禁呪
「どうか、どうかティファのことはお願いね」
「あぁ…ティファのことは俺に任せてくれ。必ずお前のような良い子に育ててみせる」
「ティターニア我はどうしたら良いのであろうか...」
かつて、魔王ミルドには親愛なる家族がいた。妻の名をティターニア、娘の名をティファエル。ティターニアは人間との戦争に魔術師として出向き勇者との戦いで傷を負い、一命は取り留めたもののその後命を引き取った。
魔王は願った
「どうか...どうかティファだけは」
もう何日寝ていないのだろうか。魔王の顔からはすっかり生気が抜けてしまっている。
そんな矢先の出来事だった。
「ステータス」
俺はスキル全属性魔法の中からミルドさんに聞いたパーフェクトディスペルを探す。
「あれ」
全属性魔法の部分は全部見たけどパーフェクト ディスペルがない。
「パーフェクトディスペルって魔法なんですか?」
俺はミルドさんに尋ねてみた。
「側近の話では賢者にしか使えない魔法と言ってたな」
もしかしてと思いステータスを見直す。まだ禁呪の部分を見ていなかった。他の人のステータスを見たことがないため分からないが魔法使いと賢者の違いって禁呪が使えるかってことなんだろう。
やっぱりあった。
さっそくティファにパーフェクトディスペルをかけてやる。手をかざすとティファエルの体が輝く。
するとみるみるうちに苦しそうな顔をしていたティファの顔が安らかになっていき
ティファの呪いが解ける感触があった。
「ふぅ、解呪できました」
「ありがとうハヤト。本当にどんなお礼をすればいいか。」
魔王は本当に嬉しそうに何度も、何度も初対面の俺に対して頭を下げる。
俺はミルドさんの方を向き直して言う。
「それよりもおねがいがあります。俺をこの城に泊めていただけませんか?」
そうだ今の俺には寝る場所すらないのだ。
ミルドさんは驚いた様子だったが、ハッと慌てて返事をする。
「も、勿論だとも。是非気がすむまで泊まっていってくれ。」
良かった。これで当分は野宿をしなくてすむ。俺は野宿の経験などないためきっと、大変な目にあっていたはずだ。
そんなことを話していると意識を取り戻したティファエルがもぞりとベッドから起きだし
「パパ、私怖かったよ....」
「あぁ...ティファもう大丈夫だ。お前にかかっていた呪いはこの男が解いてくれた」
ティファエルがミルドさんに飛びついた。ティファエルは魔王の胸の中で泣いている。安堵したんだろう。この子も不安だったに違いない。本当に良く持ち堪えた。
その後もティファエルはミルドさんの胸の中で泣き続け、俺はその様子をただ静かに見ていた。
父親の胸の中で泣いたおかげか落ち着いた様子のティファエルがくるりとこちらを見て言う。
「ティファエルっていいます。お兄ちゃん助けてくれてありがとう」
「いやいや元気になってよかったな」
俺はこちらに来たティファエルの頭を優しく撫でてやるとティファエルは気持ちよさそうに顔を緩めた。
しかしティファエルは疑問に思ったのか顔を上げて俺に尋ねる。
「お兄ちゃんは人間なのにどうして私を助けてくれたの?」
やはり人間と魔族が対立しているということは周知の事実なのだろう。安心させてやるようにゆっくりと言う。
「俺は人間だけど、魔族のことは嫌いじゃないし戦争をする気も毛頭ない。それに君が苦しんでいる姿を見るとほっとけなくなったんだ」
まぁ半分は生き残るためだけれど...
そんなこと知らないティファエルは嬉しそうに
「じゃあ、お兄ちゃんは私の命の恩人さんだね」
「あぁ、ハヤトはティファの命の恩人だな」
2人は嬉しそうに話している。やっぱり家族ってのは良いもんだな。
それからは俺も加わり三人でいろいろな話をして笑いあった。
「お兄ちゃんこっちこっち〜」
「わかった。今行く〜」
あれから数日過ぎ、随分とティファと親しくなった。最初はティファエルと呼んでいた呼び名も、
「ティファって呼んでくれないと返事しないからね」
とティファが言った。慣れないうちは何度か間違って
ティファエルと呼んでしまっていたが本当に返事をしてくれなかったため今では間違いなくティファと呼んでいる。
今日はティファが城の案内をしてくれるそうだ。
ティファの案内で城のいろんな部屋を周る。
「お兄ちゃん早く〜!!」
「待ってくれティファー」
小さい子供ってやっぱり元気だな。それはティファも例外ではなかった。ティファがあちこち駆け回るため俺の体力はもうあまり残っていない。
「ティファちょっと疲れたから一休みして行こう」
そう言って周りを見渡すと庭に芝生が生えている。
太陽も差し込みあそこで寝たら気持ちいいだろうなぁと考えティファと一緒に外に出る。
「あーやっぱり心地がいいなぁ」
昼食を食べてすぐ出たので満腹感と暖かさによって微睡みに落ちそうになる。
俺の手を枕にしていたティファはすーすーと寝息を立てている。俺もそのまま眠りに落ちようとするとなんだか城が騒がしい。何かあったんだろうか?
俺は寝ているティファをお姫様抱っこして揺れないように慎重にミルドさんの元に向かう。
「何かあったんですかミルドさん」
部屋につき扉を開けながら尋ねる。
「人間軍が魔族の領地へと進行しているとの報せが入った。我々はこれから迎撃しなければならない」
「大丈夫なんですか?」
「魔王軍を甘く見るなよ。人間軍など一捻りだ!」
ミルドさんはドンっと胸を叩く。そして俺にお姫様抱っこされているティファの頭を撫で何かを決心したような顔でこちらを向き
「ティファを連れてここから出て欲しい」
「ハイ?」
「またいつかのようにティファが呪いをかけられてしまうかもしれない。今度は殺されてしまうかもしれない。もちろん我が守るがいつ何時もティファの側にいることができないんだ」
そう言ったミルドさんは悲しい顔をしていた。
「それならば我が信頼しているハヤト、お前にティファを守ってもらいたい」
「それならばこの城の中でもできるんじゃ...?」
「それはそうだが我はもうあんな悲惨な状況をティファに見せたくはない。頼むハヤトこの通りだ」
ミルドさんが深く頭を下げる。俺は慌てて、
「頭をあげてください。わ、わかりました。てぃふぁをつれてここから出て行きます。でもここから出てどこに行けばいいのでしょうか?」
なんせ俺は異世界に来てまだ数日でこの世界のことなどあまりわからない。
「お前の好きなように旅をするがよい。魔族の子供は10歳になると親元を離れ修行の旅に出る。少し早かったがいい機会だ。色々な景色や美味しい食べ物、
優しい人々をティファに見せてやってくれ。この世界が詳しくないお前だからこそティファと感動を共有することができる」