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6-12EX_冒険者『閃光』の氷室彩音、ソーセージ

(隠語ではない)

6-9EXのグレイの話の続きです。

 何をしているのかしら。彼は。

 数字を教えてほしいって依頼はどうなるのかしら。

 っていうか、依頼書渡してないわよね?

 どうしようかしら。

 まぁ、アラビア数字が扱える女性なんて条件、焦らなくても私しかいないけど。

 いや、近くに私たちと同じ転移者がいないとは限らないけど。

 転移された時間がバラバラだからあの時、私と一緒に転移された少年が大人になっている可能性もある。

 たとえば、あの受付のウィンディア族が彼と同じように転生者の可能性も……。


 って、あの受付の娘、なに持ってるのかしら?

 手紙?

 あぁ、あれ、多分依頼の条件を書いた親書ね。

 勝手に開けてるけど構わないのかしら。

「こ、これは!貴族様からの指名依頼の親書!!」

 その言葉にギルド内がざわついた。

 声、大きすぎじゃないかしら。


「そ、それ!今から掲示されるのか!?」

「貴族様からの親書って!さっきの次期伯爵からか!?」

「なんで地方ギルドの方にそんな依頼が!?こういうのは両ギルドに出すのが慣例では」


 ほら騒がしくなってきた。

 ギルド内の大方の反応は三つ。

 依頼をチャンスと捉えて受付に迫る冒険者。

 さっきのやり取りを見て拒絶反応を示す、ティナ氏、フィルア氏ファンの冒険者。

 指名依頼が来なかったことを嘆くギルド職員。

 この3つだ。

 割合は3:6:1ってところかしら。


 しかし、なんというか。相変わらず、むさ苦しいところよね。

 冒険者の主装備は獣の革や布製のものが多い。

 これは彼らの財力の問題もあるが、重い金属鎧などではあらゆる状況には対応しづらいと言うのもある。

 金属鎧で薬草採取なんてできないもの。

 そういう鎧は騎士や貴族とかの財力と見栄が必要な人たちがつけるものね。

 実用的じゃない。

 まぁ、盾役……所謂タンク役の人間はつけていたほうがいいのだけど。

 おっと、それよりも依頼の件ね。もうそろそろ掲示されるかしら。冒険者も集まってるわ。

 私は皆と同じように掲示された依頼を見に掲示板に行く。

 条件は……、うん大丈夫。

 事前の打ち合わせ通りね。

 他のみんなは首をひねっている。

 まぁ、数字の意味が判らなければ仕方ないわ。

「ごめんなさい、フィルア。この依頼受けたいんだけど、いいかしら?」

「あ!閃光さん!でもこの依頼は試験がありまして……」

「問題ないわ。試験を受けに行きましょう」

「は、はい。ではこちらに」

 私はフィルアに連れられておくの試験室に行く。

 試験といっても簡単なものだ。まぁ、念の為、3桁4桁そして掛け算と割り算を混じったものを答えと一緒に用意してもらったから私以外には解けないだろうけど。


 さくっと終わらせて掲示エリアに戻るとギルドの戸が開けられた。

「ここがこの街のギルドですか!なかなか大きいですねー!」

「ちょっと。そう急がないで。転ぶわよ」

2()()とも。そう騒がない。とりあえず、掲示板の方に行こうか」

 入ってきたのは3人組だ。

 文官風のエルフの女性と大きなリュックを背負った女性、それに一部、金属鎧の男の子。男の子は布製の目立たない色に染めたマントをつけている。

 なんというか。冒険者と言うよりは、貴族相手の商隊って感じね。男の子は護衛かしら。

「あのー。すみません。この教育の依頼ってまだ受けられますか?」

「あー。すみません。それ今、受けられちゃいまして。他の依頼でしたらご紹介できますけど。どのような依頼をご所望ですか?」

「あー。そうか。残念だな。とはいえ、この状況が何時まで続くか分からないからな。出来れば拘束時間が短めの依頼を幾つもこなした方がいいかな。そろそろ補給も怪しくなってくるし」

「でしたら、この運搬と配給のお仕事はどうでしょう?メンバーはどのくらいいらっしゃいますか?」

「あ、僕達一応、商隊で。1()3()()確保できます」


 ふーん。

 やっぱり、商隊だったのね。

 それにしても、ちょっと申し訳なかったわね。

 まぁ、どうせ数字の教育なんて私達転移者にしかできないから、仕方ないと思ってもらうしかないわね。


 ……あれ?何か違和感が?

