エピローグ
大家さんが隠し通してきた秘密を遂に暴いた俺。
実際、大家さんにとってはかなり重要だったかもしれないが、俺にとっては正直割としょうもない秘密だった。付喪神云々は置いといて。
秘密を暴いたことで。
「ふっふっふ……お見事ですよ一ノ瀬さん。私の秘密を暴いたからには……あなたにも共犯になってもらいます! そう……この着物はMK.Ⅱ、つまりMK.Ⅰがあるということ。私が言いたいことは分かりますね? そう――今日から私と一ノ瀬さんはダブルフェンリルですからね!」
って、大家さんとお揃いの着物を差し出してきたけど、どこからどう見ても女性物の着物で、俺が着ても絶対似合わないどころか、下手すれば大家さんファンクラブのメンバーから不敬だと断じられ闇討ちからの山奥への穴埋め、野犬が掘り出してプチニュースになることが予想できたので、丁重にお断りした。
その後、しつこくペアルックを勧めて来る大家さんに対して、話をすり替える為に、夕食の件を持ち出した。
「お、女の子にはいろんな準備があるので……!」
夕食の件を持ち出すと、大家さんは慌てた様子でそう言って自分の部屋に帰っていった。
色々な準備が何かは分からないが、きっとこの後振舞ってくれる夕食のアレやコレだろう。
着物の上からエプロンを羽織る大家さんを見るのが楽しみ過ぎる。
「~~~♪」
一緒にご飯を食べる愉しいレクリエーションを想像して、俺の歩みは軽くなった。
そのまま自分の部屋に向かう。
「……」
ここ最近、部屋のドアを開ける前、気が付けば何かを期待してしまう。
ゆっくりと扉を開ける。
見覚えのある玄関が広がり――
『お帰りなさい、辰巳くん!』
聞き覚えのある――幻聴が聞こえた。
当然、幻聴は幻聴であり、その声は幻――ありもしないものだ。
もちろん、その声を放つエリザも存在しない。
分かっているのに、期待してしまう。
「……はぁ」
もしかして。
もしかして扉を開ければ……彼女がいるんじゃないか。
いつもみたいに彼女がいて、いつもの言葉で迎えてくれるんじゃ。
そんな女々しい感情が今でも捨てきれない。
「ただいま」
返事がないことが分かっているのに告げる言葉はまだ慣れない。
でも、慣れなければならないのだ。
エリザがいない生活。それが当たり前であることに慣れなければならない。
そうじゃないと、俺は前に進めない。
……進む必要はあるのか?
心の奥底、仄暗い部分がそんな事を囁く。
必要はあると言い返す。
必要はあるのだ。いつまでもエリザの残影に固執していると、あっちに行ったエリザは報われない。エリザには安心してもらいたいんだ。俺が1人でも大丈夫だと。
じゃないとエリザが安心して、向こうに行けないんだ!
……うん、いいこと言った俺。
ちょっとどっかで聞いたことのあるフレーズだけど、いい言葉はいいものだ。いい物は決してなくならない。
「大家さん来るし、ちょっとでも掃除しないとな」
部屋には全体的に薄っすら埃が積もっている。
こんな薄汚れた場所に大家さんを招待するのは心苦しい。
わずかな時間だが、掃除をしておくべきだろう。
「掃除道具ってどこにあんだろ」
靴を脱いで部屋に上がる。
ちょっとひんやりした廊下を抜け、襖を開ける。
見慣れた6畳間、その窓の側に夕暮れの光が差し込んでいた。
「あ……」
ああ、この光は……そうだ。よくここでエリザが居眠りをしていた。
俺が帰る時、玄関まで迎えに来ていない時は、大抵この場所で居眠りをしていた。
猫のように体を丸めて、赤子のようにあどけない顔で眠っていた。
その姿に神々しく不可侵なものを感じたのは、いつだっただろうか。もう随分と前にも思える。つい最近の筈なのに。
「……ふぅ」
歩みを進め、なんとなくその場所に胡坐をかいて座ってみる。
夕暮れの光に、体が包まれる。
なるほど、確かに温かくて心地いい。
「エリザが夢中になるわけだ」
