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2、悪役令嬢、生存率0%運命を思い出す。




 お嬢様がなにやらおかしなことをなさっている。と、この頃頻繁に言われるようになった。


 まぁ、そんな外野のことはどうでもいいわ。



 とにかく、あの日以来、ドロシーはあらゆることを調べていた。


 この国の歴史や街並み。お父様やお母様、侍女、王様、王太子様のフルネームや縁故関係、そして、なにより、このリーズ家で働くあの召使いの女の顔と名前。



 すべてが同じだった。


 気味が悪いぐらいに同じ。


 前世で死ぬほどプレイした【乙女の策略】というゲームに何から何までそっくりなのだ。



「ああ、もう本当に“ドン引き”ですわ」



 理解しがたい話だが、どうやら自分は、前世でプレイした乙女ゲームと激烈にそっくりな世界で生きているらしい。しかも、恐ろしいことに、何時何分に何が起こった、という出来事までゲームとまったく同じなのだ。



 たとえば、このミッドランド王国の首都ウェンブランの中央広場に王陛下の石像があるのだが、この石像は、ゲームの中では、地震により首がとれてしまった、という設定になっている。




 すると、やはりこの世界でも全く同じ出来事が起きたのだ。


 地震がおき、広場の王陛下の像が倒れ、首が石畳に転がった。


 本当に最近の話だ。


 というか昨日の話だ。



 何でこんなことを覚えているか、というと、この石像が地震で倒れ、王陛下の石像の首が石畳に転がるところで【乙女の策略】というタイトルがTVの画面一杯に表示されるからだ。そして、まるで、ボクシングの始まりのゴングが鳴るように、石像が激しく石畳に打ち付けられ、ガァーン! と鳴ったところからゲームがスタートする。



 もうここまで同じだと、これから先の未来も同じと思うしかない。



 ドロシーはカーテンを閉め切った真っ暗な部屋の中で唇を噛んだ。

 指先が震える。



「冗談じゃないわ。冗談じゃないわよ!」



 そう乙女ゲーム【乙女の策略】において、必ず死を迎えるキャラが、もれなく一人いる。



 それが悪役令嬢ドロシーだった。



 あのゲームでは、主役である召使いのデレラシンがどのルートを辿っても、悪役のドロシーは必ず死ぬようにできていたのだ。つまり、生存率0%。



 しかも厄介なことに、それは召使いのデレラシンが王太子と結ばれることと関係なく死ぬことになっていた。(もちろんデレラシンと王太子が婚約することで処刑されるルートも存在するが……)



 恐らく、どんなルートを辿っても“ざまぁ”ができる親切設計を製作者は目指したのだろうが……、とんでもない大きなお世話だった。




 ドロシーはベッドの上で枕をつかみ、それをバッシバシとベッドにたたきつける。



「なんなの本当に! 馬鹿なんじゃないの? 別にそんな頻繁に悪役を殺さなくても、普通にデレラシンが幸せになるだけでよかったじゃん! なんで敗者にムチ打つような真似するのよ! 誰がそんな卑しいゲームをするってのよ!」



 と言った直後に自分がそのゲームの熱烈な愛好家であったことを思い出した。



「くぅうううううう」



 ドロシーは壁に爪をたて、悔しがる。



 確かに、しっかり楽しんでいた。過去の自分は間違いなく悪役令嬢が自分の仕掛けた罠にハマり死ぬ様を楽しんでいたのだ。



「あれ今思うとやばいわ! R18にすべきでしょ! ……もう本当にわたくしは世界一不幸な女だわ!」と虚しい声が自分の部屋にこだました。



 …………。



 ……いや……まって、と思った。



 逆だわ。



 そうよ。逆よ。



 今わたくしがこんなに辛い思いをしているのも、すべては未来に何が起こるかを知っているからなのだわ。



 ならば、逆にそれを利用することもできるはず。



 そう! 絶対にそうだわ!



 メラメラと闘志が燃え始める。



「やってやろうじゃないの。そうよ、やってやるわ! 抗ってやる! 運命の神がわたくしを死に追いやろうとも、この手で必ず運命の神に打ち勝ってみせるわ! 必ずよ!」



 そう宣言したドロシーは、拳を天高くかかげるのであった。


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