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あの日の君に  作者: 灯里えりか
7/8

容易と難解


 次の日の朝がやってきた。


 俺はシューズに履き替え教室に入り、泉とどう接しようかともやもやしながら自分の席へと着く。泉はいつも俺が席に着いてから数分後に教室へ入ってくるため、隣の席はまだ空席である。

 

 泉が来てしまう前に速攻に言葉を用意しておかなければ。


「泉、昨日は悪かった……は、普通すぎるよな」


 そんなことをぶつぶつと机を見て答える。

 

 周りから見れば変な奴だろう。


 こういう事をするから目立ってしまうという事を何度自分に言い聞かせても学習しない。


 と、そんなとき。


 ドスンッ


 隣から机に荷物を送物音がした。俺は恐る恐る机から顔を上げる。


「……」


 案の定、泉が既にそこに立っていた。


 目を動かし、泉の顔を確認する。泉の顔はいかにも不機嫌顔、いつもとは打って変わって人をひきつけさせないオーラを放っていた。


 腹立たしそうにリュックから教科書やら教材を取り出し机に入れる。そしてそのまま無言で席へと着いた。


 ―絶対昨日のこと根に持ってるよな。


 スマホをいじり始めた泉に体を向ける。


「泉」


 俺の声に気付いた泉はスマホをいじる手をやめ、こちらに目だけを向けた。


「昨日は、ごめん」


 先ほど何度も普通すぎると思った言葉をそのまま言う。昨日の記憶がある泉に、素直に謝った。


「泉は全然悪くないのに謝ったのに、俺、謝れなかった」


 俺がこんな真剣に謝らないとでも思っていたのか、泉はスマホを机に置き、あわせたくなかったであろう俺の方に体を向けた。


「そーちゃんは悪くないって」


 そう言葉が返って来た。


「でも」


「昨日言ったよね、あたし。あたしのせいでそーちゃんは目立っちゃって……振り回しちゃって……あのときも」


 泉は自分の意見を曲げようとしない。そこは全然小さいころから成長していなかった。少々自己中心的なところがあり、自分の意見は絶対に曲げようとはしない。昨日のあやめも似ているな。


 それを見かねた俺は、泉に聞こえるくらいわざと大きなため息をつく。


「お前が悪い、そう認めればいいのか?」

「改めて言われるとなると腹立つんだけど……。そう、あたしが悪いの」

「そっか……。じゃあ、そう認める」


 こうでもしなければ、泉とはケンカが長引くだけな気がする。


 だが、泉は納得がいかないといいたげな顔をする。


「なんか、納得いかないんだけど」

「なんでだ?」

「わからない」


 まあ、言葉に偽りがあるからだろうな。


「でも、いいや。これ以上話してても、らちが明かないしっ」


 俺と同じことを思っていた泉は、腕をぐっと伸ばす。そうとうケンカしていたことがもやもやしていたのであろう、解放されたような顔をしていた。


 といいつつ 俺も顔には出ていないが内心ほっとしていた。


 これで、あやめに言った通り嫌がられる顔をしなくなるからな。


「おい、北原」


 と。


 俺と泉が安心をしている中、先生が大きな段ボールを抱えて俺に声をかけてきた。


「なんですか?」

「お前、金城の家の近くだったよな?」

「そうですけど」


 嫌な予感しかしない。


 先生は俺の言葉を聞くと、嬉しそうに段ボールを机の上に置いてきた。


「この段ボール何なんですか?」

「この中には昨日までやった教材やらプリントを入っている。実は北原に金城の家まで行ってこれを置いてきてほしいんだが」


 先生は勝手に俺が承諾したかのように話を進めた。


 俺の身の回りには身勝手な話を聞かないやつが多すぎる。


「嫌だって言ったらどうします?」

「そうだな、そのときはお前のお母さんに電話して無理やり持って行かせるぞ」

「それ、世間的に見て大丈夫なんですか?」

「さあな」


 これは強制的に段ボールを持っていくしかないようだ。


 俺は助けを求めるように泉の顔を見る。

「金城って、なるみんだよね?」

「あれ、泉、お前金城と親しいのか?」


 なるみん、と親しげにあだ名で呼ぶ泉に先生は疑問になる。先生は馴れ馴れしく泉の名前を下の名前で呼んだ。


「小学校も中学校も同じで、小学校の六年生の後半まではいつも一緒だったんです」

「金城に友達がいたとは初耳だな。あいつ、入学式以来学校に来ないで不登校してるから、てっきり友達がいないのかと」


 金城すまん、と先生は乾いた笑いをする。その笑いに、俺は少々嫌気がさした。


「じゃあ、金城と友達の泉にもこの段ボールお願いしてもいいか? 北原だけじゃ不安だからな。家は分かるか?」

「何度か行ったことがあるので大丈夫です!」

「ならよし。後はよろしくな」


 泉の返事に先生は頷くと、ホームルーム始めるぞ~っと言い、教卓の前に立った。


「泉、金城の家に本当に行くのか?」

「先生に頼まれたなら行くしかなくない? なるみんと小学生以来会ってないし、どうしてるのかも気になるし」

「久しぶりすぎるから怖いんだろ! それにだな、不登校になってるってことはそれなりに理由があるからじゃないのか? そんな簡単に……」

「私は別に怖くないかな? 逆に、あたしたちが行って、明日から学校来れるようになったらあたしたち、勇者だよ!」


 これが陽キャと陰キャの差なのだろうか。


 何も考えていないようで、泉には泉なりの考えがあるのだろうか?



 だが、そう簡単にはいかないような気がする。俺は机の上の段ボールを床に置いた。

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