6-11.自然発生と剣の代償
唐突だが。
この世界で魔物が産まれるのはいくつか種類がある。
以前、アドマがシャルロッテさんの授業で言っていたように生殖による増殖というのが一般的ではあるが、実はほかにもあるらしい。
らしい、というのはハグレオンから聞いたことだから。
曰く、生殖による増加は4種類。
同種による通常生殖。
異種による交配生殖。
異種の身体を使った寄生生殖。
自分の身体を分離させる分裂生殖。
以上が人間に知られている生殖方法。
このほかに、実は別の増殖方法がある。
1つは、魔石や研究による生成。
これは人間が作ったゴーレムや、剣や宝箱などを魔物化したものだ。
その技術自体が1000年ほど前に失われているため、今の人間は魔物の発生とは認識していないようだ。
今はわずかに、ダンジョンや遺跡、各地を放浪しているゴーレムなどが見られるにとどまっているため、研究も進んでいない。
次に、経験・環境・突然変異による進化および変化。
研究理論自体はあるが、証明できたものがいないため、これもまた人間の世界では魔物の発生とは認識されていない。
しかし、より魔物に近い体を持つドラゴンや、高度な人間と変わらない思考を持つに至った魔物の中では常識的な話らしい。
最後に、魔力だまりからの発生。
これはちょっと複雑で、当然、人間には研究されていないのだが、ある特定の環境下で自然に、どこからともなく発生する魔物だ。
その特定の環境とは、高濃度の魔力が常に同じ場所にとどまっていること。
これをドラゴンの世界では魔力だまりといい、新しい魔物が産まれる条件の一つらしい。
で、この魔力だまりにはある特性がある。
それは、元になった魔力の特性を受け継ぐというものだ。
うん。何を言ってるかよくわからないのは俺がよくわかってる。
まぁ、簡単に言うと、例えばドラゴンならドラゴンに似た魔物がよく出てくるという事だ。
完全に無から発生するものもいれば、既存の生物が魔物化するものもいるらしい。
例えば、ワイバーンと呼ばれる両手が羽になった竜によく似た魔物。または、ロックリザードと呼ばれる、イモリをでっかくしてゴツくしたような魔物や、所謂、恐竜のラプトルの様な姿をした魔物。
例のテールハンマーヘッジホッグも含まれるらしい。
このなかではロックリザードが既存の生物からの進化、他が無から発生した魔物らしい。
この魔力だまりが発生しやすいのは洞窟や遺跡など、普段、人や動物の進入がなく、通気が悪く魔力の滞りやすい、所謂ダンジョンという場所。
まぁ、ダンジョンにもいろいろあるらしいが、今は割愛。
ちなみに、バロンやノブナガみたいなアンデッドは、この中では1つ目の魔石による生成に当てはまるらしいが、通常発生の所謂、ゲームやなんかで大量に発生するアンデッドは魔力だまりからの発生に当てはまるらしい。
まぁ、つまりどういうことかというと。
激怒したトラキスの超高密度の魔力により、皇都は今そんな魔物だらけと言うことなんだが。
「いやー。大変だったわね」
「いや、姫さん。そんな「いい汗かいた」的な状況じゃなかったと思うが」
魔物の数、およそ60頭。
ほぼすべて、恐竜のような見た目の魔物だった。
内、ラプトルのような見た目の魔物は32匹。これは皇国の兵士たちが捕獲した。
見た目に反して、思ったより大人しかった。
「この魔物、騎乗として利用できませんかね?」
とはグレイの言。
今は兵士たちが、元々馬の居た今は使っていない厩舎に運んでいる最中だ。
どうも、新種の魔物らしく、餌や飼い方などを研究するそうだ。
そして、残りの魔物たちは冒険者たちが倒したり捕獲したりした。
特に暴れたのはロックリザード達。約8匹。
彼らは石のような硬い鱗を持つよく知られた魔物で体長は2mほど。そこまで強いという魔物ではない。
ただ、岩に擬態するという性質上、洞窟や森の中で出会うと厄介なことこの上ないのだが……、残念ながらここは街の中。
まぁ、擬態も何もない。
1匹だけ、牧場エリアにいて時間がかかったようだが、それも難なくクリア。
残念ながら、彼らは獰猛な魔物らしいので討伐対象となった。
ちなみに残りの魔物はロックリザードより小さいトカゲ型の魔物が7匹。
小さなワイバーン……、前足が羽根になっているドラゴンのような見た目で細い尻尾が特徴的な魔物が13匹程度。
こちらも残念ながら全頭討伐となった。
なお、この戦闘で俺の出番は全くなかった。
部屋すら出ていない。
というか、出る暇がなかった。
あっという間に倒されちゃったからな。
