続・大家さん
次、エピローグです。
大家さんのちっちゃな手で引かれた先は、アパートの裏手だった。
人気がない、建物の影になっている場所だ。
そういえば前にここで麦わら小学生がスカートを持ち上げて俺に見せつけてきたっけ。懐かしいなぁ、フフフ。
『フフフ、じゃないが』
アパートの裏手は少し涼しく、エアコンの室外機の音だけが響いていた。
ここなら、ちょっと大声を出したり軽めの悲鳴が響いたり争い合う音が聞こえても、世論には何ら影響は与えないだろう。
『お主、発言が拉致監禁タイプの犯罪者のそれじゃな……』
何でちょっと周囲の情報を述べただけでそんな事言われないといけないわけ?
言いたいことも言えないこんな世の中じゃポイズン! 毒舌系モノローグとかも禁止されるとか、ほんま世の中世知辛いのじゃ……。
「うん、ここなら……誰もいないですね」
脳内妖精と語る俺をよそにキョロキョロ周囲を見渡す大家さん。
確かにここなら、誰もいないだろう。
こんな人気のない場所に連れてくるからには、大家さんが語る情報は、それはもう値千金の徳川埋蔵金並みのレアな情報なんだろう。
ちなみに、前回までのあらすじを覚えていない方に、何で俺たちがこんな人気のない場所にいるかを説明すると
――今日すっごく暑い! でも大家さんとっても涼しげ! ナンデ!? ナンデ!? フシギ! オシエテ! 教えて大家ちゃん! いいですとも!
というわけである。実際はこれまでに至る、数多の権謀術数があったわけだが、それは略す。
「……コホン。じゃあ……一ノ瀬さん? 今から話すのは、内緒ですよ? ほんとに、ほんとーに……! 内緒の話ですからね! シークレットですからね? いいですか!?」
珍しく険しい表情を浮かべた大家さんが、ズズイっと俺を追い詰める。どうでもいいが、シークレットの『シー』の部分だけ人差し指を口に当てるジェスチャーで可愛かった。
大家さんにズズイっと追い詰められた俺は、アパート裏にひっそり生えている、この下で卒業式に告白されて生まれたカップルは幸せになりそうな樹を背にした。
すごい……すごく太い……太くて立派な樹……。
背にしてるだけで爆弾処理班1級に昇格しそうな樹にうっとりしていると、大家さんがやはり切羽詰まった様子で語り掛けてきた。
「ほ、本当にお願いしますよ? 他の住民さんには『え? 全然汗かいてない? ……ふふふっ、それは……ずばり、わたしは大家さんだからなのです! ふふーん! ちょっとは尊敬してくださいね! えへへ!』みたいな調子こいたこと、ブイブイ言っちゃったんですから! ほ、本当に、本当に……ここだけの話にしてくださいよ……?」
壁ドンならぬ、樹ドンをしながらそんなことを語る大家さん。
水のない所でこのレベルの壁ドンを……!
かなり切羽詰まっているらしい。
「あ、あの……本当に、一ノ瀨さんだけですからね! ぜっっったいに! 絶対に他の人に言っちゃダメですからね!」
俺を樹に押し付けながら、ちょっと涙目で言う大家さん。
彼女にとって、大家という役割はそれくらい、不可侵なものなんだろう。
住民を管理し、時に慈愛の手を伸ばす大家……彼女にとってそれは、神にも等しい役割。
住民に舐められたら負け……そんな意思を感じる。
そんな彼女が俺にだけ内緒にしていた短所を語ってくれる。
それはとても光栄なことのはず……!
