6-13.魔族
クランクの容態が安定した。
魔力を噛み切ってから約30分。
散々苦しんでいたが、やっと大人しくなった。
とりあえずは一安心。
それにしても、さっきの魔力の糸は何だったのだろうか。
なにか嫌な感じがしていた。
時間がなかったから、よくわからなかったけど、多分あれ魔力を流し込んだら起動するタイプの魔法だよな。
心臓のあたりにまとわりついてたから、おそらく心臓を破裂させるような魔法なんだろうなぁ。
外道の類だ。
何人が対象になっていたかは知らないが、公爵たちはこの魔法で脅迫でもされていたのかな?
そう考えると公爵が助けを求めていたっていうのも納得できなくはない。
うーん。
けど、俺がやったみたいに寸断できるのであれば別に脅威にもならない気がするが。
俺にできたんだから、ヴィゴーレ達なら難なくこなせそうな気がするが。
シャルロッテさんが指示を出して、他のメンバーの治療と公爵の息子の治療をテキパキとこなす。
うん。やっぱり、シャルロッテさんはこういう指示が得意なんだろう。
流石、皇族。
「あー。疲れた。お姉さま。私、ちょっと休んでくるね」
もう一人の皇族はどっちかっていうと元気系だが。
「ちょ、マリア!もうっ!」
マリアゲルテさんはどうも王族というより、ゲームなんかでよくいる元気系ヒロインって感じだよな。
ポニーテールが似合いそうだ。
そういえば、俺はここに来てから夜はともかく、昼は彼女が何やってるかって知らないな。
訓練と勉強はしてるみたいだけど。
そういえば、騎士団がなにかに所属してるんだっけ。白薔薇騎士団って言ってたか。
他のメンバーは見たことないけど、確かいかにも騎士って感じのおっさんと話をしているのは見たことあるな。
余談だが、この国……と言うより皇家所有地の騎士団は2つある。
1つは赤百合騎士団、もう1つは白薔薇騎士団。
主に赤百合騎士団は対外政策に使用されるため、戦争や外交の場に姿を見せる。
対して白薔薇騎士団は対内政策に使用され、冒険者の手伝いや内乱の鎮圧、外交官が来た際の警護など、姿を見せる場面が非常に多い。
俺が窓から朝見かけた訓練の様子も白薔薇騎士団だ。
なので国民からは白薔薇騎士団の人気のほうが高かったりする。
マリアゲルテさんは白薔薇騎士団の副団長らしい。
そりゃ人気も出るな。
ちなみに、おおよそ一般的にはこの世界では兵士とは徴兵を含む総兵力の俗称、職業軍人は全て私兵と呼ばれ、常備軍は私兵と兵役制度により構成される。
騎士団はこの私兵の中でも、各貴族家によって整備された団体という位置づけだ。
つまり、2つの騎士団はドリス皇国ではなくドリス皇家に仕えている。
まぁ、とはいえ、この国の最高権力者の家に仕えているので実態は国営機関みたいなものだ。
もちろん、それなりにお金を使うので、先の侵攻のように万単位なんてそうそういないが。
あれも実際、商人や戦場を商売としている者たちを含めたら倍近くいたらしい。まぁ、後方に居たおかげで戦闘には巻き込まれてないみたいだけど。
うん。軍隊のことについては一般人の俺には荷が重すぎる。
正直、よくわからない。
ちなみに、これはあくまでドリス皇国式のものだ。
別の国で新しく作られた方式だとまた違うらしい。
なおこのことを知ったのも、この少し後のことだった。
閑話休題。
シャルロッテさんはマリアゲルテさんをそれ以上追わず、場の集収に専念した。
「ドラディオ殿、少しよろしいですかな?」
その後、俺とドラディオに声をかけてきたのは、なんとオウガ族のドミニク。
あのとき以来だ。
オウガは魔族の一派で恵まれた体格と筋力を持つ。
同じ様な巨軀を持つ一派、ラグナール族から分派した種族で彼らよりも多様な魔力を保有した代わりに筋力や体格は彼らから劣る。
全体的に文化的な生活より自然と共存することを良しとし、独特な品種の作物と少数の集団での集落形成により生活している。
とは鑑定の魔眼さんの言うところ。
そういえば、ノブナガとカツイエ、カズマスは魔族分類だったな
ちょっと気になったので、鑑定の魔眼で魔族について調べてみるた。
魔族とは人型の多種族の総称で、闇の神の祝福を受けた存在であること。
かつてはアルマゲ族、ラグナール族、ハルマー族、ウロボ族、ヴァンパイア族の5種族のみだったが、そこから分派して今や80種族を超える。
へぇ。結構な数がいるんだな。
もっと少ないと思ってたんだけど。
ちなみに現在においてはアルマゲ族を除く4種族は高潔血統と呼ばれ、まぁエルダードワーフやハイエルフのような一段上位の存在として扱われるらしい。
残りのアルマゲ族に関しては、アレクシスの頃の魔王の種族だったそうだが、今は極端に数が少ないのだそうだ。
代わりに台頭したのが他の4種族。
中でも特にハルマー族とヴァンパイア族の興隆は目覚ましいものがあるらしい。
大陸西側では、冒険者や王族として。大陸東側では大名や領主としてその実力を発揮している。
身近なところだと、ヴィゴーレのところのロリっ子、テルミス。試合中には火の魔法で俺を牽制していた。
あとはノブナガだな。こいつもハルマー族らしい。
ヴァンパイア族は……とりあえず、カズマスぐらいしか会っていないし、何ともよくわからないなぁ。
ちなみに南方には上位5魔族を王魔族、そこに近い分派の魔族を上魔族、その他の分派を辺魔族として扱う地域もあるのだとか。
もうそこまでくると頭が理解できん。
「それで、どうされましたか?ドミニク殿」
「はい。仲間のオウガ族から急報が届きました。皇国東の山岳地帯、アルトランド王国の北側、ノルドガルド大公国・スカンディス連合との国境付近にて魔獣大量発生の兆候有。注意されたしと」
「なんですと!?」
仲間?
