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6-14.要塞の地へ

(あばばば!あば、あばば!あばらがががががが……)

「あっ!?すまん!急いでたから!」


 バロンを搔っ攫ってそのまま東に飛んで来たんだが。

(冷気と空圧で死んでしてしまうわ!)

 大げさな。

 別段なんともないじゃないか。

 この前はヴィゴーレ達だって平気だったわけだし。

(筋肉の防寒着をまとっている奴と一緒にするな!見ろ!このスリムな無駄のないボディを!)

 うん。はい。

 すみません。


「ところでバロン。ラーベルガー要塞って国境付近にあるんだろ?どこにあるんだ?ここからわかるか?」

(ん?あぁ、少し待ってくれ。……ふむ。密集した羊牧場の景色と建物の様式から察するにここはクワイアット伯爵領か。っておい、ちょっとまて!)

「ん?何だよ?」

(なんだよ?ではない!クワイアット伯領までどれだけ時間がかかると思っている!それをこんなに短時間でくる等と)

「そんなこと言ってもさ。来れちゃったんだから仕方ないじゃん」

 実はコレにはカラクリがある。

 スキルの実験中に気づいたのだが、『空間把握』と『転移魔法』を併用することで魔法陣無しでも転移が可能なことが判明したのだ。

『空間把握』は半径約5km前後の完全な把握が可能で更に『転移魔法』は短距離であれば魔法陣なしでも転移できることがわかった。

 つまり、5km先の把握をして転移先に設定、ということを繰り返せば安全に移動できた。

 まぁそれでも、おそらく俺の全力飛行のほうが速度は出る。

 ただ俺の魔力はほぼ無限に近いようなので、連続使用も苦ではない。

 結果、飛行しながら連続で転移することで大幅に時間を短縮することに成功したのだ。

 また飛行しているので転移先でも動いている。

 少しづつ進んでいるので魔法の方は休憩も入れられるのだ。

「どうよ!この完璧な使い方!」

(いや、どうよって……もうなんでもありだな。呆れてものも言えん)

「え?そうか?誰でも思いつきそうなものだけど」

(まず、転移魔法を使えるものなどそう居ない。加えて、ここまで連続で使用できるなど。流石、神獣様という他ないな)

 む、なんか言葉に呆れが混じってないか?

 まぁいいか。

 便利なぶんにはいいはずだし。


 改めて下の住居を見てみると。あぁ、確かに特徴的だ。

 ほとんどの住居は石造りで、羊用のスペースと策で囲われた放牧地を併設している。

 このため、一階部分はおそらく見た目ほど広くはないのだろう。

 現に一階部分の半分はガレージのように開いた状態だ。

 そして、赤い屋根。

 赤というかオレンジに近い。

 これは皇都近辺では見かけなかった。

 あの町の屋根はほとんど青と灰色だったし。

 まぁ、赤い屋根もなくはなかったけど、たしかあの辺りは確か職人街だっけ。

 なんかルール的な物でもあるのかな?


 それよりも。

「おい、そんなことより、ここからどう行けばいいんだ?このまま東に飛んでいいのか?」

(あ、あぁ。そのまま真っすぐ東……あの山の山頂方面にまっすぐ進めばいずれ着く)

「わかった!」

 俺は会話のために落としていた速度を再び上げた。

(ちょ、おまっ、ちょっとまって!)

 背中で何か聞こえた気がするが気にしない。

 さっき説明したから、了承済みだろ。





(死ぬかと思った……)

 再び速度を落すと、バロンがぼやく。

「んな大げさな。寒さだってそこまででもないだろ?こんなにあったかい日差しなんだから」

(いやいや、温かいとはいえ、まだ芽吹きの月だろ。正直、今年は暖かいくらいだが、風は変わらず冷たいぞ)


 芽吹きの月というのはこの世界の年月日の内、月を表す言葉だ。

 シャルロッテさんの授業の端々に出ていたから覚えた。

 俺の世界の月に照らし合わせるとこんな感じ。

 1月、深雪の月

 2月、再誕の月

 3月、解氷の月

 4月、芽吹きの月

 5月、若芽の月

 6月、蒼天の月

 7月、深緑の月

 8月、温海の月

 9月、実りの月

 10月、収穫の月

 11月、生誕の月

 12月、降雪の月

 あくまで、照らし合わせたらって感じだが。

 新年といわれる日時を1月1日に合わせた感じだ。

 この世界の、というかドリス皇国の文化圏では11月の生誕の月に決算を合わせるのが普通らしい。

 新年と決算がずれているのは何でだろう?


