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旧街道から新街道へ出ると、景色は一気に変わった。
木々は殆どなく、どこまでも荒野が続いていた。旧街道と違いきちんと整備され、踏み固められた道が遠くまで見渡せた。
道の脇に立っている木の小屋では、飲み物や食べ物を売っている。籠を背負って歩く者や、荷車を引く行商人風情の人もいた。活気がある、とまではいかないが、生活臭が色濃く出ていた。
ぽつりぽつりと立っている痩せ細った木だけが森の名残を伝えている。
「随分と様子が違うでしょう」
帽子を風に飛ばされないように抑えながら泉桜は言った。
民間人の暮らす街をあまり見たことがなかった佑真は、ひたすら衝撃を受けていた。
のんびり歩く姿はまるで戦を知らないかのよう。物売りの声が高らかに響いている。青い空が漠然と広がっていた。
怖い、と佑真は思った。息が苦しくなるような焦燥感すら覚える。
こんな場所にのうのうといれば、戦場では格好の的にされてしまう。
それを裏付けるように、街道沿いには防空壕が残っていた。コンクリートの入り口が地面から顔を出している。そこだけ暗くて不吉な影を落としていた。
整備されているとばかり見えた道は、よく見れば爆撃や銃撃の跡が残っていた。
ここがどれ程に危険な場所かは、佑真にはすぐにわかった。しかし街道を行く人はそれらが全く見えないかのように歩き去っていく。
軍服姿の佑真は、1人だけ異質だった。この街道の中で彼の存在だけがモノクロで、時間が止まってしまっているようだった。
佑真は軍帽を深く被り直し、街道の端をひっそりと歩いた。泉桜は黙って佑真の隣を歩いていた。
* *
遠慮がちに泉桜が佑真の袖を引いた。
そこは街道の中でもより濃く影が落ちた場所だった。
爆撃の痕跡が地面を大きく抉っている。
固く閉ざされた防空壕の入り口が、凄惨な過去の出来事に口を噤んでいるように見えた。
上半分がへし折れた、太い木の幹には銃撃の跡が残っていた。
幹に触れ、銃創を観察した佑真は、
「機銃掃射の跡……?」
と誰にともなく問いかけた。
「そうよ」
よく分かったわね、と泉桜は言う。
壕の前に膝をついた泉桜は、途中で摘んでいた花を供えた。
よく見れば壕にも掃射の跡があった。
「もう3ヶ月くらい前になる」
この場所は敵兵の爆撃機に襲われた。
街道は度々攻撃の標的にされていたが、そこまでの被害を受けたのは稀なことだった。
「私は羽多子に行く途中でね」
爆弾は泉桜のいた場所より、少し先に落ちた。最初は何が起きたのか全く理解できなかった。振り向き様に見た爆撃機のことは今でもよく覚えている。操縦していた男の顔も、その人が狂ったように笑っていたことも、恐らく一生忘れられない。
驚愕したまま固まってしまった泉桜の手を、付き添いだった自警団の男が引いた。
泉桜達が壕に飛び込んだと同時に、内側から扉が閉められた。具合が悪くなりそうな人いきれと、暗闇の中で泉桜はひたすらに耳を塞いでいた。
ーー本当は聞こえていた。
逃げ遅れた人の悲鳴も、嘆きも。何かが破壊されていく音も、轟音も。
心の中で何度も謝りながら耳を閉ざすことしか出来なかったのは、どうしようもないことだったのかもしれない。
でも。
「私がもっと冷静に、もっと知恵を絞っていれば、助かった人が沢山いたかもしれない」
焼けつくような後悔が今もまだ渦巻いている。
壕から出て、焼死体や誰かの1部だったものを見た時はショックの余り頭が真っ白になった。




