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12 、悪役令嬢、魔女バヌーサと戦った理由は……




 魔女バヌーサが叫び声をあげ、その牙だらけの口の中があらわになった。



 それを見たドロシーは微笑する。



「あらあら、とっても歯磨きが大変そうな歯ね」




 次の瞬間バヌーサは、手のひらから魔法の炎を放つ。



 まるでミサイルのように炎は勢いよくドロシーに迫ってきたが、そんなもの、ドロシーにとってどうってことはなかった。



時よ止まれッ!(ザ・ワールディ)





 ミッドランド王国の歴史の中で長らく迫害され続けてきた人々がいる。


 それが魔女だった。


 原因は、彼女達が「魔法」を使えることにあった。


 スキルは神から授かった善なるものだが、魔法は邪な力によって生まれた悪なのだ、と、この世界では認識されていた。


 前世の記憶がある今の自分にしてみれば、スキルと魔法が全く違うもの、と認識されていること自体おかしな話だと思うのだが、とにかく、この世界にはそういう常識があった。


 だから、魔法を使い社会を歪める不穏分子として、魔女は徹底的に弾圧されていたのだ。





 時を止めたドロシーは5秒の間に炎をゆっくりと避け、次に、その妖艶な唇が動く。



「そして、時は動き出す」






 魔女バヌーサは何度も目をパチクリさせた。



 確実に当てたと思った炎をこの金髪の小娘は躱していたからだ。



 バヌーサの本能が訴える。



 やばい、と。これはまずいぞい、と。



 だが、それでもこの小娘を撃退しなければならない、とバヌーサは思った。



 そうしなければ、亡き父や母のように火あぶりにされる。



 それは嫌じゃ。



 嫌じゃぁあああ。



 微笑むドロシーは柔らかな口調で話す。



「バヌーサ。あなたに良い話をもってきたと言ったでしょう? ほら、唸り声をあげる狼みたいにしてないで、一緒に話し合いましょう」



 バヌーサはドロシーの言葉を遮るように炎魔法を放つ。何度も放つ。



 だが、何度魔法を放ってもドロシーには当たらない。



「このほかぎゃぁあああああ!」とバヌーサは叫んだ。「なんで死なんのじゃ! おかしいじゃろ! このぉぉぉおお、当たれ! 当たれ! 当たれぇええ!」




 すると、ドロシーの姿が突然消えた。


 バヌーサの視線が、せわしなくさまよう。


 おかしいぞい。


 右にも左にも正面にもいない。一体どこにいったんじゃ、あの小娘。




 ……。




 バヌーサの心臓が鳴った。



 吐く息が苦しくなる。



 はぁ、はぁ、とバヌーサはしわくちゃの顔で再度左右を確認する。





 すると、妖艶な声がバヌーサの後ろから、そっと聞こえた。



「全く……。本当に人の話をきかないババアね。何度も言っているでしょう? 良い話をもってきた、と」



 バヌーサは息を呑んだ。



 首筋には刃物を当てたられた感触がある。



 後ろだ。



 ドロシーは後ろにいたのだ。



 ドロシーは満面の笑みを見せ、手にした投げナイフを強くバヌーサの喉に押し当てた。



「こうしないと話し合いはしないのかしら? 魔女バヌーサさん?」



 力の差を悟ったのか、バヌーサはうなだれ「すきにせい」と言った。



「じゃあ好きにさせてもらうわ」



 ドロシーはバヌーサの首に押し当てたナイフを放り投げ、正面に回り込みバヌーサと相対した。



 これは勝機をドロシーから放棄した行為だった。



 あんまりにも不可解なこの行為にバヌーサは眉をひそめる。



「なんなんじゃ、おぬし。一体ワシになんの用があってこんなことをする」



 ドロシーは頬の片方をつりあげた。



「やっと話し合う気になってくれたわね。これで本題に移れるわ。あー言っておくけど、わたくしは魔女に興味がないの。あなたを火あぶりにしようだなんて微塵も思っちゃいない。誰かに通報しようとも思ってない。わたくしが考えていることはただ一つ。WINWINの取引をしたい、と思っているだけ」



 ドロシーはそう言うと、手紙を一枚バヌーサに向かって放り投げた。



「なんじゃこれは」



「それは、わたくしのサインが入った書類。この書類をリーズ領に赴き、リーズ領一帯をあずかるバスバイン卿に見せなさい。そこにいけば、このボロ屋よりも数百倍は美しくて綺麗な家に住まわせてあげる。食事も用意してあげるわ。ドロシー=リーズの名においてね」



「……なんなんじゃ本当に……。そんなことをしてお主に何か得なことでもあるのかえ?」



「ええ、もちろんよ。ただ一つ約束して。簡単な約束よ。あなたはこの書類を受け取る代わりに二度とこの首都ウェンブランに足を踏み入れない。それをわたくしに誓ってくれるかしら。どう? それがこの取引の条件よ。それほど悪い取引ではないでしょう?」



「…………まぁ……たしかに悪くはない取引じゃな。でも気味が悪いから聞きたいのう。何故ワシにこんなことをする」



「それはね」とドロシーは前髪をかきあげる。「あなたが気まぐれにこの街に住む女性に情けをかけるからよ。身に覚えがないだろうけど、これからあなたはそうするの。


 カボチャの馬車に、美しいドレス。そして、ガラスの靴。乙女なら誰でも知っているおとぎ話。


 でもね。今のわたくしにはそれが邪魔なの。そんな展開なんて全くいらないの。おわかりかしら? だから、わたくしはあなたにこの街から一刻も早くいなくなってほしいのよ」


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