笑いながら独り言ちる。
こんなに心地いいいと、そりゃ居眠りもしてしまう。
実際、今も眠気が体に満ちてきた。
「……くぁぁ」
エリザの真似をするように、畳に体を預ける。
欠伸が零れる。
夏のうだるような暑さじゃない、穏やかな熱に包まれた。
少しだけ。
掃除をしないといけないから、少しだけ。
そう思いつつ、温かさに体を委ねる。
その温かさはどこかエリザの匂いを感じさせた。
久しぶりに感じたエリザの温かさに、俺はゆっくりと意識を手放した。
■■■
「おはよう辰巳くん」
ゆさゆさと揺さぶられ、意識が徐々に覚醒する。
どうやら少しの間、眠っていたようだ。
久しぶりに夢は見なかった。
最近、夢を見たら一ノ瀬ハード淫乱度……じゃなかくてハートインランドでシルバちゃんと会うか、悪夢を見るかどっちかだったからな。
普通に眠ったのは久しぶりだ。
「もう夜だよ? そろそろ起きないと、こんな所で寝てたら、風邪引いちゃうよ?」
優しい声が俺の意識を揺り起こす。
徐々に覚醒していくと、自分の頭が畳ではなく柔らかい物……太ももっぽい物に乗っていることに気づいた。
太ももっぽい物はつまり太ももに近い物ってわけで、現実世界で限りなく太ももに近い物といえば……新種の大根、低反発大根だろうか。
しかし今のところそういった大根が開発された記憶はないので、今俺が枕にしてるのは大根じゃなくて、太ももだろう。この下りいるか?
「だめだよー? いくら温かくてもそのまま寝ちゃったら、風邪引いちゃうよ? ……あ、でももし風邪ひいても、わたしがちゃーんと看病してあげるからね!」
ふむ。
この太ももの持ち主は大家さんだろうか。俺が居眠りをしてる間に約束の時間になって、優しい大家さんの事だから畳を枕にしてる俺を見かねて膝枕をしてくれたのかもしれない。
「ふ、ふふふ……頭動かしたらくすぐったいよぉ、辰巳くん。もー、起きてってばぁ。ごはん作れないよぉー」
くすぐったそうに大家さんは言った。
あれ? でも大家さんって基本、敬語だったよなぁ……俺のことも一ノ瀬さんって呼んでたし。
俺のこと、辰巳君って呼ぶのは……エリザだけのはず。それに……声もエリザのものだ。
でもエリザがここにいるはずないし……だって、エリザは……。
薄っすらと目を開ける。
「あ、やっと起きたの? おはよ、辰巳君」
そこには、夕暮れに照らされたエリザが居た。
膝枕をした俺を見下ろすエリザから、サラサラと銀髪が流れ落ちる。
あの頃と変わらない。俺の前からいなくなった、その時のままの姿だ。
「エリザ……?」
ああ……どうしてこんな夢を見てしまうのだろうか。
ついさっき、エリザがいない生活を受け入れようとしていたのに。
やっと受け入れる為の準備が出来ていたのに。
もう、エリザがいなくても大丈夫だって、そう思えるようになってきたのに。
いや、違うか。そう思えていないから、こうやって後悔塗れの女々しい夢を見ているのだ。
俺の心の中では、まだまだエリザがいない生活を受け入れていないのだ。
こんな夢を見るくらい。
「あ、寝癖みっけー」
夢の、幻のエリザはジッと俺を見ている。
いつものように。俺の顔を何が楽しいのか笑顔で見つめている。
そんないつもの彼女に、俺は幻だと分かっていながら、彼女に話しかけてしまった。
「……おはようエリザ」
「ん、おはよー! よく眠れた?」
夢が俺の言葉に応えてくれる。まるで現実の、あの頃のように。
とても心地いい感覚だ。心が温かくなる。
このまま夢に浸っていたい。夢のエリザでいつまでも語り合っていたい。
でも、それは虚しいだけだ。話した分だけ、楽しんだ分だけ、夢から覚めた時の空虚さが増すだけだ。
分かってる。分かっているのに、それでも――手を伸ばしてしまう。
「あは、辰巳君の手、あったかいねぇ。この温かさすきー」
頬に伸ばした手にエリザがくすぐったそうな顔を擦りつけてくる。
