1-0.事の起こり
「は?」
私は同僚からその報告を聞いて唖然とした。
「いや、すまん。こっちの世界の種子がそっちに流れちまった」
軽い感じで言ってくる同僚を責めるように私は言う。
「……それで、どの世界に流れたんですか?」
「確かじゃないが、多分第八と第十三だと思う」
第八と第十三。
第八はファンタジー世界で進化がどん詰まりになった世界だったはずです。
第十三は現代……、いや近未来まで進んだ世界でこちらも進化はどん詰まりになっていた……と思います。
「…なんで都合よく、私が問題を抱えてる世界なんですかね?」
私は同僚をにらみつけました。
まぁ、にらみつけたところで何も変わらないのだが。
「いやいや!他意はないって!」
両手を振りながら慌てたように同僚は言います。
「まぁ、いいですけど。それで?猶予はどのくらいあるんですか?」
「種子が芽吹くまで、現地時間で75年と72年くらいかなぁ…」
「ふむ、割と余裕がありますね。3年くらいは誤差ですが…」
そこで一つ、私の中に疑問が生まれました。
「なんで差があるんです?そのあたりの世界は魔素総量には差はなかったと思いますが」
なんだか、嫌な予感がしたのできちんと聞いておかなければいけないでしょう。
「それは~~、いや、その~」
歯切れが悪いです。やはり何かあるようですね。
「正直に答えなさい」
「実は、流れた種子が2種類ありまして…」
「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
予想外の回答に私は絶句してしまいました。
種子というのは、所謂「生命の源」または「生命そのもの」と解釈してもらっていい。
同僚の言い分だと、彼らを討伐した際、種子を凍結し、かの地の飛ばしたらしい。
一つの世界であればどうとでもなるのだが、同時に二つの世界となると面倒なことになる。
ある程度は面倒見なければ次に見たときには滅んでいましたとかになりかねない。
はっきり言うが、私は今、新しく作った世界で手いっぱいだ。さらに別の問題を抱えた世界も二つある。五つも世界をほぼ同時に管理することは…、多分できなくはないけど、正直めんどくさい。
さて、どうしたものか。解決策を考えてみましょう。
1、サクッと現地人に強くなってもらう。
だめですね。世界のバランスが完全に崩壊します。
人間とはそういうものです。……私が言えた義理ではないですけど。
最悪、現地人の手で世界が滅んでしまいます。
度を越した力というのは現地人に与えてはいけないのは鉄則です。
いや、正確には例外というのはあるのですが。
正直、現地の神になる程度なら特に問題はありません。
どちらにしても、人選は考慮すべきですが。
2、英雄・勇者を復活させ協力してもらう。
用が済めば簡単に元に戻せる手軽さが売りの方法です。
ただし、復活させたあと、魔素や魔元素が復活するまで時間がかかります。
手軽な代わり大雑把すぎる方法です。消費量によっては世界が滅びます。
あと、やっぱりこちらも人選が必要ですね。
3、種子が発芽する前に私が種子を壊す。
論外。どんな余波があるかわかりません。
やっぱり世界が滅びます。
4、あいつに責任を取らせる。
却下。代わりにどんな要求をされるか分かったものではありません。
しかもあいつはすでに一つ、世界を滅ぼしています。
下手なことをすると世界が滅びます。
5、気づかなかったことにして放置する。
多分、私が怒られます。
そして世界が滅んでしまいます。
どれも問題があります。
私に直接影響がないとはいえ、せっかく手塩にかけて育ててきた世界がこのまま滅ぶのも忍びありません。
しかし、ぱっと解決策が思い浮かばないのも事実。
「はぁ……。寝よ」
とりあえず、私は仮眠をとることにしました。
きっと寝てる間にいい案が思い浮かぶでしょう。
しかしあいにくと、現地時間で50年ほど経過してしまったのですが……。
そのせいで、私はあわてて対策をとることとなってしまいました……。
書く気のなかった前日談。短めです。
2021/3/30 読み方の追加
魔素→マナ
魔元素→エーテル
プロットの段階で別の要素と若干読みが被ったので以後、上記のように読みを修正します。