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14、悪役令嬢、ババ抜きをする。中編。




 このデレラシンの行動に一番焦ったのはケイトであった。



 先ほどまではカードを選ぶ時も抜かれる時もすまし顔をしていたくせに、今はまるで天地がひっくり返ったように狼狽していた。



 しかし、デレラシンはそんなケイトにさしたる興味もないようで、ずっとただ一点を眺めていた。


 そう、ドロシーだけを眺めていた。



 ドロシーはケイトの狼狽するようすを鼻で笑いながら、まっすぐにこちらを睨むデレラシンを視界の端に捉えていた。



 そういえば、ずぅーっとなかったものね。



 こういう機会なんて。



 ドロシーはケイトから視線を外し、まるで仮面のように微笑し続けるデレラシンの顔を睨み返す。



 ケイトは震える手でようやく一枚カードをとり、それをドロシーに向けてきた。



 ケイトはスキルが使えなくなっただけで何とも情けない顔つきをしていた。



 ドロシーが適当にカードを引き抜くと、それがジョーカーだった。



 ケイトの顔が途端に明るくなる。



 分かりやすい奴!



 ドロシーは軽くカードをきり、そして、敢えてそれを見ずにデレラシンの前に掲げた。



「ダメですよ、お嬢様。ちゃんとカードを見てください」とデレラシンは優しく微笑む。



「あら、じゃあこれでいいかしら?」とドロシーは言われたとおりにする。



 左の端っこにジョーカーが見えた。



 すると、何かに気づいたようにデレラシンは真ん中の「ハートの12」のカードを抜き去る。



 何順かするうちに、最初にあがったのは、やはりケイトだった。



「やったぁあああああ! やったわ! やったのよ私は! ひょぉおおおおおお!」



 完全にテンション上がり過ぎである。

 今度は自分でつかみ取った勝利に酔いしているようだった。



 だが、ドロシーには分かっていた。



 デレラシンはむしろ意図的にケイトをあがらせた。



 たぶん、デレラシンはドロシーと二人っきりになりたかったのだろう。



 だからこそケイトは体よく追い払われたのだ。



 精魂使い果たした顔をしたケイトは、お飲み物とお菓子をとってきますわ、と言って中座する。



 そして、ドロシーとデレラシンがこの場に取り残された。



 ……。



 数秒、奇妙な沈黙が両者の間に流れた。



 ドロシーはデレラシンの目を見て微笑んだ。



 ――分かっているわデレラシン。あなたは確かめたいのでしょう? 自分の行動がわたくしにバレてはいないか。それを知りたいのでしょう?



 心臓の音が鳴る。



 部屋の中に静かな緊張が走る。



 すると、そのピリピリとした空気の隙間を縫うようにしてデレラシンが話し始めた。



「近頃……お嬢様はお変わりになりました」



「あら、そうかしら?」



「ええ、そうですとも、お変わりになられましたわ。以前はもっと全てに退屈なされたような顔つきをしておられました」



「……」



「でも変わられた。今は何故か目に強い光を宿しておいでです」



「……」



「もしよければ、どうして変わられたか教えていただいてもよろしいでしょうか?」



「……」



 デレラシンは、逃がさない、と言いたげな目をしていた。

 そして、もしもこの場でドロシーが自分を暴漢に襲わせた主犯格だと知りようものなら、この場で殺してしまおう。と言いたげな殺気さえも漂わせていた。



 まぁ、どうせ、わたくしを殺すなんてことはできないでしょうけど。とドロシーは高をくくる。




 だが、実態は違っていた。



 この時、実はデレラシンはメイド服の内側に爆弾を巻き付けていたのである。



 この屋敷が半壊するかもしれないほどの火薬の量を仕込んだ服をまるで、ベストのように内側に着こんでいたのだ。


 ほんの少し起爆用の紐を引っ張ればデレラシンの体は自爆し、そしてドロシーも恐らくその爆発に巻き込まれるに違いない。



 相打ち。だが、デレラシンはそれでもよかった。




 これは、臼井詩織も知っていることだが、デレラシンには二つスキルが存在する。



 一つは【愛の奴隷(ラブスレイブ)



 もう一つは【再生と呪いの二重奏(マグメルハーモニー)】というスキルである。



 人一人につき一つのスキルというルールだが、二つ目のスキルに関してはデレラシンのスキルではなく、彼女の母親のスキルであった。母親が、デレラに加護を与えたのである。



 効果は、滅んだ肉体の再生と自動復讐。



 このスキルの加護を受けているものは、一度死んでも再生する。しかも、誰かに殺された場合は、自分を殺した相手を呪い殺す効果をもつ。



 つまり、たとえドロシーがデレラシンを殺したとしても、その直後に呪い殺されるし、おまけにデレラシンは無傷で復活するのである。



 たった一度しか発動することのない加護であるが、それでも恐ろしい自動防衛スキルに違いなかった。(つまり、復活も、復讐も一度きり)



 このスキルこそが、ドロシーがデレラシンを直接攻撃しない理由だった。




 デレラシンも、母のスキルの加護が自分を守ってくれていることを知っていた。



 だからこそだった。



 だからこそ、ドロシーがどこまで真実に辿り着いているのかを知りたかったのだ。



 もしも真実に辿り着いていた場合。



 デレラシンは、即座に自爆し、ドロシーを殺すつもりだった。



 それを見極めるための質問。



 デレラシンは微笑んだ顔つきのままカードをドロシーの前に掲げる。



 もう片方の手は、体に巻き付けてある爆弾を起動させる紐を握りしめていた。



 次のドロシーの一言がドロシーの生死を分けていた。


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