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塔の上の錬金術師と光の娘   作者: 雪白楽
第3章―真実の書― 学院都市篇
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04 見送る背中 ⑲


「最初は理論だけですし、危険なものを作るつもりもないので……ただ、マスター・フィニアスの部屋で魔力を使い過ぎると何があるか分からないらしいので、この部屋で実験とか色々させて貰えたらと思って」


 私とシエロが普段の生活をしたり、魔導書を読んだり簡単な魔法を使うくらいなら問題ないけれど、想像もしないような場所にポンと用途の分からない呪具が置いてあったり、大量の魔道具のせいで魔力の流れが混沌(こんとん)としているあの部屋で、新しい魔法を試したりするのは自殺行為だってシエロは言っていた。


 私には良く分からないから首を傾げていると、シエロもシドも呆れた感じで首を横に振って、それ以上は教えてくれなかった。ただ、マスター・リカルドならそれで分かると。


 二人の言った通り、マスターは私の言葉を聞くと眉間のシワを深くして、じっとりとした視線を私に向けた。底なしの闇が、何かを探るように私を覗き込む。出会ったばかりの頃は、それが怖いと思ったこともあったけど、今はどことなく安心すら感じる。


(なんだろう……マスター・フィニアスとも、エルとも違うのに)


 ただ何を言ったら良いのか分からなくて、その目を見つめ返す。マスターの高い鼻に触れそうなくらいの距離で、じっと見据えるのがこの人の癖だ。途中でにらめっこに耐え切れなくなって瞬きすれば、マスターはハッとしたように私から顔を離して距離を取り、どうしてか観念したように目を閉じた。


「……まあ、貴様はそうだろうな」


 溜め息混じりに落とされた言葉は、相変わらず意味が分からなくて。それでも沈黙を守っていると、やがて目を開けたマスターは疲れ切ったような表情でシエロの方を向いた。


「貴様が責任を持って、コレの手綱(たづな)を握れ。それが条件だ」

「分かっていますよ」


 コレと言いながらも明示をしなかったマスターに、シエロが仏頂面(ぶっちょうづら)ながらも頷いた。大体いつも『これ』とか『それ』で話が通じている二人を見ると、ちょっとだけ羨ましい気持ちになることがあるけど、これでお互い苦手意識があるんだから不思議だと思う。


 マスターは浅く頷きを返すと、シドの方に視線を向けた。シドはいつも休憩時間を一緒に過ごす相手だったから、こんな風に研究室の中でマスターと向き合っている姿を見るのは新鮮な光景である気がした。


「マスター・ウルザスは、この件を承知しているのか」

「事後承諾、と言うことに。どのみち口は出せないでしょう」


 淡々と応えるシドの横顔に、少しだけ私の知らない雰囲気が滲む。マスター・ウルザスって、シドの師匠だったっけと思いつつも、彼がこの学院都市で何をしているのかあまり良く知らないことに気付く。


(そんなこと、言ったら……シエロのことだって、良く知らない)


 気付けば、知らないことだらけだ。二人と時間を過ごすほどに、知らないことが増えていく気がする。それでも私達は同じ場所にいて、同じ時間を過ごして、今度は研究まで一緒にやろうとしてる。不思議なことだけど、凄くいま心の底からワクワクしていた。


 この三人なら、きっと楽しいことが出来る。これは回り道なのかもしれないけど、絶対に後悔しない自信があった。やりたいこと、作りたいものが頭の中にあふれて止まらない。二人と話したいことが、沢山あるから。


 期待をこめてマスターを見上げていると、彼は忌々(いまいま)()に舌打ちを落とした。


「……好きにしろ。念のため学院長には確認を取っておくが、あの男は嬉々として許可を出すだろう。私は寝る、用があれば起こせ」

「ありがとうございます!」


 黒衣を(ひるがえ)し、寝室へと去って行くマスターの姿に、一刻も早く寝たかったんだろうに悪いことをしたなと思う。後であったかい薬草茶を()れてあげよう、と思いながらその背中に「おやすみなさい、マスター」とだけ呟いた。


 向き直ると、気が早いことにシドは大判の獣皮紙(じゅうひし)を作業台の上に広げ始めていて、シエロは慌てて台の上で下敷きにされそうになっているメモや、細々した道具やらを救出しに走っていた。


「ちょっと、突っ立ってないで手伝えば?」


 腕の中にあれこれと抱えて振り返るシエロに「はぁい」と返して、腕まくりをする。




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