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7、悪役令嬢、公爵次男に出会う。

「おっ、ドロシー嬢ではありませんか」



 その声を聞き、誰だろう、と思い振り向くと、そこにいたのはスパロウ公爵の次男坊ノアだった。


「あら、ごきげんようノア殿」とドロシーは挨拶すると、また元の雑貨あさりに戻る。


 ここは例のローエングラム市場で、しかも夜の八時だった。そんな時間に出歩いているドロシーのことがよほど不思議だったのか、ノアはドロシーの体を上から下までじっくり観察しているようだった。



「何かわたくしに御用かしら?」


「いえいえ、人で賑わっているとはいえ、護衛もつけずにこんな場所に出歩くとは……随分不用心な人だな、と思いまして」


「あなたも、こんな時間にこんな場所で何をなさっているのかしら」


「私ですか? 私は……そうですね。最近王都に賊がはびこっているので、用心のために小回りが利く武器を探しに寄ってみたところなのですが……。あなたこそ、ここでなにを? ここは投げナイフ専門の店ですよ? それに、今のあなたの服装。普通の服を着ているようですが、中に鎖帷子を着ていますね? いくさにでも出かけるおつもりですか?」


 ドロシーは大きなため息をつくと、左手に持っていた小型の投げナイフを元の場所に戻した。



 相変わらず、勘の良い男ね。普段が抜けてるせいで、馬鹿なのか、頭がいいのか、わかりゃしない。



 ドロシーはノアを見た。



 短く刈り込まれた髪に、白い艶のある肌、そして目に健康的な光りが灯っていた。



 スパロウ公爵の次男坊ノア=スパロウは王を守る専用の騎士団キングズガードに席を置く若き騎士だった。その剣の腕はミッドランドで一二を争うほどだ、とも言われており、その名を広く天下に知られていた。


 そして、なによりイケメンだった。超イケメン。


 彼は乙女ゲーム「乙女の策略」におけるデレラシンのメイン攻略対象の一人だった。



 ――つまり、彼は、わたくしを狙う可能性のある男の一人。



 ドクン、と心臓の音が鳴った。



 まさかこんな序盤にデレラシンがこの男を落としているとは思わないけど……、万が一ということもあり得る。



 ドロシーは見えないように隠し持つ反対側の手にポケットからそっと抜き出した投げナイフを握りしめた。



「では、私が家まで送って差し上げますよ」とノアは申し出た。



「いいえ、結構ですわ。わたくしは、わたくしで用があるの」



「そ、そうなのですか」とノアはしょぼんとした顔つきをした。この男は本当に態度が顔に出る。



「あ、あのですね」と改めてノアは言った。「私は……その……。もしも王太子様とあなたが婚約などしていなければよいな、とどれほど思ったか分かりません!」



 ん?



 なんの話をしているのかしら?



「だから、その……」とノアは言いかけたが「ああ、駄目だ、駄目だ。それでは略奪だ。私にはそんなことなどできない。忠誠を誓う王太子様から君を奪うことなど断じてできない。くそぉおお」と言って顔を手で覆い、頭を横に振り、自己完結した。



 ん? 王太子様から君を奪う? なにを言っているのかしら?



 相変わらず変な男ね、ノアは……。



 ん? 待てよ……王太子様から君を奪う? 君を……奪ぅぅう?↑



「はうあッ!」とドロシーは何かに気づいたように声をあげた。



 まさか、この男、わたくしに告白しようとしたのかしら?



 そうよね?



 完全に自己完結してる感じだから本人は気づいてないけど、これは愛の告白ってやつじゃないかしら?



 は、初めて言われたんだけど……。



 っていうか、……やばい。ちょ、ちょっと嬉しいのもあるけど……。



 これ普通にやばい。かなりまずい。もし噂にでもなり、デレラシンにそこを利用されたら……。



 処刑の3パターンが頭に浮かぶ。そして、その三番目のパターンが横文字で頭の中に流れ込む。



 『③浮気したドロシーに激怒した王太子によって殺されるパターン』



 はわわわわわわわ。まずいわ。まずいわぁぁああ↑ 誰かに聞かれてないか急いで辺りを見回し、ドロシーは右手のナイフをポケットにしまい、焦りながらお別れの挨拶をする。



「OK。OK。わかったわ。落ち着いて。落ち着いて? あ、うん。そうよ。落ち着くの。とにかく、落ち着くの。OK? え~と、というより、わたくしはそろそろ用があるので失礼させてもらうわ。いいわね? では、ごきげんよう!」と早口で言って、その場をあとにした。何を言っているのか自分でもよくわからなかった。



 右を見て、左を見て、また右をみた。



 誰にも聞かれてないわよね?



 とにかく、ドロシーは暗い夜道を急ぐ。


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