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6、乙女ゲームの主役、ゲームの始まり。




 首都ウェンブランの貴族屋敷が立ち並ぶ中に一際大きな屋敷があった。



 そこは、ミッドランド王国を支えるリーズ領主、リーズ伯爵の屋敷で、ご存じ伯爵令嬢ドロシーの住処であった。


 そこには現在8人の召使いが住み込みで働いており、彼女(・・)もその中の一人だった。



 デレラシン。



 乙女ゲーム【乙女の策略】の主人公。



 デレラシンは、健気で、清楚で、物静かな女性と皆から思われていた。


 周りの召使いたちが「あの、あばれ牛が!」とドロシーに陰口をたたきながらブー垂れている場面でも、彼女だけは静かに微笑むだけだった。

※(凶暴なドロシーは、陰であばれ牛と呼ばれていた)



 なんて心が奇麗な人なのだろう。ぼくと結婚してください。と同じ召使い仲間の男性から求婚されることが、これまで10回以上はあった。


 それに召使いの同僚の女性からも「まるでデレラシンって貴族のお嬢様のような人ね。品があって、美しくて、素敵」と評されることが多かった。




 だからこそ皆知らなかった。


 彼女の胸の奥にあるドス黒さに……。


 彼女は、真っ黒コゲなほどに暗黒の魂を持つ女性だ、ということに……皆気づかなかった。




 現時点でその本性を知るのはただ一人。伯爵令嬢ドロシー=リーズのみ。

 だが、そんなドロシーでも……いや、臼井詩織ですら知らないことが一つある。



 デレラシンには公式の裏設定があった。



 デレラシンは、ゲーム開始以前に自分のスキルの性能を確認するために、既に人を二人殺している。



 自分に求婚してきた男を使い……スキルの性能を実験したのだ。



 デレラシンは男にこう告げた。



「私のことを愛しているなら、あの石畳の上で寝そべる目障りな浮浪者を殺しなさい。そして、そのあとすぐにあなたは自殺するの。いいわね?」



 デレラシンはそれだけ言うと、他に何の説明もせず、男にナイフを持たせ、送り出した。結果、浮浪者は男に殺され、男は自分の首にナイフを突き刺し息絶えた。



 デレラシンは笑いが止まらなかった。



 なんて素晴らしいスキルなのだろう。



 私を愛しさえすれば、誰も私に逆らえない。生殺与奪。すべてが思いのまま。



 まさに最強のスキル。素晴らしいスキル!



 この実験をした日、デレラシンに野心が芽生えた。



 スキル【 愛の奴隷(ラブスレイブ) 】を使えば、ミッドランド一幸せな人生を送ることが出来るかもしれない。いや、王国そのものだって手に入れることが出来るかもしれない。



 だからこそデレラシンは王太子レイと結婚しなければならない、と思った。未来の王妃ほど素晴らしいものはないのだから。そして、その障害となるものをすべて取り除かねばならない、とも思った。



 すべて……、そう、つまり、王太子レイの目障りな婚約者、ドロシー=リーズを……取り除くのだ。




「ふふふ。可哀相な可哀相なあばれ牛(ドロシー)。すぐに死の国マグメルに送り、楽にしてさしあげるわ」



 暗闇につつまれた路地裏の一角に男がいた。黒い頭巾をかぶったデレラシンが男の頭を撫でると、男は息遣いを荒くし、体に力をみなぎらせた。



 男は、すでにデレラシンに夢中だった。



 デレラシンは静かに微笑む。



「さぁ、ゲームを始めましょう。楽しい楽しいゲームを……」


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