ってあぁ。連絡を取り合っていたらしい他の氏族のことか。
彼らの氏族は謎の魔獣……、結局正体はわからなかったが、により壊滅的な被害を受けたんだった。
生き残りはわずか6人。
聞けばオウガ族は元々自然の中での生活を好む種族ではあるが、知識欲がないわけではないらしい。
氏族間の連絡もエルフや他の種族が使用する動物を使用したものなど、新しい知識を取り入れ、研究していくことに関しては人間にも劣らないのだとか。
で、今回使われたのは鳥を利用したもの。
要は伝書鳩だ。
それによると、既に現地のオウガ族は避難を終えているが、近くの軍や冒険者では対処できないレベルにまで膨れ上がっているとか。
本来ならノルドガルド、アルトランド両国から援軍が来るはずだが、ノルドガルドはドリス皇国との戦争準備、ノルドガルドは魔王の一体と言われる魔物の討伐準備に勤しんでおり、援軍は期待できないのだとか。自分達は更に南下しその後西進する予定とのこと。
書かれたのは日付から2週間ほど前。
情報は情報屋や知り合いの軍関係者からの情報で信頼度も高いそうだ。
へぇ。そうなんだ。
……って!?戦争準備?
それも2週間前から?
アルトランド王国っていえばガルアーノ公爵と裏で繋がってたっていう国の名前だよな?
と、言うことはもしかしたらガルアーノ公爵の件は囮で端から戦争起こす気だったのか?
軍の進行速度ってのがどのくらいかはわからないけど、2週間もあればそれなりに兵力を集中できてるんじゃないかな?
こうしちゃいられない!
この国を必ず守るとか気概があるわけではないけど、シャルロッテさん達は俺の飼い主だ。
俺が物語の主人公達のように波乱万丈ではなく比較的安定した生活ができるのは飼い主である彼女たちのおかげ。この生活を守ろうかと思えるくらいには愛着はある。
こんなことで、壊されてたまるか。
この昼寝とオヤツの人生……ではなかった、猫生を!!
俺はニャーンと一鳴きして飛び立ち自分の部屋に向かう。
ドラディオが後ろでなにか言っていたが気にしない。
とりあえず俺が言葉を話せることを理解している人を探そう。そのうえで道案内してもらって、空を飛んで現地まで行けばいい。
空から見た感じだとノブナガもグレイも綾音も見えない。
ゴルディは最近の情勢には疎いだろうから、残るは……バロンだな。
確か国境付近の要塞を魔物から守った守護者らしいし、適任だろう。
俺は目でバロンを探す。
見つけた。森の墓にほど近い場所にいた。一旦そちらに飛んでいき、バロンの前に降り立った。
(うぉ!?びっくりした!なんだ、アレクシスか、どうした急に)
「すまんバロン!時間がない!ちょっと一緒に来てくれ!」
(えっ!?ちょ、おまっ!ノォォォォォォォォオ!!)
俺はバロンを無理やりかっさらい、再び空へと舞い上がった。
いざゆかん!目指すは国境!
〜残された2人〜
「どこへ行かれるかわかりませんが、夕食までにはお帰りくださいねーー!」
「あの魔獣……神獣様でしたか。あのお方はどちらに行かれたのですか?」
「わかりません。なにせ気まぐれな方でして。しかし、あの方が動かれたということは、この問題は明日を待たずに解決するでしょう」
「それほどですか。確かに神の像のときのお力は凄かったですがそこまでとは……」
「あの方に任せておけば問題ありませんよ。そういえばあなた達の出入りしている工房にも、新しく来た者たちが出入りしておりませんでしたかな?」
「えぇ。暖かいところを見つけてはそこで寛いでエサを貰っているようです。倉庫で穀物を食い荒らすビッグラットやアシッドローチを退治してくれるので非常に助かっております」
「なるほど、確かにそんな報告もありましたな。これは姫様に相談して本格的に職として考えても良いかもしれませんな。ただ、既存のキバイタチ達の役目も考えませんと」
「えぇ。特にビッグラットは冒険者に頼まなければいけない魔獣ですから。もう少し数を揃えていただけると、皇都全体が助かるのですが」
「それはあの方次第でしょう。この案が通ればアレクシス様にお願いしてみましょう」
「よろしくお願い致します」
俺の知らぬところで、猫は本来のポジションに収まろうとしていた。
このことを俺が知ったのもだいぶ後のこと。
エルフ侍の妹、リヴィアーデが皇都に帰ってきてからのことである。
氏族間の連絡もエルフや他の種族が使用する動物を使用したものなど、新しい知識を取り入れ、研究していくことに関しては人間にも劣らないのだとか。
遅くなり申し訳ございません。
多夢和君三度目の飛翔。
二度あることは、とは言いますが。
伝達の遅い世界で、なるべくだらける系人物に自分から動くようにしてもらうことの難しさを痛感しています。
近いうちに牢屋の方にも行ってもらわないといけないのですが。
どうやって動かすかなぁ……