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狼は春を唄う  作者: ほたる
砂敷村(さじきむら)
31/32

4


再び扉が叩かれた。


今度は誰だと泉桜は火照った頬をそのままに扉を開けた。


「はーいどなたでしょうかー」


「いや、十和だけど……」


声を裏返らせて出てきた泉桜に異変を察知した十和は、割と本気で心配そうな顔をしていた。


動揺を隠そうとする余り、動作がおかしくなってしまったと泉桜は打ちひしがれた。


「いえ、はい。こんにちは、十和くん」


どうしたの、と問われ十和は部屋を見回した。


目礼した佑真に、十和も軽く頷いてみせる。


「聞いたぞ。大変だったな」


上がってもいいかと聞かれて、泉桜は体をずらした。


「まずは謝りたい。申し訳なかった」


座って早々、床に手をついて頭を下げた十和に、泉桜は慌てた。


「え?やだ、辞めてちょうだい」


「もう少しきちんと見回っていれば、こんな嫌がらせは防げた筈だ。これは自警団の手落だ」


すまなかった、と十和は泉桜だけでなく佑真にも謝っているようだった。


泉桜はきっぱりとこれを否定した。


「人の悪意を未然に防ぐのは難しいことよ。自警団の人達はいつも頑張ってくれてるわ」


「そう言ってもらえると助かる」


十和はようやく顔を上げた。そして苦々しく眉間に皺をよせると、佑真を見た。


「自警団はお前がやったとは思っていないよ」


疑う声も確かにあるが、殆どは他の誰かの仕業と考えているらしい。


昨日佑真は泉桜と共にこの村を離れていたのだ。どんな技を使っても泉桜の家の前に鳥の死骸を落とすのは不可能だろう。


「他にも同じ考えの村人は多いと思う。源爺もそう言ってた」


「源さん?」


「ああ。他の村人にも話してたよ」


泉桜は申し訳なさと有り難さで項垂れた。


ひとまず源がそのように話してくれているのなら安心だ。村人達全員が佑真を追い出しにかかることもないだろう。


「ただ漠然と疑念が広がっているのは確かだ。佑真がいるからこのような不吉なことが起きたのではと考えている奴は少なくない」


根拠はないが1番理由付けをしやすいからだろうと泉桜は推測した。


「佑真くんがいるからこんなことになった。だから追い出したら安全って考えてた方が楽だものね」


「そういうこった」


どうする、と十和に聞かれて、泉桜は澱みなく言い切った。


「探すわよ、こんなくだらないことをした人を」


「お前ならそう言うと思ったよ」


やれやれと十和は首を振った。


「出来るのか、そんなこと」


身を乗り出した佑真に、十和は難しい顔をした。


「凶器がどっかに捨てられてれば別だけどなぁ」


しかしそんなことはしないだろう。恐らくは綺麗に血を洗って、今も平然と家に置いているのではないか。


護身用にナイフなどの刃物を持っている村人は沢山いるし、包丁ならば調理に使う為どの家庭にも必ずある。


うんうんと頭を悩ませる目の前の2人を見て、佑真は軍にいた頃にいたある人物のことを思い出していた。


狂った奴だった。


同じ少年兵でもあそこまで暴力を、恐怖を、殺害を好んだ人はいなかった。


そいつは戦況が停滞して交戦が少なくなると、退屈凌ぎに動物を殺していた。それを誰かの荷物の中や枕元に置いて驚かせるを殊の外楽しんでいた。


「他にも同じようにばらばらにされた死骸があるのではないか」


佑真の言葉に2人が顔を上げた。


「どういうことだ」


「これは娯楽だから」


「……娯楽って!」


信じられないと泉桜は口元を覆った。


「娯楽はクセになるからな」


酒やタバコとと同じように。


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