03話 社畜女神はめんどくさがり
「嘘・・・だろ・・・」
現場は再び例の白原へと戻る。
記憶が段々はっきりしてきて、俺は死んでしまったのだ・・・という事実が徐々に現実感を帯びてきた。
そうか。
俺飲み過ぎで死んだんだな・・・
「思い出したの?自分の最期」
「あぁ・・・結構鮮明に思い出してしまったよ」
ここで目を覚ましてからというもの、やけに頭痛や吐き気がすると思ったら死因が飲み過ぎによる居眠りで凍死ならなるほど納得である。
「まぁ、良かったじゃない。最期に好きなことしながら死ねたんだから」
ははは、いくら寝ることが好きだからって永眠しちまったら意味ないだろ。何言ってんだよ全く、ははは。
・・・全然笑えない。
「で。自分が死んだこと思い出したなら、分かるでしょ?私は神で、あんたは死者。そしてここは天界。何するか理解できた?」
「・・・なるほど、つまりアイレーン様は俺を転生させてくれるのか」
「そゆこと」
そう言ってアイレーン様とやらは俺の方へ向き直り、何か袋のようなものを差し出した。
「・・・これは?」
「中にあんたの転生先世界の候補が書かれた水晶が入ってるわ。ここから適当に一つ取ってくれる?」
「え、こういうのって自分で選ばせてくれないの?」
そもそも、そんな大事なことをくじ引き形式でやるのか?天界もいまいちアナログなんだな。
「仕方ないでしょ、先代からずっと受け継がれてる方法なんだから」
「まあそれは構わないんだが・・・転生先を任意に選ぶことは出来ないのか?」
「そうね。基本的に転生先の選択は人間の運に任せることになってるわ。人間ごときに判断できる事柄じゃないってところかしら」
「まあ、自分で選べって言われてもそれはそれで困ったかもな。それぞれの転生先の世界の違いなんてわからないし」
「分かったら、さっさと引きなさい。私も早く帰りたいのよ」
俺を急かすアイレーン様。
そういえばこいつも上司に残業押し付けられて俺の担当になったんだっけ。
案外俺達って境遇は似てるのかもな。
「くだらないこと言ってないで、ほら!」
へいへい了解しました、とぼやいてから袋の中に手を突っ込み、適当に一番上にあった水晶をつかんで取り上げる。
水晶はボール状の球体で、俺が取り上げてしばらくすると表面に文字が浮かび上がってきた。
見たことのない文字で書かれているが、ここが俺の転生先なのだろうか。
「ちょっと見せて・・・はい、ありがと」
アイレーン様は横から水晶を覗き見てうなずき、水晶と同じ文字を空中に書き出した。
彼女が文字を書き終わると、その文字を中心として空間に人一人が通れるほどの穴が開く。
「おぉ~!こういうの見るとお前が本物の女神様だと実感できるな!」
「あんたが実感出来ようと出来まいと、私は立派な一女神なんだけどね・・・まあいいわ。ここを通れば転生完了するから、さっさと行きなさい。それじゃ、良い異世界ライフを祈ってるわ」
気だるそうに右手をひらひらと振るアイレーン様。やっと帰れるわーとでも思っているのか、表情がめちゃめちゃ緩んでいる。お疲れ様です。
穴に片足を入れると、確かにここではないどこかへ通じている感覚がする。
それにしても、転生って案外あっさりとしてるんだな。
もう少し色々な手続きがいると思っていたが、これなら楽勝じゃないか。
そうして、体全てを穴へ入れる・・・とその前に。
一つ気になることがあったのを忘れていた。
「なあ、アイレーン様」
「何よ。まだ私に仕事させたいの?」
「いやー・・・あのさ、転生に当たって何か特典とかないのか?」
彼女は腑抜けた表情で「へ?」と言ってから、「そういえばあの女が————」とか「祝福システムが————」とか「確かマニュアルでは————」とかブツブツ悩みだした。
「ねぇ・・・アイレーン様?」何悩んでるんだ?
しばらくブツブツ言っていた彼女だが、何やら自分の中で結論が出たようで。
最終的に腕組みして俺を睨みつけ、
「ないわ!!!」
と大声で言い放った。
・・・いや、これ絶対あるやつだよね?
すかさず彼女は俺に向かってタックルをかます。
「いいから!もう行ってお願いだから!これ以上面倒を増やさないで!」と必死に俺を穴へ押しやる。
「ちょっとまっ・・・あぁっ!!」
抵抗も虚しく、俺の体は穴の中へと吸い込まれていった。
そんな訳で。
俺は、本来存在していたであろう神のお恵みの一切を受け取らないまま、異世界へと転生されてしまったのである。