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7-7.聖女とじぃやさんの異変

「どういうことだよ。おっさん」

 俺の部屋で猫姿の俺に土下座する光の神に対して、俺は言った。

「誠に申し訳ございませぬ!!」

「侵攻は止まるんじゃなかったのか?」

「それが……」




 事の顛末はこうだ。

 彼はあの後、聖女なる人物に神託を降ろした。

 この侵攻を止めるため、俺のことは新たなる創造神の使徒、と伝えたようだ。

 その日は何もなかった。

 これで万事うまく行く。光の神はそう考えた。

 しかしそうはならなかった。

 原因は人間の見栄、そして権力欲だ。

 彼らは聖女を邪神の巫女として幽閉。

 神託は光の神ではなく、新たなる邪神が降ろしたものとして、事実を封殺した。

 そのことに焦った神は、何度もその聖女に神託を降ろしたが、牢に幽閉されているため、聞くものはいなかった。

 結果、神聖トリポリタニア公国はドリス皇国解放聖戦と題し、戦争継続を選択。更に大群の本隊が、聖都を出立したとの話がもたらされた、と。


「全く、ふざけてるな」

「誠、その通りかと」


 なお、神聖トリポリタニア公国では教皇……いわゆる国王は居るが、実質的にはその下の、他の国では貴族扱いの信徒たちが取り仕切っているとのことだ。

 いわゆるお飾り君主らしい。

 この中で最も権力を保有しているのは11人いる元老院、その下が聖女、その下が貴族院の教徒達。さらにその下に一般の教徒と続くらしい。

 元老院や貴族院は本来、襲名制だが、一般の教徒にそのお鉢が回ってくることはない。

 神の名のもとに平等と謳ってはいても、彼らは自分たちの身内で襲名を続けているためだ。

 このため、一般人と貴族院達の貧富の差は大きい。

 唯一の例外は聖女で彼女だけは国民の中から、時代の聖女が指名される。

 これは神とのチャンネルの構築に適正があるためだ。

 これを神が選出していた、とのことだ。

 また、国民から選ばれることが多いということは、貴族には少なくともその適性がある人物が少ない、ということになる。

 もちろん、絶対的に数が違うというのもあるだろうが。

「適正って、何で決まるの?」

 と聞いたら、

「光魔法への適性と人格、あと我の一存です」

 と答えられた。

 要はおっさんの好みで決まるらしい。

 あぁ、だから聖『女』なのか。

 確かに、おっさんにするのは嫌か。

「いえ、けしてそのようなわけでは……。過去には男も選んでいるわけですし」

「えっ、男なのに聖女名乗ってたのか?」

「まぁ、そうですな。と言っても彼は短命でしたから。就任三年、齢16歳で亡くなってしまいました」

「あー、よっぽど可愛い見た目してたんだなその男」

「えぇ。それはもう、女児と見紛うほどで……はっ!?」

 やっぱり趣味じゃないか。

 まぁ、日本でも海外でも若い女性が好みな神様や偉人は多いしな。


 まぁ、それはともかく。

 今回、公国は聖女の新しい神託を偽物として隠したわけだ。

 和解の道はないのだろうか。

 というかそもそもこのおっさんが早とちりしたのが原因だよな。

「そ、それは忘れていただけると……」

 うん。まぁ。俺はそんな虐める気ないから。安心しろ。

 あの女神みたいに。

「あ、そうか!神託を別の人間に降ろせばいいんじゃないか?この国の人間とか。別の国の人間とか。そしたら対外的には向こうの大義名分はなくなるから責められなくなるんじゃないか?」