エリザの、幽霊特有のひんやりとした冷たさと柔らかさを手のひらに感じた。
夢とは思えない感触だ。
いなくなったエリザを想い、焦がれ、夢見た結果、こうやって現実と遜色ない幻のエリザがある。
我ながらほぼ現実の存在を夢に実現する自分の妄想の逞しさに呆れてしまう。
「エリザ……」
去ったエリザを夢見ちゃうクソ雑魚メンタルは置いといて、エリザと久しぶりに会えたんだ。
「エリザ……フフフ……」
感動的な場面だけど、俺はもっと即物的に生きたい。
せっかくの夢だし、普段は出来なかったことをやろう。
かつてエリザが居た頃なら、間違いなく出来なかったことを。
別にいいじゃん。本物じゃないんだし、ちょっと調子に乗っても。夢だから目が覚めたら全部リセットされるし。
「んふー♪」
頬に当てた手に頬をスリスリ擦りつけるエリザ。
そんなエリザ(夢)に言った。
「ちょっと指、咥えてみてくれない?」
「へ? えっと……」
「ほら。怪我した指を舐めるみたいな? そんな感じ」
「あ、それならテレビで見たことあるよ!」
そう言ってエリザ(夢)は俺の手、その人差し指を口に咥えた。
幽霊特有のひんやりとした冷たさ、それに反する体内の温かさが交じり合って、矛盾したなんともいえない感覚……!
ぬめぬめとエリザの舌が俺の指を這い回る。這い回れエリザたんって感じだ。
いやー、夢って本当にいいものですねぇ。現実ならドン引きされることも、こうやって都合いい展開に。欲望が満たされるぅー!
もう俺、夢から覚めなくてもいいかも。
このまま夢のエリザと一緒にめくるめく蜜月の日々を……!
よし、次はエリザの足で俺の――
「んー、しょっばいかも。でも、えへへ、たのしー。他の指もする?」
「え、あ、はい」
「じゃー親指ー。辰巳パパにちゅー、なんちゃって♪」
俺が望んでいないことを先んじてした夢エリザ。
楽しそうに親指をペロペロしている。
お、おかしいなぁ……夢なら俺が夢想した通りの展開で進むはず……。
俺は別に親指をペロペロして欲しいなんて思っていない。他の指をペロペロするならお姉さん指をペロペロしてもらって百合魂を満たしてもらう。
夢が俺の意に反して、自発的に行動を起こすなんて……。
あれか? 機械の反乱ならぬ、夢の反乱か?
『違うぞ』
え? 何が違うのシルバちゃん。
『だから違うぞ。これは夢じゃない。というかお主、夢だと断じた瞬間、即座に自分の指をしゃぶらせるとか……流石の妾もヒくわ……』
指だからセーフ! 指だから倫理機構も動けないもーん!
ん? んんん? 待て。夢じゃないってことは……現実?
いやいやいや。だっておかしいじゃん。エリザがここにいるはずないし。
エリザは――
『そんなこと、本人に聞くとよい。妾は……くはぁ……そろそろ眠い。昨日夜更かししてお主が初めて妹と喧嘩した時の履歴を読んどったからのぉ。まさかあの妹があんな殊勝な態度をとるとは……ふわぁ、眠い眠い。というわけで妾は寝る。ん? こんなところによい感じの枕が……何じゃこれは。マフラーが巻かれた卵? まあ、よいか』
などと言いつつ、俺の心に住んでるシルバちゃんは眠りについた。
勝手に寝たり、人の脳を弄ろうとしたり、ヤバイわこの人。でも可愛いから許しちゃう。褐色ロリだから許しちゃう。
「もにゅもにゅ……んむ、どうかした辰巳君? 他の所もペロペロする?」
ご飯おかわりする? みたいな感覚で笑顔を俺に向けて来るエリザ(夢)
シルバちゃんの話では、これは夢じゃないらしいが……やっぱりそれはありえない。
だってエリザがここに居るはずないのだ。
エリザは俺の下から去った。いなくなったのだ。
それは変えようもない過去。
彼女は去り、俺はそれを見送った。
違えようのない記憶。別離の記憶。
じゃあ……目の前にいるこの少女は誰だ。
エリザを騙る何者か? しかしこの雰囲気、幽霊であることには間違いない。
