6-12.魔力の行使
少し短めですが。
魔力の糸に牙を突き立ててみたものの。
これどうすれば切れるんだ?
「ぐっ!ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
やばい。クランクが持つか?
これ、噛みついた感じからすると魔力の塊だよな?
うーん。
とりあえず、鑑定の魔眼で見てみるか?
鑑定の魔眼によるとこれは闇魔法の一種らしいが。
うーん。
そうだ、俺の魔力を流し込んでみるか。
ついでに恐怖攻撃。あと効果がよくわからないけど、覇気、拘束、悪食、切断あたりもつけておこう。
これで嚙み切れなきゃ、多分俺には無理だ。
おっ?
魔力の糸がプツンと切れた。
よくわからないけど、これで正解だったようだ。
よしよし。
「にいさん!」
クランクが糸の切れた人形のように気を失った。
うん。まさに『糸の切れた』と表現するにふさわしい。
とか思ったり思わなかったり。
いや、すまん。
実は少しだけやっちまったと思ってる。
だって、魔力の糸を噛み切った瞬間、いろんな聞こえちゃいけないものが聞こえたんだ。
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!
とか。
うぎゃぁぁぁぁぁ!
とか。
たすけてくれぇぇぇぇぇ!
とか。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!
とか。
そんな感じの怨嗟の声。というか、絶望の声。
それが50人分くらい。
ついでというか、繋がった魔力の先でいろいろぶった切った感覚まである。
これ多分、繋がった先は大惨事になってるんじゃないだろうか。
魔力量も流しすぎとは思うけど。
もうちょっと調整を頑張らないとな。
余計な被害を出さないためにも。
side~アルトランド王国地下~
私は大国、アルトランド王国の宮廷魔術師。名はヤクト・マクト・ローエングリン。
まあ、偽名だが。
私の任務は皇国の公爵の一人を支配下に置くこと。
まぁ。私の真の主は他にいるので、これは表向きの任務。真の目的は他にある。
ふふふ。主の寵愛を受けられぬ愚かな人間どもよ。苦悩のうちに死ぬがよい。
何だこれは。
私の足元には多数の魔術師が転がっている。
彼らは私の子飼の魔術師だ。
彼らには公爵をつなぎとめるための魔法、その魔法陣の維持のための魔力供給を行わせていた。
その魔法とは心臓を常に掌握し、必要に応じて魔力を流し込み破裂させるというものだ。
この魔法は魔力効率が非常によく、簡単に人を殺すことができる秘技中の秘技。
魔法陣と生贄、儀式が必要なところ以外は欠点らしい欠点もない。素晴らしい魔法だ。
しかし、いかに魔力効率が良いとはいえ、流石に数百人、数千人にまで膨れてくると私一人の魔力ではどうしょうもない。
なので、魔法陣への魔力の供給は彼らに任せていた。
私は行使するのみ。
完璧な作戦だった。
更にここアルトランド王国の王都は天然の要塞でありその地下に作られたこの部屋は鉄壁の守りを誇る。その存在も、王とその側近しか知らされておらず、まさにこの魔法を安全な所から行使するにはうってつけだった。
それがどうだ。
今、この部屋には五十三名の魔法使いが いたが、六名が泡を吹いて倒れ、十五名が発狂。十数名が死亡、八名は麻痺か何かで攻撃を受けたのか倒れたままピクリとも動かない。
更に部屋中に無数の血痕と人であったものが散乱している。
「誰か!この状況を説明できるものは居ないのか!」
叫んでみても誰も返事をしない。
当然だ。ここにいるものは皆喋れる状況ではない。
「くそ!一体何が起きたというのだ!」
この惨状で、床と一緒に魔法陣も抉れてしまい、今までのような効果も見込めない。
ん?なんだ?
死体の影で何かが動いた。
それは獅子の子供のような、いや。もっと小さい。
姿は獅子の子供だが、黒く禍々しい魔力を帯びている。
まさか、この惨状はこいつが作ったのか?
考えていた私に、ソレが飛びかかってきた。
クソ!
間一髪、避けることはできたように思えたが、甘かった。
私の左耳が奴の斬撃により吹き飛んだ。
「ぐおおぉぉぉぉぉ!」
強烈な痛みに目が冴えた。
先ほど飲んだワインが戻ってきそうだ。
くそっ!
なんだってこんな強力な魔物が王都の地下に!
「くそが!くらえ!大地よ!我が求めに答えよ!グランドランス!」
大地から石のレンガを突き破り立ち上がる石の槍。
それが天へ向けて放たれる。
私の得意魔法、グランドランス。
足元から放たれるそれは、避けようとも追尾し、獲物を死ぬまで追い詰めるのだ!
「はははっ!この魔法からは逃げられまい!」
今のうちにポーションを……。
なんだ……?
おかしい。
一度、天に上った石の槍達は、未だに獲物を追い続けている。
それはいい。
だが、どういうことだ?
なぜ、石の槍はいまだに発動地点へ向かい続けている?
……まさか、避け続けているのか?
あの石の槍の嵐の中を?
そんな馬鹿な!
私の実力は冒険者でいうところの災害級はあると自負している。
魔力量だけなら、災害級の中でもトップレベルだろう。
それに、私にはあの魔法がある。
災害級の連中に後れを取るものではないはずだ。
その私の魔法。その私の魔法がこうもあっさりと避けられているだと?
ありえない!ありえない、ありえない、ありえない、ありえない!
「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
私は、私の持つ最大の魔法を使用する。
「炎よ!火の神アダナよ!我が魔力を贄として顕現せよ!爆炎よ!地を割り、天を焦がせ!豪炎よ!我が敵を灰燼とせよ!その力をもって、この地を破壊せよ!ディオ・エクスプロージョン!」
瞬間、私が設定した地点を中心に大爆発が起こる。
ここは密室。
その範囲と威力ゆえ、私をも巻き込んでしまうが、私には神力の護符がある。
私の魔法からは、私は守られる。
ざまぁみろ!この怪物め!
「はぁ、はぁ」
なんとか奴をしとめることができた。
「どうされました!?ヤクト殿!?」
バタバタと数人の兵士が入ってくる。
無能どもが!今まで何をしていやがった!
そう叫びたくなるのを抑え、私は兵士に命を出す。
「要塞都市ジュバインに係留している兵を直ちに西に向かわせろ!国境を警備している兵もだ!ウェッチェリアやマリーアンズの私兵どもも北に向かわせろ!一か月の後、侵攻を開始せよとな!」
「し、しかし……王の命を待たなくてもよろしいので?」
「馬鹿か貴様!この惨状を見て見ろ!これは奴らが送り込んできた魔物によるものだぞ!」
「まさか。しかし、王都にそんなものを送り込めるわけが……」
「私の子飼いの魔法使い五十人以上がやられた!現状を見ろ!私は王にご報告してくる!」
「はっ!」
くそ!たった一匹の魔物にここまでいいようにやられるとは。
誤算だ!
しかも魔法陣まで崩されてしまった。
暫くはハッタリで何とかするしかないか。
今のうちに、ドリス皇国を落とさなくては。
遅くなって申し訳ありません。
当然ですが、王都地下に現れた魔物は多夢和ではありません。
魔力だまりによって発生した魔物です。
気づいたら100話を超えていました。
これも読んでいただいている皆様のおかげかと思います。
更新速度の遅い小説ではありますが、更新は続けていこうと思っていますので、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。