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1  作者: Mag
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実際に話が動き出すのは次からです。

ちょっと文章量が多いですが、読んでいただけると幸いです。

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 20××/10/7 22:30

 彼女はソファからゆるい動作で起き上がった。

 高級ホテルのクラブラウンジのような部屋の中にはいくつかのソファといくつかのデスクが並んでいる。大体の家具とカーテンが濃い緑色に統一されている、落ち着いた部屋の中には彼女の他に一人ポツンと女性がいた。

 一見場違いのように見えるのは、壁に埋め込まれた大きなスクリーン。

 そして、壁に整然と立てかけられた剣と槍とモーニングスター、と円月輪のような飛び道具。


「リウナ、おはよう」

 リウナ。彼女の名前だ。

 新木理宇奈<あらたぎ りうな>。それが彼女の名前だ。

 年齢は20歳前後。肩のあたりで緩く切りそろえられたダークグレーの髪の毛と、緑の瞳に紫の光彩がアンニュイな印象を人に持たせる。

 身長は平均より高くやや細身の体、顔立ちはどちらかというと中性的で髪の毛を伸ばさなければバンドでもやっている少年のように見える。

  声をかけられると、心底つまらなさそうな表情で声の主を眺めたあと、すぐに返事を返す。

「ユイか……オペレーターはいつも早いね」

 リウナが気怠く返事をした相手はユイ。左手を左右に振りながらリウナに近づいてくる。

 ユイ。赤木結<あかぎ ゆい>。その名のごとく赤茶色の髪の毛をお団子状に結っている。

 リウナより小さい身長、女性らしい柔らかそうな体。一方で意志の強そうなはっきりした顔立ち、黄色みの強いイエローの瞳がその印象をさらに強くしていた。

「うん、すぐ連絡しないといけないしね。今日はそれにしても早かったけど」

 ユイはニコニコ笑いながら小さめのタブレットPCを壊すくらいの勢いで振る。

 その動きには彼女の小さな苛立ちが表現されているようで、リウナは押し黙ってしまった。

 ユイはリウナが起き上がったソファの向かいに置かれているアームチェアに腰かけた。そしてそのままブツブツ何かを言いながらタブレットPCをいじり倒している。

「どうせ今日もなにもないでしょ、大丈夫だって」

 リウナはユイの苛立ちをなだめるように話しかけた。

 もちろんそんなことでユイの苛立ちはもちろん収まるわけがない。無言のままユイは真っ黒だったスクリーンに砂漠のオアシスを映し出した。

「そうかもしれないけどねえ。いつ砂嵐が吹くかはわからないし」

 太陽が輝いて砂が必要以上にキラキラと輝いている砂漠のオアシスを眺めながら、ユイは心底つまらなさそうに呟いた。

 ――今日のセカイは必要以上にキラキラ輝いている。

 リウナはそう思いながら、スクリーンを黙ったまま眺めた。

 彼女たちが見ているのは世界を守る『ユメビト』のユメの中。このユメの主の『ユメの中心』はなぜか砂漠のオアシスだった。



 ーー


 この平行世界の中の人間は、自分の夢の世界を持っている。

 夢の世界、簡単に説明すると眠るとその夢の世界の中に必ず行く、というものだ。

 夢に住所があると言ったらいいのか。土地や部屋があると言ったらいいのか。


 しかし、ほとんどの人間がそれを知らず・気付かずに生きている。

 そして人類の99%以上が見る夢は当たり前のように全く意味なんてない。

 しかし、中にはそうではない人間がいる。


 ユメビト。

 このニホンでの発生率は0.001%と言われている。

 世界を守ったり、世界を壊したりする夢を見る特別な人間の総称を『ユメビト』とこのセカイでは呼ぶ。

 世界を平穏に保つユメを見る者。世界を発展させるユメを見る者。世界を幸せにするユメを見る者。世界に変革を起こすユメを見る者。世界に天啓のようなものを与えるユメを見る者。ある分野に特化して発展させるユメを見る者。

 ここまでは一般的に「良い」と呼ばれるユメビト達だ。

 一方で、世界に悪事をまき散らすユメを見る者。世界を分断させるユメを見る者。天変地異を起こすユメを見る者。戦争を起こすユメを見る者。悪い意味で革命を起こすユメを見る者。ある分野に特化させて衰退させるユメを見る者。

 悪いといわれるユメビト達のユメがある。

 また、どちらにも属さない『均衡のユメ』を見るユメビトもいたりする。

 良いユメを守るのことはもちろん、悪いユメや均衡のユメを見るユメビトを駆逐してしまっては世界の均衡が保たれない。そのためほぼ全てのユメビトのユメは基本的にある程度監視や管理をされている。


 また厄介なことに、彼らは一切ユメの記憶がない。

 自分がユメビトであるという自覚がない。さらに言うと自分のユメのセカイがどんなものなのか知覚できていない。



 その中でも彼女たちが観察しているユメビトはこの国の中でも格段に特別なユメビトであり、このユメの主は『天気の均衡のユメ』を常に見続けている。

  それ即ち、天変地異や天災を司っている。

 このユメビトのユメはかなり繊細なものだ。いつでも穏やかでは困る。

 一般的に嫌われる雨や梅雨もなければ水不足が起こる、雷や様々な気象現象はある程度の回数起こらなければいけないし、四季も必要だ。程度によるが台風や竜巻だって不要なものではない。

 ユメの中でも雨は降るし、四季は当然のごとくある。晴れていたり曇っていたり、気温の変動があったりなかったり、風が強かったり梅雨もある。台風が来たり小さな地震がきたり……普通の日常と同じことが起こっている。