例えエリザを騙れたとしても、幽霊を騙ることは出来ない。
「な、なぁ……」
「なぁに、辰巳君?」
俺は問いかけた。
たとえ、この夢のような会合が崩れ去ったとしても、真実を見極めたくて。
いるはずのない少女の正体を掴みたくて。
もしかしたら、もしかしたら……目の前の少女は俺が焦がれ、夢見ていた、彼女ではないかと。
限りなく零に近い希望を胸に秘め。
問いかけたのだ。
「……温泉旅行行ってたはずだよな、エリザ」
「途中で帰ってきちゃった。えへへ」
なーんだ。途中でかえって来ちゃったのかぁ。
問題☆解決!(横ピース)
■■■
4泊5日の温泉旅行から、途中で帰ってきちゃったエリザは続けた。
「うん。あのね、旅行、すっごく楽しかったけどね。家にいる辰巳君はどうしてるかなーとか、ごはんちゃんと食べてるかなーとか、わたしがいなくてもちゃんと起きれてるかなぁーとか。考えてたら……あ、あのね。その……わたしが寂しくなっちゃって。……帰ってきちゃったの」
先生に怒られる生徒のような表情でシュンと俯くエリザ。
俺はそんなエリザの頬を優しく撫でた。
「そっか。お帰りエリザ。途中までだけど、旅行は楽しかったか?」
「う、うん! すっごく楽しかった! みんな優しくしてくれてね! 花子さん……あ、えっと一番偉い人ね? その人がね、いっつも側にいてくれて! 恋愛相談も……あ、こ、これはないしょだった。あ、あのね、わたしが知らなかった幽霊の常識とかいっぱい教えてくれたの!」
「そっかぁ」
よかったよかった。
エリザにも友達が出来たようで、俺も一安心だ。
俺が来るまでこの家に縛られて1人っきりだったけど、こうして他の人との話を聞くと……うん、ちょっと嫉妬するかも。
でも、エリザにとってはいい事だ。
せっかく、限定的とはいえ、この部屋に縛られることは無くなったわけだし。
いやぁ、エリザが成仏しかかったり、色々あったけど、落ち着くべきとこに落ち着いてよかったなぁ。
俺がダイエットに成功したと思ったら、エリザの成仏問題が続いて発生したけど……解決してよかったぁ。
今となってはいい思い出だ。大変だったけど、終わってしまえばただの過去だ。
■眠そうなシルバちゃんが教えてくれる第三章『大切なもの』のあらすじ■
「ん? 何じゃい、妾は今から寝るところじゃぞ?」
「なに? エリザ? 成仏? 何があった? ……はー、何じゃ、妾に説明しろと言うのか?」
「妾、眠いんじゃが。もういいじゃろ。……何やかんやあって平和に暮らしましたとさ、めでたしめでたし」
「はー? それじゃ満足できんのか。あー、はいはい。分かった。分かったから」
「えーっと、ほらあれじゃ。何か消えたろ、幽霊娘? エリザとかいう。幽霊として生まれた……いや、生まれたというのは変な表現か。幽霊になったからには、抗えない終焉。――成仏じゃの」
「まー、妾がみるにそれはもう幸せに過ごしとったからのぅ。そりゃ未練も無くなって成仏するわ」
「で、妾の契約者はまあ……幽霊として成仏するならそれは自然の摂理かーとか、でもでもーとか、人間らしく矮小な悩みを垂れ流しつつ、周りに相談したり、1人で塞ぎ込んだり、幽霊娘の希望で初めて外で合瀬を交わしたり……」
「何やかんや探偵娘に叱咤されたり、黒ローブ娘に激励されたり、幽霊娘の過去を聞いて消沈したり、かと思えば大家の小娘の言葉で奮起したり……」
「ふわぁ……」
「えー、あと何じゃっけ……結局、幽霊娘の本心? もっと一緒に? ……何じゃったか。まあ、それを聞いて、それから……ねむねむ」
「まあ……話数で言ったら12話分の……話数ってなんじゃ?」
「ともかく、最終的に妾が主の願いを叶えたのじゃ。妾、本来の力を使ってな」
「こう、ワーって、本当の力をゴーって、ピカーって、そんな感じじゃ」
