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09話 読める・・・読めるぞ!

 

 

 それから数週間が経ち、俺は杖があれば自力で歩けるほどに回復していた。


 「本当に大丈夫ですか?まだ無理はしない方が・・・」

 「いつまでもただ飯食わせてもらう訳にもいかないさ、シスター」


 そう言って手拭いでマスクをする。

 一日中寝ていたってどうせ暇だからということで、俺はこの教会内の掃除を申し出たのである。


 シスターは心配している様子だが、その思いとは裏腹に俺の体は好調だ。


 「ちゃんと休憩取って下さいよ?倒られて困るのは私なんですから」

 「ああ、ありがとう」


 それに、ずっと寝てたら寝てたでエルに文句言われそうだし・・・というのは言わないでおこう。


 片手で掃除用具を抱え、片手で杖をつきながらえっちらおっちら廊下を歩いてゆく。

 やはり体の自由が利かないとこれだけでも結構な重労働だな・・・少し疲れた。


 「ここかな?」


 俺はいかにも古い造りの扉の前にやって来た。

 錆びついたドアノブを回すと、かなり重い手ごたえを感じる。こりゃ相当年季の入った扉だな・・・一体どれだけの間、開閉されていなかったのだろうか。


 シスター曰く、彼女たちがここで暮らし始めた当初からこの様子だったという。

 別に部屋の中が気になる、という訳でもなかったのでそのままにしていたのだが、今回俺が暇だし掃除でもさせてくれと頼んだことで「じゃあ手をつけてないあの部屋を」となったのである。


 部屋の中に入ると同時に、鼻腔の中にカビ臭さと埃臭さが充満する。


 ・・・なんか、実家の蔵を思い出すなぁ。骨董品が山ほど置いてあったあの蔵。

 好奇心から度々忍び込んでは、祖父からこっぴどく叱られたものだった。


 すごく懐かしい。あのじいさん、元気にしてるかな・・・


 「・・・掃除しよう」


 思わず感傷的になってしまった。少し目が潤んでいる。


 そもそも、前世の記憶を全部持ったまま転生するとか聞いてないんだけど・・・もっと言うと格好も年齢も容姿も全てそのままの転生だしな。


 これ転生って言えるのか?

 まぁ生き返ったという意味では合ってるけど・・・


 部屋の壁に沿って並べられた埃だらけの本棚をはたきながら、くだらない思考を巡らせる。


 おまけに特典は貰えなかったし。

 あの女神がどれほど適当な仕事をしていたのか今になってようやく分かった。道理であんなあっさりな転生だった訳だ。


 あの野郎・・・

 そんな機会は無いと願うが、もし仮にもう一度奴に会うことがあれば思う存分セクハラしてやろう。具体的に言うと胸を徹底的に揉みしだいてやるのだ。

 あの時、俺の睡眠を妨げたお礼も兼ねてな————


 ・・・ゴンッ!

 「痛てっ!」


 静かに女神への復讐を決意していると、傷が治り包帯の取れた頭に重い衝撃を感じた。


 「・・・ったく何なんだよ」


 俺の頭に墜落してきた物体。

 床に落ちているその物体に目をやると、それが一冊の本であることが分かった。


 「なんだこれ・・・?」


 頭をさすりながら表紙に目をやると、タイトルに『現代魔法解体』と書いてある。


 ————ん?ちょっと待てよ。なんかおかしくないか?


 「なんで俺、この世界の字が読めるんだ・・・?」


 明らかに日本語ではない文字なのに、なぜか解読することが出来る。日本語を読むように理解できる。


 考えてみれば会話でもそうだった。

 俺とエルやシスターとの会話で使われている言語は、俺が分かるはずの無い異世界語のはず。それなのに俺はまるで母国語を話すように彼女たちと会話できている。


 ・・・どういうことだ?


 うーん、分からん。

 あの女神が言語面だけ仕事をしてくれたということなのだろうか・・・


 ・・・いや、これ以上考えるのはやめよう。時間の無駄だ。

 それにここは異世界だぞ?何が起こってもおかしくない場所なんだ、訳の分からんことに一々頭使ってたら日が暮れてしまう。


 そう自分に言い聞かせる。


 掃除は後でやるとして、俺はその謎の書物「現代魔法解体」の読解に取り掛かることにした。




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