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あの日の君に  作者: 灯里えりか
2/8

幼なじみ



「そーちゃんおはよー!」

「ああ、おはよう……」


 学校の朝にて。

 隣の席である、泉が話しかけてくる。


「あれ、なんか、元気なくない?」


 泉は俺の顔を見るなり、困った顔で尋ねてきた。


「……別に」

「別に、じゃないでしょ! 全然元気に見えないし!」

「そう見えるか?」

「見えるから言ってるの! ったく、幼馴染舐めないでよね!」


 泉はそう言うと、ドンッ、と重たげそうな鞄を叩きながら机に置いた。

 俺―空真は泉―水原泉と幼馴染である。

 俺と泉は幼稚園の年長からの長い付き合いで、家が近く、親同士の仲がとても良い。小さい頃はよくお互いの家を行き来し合い、泉に付き合い一緒に買い物に行ったり、遊んだりした。


 だが、これは小学校六年生までの話だ。


 俺たちは小学六年生の三学期の初め頃から遊ぶ頻度が突然少なくなり、それからと言うもの距離を置くようになってしまい、現在では学校で言葉を交わす程になった。今だに距離を置くことになった原因というものは分からないが、それを察してか泉は気を使ってくれている。

そんな泉は、俺と真逆で男女ともに好感度が高く、友好関係が幅広い。誰かに聞いた話だと、県内にある他校の高校にも友達がたくさんいるんだとかなんとか。

 また、たまに耳にすることがあるのだが、多くて一日に五人に告白されたという噂もある。


 ―こんなやつのどこがいいのか。


 頼れて優しいのは明確だが、俺はつくづくそう思ってしまう。

 それに比べて俺は―。


 小学五年生までは明るい人間で、泉ほど友好関係は広くないが、男女ともに好感度が高い人間だった。

 のに、小学六年生の三学期の初め頃〝何か〟がきっかけで暗い人間になり、友好関係も上手くいかなくなってしまった。


泉との間もこの〝何か〟がきっかけである。


 その〝何か〟のせいで。


 だが、その〝何か〟とは何なのか、俺には思い出せない。わからない。


 でも、一つだけ。そう。


わかるのはその〝何か〟のせいで俺は悲しい思いをして、辛い思いをして、人に情をいれたくなくなって―。


当時の状況を思い出すだけで、今でもむしばまれていくのがわかる。


「って、おーい、そーちゃん聞いてる?」

「あ、ごめん、聞いてなかった」

「も~、今日はいつにもまして元気ないな~?」

 はぁ、と泉はため息と同時に席へ着いた。

 どうせ、面倒くさいとでも思っているのだろう。だが、そんな有無も言わずに泉は会話を続けてきた。

「で、何があったの?」

「……」


 会話を続けてきた泉に、俺は話そうかどうか悩んだ。俺が元気がない理由、それは確実に夢のせいなのだが、話したところで解決するのだろうか。


「誰にも告げ口しないから、ね? 何でも言ってよ!」


 恋愛絡みの話だとでも思っているのだろうか。


「……本当に何でもか?」

「うん! 何でも!」

「じゃあ、同じ嫌な夢を見てるって話でもか?」

「嫌な夢……?」


 泉は片言に言った。


「毎回夢に出てくる少女が毎回同じ方法で何者かに殺される夢だ」

「……」

 唖然とする泉は、俺の言葉を静かに聞く。

「少女は絶対死ぬ。何者かの鎌によって」

「……」

 俺は目を閉じないようにして、あの、赤い液を思い出さないようにする。

「ね、ねぇ、そーちゃん」

「何?」

「今日、一緒に帰ってもいい……?」

「……は?」


急な泉の発言に、俺は目を開き、泉に向かい合う。


「……今、何て言った?」

「だーかーら、今日一緒に帰ってもいい!? 同じこと二回も言わせないでよ!」

「……」


 聞き間違えではなかった。


 泉はちゃんと「今日一緒に帰ってもいい」か聞いていた。


「……何で夢の話をしていてそういう話になったんだよ?」

「そ、それはその……」


 口をパクパクと、金魚のようにする。


「と、とにかく! 一緒に帰ろう! ね!」


 一緒に帰るのを嫌そうにする俺に、子供のように駄々をこね始める。

 それにしても、急にここまで俺と一緒に帰りたいのはなぜなのか。絶対何かあるはずだ。

 俺はあまり気が乗らないものの、そういう点でも久々の幼馴染と帰るという、今までの話ができる良い機会なのでは? と施行を変えた。


「そこまで言うなら帰ってもいいが」

「え! 本当!? そーちゃん、本当に?」

「ああ」


 すると、俺の返事を聞き、泉は安堵の笑みを浮かべた。どれだけ俺と帰りたかったのか……。


「それじゃ、いつも一緒に帰る友達に断ってくる!」


 と、泉は席を立ち、風のようにこの場から去っていく。

 俺にはドタキャンされる泉の友達のことを考えると、本当に一緒に帰るのが俺でいいのかという、泉の友達が気の毒のように思えてきたのであった。



 長かった授業もついに終わり、とうとう秋冷の時間、そして帰宅の時間となってしまった。


 泉より一足先に玄関を出た俺は、スマホを片手に持ち、泉が来るのを待つ。泉は生徒会の書記を務めていることもあり、いつも帰りは遅いはずだ。

 あまり目立ちたくない俺は校門の隅の方で待つことにした。待つ間、大好きだった音楽を聞こうとスマホをポケットから取り出そうとしたそのとき、


「そーちゃん!」


 右から声がした。


