18話 魔力査定④
いきなりで済まないが愚痴を聞いて欲しい。
君は自分が気持ちよく寝ているところで、体を揺さぶられ耳元で大声を出されて、無理矢理に起こされたりしたらどんな気持ちに————
「起きてって言ってるでしょ!」
————バシッ!バシッ!
「いってー・・・何するんだよ・・・」
「見てくださいグッサン!」
往復ビンタまでかましてくるとは・・・
あの女神よりもかなり積極的だぜ、このグリスって子。
「ほら!これ!」
そう言って彼女が指差した先には、例によってラベリングされた石英管が並んでいる。
なんか変わったか?と思って注視してみると、何やら石英管内の血液表面に気泡がブクブクと発生している。
まんま理科の実験だな。
「で、何をそんなに慌ててるんだ」
「気付かないんですか!?」
「・・・気付くって、何にだよ」
「全部反応してるんですよ!ほら!」
俺の目の前へ木台を持ってきて、石英管の一つ一つを俺に見せていくグリス。
————確かに全部泡立ってるな。
「これはつまり・・・どういうこと?」
「グッサン、あなた完全適性者ですよ!」
「完全適性者?」
「はい!全部の属性に適性があるんですよ、あなた!」
「それってすごいのか?」
「そりゃもうすごいなんてものじゃ————」
目をギンギンにたぎらせ豊乳を揺らしながら説明をするグリス。
・・・あの、そのお胸揺らすジェスチャーやめてくれません?
話が頭に入ってこないんだけど。
そんな感じで興奮してあれこれ言っていたんだが、グリスは不意に神妙な顔になり右の人差し指をこめかみに当てた。
どうかしたのか?
「————でも、極端に魔力量が少ないのはどういうことなんでしょうか」
「え?俺魔力持ってないの?」
「いえ、全くない訳ではないんですが・・・いかんせん反応が小さすぎます。普通はもっとこうボワッとですね————」
「そういうもんなのか」
————さて、今までのグリスの説明をまとめてみよう。
通常の適性者は大抵、二から三種類ほどの属性に適性を持つ・・・つまり普通の人は二~三種類ほどの魔法しか使えないらしく、全種類に適性を持つ者はこれまで数えるほどしか確認されていないらしい。
この世界でもかなりの希少種、それが完全適性者だ。
なにそれチートじゃん!
・・・と、この時点では誰しもが思ったはずである。
俺だって思った。
しかし一番の問題は「魔力量が少なすぎる」ということ。
普通の適性者であっても血液と粉末魔石はもっと激しく反応するようで、反応の小ささから見るに俺の血液中の魔力量はあるかないか・・・いやギリギリあるね、という程度のものらしい。
「そんなに少ないのか・・・」
「はい。これだけ少ないとたった一回、高度の魔法を使っただけで魔力が尽きて失神するかも」
「えぇ」
魔力が無くなると失神するのかよ。
「魔法って結構怖いんだな・・・」
「いやいや、普通は魔力が尽きたりすることないですからね?グッサンが少なすぎるんですよ」
えっちょっとショック・・・
「ともあれあなたは完全適性者です、誇ってください!魔力なんて後から増やしていけばいいんですよ」
「・・・まあ、それもそうだな」
思えば完全適性者とか魔力量とかどうでもいい話である。
俺も魔法が使える。
この事実以上に一体何が必要だろうか。
「という訳で、今回の魔力査定は終了です。お疲れさまでした」
「おう。ありがとな」
「お代はシスターからいただいてるので、そのままお帰りになって下さいね」
再び俺に笑顔を向けるグリスに軽く手を振り、部屋を出ていく俺。
————うん。
注射は最悪だったが・・・それに見合う対価を得られたのではないだろうか。