルに聞いてみた。
「ご主人様のお世話のためですが」
いや、お世話とかいらないんだけど。
「まぁまぁ、そう仰らずに。一応、光の神の面子というものもありますので」
ふーん。大変だな、宮仕えも。
「えぇ。大変なんです。それに、我々がいると色々便利ですよ」
いや、便利かどうかはどうでもいいんだが。
そもそもお世話って具体的になにするのさ?
「それはもう、朝のお勤めから夜の奉仕まで。四人纏めて奴隷として扱き使って頂いて構いません」
つかわないよ!?
何だその暴君みたいなやつ。
あと、なんで神様の勢力ってちょいちょいそういうこと言うかな!?
「光の神から求められれば従うようにと厳命を受けておりますので」
あんにゃろ……。
光の神ってことは、多分これは女神の差し金か。
ミツヒデが戦に勝った後にしれっと帰りやがったから文句は次の機会だな。
ともかく、どっちにしてもシャルロッテさんには話を通しておかないと……。
俺の客ってことで多少は融通してくれるだろうが……。
俺はここ一ヶ月で俺の客となった人物を思い返してみる。
バロンとエフィーリアさんのところに蜂のエリザベス一家と蟻のアントニオ。ドリアードのミリアさんに百合の魔物オトメユリの1体。
城にはノブナガ、以下5名に、エルフ侍のリヴィアーデさん、ドラゴン2人、帝国貴族の捕虜のアナスタシア。シラクサとかいう伯爵に、それに今日から教皇と天使1人、戦乙女族3人。
あと、それぞれ住むところが違うが、猫が30匹。
それに知り合いとしてはグレイと氷室さん。
ゴルディや熊のローゼは元々ここに住んでるので除外するとして、オウガ族とスノウウルフ達も皇家の客だから除外、……多いな。
城の部屋空いてるかな……。
「やっぱり、あたしは反対だね」
考え事をしていた俺の耳に誰かの声が聞こえた。
声の主は……戦乙女族の筋肉番長、スルーズだ。
「こ、こら!スルーズ!控えなさい!」
そこへ長い髪の戦乙女族、ロタが静止する。
「いくら神でもあたしたちを奴隷として売り飛ばすなんて許されるわけがないだろ!?なぁ!エルルーン!」
「私はお酒さえ提供してもらえればそれでいいです」
「……奴隷として売られてなんで酒が出てくると思ったんだ?」
「はっ!?それはいけません!断固、反対します!」
眠そうな顔の戦乙女族が酒の話で落ちた。
いやまぁ、奴隷としては使わないんだけど。
「あたしと勝負しやがれ!お前が勝ったらお前に飼われてやる!」
「私とも勝負を所望。私が勝ったらドリス皇国南部産の
エールと北部産のラガーを所望する」
言った2人を尻目にロタが何度も頭を下げてすみませんと謝っていた。
「ふふふ、どうでしょう。ご主人様。2人と勝負されてみては」
ガブリエルは煽っていた。
えぇ。これやらなきゃ駄目な流れ?
流石に今日は疲れたし遠慮したいんだが。
そう思った俺にガブリエルが耳打ちし、こっそりと伝えてきた。
「どうせなら完膚なきまでに叩き潰して、彼女たちの高くなった鼻をへし折ってやってください」
ガブリエル。天使のような笑顔で恐ろしいことを言う。
何だか彼女が、悪魔に見えてきたよ。
名前は一緒でもテンプレートではない人たち。
戦乙女族は生前は普通の人間やエルフなどの種族として生まれ生きていきます。
死後は神のために働くことが確定しています。
天使族が交わるときは人間に化けたり、天使として降臨したりしているので環境は様々です。
この世界では彼女たちはドリス皇国南方の島に集団生活しています。
補足
ドリス皇国では奴隷制は残っていますが、形骸化しています。
犯罪奴隷のみ認可されており、奴隷商は登録制。
認可外で勝手に売り買いすることは法律違反になります。
また奴隷商、奴隷の主人には奴隷を生かす義務が発生するため、裕福な家庭でしか購入することはできません。
ただし、世界全体で見るとこのような制度の国は半々程度。
侵略や植民地で奴隷化できない(長年していない)ので口減らしなどを行いたい場合や犯罪者を使う場合に限られます。
奴隷商に引き渡すには公的な手続きが必要になります。
天使族は世界全体を見ることも可能なので他国の奴隷制も知っています。