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04話 異世界へ、お邪魔します

 


 「・・・ん?」


 どうやらまた眠ってしまっていたらしい。

 目を開けると、見渡す限りの青空が広がっている。


 空が青いということは、ちゃんと転生できているってことなんだろうか。


 そして軽くあくびをすると————ふいに、急激に体温を奪われる感覚を感じた。


 ・・・寒ッ!!なんかめちゃくちゃ寒いぞ!!!


 一度寒さで身を滅ぼした体であるだけに、その感覚は敏感に働いていた。


 「クソ、この世界の季節も冬なのかよ!」


 寒すぎてこのままじゃ確実に死ぬぞ・・・早く温まれる場所を・・・民家を探さないと・・・!


 とにかく急いで起き上がろう、と地面に手を着く。

 いや正確には、地面に着こうとした手は空を切り、俺の体はまるで重力なんて存在しないみたいにその場できりもみを始めた。


 そこでやっと気付く。


 今俺は、『落下している』んだ————!!!


 耳の横ではすさまじい風切音が鳴り響き、眼下には数々の建物が立ち並んでいるのが小さく見えている。その間にも体はどんどん凍えていき、手足の感覚はすでに無くなりつつあった。


 あの社畜女神、生き返ったばかりの人間をなんの説明も無しにスーツ姿のままでスカイダイビングさせるとか、どんな鬼畜だよ!


 これで俺が死んだら、また残業が増えるだけだろうが!もう少し考えて転生させやがれ!


 そう悪態をついている間にもどんどん地面との距離は近くなっていく。このままだと、町の中でもひと際大きく頑丈そうなあの石造りの建物に着地しそうだ。そうなればまず命は助からないだろう。


 おい女神、お前のせいで天界へ死に戻ることになりそうだぜ!!!今度こそ特典付きで転生させてもらうからな————ん?


 例の頑丈そうな建物のすぐ脇に、何かを発見する。


 あれは・・・納屋か?


 このままいくと確実に死ぬが、あの納屋に落ちれば何とか瀕死にまでは持っていけるかもしれない!納屋なら木製でもろいし、中には藁が敷き詰めてあるはずだからな!


 半分諦めモードだった俺も、わずかな希望が見えた途端、身をよじりほんの数メートルの距離を稼ごうと必死に動きだす。


 途中で「死に戻ればいいじゃないか」という考えもよぎった。その方が特典も獲得できるし、今度はちゃんと頼んで地面の上に転生させてもらえるしな。


 しかし、だ。

 この俺の中には、一度死んで生きかえったことにより一つの「目的」というか「信念」というか、そんなものが芽生えていたのである。それは————


 もう二度と、死んでたまるか!!!


 俺は死の直前まで、生きることを諦めないと決めた。

 そのためだったら何だってやってみせるさ————


 「うおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


 ・・・まぁ、飲み過ぎで死んだ奴が言うには、ちょっとかっこつけ過ぎな気もしたけど。


 バキバキッ!ドゴン!!


 必死のうごめきによってほんの数メートル、軌道はずれて。

 俺は納屋へ墜落することに成功したのだった。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 リリーは日課のお祈りを済ませ、いつも侍女が作ってくれている昼食を食べようとリビングへやってきた。

 長いリビングデスクにはいつものように二人分の食事がちょこんと置かれているのみだが、彼女には一つ見当たらないものがあった。


 「エル?」


 リリーは自らに遣える侍女の名を呼ぶ。

 普通ならリビングに入ると既に食卓についており、「早くいただきましょうシスター。私もうお腹ペコペコです」と言ってくるのがいつものパターンなのだが、なぜか今日はいないようだ。


 「どこ行ったの、エル?」


 エル抜きで食事をするわけにはいかない。リリーは食事に虫よけの網をかぶせ、侍女を探すことにした。


 キッチンやトイレ、聖堂と見て回ったがエルの姿は無い。

 最後の候補である外の納屋を見に行こう、と玄関の扉を開ける・・・とそこには、いつも通り無表情のエルが立っていた。


 ————いや、いつもに比べ少しだけ眉が上がっている。

 その微妙な表情の変化に気付いたリリーは、エルがかなり興奮していることを理解した。


 「————シスター!」

 「どうしたんです、エル?そんなに興奮して。あなたらしくもない・・・」

 「こいつが!納屋に!落ちてきたんです!」


 エルが右腕を前に出すとそこには、謎の黒い服を着た身体中ボロボロの青年が、服の襟をつかまれてぐったりしている。


 ————すぐにリリーは、この青年がかなり危険な状態であると分かった。

 辛うじて死んではいないという、そういう段階だ。


 「エル!すぐにその人を処置室へ運んで!急いで手当てしなくては!」

 「はっ・・・はい!」


 治療は速やかに行われた。

 医術魔法はリリーの得意とするところであったが、王国の中でも屈指の腕を持ってしても彼を完全に回復させることはできなかった。


 結局彼が意識を取り戻したのは、それから三日後の朝のことである。




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