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狼は春を唄う  作者: ほたる
砂敷村(さじきむら)
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1


2150年、9月。


110年続いた世界大戦が終結したと、形ばかりの政府から各地に伝えられてから1ヶ月が経とうとしていた。


雲一つない、晴れた日だった。


夏の頃を思い出したかのように、太陽が燃え盛っていた。その熱にじりじりと焼かれて、空も青く燃えていた。


山の向こうからトンビが飛んできて、村の中心の畑の上を周回している。鳴き声が高く高くこだました。


農作業をしていた村人の1人が首にかけた手拭いで額の汗を拭った。体を涼しい風が撫でていく。


もうすぐ秋なのだ。即ち、収穫の時期だ。


見渡せば弾けんばかりによく成長した野菜達が、畑を彩っていた。畑の向こうの田んぼでは、稲が青から黄金へと色を変えようとしていた。


今年は本当によく実った。もうひと頑張りだ、と村人は鍬を構えた。


村の中心から山側へと続く道を真っ直ぐ行くといつしか緑は姿を消し、その分木や岩で作られた民家が立ち並ぶ区域へ行き着く。整備され踏み固められた土の道は、荷車がすれ違える程度の広さだ。


そこを更に抜けると今度は家の代わりに、木が多くなってくる。老婆の手のような枝を伸ばす古木はどれも葉をつけず、ただじっとそこにあった。その古木達の間に、誰が埋めたのか小さな若木が腰掛けている。それらは黄緑色のささやかな葉をつけて時々吹き付ける砂混じりの風に、弱々しく揺れていた。


やがて民家も途絶え、完全に山の中へ入るかと思われる頃、一軒の家が見えてきた。


こちらも木で作られた簡素な家ではあったが、他の家と比べると少し大きく見える。


格子窓のついた木の扉の前にまだ年若い男が立っていた。


右手に槍を持ち、硬い表情で前を見据えていた。彼はこの村の自警団の1人だった。ちらりと格子窓から中を覗くと、村中の人々の悩みの種となっている客人の姿があった。


薄暗い部屋の中にはうっすらと日の光が差し込んでいた。もともと山は村の北側に位置している為、その麓にあるこの家も日当たりは良くない。


玄関には靴紐のついた小さなブーツと客人の汚れた大きな軍用靴が並んでいた。ブーツと言ってもヒールがある訳ではなく、動きやすいように頑丈な生地で作られたスニーカーのようなものであった。足首を優に覆うような長さがあるのは、危険な毒虫や毒蛇などから身を守る為である。軍用靴も同じようなものだったが、こちらは戦場で使うことを主とした為に少し特殊な生地で作られていた。隣の小さなブーツと比べると表面がつるりとしている。


部屋の中心には火を焚くための囲炉裏があった。灰の上に燃えた跡のある黒い木の枝が折り重なっていた。囲炉裏のそばには使い古された古い鍋が伏せて置いてあった。


部屋の隅には折り畳んだ状態の布団が、壁には家主の帽子やケープコートなどが吊るされていた。こちらも小ぶりで明るい色のものが多い。


その、家主の物が置かれている場所とは反対側の囲炉裏端に、客人は寝かされていた。


なるべく質の良い布を寄せ集めて作った敷布団と掛け布団代わりの半纏を被せられて、眠っている。



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