「それで、幽霊娘は現世に留まって、あ、ついでにこの部屋に縛られた地縛霊からちょっと成長して、視える者以外にも任意で見られるようになったり……あー、それで大家の小娘と仲良くなったんじゃったか」
「それから、それからぁ……町の化生が集まる会のようなもんに捕捉されて……」
「で……10年に1回の温泉旅行に……誘われ……」
「主と離れるのは嫌がっておったが、これも一つの経験と……」
「そういえば妹殿がそろそろ……」
「……」
「……ぐぅ」
■■■
「ね、ねえ辰巳君?」
俺の手を握ったエリザが辛抱堪らんといった表情で言った。
「あ、あのね。辰巳君とずっと会えなかったからね、寂しく寂しくて……もっとぎゅーってしていい?」
「あ、うん。いい――」
言い終わる前に、エリザは俺の胸に向かって飛び込んできた。
膝枕していたエリザが俺の胸元に飛び込んでくるってことは、俺の頭が畳に落下して呻いてる俺の胸に飛び込んでくるわけだが。
「えへー、えへへー……辰巳君の匂いだー、いっぱいほじゅーしないとー、スリスリ」
と胸元に頭を擦りつけてくるエリザを拒むことは出来なかった。
エリザの頭を撫でながら天井を見上げる。
胸が何かに満たされたかのように温かかった。
欠けていたピースが埋まったかのような感覚。
寒かった部屋に小さな火が灯ったような、そんな感覚。
心底嬉しそうに俺の体に自分の体を擦りつけるエリザに、俺は優しく声をかけた。
「――おかえりエリザ」
「うん! ただいま辰巳君!」
いつもとは反対のセリフに、やっぱり心が温かくなる。
空いたいた心の隙間があっという間に埋まっていく。
側に居てくれるだけで、俺の心を満たしてくれる。……やっぱりエリザは俺にとって特別な存在なんだ。
多分、エリザにとっても俺は……。
■■■
エリザが帰ってきて暫く経った。
帰ってきた日の晩、大家さんが約束通りやって来て「対婚活用着物サキュバスの出番がぁ……」とガックリ膝を落としたが、それはそれとしてエリザが帰って来たの事に喜んでいた。
エリザが任意で他の人に見えるようになってから、エリザと大家さんはすぐに仲良くなったのだ。お互い、存在は知っていながら見えていなかったからな。
その日の夕食は大家さんとエリザの合作でそれはもう、豪華な食事だった。
そして翌日。
夏休みに入って授業がなくなった俺は、大学生らしくダラダラ過ごしていた。
遠藤寺との約束もあるが、時間にはまだまだ遠い。
部屋でダラダラしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「あっ、ごめーん。辰巳君出てー」
揚げ物をしているエリザが台所から言ったので、玄関に向かう。
任意で姿を見せられるようになったといっても、ある程度霊感?みたいなものが無いと、エリザを認識できない。
だから基本的に来客は俺が対応する。
といっても、来客するのは大家さんか、宅配のお兄さんくらいだ。もしくはN〇K。あと宗教の人。
宗教の人に対してはスパゲッティ・モンスター教の有難さを語ればすぐに退散するし、NH〇は岬ちゃんがカワイイ。問題ない。
恐らく来訪者は宅配のお兄さんだろう。この間、楽天Bo〇sでスナックバ〇江と怒りのロー〇ショーを注文したっけ。……あれ、どの本屋行ってもないからな。
ルンルン気分で玄関の扉を開ける。
「――フフ、兄さん。久しぶりですね」
玄関を開けたら趣味で兄のトイレ時間を管理してそうなやばいタイプの妹がいたので、ノータイムで扉を閉めた。
きっと気のせいだろう。
だって雪菜ちゃんがここ――俺の聖域にいるはずないし。
だからきっと幻か夢だ。
扉の向こうで常人なら3秒で失禁するだろう怒りのオーラを感じるけど……夢だって。
というわけで、後は次章の俺に任せることにした。
頑張れ次章の俺! 負けるな! 腹にジャンプ仕込んどけ!
エリザが戻って来たので、タイトル変えます。