6-15.戦場の主人、陰陽の神子
「そらそらそらそら!」
ロドリゴから連撃が放たれる。
しかしそのほとんどは右手だけの力で放たれたものだ。
避けるのは難しくない。
仮にに当たってもそこまで痛くはないだろう。
なんだ?手を抜かれてるのか?
「そら!」
その掛け声とともに、初めてロドリゴから両手での袈裟が放たれる。
まぁ。見えていれば避けるのもたやすい。
やっぱり明らかに手を抜かれてるな。
俺は後ろに飛んで距離を取る。
にしても、こいつの強さはなんだ?
ヴィゴーレにも匹敵しそうだ。
「へぇ。これも避けるか。あんた、すごいな。魔物にしとくのはもったいない」
剣を肩に担ぎなおして、ロドリゴが言う。
やかましい。
しかしなぁ。
こいつ、戦闘慣れしすぎだろ。
今だって、しれっと後ろに飛ぶ瞬間に魔法を放ってきていた。
多分、風魔法だろう。
その証拠に、かなり後ろにあった木が真っ二つに切れている。
まったくめんどくさいな。
俺は植物魔法で相手を拘束するように蔦を生やす。
蔦の数は約30。相手を取り囲むように配置し、相手に向かわせる。
「甘いっ!」
すると触れる直前でロドリゴは体を一周させると、白い剣でそのすべてを薙ぎ払う。
奴の剣は白い炎をまとい、蔦をすべて焼き払った。
クソ、このくらいじゃダメか!
俺は火魔法を発動し、ロドリゴへ火球を放つ。
しかし。
火球はロドリゴが剣を一振りすると切り裂かれた。
再び剣を担ぎなおし、ロドリゴが言った。
「わりぃな。俺、こういうの効かないんだわ」
真っ二つにされた火球がロドリゴの後ろで破裂し、爆発した。
いやいやいやいや。
魔法を切るとかどんだけだよこいつ。
いや、斬るだけならヴィゴーレでもできるか?
あいつはどっちかっていうと武器で払うというより、体で耐久するタイプか。
ヴィゴーレが力だとすると、ロドリゴは技ってところか。
どっちかっていうと、バロンと似たタイプかな?
あいつも武器を器用に使うしな。
あれ?3人だから心技体の方がいいかな?
突如、ロドリゴが俺に向かって駆けだした。
嘘だろおい!
こいつ突撃してくる気かよ!
一旦、空へ逃げるか?
いや、これ多分、逃げても意味ないだろうな。
俺は覚悟を決めて飛び出す。
「ティソナ!」
うおっ!まぶしっ!
奴の剣が唐突に光る。
目潰しかよ!せっこいな!
俺は口を開いて剣を待ち受ける。
どうせ今から回避してもよけきれないだろ。
じゃぁ、ラッキースターにかける!
俺の口は、見事奴の剣を受け止めて、何とか止めることができた。
『君はとても幸運だ!』
うるさいよ!
このままかみ砕いてやる……って硬ぇ!?
嘘だろおいっ!
って思ったけど、剣って鉄だよな?
嚙み砕けなくて当然じゃないか。
うーん。チートに染まってきてるなぁ。
「く、くそっ!なんて馬鹿力だよ!」
それはこっちのセリフだ。
噛んだ剣がびくともしない。
「そらっ!」
ロドリゴは剣を引くことをあきらめたのか、俺を蹴飛ばす。
ぐはっ!
俺はそのまま後ろに吹き飛ばされ、木にぶつかった。
この世界で初めてまともにダメージを受けた気がする。
クソっ!油断しすぎた!
相手はヴィゴーレクラスの強敵だ。
ここからは油断しない。
俺は影魔法と幻影魔法を発動する。
対集団戦でも信頼と実績のある魔法だ。
ロドリゴの影から影の兵士が5体立ち上がる。それを元に幻影の兵士たちが生まれた。
その数、合計で50体。
これならどうだ!
俺の咆哮と共に50体の影が一斉に飛び掛かった。
「へぇ。やるじゃない」
飛びかかってきた影を剣でいなし、後ろの影に振り向きざまに蹴りを入れ攻撃を交わす。
が、甘い。
あいつの左手側から違う影が襲いかかる。
えっ!?
いきなり奴の剣が輝いたかと思うと、影たちは強い光に当てられて、崩れてしまった。
そんなのありかよ!?