 気のせいね。



 少し時間が経ったけど、彼と婚約者の娘が帰ってこないわね。

 どうしたのかしら。

 仕方ないわ。とりあえず食事でもとって待ちましょう。

「フィルア、ちょっと食事をとってくるから依頼人が帰ってきたら月熊亭に寄こして」

「え?閃光さん、お待ちにならないんですか?」

「うーん。ちょっとギルドの食事ってちょっとアレだから……」

「あー、そういうことですか」

 不味いわけじゃないんだけど、なんというか極端なのよね。

 しょっぱかったり、味が濃かったり、逆に薄かったり。

「でも大丈夫です!最近、ティナちゃんが頑張ってて!食事もだいぶおいしくなってますよ!」

「そうなの?」

「えぇ。なんでも婚約者様にいろいろ教えていただいてるみたいで。今まで見たことない食材も食卓に上がるようになったんですよ」

「へぇ」

 婚約者って言うのはグレイのことよね。

 でも、数日でそこまで変わるものかしら?

 でもまぁ。そこまで言うなら食べてみてもいいかも。

「分かったわ。じゃぁ。とりあえず、おススメをもらえるかしら?」

「はーい!じゃあ、座ってお待ちください!」

 ふぅ。

 なんというか元気な子よね。

 フィルアって。

 ちょっと落ち着きがないけど。

 これがファンの多い秘訣かしら。


「お待たせしました!」

 暫くして、お盆に料理を抱えたフィルアがやってきた。

「ありがとう、フィルア」

 届いた料理を眺める。

 これは……、ソーセージ?


 ソーセージ。

 細かく刻んだ肉を香辛料や調味料と一緒に動物の腸やケーシングに詰めた食材。

 保存食として古くから重宝されている食材。

 現代においてはお弁当や料理の材料として流通しているポピュラーな食材。


 うん。どう見てもソーセージ。

 ただちょっと大きい。

 直径3センチは超えていそう。


「あの、フィルア?これは?」

「え、あぁ!これはソーセージっていって、ウーマの仙腸に端肉を細かく刻んだものを詰めて焼いたものです!本当は燻製にしたり、茹でたりして保存性を高めるらしいのですが。まだ出来たばかりなので軽く焼いてお出ししてます!ちょっと焼くのも大変なんですよ。すぐ弾けちゃうのであ、ちなみに味付けは岩塩で……」

「ちょ、ちょちょちょ。ちょっと待って。フィルア。一気にしゃべり過ぎよ」

「は、はぅ……。すみません」


 ちなみに仙腸というのは草食の魔物にある器官、内臓の一つだ。

 小腸の手前にあり、薄い膜で構成されている。

 それなりの長さがあり、その長さは小腸にも匹敵するとされている。

 これは体の消化器官としてはほぼ機能していないらしい。

 正直なんのためにあるのか、よくわかっていない。

 ある学者の説だと、植物の蓄えた魔力を吸収する器官だとか言われてた気がするわ。

 まぁ、ともかく。

 久々にまともな食材!

 冒険者になってからというもの、牛や豚の肉なんてものはそうそう手に入るものではなくなった。

 いや、街や村であればそれなりに手に入るのだけれど、野宿が多いとそうそう荷物の中には入れられない。

 そんなわけで、依頼の最中は狩りをして食事をしたりしている。

 兎や鳥なんて手に入ればいい方で、蛇やネズミ、カエルなんかを食べないと食べ物さえなかった。

 まぁ。山菜は豊富だったし、この辺りは油がとれる草もあったから、味には困らなかったけど。


 一口齧る。

 パリッとした食感が美味しい。

「うん。美味しいわね。これ、なんの肉?」

「あぁ、あはは。えっと……その……」

 ん?なに。その歯切れの悪さ。

「なんか聞かれたらまずい食材でも入っているの?」

「い、いえ!そんなことは!ただ、その……、嫌いな人は嫌いなもので」

「ふぅん?で?何の肉?」

「えっと、いろいろな肉の端肉になったものをスプーンなんかでそぎ落として細かく砕いて混ぜたものです。あと、獣脂なんかも少し入っています」

「なるほど。端肉の有効利用ってわけね」

 もう一口齧る。

 うん。今までのよりおいしく感じるわ。

 確かに、端肉なんかは普通に食べる部位の切れ端や、商品にならない骨や筋に近い肉が多い。

 いくらこの世界が食糧難とはいっても、そういう部位の利用法はまだこの世界にないのかしら。

 骨だって筋だっていい出汁とか取れそうなものだけど。

 恐らく、獣脂は少しでも食感をよくするための工夫ね。

「十分美味しいじゃない。これは主力商品になると思うわよ。無駄なく肉も採取できるし」

「ありがとうございます!」

 私の回答を聞いて、ぱたぱたとフィルアが駆けていった。

 ふぅ。


 そうね。

 骨や筋を無料に近い価格で引き取って出汁にして料理として提供するとかどうかしら。

 原材料が安く仕入れられれば、かなりの利益をあげれそうだけど。

 って私が考えることじゃないわね。


 はぁ。

 早く戻って来ないかしら。

 あいつら。

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