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狼は春を唄う  作者: ほたる
砂敷村(さじきむら)
28/32

4


「何なんだ、あいつ」


「思うところはあるのだろうが、ちょっと異様だったな」


残された男達は文句を言いながら、どこかおかしいぞと不思議がっていた。


込山は元来他人に対してあのような態度をとるような男ではなかった。むしろ気の弱い方で、だからこそ安心だと村人達からも一目置かれていたのだ。それが何故……。


いや、思い至ることがない訳ではない。


泉桜は苦々しい思いで、今はもう見えない込山の後ろ姿を頭に浮かべた。


しかし、だからと言って許してはならない物事はある。


「皆!」


泉桜の呼び掛けに話し込んでいた男達が姿勢を正す。


泉桜は眉尻を下げ、申し訳なさそうに言った。


「こんな遅くまでありがとうございました。今日はもう帰ってくださいな」


「しかし……」


佑真の方を見た自警団の男は、心配そうに泉桜を見下ろした。


「大丈夫ですよ」


安心させようと笑って見せた泉桜に、男達はようやく動き始めた。


「それならば」


「何かあればすぐに呼んでください」


「ありがとうございます。お疲れ様です」


泉桜は男達の姿が完全に見えなくなるまで見送った。


さてと、と佑真を振り返る。


夜空と同じ色のがらんどうの瞳が、ばらばらになった小鳥を無感動に映していた。


経験上、こういった悪戯は徐々にエスカレートしていくものだと佑真は知っている。今日は小鳥で済んだが、次はもっと大きな生き物を捨てていくかもしれない。場合によっては対象が人となり得る。


「犯人の目星はついているのか」


その問いかけに泉桜は力なく首を振った。


「分からない」


「そうか」


何か少しでも分かることがあれば、と佑真は死骸に手を伸ばした。


「だめ!」


その手を慌てて泉桜が止めた。迷惑そうに振り返った佑真に、しかし泉桜は譲らなかった。


「野鳥なんてどんな病気持ってるか分からないのよ。絶対触っちゃだめ!」


「……」


確かにそれもそうだと、佑真は手から力を抜いた。泉桜も手を離すと、佑真の隣に座った。


検分が出来ないならばもう用はないと立ち上がろうとした時、ふと小さな声が聞こえた。


「かわいそうに」


泉桜は悲しそうに小さな亡骸を見下ろしていた。


「こんなことの為に殺してしまうなんて」


ごめんね。でも、どうか許してあげて。


こんな目に遭ってしまった小鳥も、こんなことをしてしまった誰かの心も救われますように。


それから2人は地面に穴を掘って小鳥を埋めた。


腐ればやがて土に還るものをわざわざ弔う意味が佑真には分からなかった。と同時に、大勢の遺体と共に燃やされ、最期には誰のものとも分からない骨のかけらとなってしまった椿を思い出して、心臓を掴まれたような気分になった。


たかが小鳥の墓はあるのにーー。


泉桜は少しだけ多めに土を盛り、近くにあった丸い石を置いた。


「これで良し。手伝ってくれてありがとう」


「いや」


何てことないように、佑真は首を振った。


「死体の処理ならよくやった。焼却も検分も。慣れてるから」


相変わらず無感動に墓を見下ろす佑真を、泉桜は覗き込んだ。


「それってとても辛いことだと思うわ」


「そうか?」


「私だったらとても耐えられない」


よっこらせ、と泉桜は立ち上がり、大きく伸びをした。


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