 そして、スクバが突撃してきた。


 俺はその反動でポケットから取り出したスマホから手を放し、スマホは無様に地面へ落下した。


「生徒会朝のうちに断って来た! だからもう帰れる……って、そーちゃん?」


 今、俺の目線は泉ではなくスマホにある。


「え、どうかした?」

「……どうかしすぎたよ。下見ろよ下!」

「下? ―げ」


 俺の言葉通り、泉は下に視線を下す。


 突撃してきたスクバによって無様に地面へ落下したスマホが、画面が砕け、破損していた。


「え、う、嘘、ごめん!」


 泉は砕けたスマホに手を触れる。


「危ないから触れるなよ」

「で、でも……はい」

「いや、はいって破損したスマホ渡されても……。もう用なしだろ、それ」

「……だよね」


 あはは、と乾いた声を出す。


 無理だとわかっていても行動する泉の姿が、どうも気に食わない。昔も、今も。


「本当にごめん……」

「別に気にすんなよ。また新しいの買ってもらえばいいだけだから」

「で、でも」

「いいから」


 俺は行くぞ、とだけ言い、泉を置いて先に行く。


 ―スマホなんてまた新しい物を買えばいい。


 人間は一人の人間が死ねばそこで終わりだが、スマホ何ぞ同じ機種を何度だって買い直せる。違う機種だって。スマホは物であり、代わりの物なんて幾らでもある。


「じゃ、じゃあ、公園寄ってもいい?」

「は?」


 また突拍子なことを言う泉に、秒で言葉を返す。俺は立ち止まって、後ろを振り返った。


「何で公園なんだ?」

「このスマホ、死んじゃったじゃん? だから、土に返してあげたいなって……」

「……」


 俺は今、わからないことを言われ、ついに頭がイカれてしまったのかと、言葉が出なかった。


 泉の顔を穴があくまで見た。


「な、何……?」

「それ、こっちのセリフだし、お前とうとう頭イカれたのかなって」

「イカ……!? 別にイカれてないし! 礼儀として普通だし!」

「礼儀として普通ねぇ……」


 あまりイジるのもよくない。この辺でやめておこう。


 俺は泉からスマホを奪い取り、「代わりに俺が埋めとくから」と言って、埋めさせないように心がける。


「でも、壊したのはあたしなのに……」

「いいからきにするなって。お前の分まで、埋めてくるから」

「……なんか気に食わない」


 気に食わないのは俺だよ。


「まあ、そーちゃんのことだし埋めてくれるよね」


 ※埋めません。


 俺は心の中でツッコミをし、破損したスマホをポケットに入れ、再び歩き出す。泉は俺の横に来ると、俺のペースに合わせて歩いてくる。


「―そういえば」

「何?」

「お前、何で急に俺と帰ろうって言ったんだ?」


 俺の問いを聞いた泉は、よくぞ聞いてくれましたみたいな顔をしてストレートに答えてきた。


「―同じ夢を見たから」

「……同じ、夢を?」

「そう。少女が男に殺される夢」

 泉はそう言うと、少し引きつった笑顔で答えた。

「銀髪の少女が、フードを被った何者かに殺されるの」

「……」


 ―同じだった。


 俺は動揺の色を見せる。


「その夢にはそーちゃんもいるんだけどね、

『お前は、何者なんだ……?』って聞いて」

「ま、待て、その夢には俺も出てくるのか……?」

「うん。後ろ姿だけ」


 ……?


 俺は開いた口がふさがらない。


 どういうことなんだ? 俺の発言したことと言い、泉の夢とリンクしている。


「それで最近……目が、覚めるんだよね」


 泉は相談してすっきりしたのか、ぐっと腕を空高く突き上げた。

 それを横に、泉が言った言葉に俺は頭を整理できないでいた。


「これはデジャヴなのか……? それとも、俺と泉の見ている夢はリンクしてるのか……?」

「デジャヴ? リンク? よく分からないけど、そーちゃんが見てる夢と同じなのは確かだよね……?」

 同じ。



 いや、同じどころが全く一緒だ。


 だが、泉は何者かが少女について何か言ったことは言ってない。


 つまり、その前に目覚めてしまっているのだろうか?


「泉は……あの何者かが話していたのは聞いてないよな?」

「え、あの人何か話してたの!?」


 やはり、その前に目覚めているみたいだ。


「ああ。……の卵だからだって」

「卵……?」


 ぽかん、と真に受けた顔をする。


「ああ、少女を殺す理由を聞いたらそう答えた」


 泉は良くわからないという顔をする。


 俺だってよくわからない。


 卵。何の卵というんだ。


「でも、まあ」


 ふふ、と可憐に口元を緩ませる。


「同じクラスにいて、幼稚園の年長からの幼馴染なんだし、同じ夢見たっておかしくないよね!」


 本当にそうなのだろうか。


 俺はもんもんとした気持ちを抑える。


「それに、毎日見るのもただの偶然だよ、きっと! 現実で起こる訳でもないし、そーちゃん元気出そう、ね!」


「……」


 なんだろう、この気持ちは。


 何か釈然としない気持ちに取りつかれながら、お互いの家付近に着く。


「小学校以来、かな。そーちゃんと帰れて良かった」


 泉はそう言うと、じゃあね! と言い自宅へと帰っていった。


 俺はその後ろ姿に、「またな」とつぶやき程度に返して、自分も自宅へ帰った。

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