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「貴方がこの村の為に色々なことを学び村人達を救っていた頃、俺は如何に効率的に破壊工作をして、多くの敵兵を殺せるかばかり考えていた」
そしてそれを実行に移していたのだ。
「俺は貴方が作り上げてきたものも、きっと壊してしまうよ」
「……」
口を開きかけたまま、泉桜は固まっていた。悲しそうに眉尻を下げ、何かを訴えかけてくる淡茶の瞳に胸が痛む。
佑真はふと懐かしむような気持ちになって、泉桜の頬に触れた。
不思議だ変だとばかり思っていたが、それは椿に対しても常々思っていたことだった。
何故今まで思い至らなかったのだろう。
「貴方は椿にとても似ている」
顔とか体つきはまるで違うが、同じものが通っているのだ。
だからここではーー彼女の傍ではいつもより気を緩めて生活出来た。
彼女は椿が生きられたかもしれない、もう1つの人生の住人だ。
ならば、望むことはただこれだけ。
「どうか平凡に……」
そこで佑真は言葉が詰まった。
平凡では物足りない。その平凡は椿にとってーー今目の前にいる彼女にとってどんなものであって欲しいか。
佑真は頭をフル回転させて、ようやく絞り出した。
「幸せになって欲しいのだ、泉桜」
いつも村人達に囲まれて楽しそうに笑っていた彼女は、自分さえいなければ今も変わらぬ生活を送っていただろう。
このように嫌がらせを受け、信頼関係を築いていた村人達と言い争うこともなかった筈だ。
佑真は穏やかな心持ちで泉桜を見つめた。
俯く泉桜の顔は髪に隠れて見えない。
この先村を出てどうなるかは分からないが、この少女が何処かで幸せに暮らしているのだと思えば、それだけで安らかな気持ちになれる気がした。
それじゃあ、と立ち上がりかけた佑真は、信じられない程強い力で床に引き戻された。
「言いたいことはそれだけ?」
両手で服の袖を掴んだ泉桜の方から、押し殺したような低い声がした。体からゆらゆらと何かが立ち昇っている。
怒りだ、と気づいた時には泉桜は泣きながらこちらを睨みつけていた。
「こんな時に何よっ!こんな時に限って、初めて名前呼んで、そんなこと言って!」
そんなん反側やろ、と聞き慣れない訛りで泉桜は吐き捨てた。
どすん、と拳を佑真の胸に叩きつける。体は痛くも痒くもなかったが、胸の奥の深いところを貫かれた気がした。
「泉桜……」
「言っておきますけど、私佑真くんに怒ってる訳ではないから」
こんな幼稚なことをする誰かさんに怒っているのよ、と泉桜は乱暴に目元を擦った。
「探すわよ」
「は?」
「こんなことした犯人を探すのよ!どうしてこんなことしたのか聞き出して、叱ってやる!」
髪が逆立っているように見えるのは、目の錯覚ではないだろう。
目をぱちくりさせて間抜けな顔の佑真を、泉桜は苛立たし気に見上げた。
「貴方もね、こんなことで出て行くとか言わないの!もし動機が貴方に全く関係ないことだったらどうするのよ!」
「はい。ごめんなさい」
反射的に謝ると、泉桜は呆れたように溜息をついた。そしてよそよそしく目を逸らすと、ぼそぼそと言い訳がましくのたまった。
「もしここで佑真くんが出て行ったら私はそれこそ気に病んで、幸せになんかなれないわよ」
「そうか?」
そういうものか、と覗き込んでくる佑真に耐えきれなくなって泉桜は背を向けた。
誤魔化すようにつんと取り澄ました表情で、
「だからここにいなさいよね」
「……わかった……」
泉桜の勢いに負けて、佑真は渋々納得したようだった。
泉桜はほっとしてとろりと笑ったが、咳払いをすると、顔を引き締めた。
幸せになって欲しい、なんて。
あんな優しい顔で言われたらどきどきする。
耳が熱い。脈打つ音がうるさい。
背中に佑真の視線を感じながら、泉桜は暫く後ろを振り向けなかった。