「ははは。いい武器だろ?こいつはさ、魔剣ティソナって言うんだ。どうだ?すこしは驚いたか?」
玩具を見せびらかす子供のような無邪気さでロドリゴがいった。
「正直、魔剣の力までは使うつもり無かったんだが。いやはや。強いなあんた」
やかましいわ。
にしても、なんだよその武器は。
魔剣?
物理は剣技でいなされる。植物は燃やす、火は魔剣でぶった切る。影は光で消し去る。
めちゃくちゃだな。こいつ。
なら……!
俺は水魔法を発動する。
リヴィアーデさんと戦ったときの水流、あれをぶつけりゃ流石にダメージいくだろ!
水流は直接ロドリゴを襲う。
「ちょ、おまっ!そんなこともできんのかよ!」
ロドリゴはバク転で水流を回避するが、俺の発動した魔法はやつを追跡する。
読みどおり、避けたってことはこれは切れないみたいだな。
「ちっ!しつこい!」
空に躱したところで俺の魔法が直撃した。ロドリゴは数メートル吹き飛ばされ土煙がたった。
やったか!?
土煙の中から、ロドリゴが姿を見せた。
ちょっとはダメージを与えられたのかな?
「ふぃ〜。危ない危ない。油断しすぎた」
げげっ!?
ピンピンしてやがる。
まじかよ。
もういっそ、だいたらぼっちに使った魔法を使うか?
あれなら流石に……。
いやいや、人間相手に使うような魔法じゃない。
なんせ地形ごと変えて……。
「本当に、油断しすぎですよ。ロドリゴ」
!?
いきなり背後から聞こえた声に全身が震えた。
「鬼門封じ、弐ノ方。鬼人縛鎖」
うぉ!?
う、動けない。
不意に現れた魔力の鎖によって俺は繋がれてしまった。
いくらか噛み切るがその都度、新しい鎖が生まれ更に頑丈に俺を拘束していく。
なんだこれ!?
俺は後ろにいた人を見た。
白と紫を基調とした和服?というか、神主が来ているような服。手には何枚かの護符と扇子を持ち、口元を隠すような仕草のひょろ長い男。
なんか、物語の陰陽師がそのまま出てきたような格好をしていた。
「親分が出てこなくても、方はつけられそうでしたけどね」
ロドリゴ、なかなか煽ってくるじゃないか。
「左様でしたか。しかし彼はまだまだ本気ではない様子。それに、私も自己紹介くらいはしたかったもので」
「へぃへぃ。左様でございますか」
ロドリゴも大概正体不明だがこいつもこいつで、なかなか曲者っぽい。
「手荒な真似をして失礼いたします。私、姓をアベ、名をセイメイと申します。しがない雇われの陰陽師……こちらでは魔法使いと申しましたか。ま、そんなことはどうでもよろしい。ともかく、呪術師の見習いとでも思っていただければ幸いでございます」
セイメイ!?
セイメイって、あの晴明か?
いや、まて。ノブナガの件もある。多分、そっくりさんだ。
「ところで、そろそろ、本気を出されなくてよろしいのですか?その鎖は縛鎖の鎖。あまり長居いたしますと、魔力を全て吸い尽くしてしまいますよ」
言われれば確かに。
段々と魔力が抜けていく感覚がある。しかし、心配は不要だ。
それ以上に回復していく感覚があるからな。
だが、このままじゃジリ貧なのも事実。
なにか逆転の目はないか?
「おー流石、『陰陽の神子』だぜ。なぁ、親分。こいつ、本当に本気じゃないのか?なんか鎖から抜けられないっぽいけど」
鎖に繋がれているから安心しているのか、ロドリゴが俺の顔の近くまで寄ってきて覗き込んでくる。
「あまり他人を疑うものではありませんよ、『戦場の主人』殿。ま、抜けられないならそれまでです。その程度の実力しかないということでしょう」
お?随分煽ってくれるじゃないか。
こいつら、人が動けないと思って……。
仕方ない。
そっちが煽ったんだからな?
どうなっても責任取らないぞ。俺は。
俺はいつぞやの進化先リストを表示する。
まぁ、どれを選ぶかってのは問題だが。
俺は目に止まった文字を選択し、決定の意思表示をした。
テンプレートの登場です。