 では彼女たちは何を監視しているかというと……

 ユメビトのユメだけを監視しているのではない。

 このユメビトはたまに悪いユメを見ることや、ユメの世界を壊される……というか部分的に『食べられる』ことがある。ユメビトのユメは、ユメを食べる存在からすると相当に「美味」なものらしい。


 彼らのことを『ユメクイ』と総称する。

『ユメクイ』

 ユメを食うもの。ユメビトが見ているユメを食うもの達だ。

 しかし、ユメクイがすべて悪いわけではない。悪夢を撃退することができるのも『ユメクイ』にしかできないことだし、『悪事を司るユメビトのユメを食う』と言う他にはできない芸当も彼らはできたりする。  

 このユメビトのその時必要なユメが食べられると、大変なことになる。

 しかし、悪いユメを連続して見られるともっと大変なことになる。



 では、今ユメを監視している彼女たちは何者か。

『ユメマモリ』と呼ばれる、ユメビトの見るユメを守るためにいる、特別な能力を持った人間達だ。

 彼女たちユメマモリも源流は『ユメクイ』ではないか、という説もあるがそれはここでは置いておく。

 ユメのセカイを好きに行き来できるという特権があり、しかもフリーアクセスでどこに行っても誰にも咎められない(ただし面倒くさがって誰もしない)。

 ユメマモリは実働部隊3〜5名、オペレーター1〜2名のチームで基本編成されている。


 例えばここに寝そべっているリウナ。『ユメのセカイでのコードネーム』もリウナ、と呼ばれる少女は本来生まれついてのユメビトである。

 しかし、彼女の見るユメのメンテナンスは必要がない。『ユメビト』としての価値が彼女にはないからだ。ただし、彼女はユメの中で特に変わった魔法を使える特殊能力を生まれ持っていたため『ユメマモリ』となった。

 彼女のように元来ユメビトであったユメマモリは極一部と言われている。


 もう一人、この場で人の一人でも殺しそうなほどにしかめっ面をしているユイ。突然能力が発生したユメマモリだ。

 ユメにアクセスできる能力が学生時代に発覚し、『ユメマモリになるために』学校に通いユメマモリのオペレーターとして現在ここにいる。殆どのユメマモリは彼女のようなパターンが多い。


 ユメクイ・ユメマモリともに共通していることはユメのセカイに対して覚醒しても記憶することができること、移動ができるということだ。

 ユメクイ・ユメマモリはニホンだと全人口を通して0.003%~0.005%と言われている。

 数が曖昧な理由は『ユメマモリ』は政府に登録された人数がほぼ確実に出ているが、『ユメクイ』は特定の組織に所属していない者も少なくないため数の実態をつかめてはいない。

 もちろん、ユメマモリでもユメマモリとしての能力を一切表に出さないでいる人間もいるであろうから、ことさらに数の実態がつかみづらいのが実情だ。

 ユメマモリもユメクイも突然発生する能力のため、義務教育で習うこととなっている。もちろんユメビトのことも一部は義務教育で習うが……。


 ーー


 そしてここはリウナのユメのセカイ。

 リウナの心の中のようなものだ。

 リウナのユメのセカイは、監視中のユメビトチームの本拠地となっている。


「リウナ。ユイさん。こんばんは。遅くなってごめん」

 低い男の声がリウナのユメのセカイに響いた。

 リウナもユイも声の方角に顔すら向けない。いつも集まることが習慣になっているせいか、こんなおざなりの対応になるのは当たり前なのかもしれない。

 彼の名前はショウ。深い青の髪の毛の色に赤い瞳が印象的な青年だ。

 桐生翔<きりゅう しょう>、リウナのチームの中では唯一の男メンバーであり、彼は生まれついて生粋のユメマモリである。実はこれはなかなか珍しいことなのだが、本人は全くそんなことを気にも留めていない。


 リウナの座っているソファの隣に腰かけたショウは、二人の表情を見た後に部屋を見渡した。

「あれ? 一人足りない。フウカは?」

 人懐っこくリウナとユイに笑いかけて彼は問う。

 リウナは首を左右に振ってソファから立ち上がってスクリーンの前までゆっくり移動した。

「フウカだもん。どうせいつもの宵っ張りじゃない? ところでさ、ショウ。

 私たちが命を懸けて守ってる『ユメビト』サマの『旬』は今日家に帰ってきてるの?」

 リウナはギラギラ輝いた砂漠の砂と湖を指差しながらショウに聞いた。

 その声と表情と動きには薄い怒りと呆れとこれから起こる面倒なことを想定して、とにかく複雑なものとなっている。

「いーや、帰ってないよ。どっかで女と一緒に寝てるんじゃないかな……その相手が嫌なユメクイとかじゃないといいけど」

 ショウは心底あきれた様子で床に投げ捨てるように言葉を吐いた。

 桐生 旬<きりゅう しゅん>、彼がこの夢の主であり、リウナ達にとって『守るべきユメビト』だ。

 ショウにとって旬は実の兄であり、生まれてこのかた旬のユメを守ってきた凄腕のユメマモリだったりする。

「あー、だからこんなにキラキラしてんのね……なんつーか。単純な奴」

 ユイも割と面倒くさそうに言葉を床に投げ捨てた。

 三人の雰囲気が重たく淀んだ。

「まあ仕方ないよね……とりあえず体力の温存をしましょう。今晩荒れないことだけを祈って」

 リウナがその空気を切るように話題を切り替えた。 

 その途端、ショウとユイは大きく頷いてその場で急にだらけだした。

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