 まぁ、気にするほどのことではないが。

 ともかく、今のこの世界は春の初め。これから気温がさらに上がっていく季節だ。

 良くはわからないがそういう感じらしい。


(そりゃお前は毛皮に包まれているだろうが、俺なんて皮下脂肪もないんだぞ)

「うーん。そんなもんか」




(ところで、そろそろラーベルガー要塞の上空に着くぞ)

「あ、そうなん?」

 俺は下を見た。

 言われたら確かに下に砦っぽいものがある。

 その近くには迷路のように入り組んだ街もあるな。

(あの山の尾根に小さな川があってな、そこが国境に……む?)

「川って、あのちょっと開けたところか?」

(あ、あぁ。しかし、なぜ王国軍は既に国境を越えているんだ?皇都への襲撃に合わせたとはいえ早すぎるぞ。こいつら、初めから戦争する気だったな。馬鹿なことを)

「ちょっと待った。少し確認する」

 俺は影魔法で森の木々の影を利用して聴覚を彼らの近くに飛ばした。



「全く、王国軍の奴らも腰抜けだよな!こんなあっさり越えられるんだから、さっさと攻めちまえばいいのによ!」

「ガハハ!そう言うな!だから俺達みたいに真に勇敢な部隊が居るんだからな!」

「戦い方にこだわるなんて馬鹿な司令官様だぜ!」

「おい!黙って歩け!折角あのいけ好かない魔法使いを出し抜いたんだ!余計な事で進軍を遅らせるな!」

「へいへい」

「ところで、南側はどうなっている?合わせて進軍できているのか?」

「へぃ。報告通りなら()()()()()()()が指揮して進軍しているはずでさぁ」

「ならよし。このまま進軍を続ける!ラーベルガーを制圧するぞ!」

「おぉ!」


「だそうだ」

(遠慮する必要は無さそうだな。しかし、南側と言うのが気になる。ここからは見えないから山脈の反対側。マリーアンズ辺りからも兵を進めているかもしれないな)

 ふぅん。2方向から包囲する作戦か。

(すまないが、少し提案がある。お前は、南側に行ってくれないか?ここは、俺がなんとかしよう)

「いいのか?」

(あぁ。これでも古巣には多少愛着もある。そこを荒らすやつには少々お灸を据えてやらんとな)

「わかった」

(マリーアンズ方面へはあの山脈の反対側だ。あちら側の国境は森を切り開いて関所を設けているはずだ。慎重に行け。国境を越えているものだけを叩くんだ)

「了解」

 俺はバロンを降ろし、急上昇した。そのまま山脈を越えて南の国境付近へと向かった。



 向かった先にあったものは火の海だった。

 関所と思われる場所と、近くにあった村が焼けている。

 なんてことだ!

 下に目を向けると、逃げる人に斬りかかる兵士らしき姿が見える。

 あいつらっ!


 俺は一気に下降する。

 下降する際に風魔法で刃を作り、恐怖攻撃を乗せてやった。

 俺の作り出した風魔法は威力こそ低く、人の肌を傷つけることもできない代物だが、恐怖攻撃を乗せるためだけの攻撃なので、威力は期待していない。

 広範囲に風の刃をバラマキ、その全てに恐怖攻撃を乗せることで敵を戦闘不能にするのだ。

 いやほんと、便利だわ恐怖攻撃。

 欠点があるとすれば恐怖攻撃を受ける人間が多数になることか。

 残念ながら今回のケースだと一般人だけ対象外にするような器用なことは今の俺にはできない。

 なので、襲われていた一般人も巻き添えになるわけだが、出力を絞っているし、気絶するくらいは勘弁してもらおう。

 一通り、恐怖攻撃をばらまいたら、立っているものはいなくなった。

 燃えている民家や関所には水魔法を使って消火しておく。

 ふぅこれで一段落かな?


 そう思っていた俺の背後から影が飛び出した。人の影だ。

 咄嗟に尻尾を硬化させ、剣術で迎え撃つ。

 俺のチートに耐えきって襲ってきたのか?何者だ?こいつ?

「へぇ、今のを受け流すかい。こりゃ、ちょっと本気でかからないと駄目かな?」

 改めて向き合ってみると、この辺りでは見ないような服を着ていた。

 金属製の半身鎧。

 白い刀身の長剣と背中にもう1つ長剣を背負っている。

 肌は日焼けからか少し黒い。

 いわゆる、ツーブロックの髪をオールバックにしている長身の男がそこにいた。


 なんだこいつ?

「つまらない契約かと思ったら、こんな極上の獲物に出会えるとは。俺はやっぱり運がいいな」

 戦闘を楽しんでるのか?こっちには楽しむ余裕なんてないっていうのに。

 男が剣を突き出し、こちらに語りかける。




「我が名は、ロドリゴ・ディアス!さぁ!勝利を欲さんとする強敵よ!俺を倒して、その名声を勝ち取るがいい!……なんつって」





 えー。なんかめんどくさい奴だなぁ。

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