 俺の問いにおっさんが唸る。

「うーむ。悪くはない手でしょうが、いかんせん時間がかかり過ぎます。それに、おそらく奴らはそれすらも封殺するでしょう。偽の神を許すな、と」

 うーん。やっぱりそんなに単純じゃないか。

「ていうか、なんでそもそもあいつら人間以外をそんなに目の敵にするんだ?」

「それは、かの国の成り立ちが関係しております」


 曰く、その昔、大陸西側のほとんどを収めていたドリス皇国が三つの皇家に分かれた。

 原因はアレクシスが死んだため。

 その遺言により、息子三人にそれぞれ別の国になった。

 西はドリス皇国。

 北はモスティーユ神皇国。

 そして、東と南にオグマリオン皇帝国だ。

 これをドリス皇国三皇分離と言った。


 そのうち、オグマリオン皇帝国は魔物の大量発生によりわずか13年で滅んだ。

 その後数百年、モスティーユ神皇国が後継者問題で滅んだ。

 ドリス皇国は分離や統合を繰り返し、現在まで存続した。

 このうちモスティーユ神皇国は現在のドリス皇国の北側、つまり、神聖トリポリタニア公国の合った位置に首都があった。

 後継者問題が表出したのは魔王が発生したため。

 当時の魔王に神皇国の王が殺害され、大分裂を起こした。

 その後、モスティーユ神皇国の支配地域でも、国の分裂統合が何度も起きて今に至ると。

 このためモスティーユ神皇国の流れを汲む国では、より魔王を憎む傾向にあるそうだ。

 その中で生まれた宗教派閥だから、拡大解釈で人間以外すべてを憎むような国になってしまったと。


 で、そこに乗っかってしまったのがこのおっさん。光の神だ。

 乗っかった理由は欲。

 他の神を出し抜いてやろうと思ったらしい。

 神は信仰の大きさに力が比例する。

 というのがこの世界の常識らしい。

 が、そんなことはあり得ない。

 それが力の源だというなら、人間を作ったときはどこから力を得たというのか。

 信仰が増強剤だというなら話は分からなくはないが。

 ともかく、それを光の神は知ってしまったので、そういう争いからは手を引くらしい。

 そもそも、レベルで管理されている世界だ。

 鑑定の魔眼さんによると光の神のレベルは250ほど。

 それより力が下がることはないようだ。


 神でも、俺より下のレベルなのか。

 やっぱりチート過ぎるな俺の身体。

 ちなみに、俺のレベルは420から動いていない。

 九尾の猫になったことはレベルには関係しないのかな?



「ともかく今は、神聖トリポリタニア公国とグレイスノース公爵の軍勢を止めることを考えないとな。あと、聖女?ってのは被害者側か?」

「え、えぇ。おそらくは」

「ならそっちも助けてやらないとな」

 トリポリタニアの首都に行ってドカーンと。いや、一般人にも被害が出るか。

 こっそり隠れて……。首都の位置を知らないな。

 おっさんに責任取って行ってもらうか?

 いや、勘違いの元凶だしな。それに神は基本不干渉と女神も言っていたし。

 うーん。

 どうしたものか。






「そういえば、天使たちの派遣の件なのですが」

「ん?」

 あぁ、そういえば、言っていたな。

 あれ?言われてみれば来てないな。

「申し訳ありませぬ。呼び戻しに少し時間がかかっております。もう一週間ほど、お時間を頂きたい」

「あぁ。それなら構わないよ。気長に気長に。っていうか正直、派遣も必要ないかもしれないぞ?」

「ありがとうございます。しかし、派遣しないというわけにも参りません。賠償といえば聞こえは悪いですが、我と連絡を取る手段と思っていただければ」

 なるほどなぁ。

 確かに連絡手段はあったほうがいいか。

 おっさんに連絡とることも少ないとは思うが。


 コンコン。

 俺の部屋のドアをノックする音がした。

 やべぇ!

「おっさん!一旦隠れろ!」

 見ず知らずのおっさんが居たら誰だってビックリするだろうからな。

「ご心配ならさず!普通の人間には見えない……はずです!」

 自信ないのかよ!


「失礼いたします」

 じぃやさんが入ってきた。

「アレクシス様。お食事のお時間です」

 にゃーん。

 じぃやさんの言葉に短く答える。

 ホッ。

 本当に見えてないみたいだ。

 また面倒くさいことになるところだった。

 そう思っていたのだが、何だか妙に見つめられている気がする。

 なんだ?何か他に用事があるのか?

「失礼いたします」

 じいやさんの手が俺に伸びる。

 そのまま頭をワシワシ。

 更に指を滑らせて喉の方に。

 なんだ。モフモフしたかったのか。

 じぃやさんの性格上、多分シャルロッテさんたちの前では自重しているのだろうし、このくらいなら不快感はない。

「そんなところに立ってないで座って思う存分触ればいいのに」

 思わず言葉に出た。

「よ、よろしいので?」

 あぁ。そうか。ここは俺の部屋。つまり翻訳機がある。

 ということは当然、じぃやさんに言葉も伝わるということ。

 しかし、言葉が聞こえたくらいじゃ動じないじぃやさん半端ない。

 じぃやさんがベッドに腰掛け、俺を膝に乗せる。

 そのまま背中や腹を優しく撫でる。

 シナーデさんに負けず劣らず、非常に安心できる触り方だ。

 思わずゴロゴロと喉が鳴る。

 うん。気持ちいい。

「ふぅ。ありがとうございます、アレクシス様」

 どういたしまして。こちらこそありがとう。

 満足したのか、じぃやさんは俺をおろした。

 ん?なんか違和感。

 いや、じぃやさんの表情というかなんというか。

 じぃやさんがドアの前で立ち止まり、振り返る。

「アレクシス様。どうか姫様のこと、よろしくお願いいたします」

 ん?どういう意味だ?

 むしろ、俺のほうがよろしくお願いいたしてるのだが?


 じぃやさんはそれ以上何も言わず、その場を立ち去った。

 何だったんだ?いったい。














 その3日後。

 俺は後悔することとなった。

 ドリス皇国の中枢を担う、2人の死亡が知らされたのである。

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