表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/17

4、悪役令嬢、乙女ゲームの主役と対面する。




 ドロシーが部屋の扉をあけると「あ、出てきた」という小声が聞こえた。



 召使いたちの声。



 どうせなら聞こえないように喋ればいいのに。



 ドロシーは後手で自分の部屋の扉を閉め、階段を下りてゆく。今度は踏み外さないようにゆっくりと。



 すると、階段の終わりに一人の女性が見えた。



 女性は立ち止まったまま、こちらを見上げていた。



 カチューシャに白いフリル。真っ黒なワンピースの上に真っ白なエプロンのメイド服を上下に纏い。艶のある美しい黒髪は左右に編込まれ、後ろでまとめられていた。



 ドロシーが階段をゆっくり降り近づいてゆくと、その女性は礼をした。



 その所作からも品をうかがわせる。そして何より、一部の隙もないようにドロシーには見えた。



 恐ろしいほど美しく。召使いだ、と名乗らなければ、貴族の身分をもつ才女に見られてもおかしくない。そんな表と裏の顔を使い分ける乙女ゲームのプレイヤーの分身こそが――デレラシンだった。



「どうして、階段の下でわたくしを待っていたのかしら? デレラシン」



 デレラシンは顔をあげ、その理由を答えた。



「お嬢様の歩き方を見ただけで、すぐに外へ行きたいのだな、と分かりました。ですので、外向きの着付けをするためにここに待機しておりました」



「……あら、そう?」とドロシーは言ったが、内心ビクビクしていた。



 デレラシンは勘もするどい。



 だから、これからどこに行くか絶対に知られてはならない。



「では、着付けをして頂戴」ドロシーは着付け部屋に入り、鏡の前にたち、デレラシンはその周りをきびきび動く。まず、着ていた服を脱がせ、次にコルセットを腰にまき、動きやすいドレスをドロシーに着せてゆく。



 この服選び一つとっても恐ろしい、とドロシーは感じていた。



 だから、ドロシーはジッと見ていた。



 デレラシンを鏡越しにジッと……。



 その視線を感じたのか、デレラシンは笑顔で「どうしましたお嬢様?」と尋ねてきた。



 鏡越しに二人の目が交錯する。



 それはほんの一瞬だった。



 でも、それだけでドロシーには分かってしまった。



 デレラシンの瞳の奥がどこまでも暗い闇に侵されていることに。



 ドロシーは「いや、別に」と言い、その場を何とかやり過ごす。



 ドクン、ドクン、と心臓が鳴っていた。



 この女と命のやりとりをしなければならない。この女と……。



 そう思えば思うほど、なかなか心臓の鼓動が鳴りやまなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