余談だが、今回はロレンツォが頑張っていた。
これでもかと。
いやぁ、スノウウルフって強いんだな。
なんか、もう飼われてる犬くらいのイメージしかなかったんだけど。
飼われていても魔物は魔物か。
ここまでがトラキスが我を忘れて暴走してから2時間の出来事。
「誠にすみませんでしたーーー!」
トラキスが俺の足元、もとい目の前で土下座していた。
まぁ、魔力を暴走させて今回の事態を招いたわけだから気持ちはわからなくはない。
が、それをするのは俺ではなくてシャルロッテさんとか女王とかだろ。と思わなくはないが。
うーん。どうしたものかな。
何か言わないと土下座を解いてくれそうにないのだが。
なんて言っても今は外だからしゃべれない。
せめて部屋の中でやってくれたら翻訳機能が使えたのだが。
「あの、トラキス殿、アレクも困っているようですし、その辺りで……」
「いえ!是非ともこのままで!」
意思は固い。
ちなみに、皇国内では彼女たちは俺の客扱いらしく、自主的に城の仕事を手伝ってくれているが基本的には彼女たちの意思を曲げられるものはいない。
なにせ、ここの人々にとっては、俺>皇族>貴族>平民なのだ。
俺からしたらペット扱いなら、皇族>貴族>平民>俺だと思うのだが。
しかし、このままではまずいよなぁ……。
「あの、お忙しいところすみません。そろそろ、クランク様をどうするかにも目を向けたほうが……」
その場にいる全員が凍りついたような表情になる。
発言したのはグレイだ。
「またお前は、そんな恐れ知らずな……」
俺もそう思う。
が、今はナイス!!
俺はニャーンと一鳴きして、クランクの方へ向かった。
「あぁ!主様!」
「トラキスさん、アレクは気まぐれですから。それにこのくらいのこと、きっと許してくれますよ。今は向こうに行きましょう」
「うぅ。はい……」
後ろからなにやら会話が聞こえるが。
猫に何を求めているのか。この子達は。
現場に向かうと、気絶したままのクランクがそこにいた。
縛られてもおらず、弟であるヘンリーに介抱されていた。
ただし、気絶したままの状態で。
「あ、姫様。ほら、にいさん!姫様がいらっしゃいましたよ!弁明を!」
ヘンリーが頬を叩く。
「うぅん。レディ・マイソルデ。もう少し寝かせてくれ」
クランクが子供のように駄々をこねる。
「寝ぼけてないで起きてください!!ていうか、気絶じゃなくて寝てたんですか!図太いですね!」
ヘンリーがガクガクと揺らす。
それで彼は起きたようだ。
「はっ!?ここは!」
「やっと起きましたか。マイソルデとは円満なようですね」
クスクスと笑いながらシャルロッテさんが言う。その声はどこか嬉しそうだ。
「さて、弁明を聞きましょう。この度の襲撃、一体誰の指示ですか?」
「む……。そうか、私は負けたのか」
「えぇ。あなた達は壊滅しました。よってあなた方の身柄は私が引き受けます。異論はありませんか?」
「ありませんな」
「では、弁明を聞きましょう」
「……」
シャルロッテさんが発言を促すが、クランクは黙ったままだ。
「にいさん!」
クランクがちらりとヘンリーの方を見て目を細める。
ん?なんだ?
敵を見る目じゃない。それに、なんだ?
変な魔力を感じる。
クランクの身体の胸の中央部分、よりも少し左側。
渦を巻くような魔力を感じる。
これは、心臓の位置?
「あなたたちは、ドミニオ公爵のように洗脳でもされているのですか?それとも、この戦はあなた方の意思なのですか?」
「洗脳?そうか、彼らは洗脳されていたのか。そういう事だったのか。しかし、これで役目は果せた」
「にいさん?」
「姫殿下、……ぐっ」
クランクはシャルロッテさんをまっすぐ見て呼びかけた。
ん?ヤバいぞあれは。
魔力が動き始めた。
心臓のあたりで渦を巻き始めた。
「クランク!?どうしたのです?」
「どうか、我らの臣民の保護を」
なんだ?何を言っているんだ?
それに、魔力の渦に伸びるようにどこからか魔力が流れてきている。
「此度の件の弁明もせず、礼に失する言動の数々。どうかご容赦いただきたく」
ドンドン流れてくる魔力の量が多くなる。
これはどうすればいい?とりあえず、噛みつくか?
「わが忠誠は父にあり、我が力は、偉大なる皇国のために……ぐっ!がぁぁぁぁぁ!」
急にクランクが苦しみ始めた。
魔力も先ほどより激しく渦巻き始めた。
もう待っている暇はない。
とりあえず、俺のチートな体を信じるしかない。
俺は、その牙で魔力の流れ込む糸のような部分をめがけて駆けだした。
遅くなり申し訳ございません。
次回も遅くなりそうです。