「……ふぅ。じゃ、じゃあ……行きますよ?」
改めて周囲の人がいないことを確認した後、大家さんが何らかを覚悟をした眼で言葉を放つ。
「ゴ、ゴクリ……」
とまあ、大家さんの秘密を暴露されるに値するそれっぽい生唾は呑み込んだものの……ある程度、ネタの予想はしている。
このクソ暑い中、汗一つかかない彼女。
彼女の体から聞こえるモーター音。
そして普段彼女が着ている服と若干違う服。
それだけでこの後、彼女から語られる秘密を予測するのは容易いだろう。
恐らく彼女の秘密は――服の下に扇風機を仕込んでいることだろう。
いわゆる一つの空調服ってやつだ。
空調服ってのは電池やバッテリー、そして扇風機が仕込まれた服で、ネットとかで普通に売っているヤツだ。分からない人はググってね。
主に夏に外で仕事をする人に向けた作業服をカスタマイズした物だ。
今日び、別段珍しくもない代物だ。まあ、着物にそれを組み合わせる人とか、目の前の大家さん以外にいないだろうけど。
しかし、秘密を見せてくれるって……どうする気だ?
服の下に仕込んでるだろうし、まさか服を捲って見せてくれるなんてありえないだろうし……ハハハ、ないない。
「い、一回だけですからね? な、何度も言いますけど、絶対に他の人には内緒ですよ……?」
念を押すように言った大家さんは、何を思ったか着物の太もも辺りを掴んだ。
そしてスススと上に持ち上げていく。
「……え?」
何やら信じられない展開が目の前でスタートしていた。
大家さんがちょっとずつ下半身を露出させている。
普段、足元まで覆われている布が持ち上げられ、今は足首が見えている。
……何だ、夢か。だってこんなんありえないし。
いくら大家さんが天然だからって、自分の秘密を見せる為に服捲り上げるとか……妄想乙☆!
きっとあんまりにも暑すぎて、俺の頭は茹で上がってしまったに違いない。んでこれは倒れてる俺が見てる夢だ。
現実の俺は倒れた後、大家さんの部屋に運び込まれて、膝枕で介抱されてるはず。……うおおお!? 目覚めなければ! 目覚めよ一ノ瀬辰巳、覚醒の時は来た!
シルバちゃん、今すぐ俺の頬を抓ってくれ!
『いや、妾が頬を抓るのは物理的に不可能じゃが……前頭葉辺りをキュッとしてやろうか?』
セルフロボトミーはノゥ! ほんともー、俺の心のヤバイやつはすぐ人の脳をどうこうしようとするんだからぁ。
仕方ないから自分で頬を抓ると……痛い。
え、これ現実なの? ToL〇VEるでは日常的に起こるタイプのイベントだけど、ここ現実世界だぜ?
もしかしてこの世界ってToL〇VEるの二次創作世界だったりするの? だとしても俺は間違いなく猿山ポジションであって、こんなエチチな展開を享受出来ないはず。
現実と非現実が俺を奪い合ってで何だかコワイ。
わ、分からん……何なのだ、これは!どうすればいいのだ!?
これが現実なのか、それとも妄想なのか、もしかするとこの世界は創作の世界で俺は5分前に生まれた胡蝶の夢がマトリックス的なダンガンロン――なんて混乱した俺が出した結論は――夏だから。
そう、夏が全て悪い。
こんな妄想染みた展開も夏が悪い。
一見、涼しさを享受している大家さんだが、やっぱり夏の暑さには勝てなくて頭がちょっと茹で上がっているのだろう。
だからこんな、自分で裾を持ち上げていくみたいな、ドスケベ行為に走っているのだ。
清純で無垢な大家さんにこんな、ビッチ行為をさせるとは……許さん、許さんぞ夏……ナツコ(夏の擬人化キャラ)……マジで封〇演義の件は許さんからな。
原因が夏の暑さだと分かったところで、俺にはどうすることもできない。
夏に侵された大家さんの卑猥な行為を見守るしか出来ないのだ……オヨヨ……自分の無力が悲しい……オオオ……アッヒョオ、あグ〇フィーみたく笑っちゃった。
「うぅ……お、思っていた以上にこれ、恥ずかしいですね……ていうか、これ変態っぽいようなぁ……だ、大丈夫大丈夫、まだ清楚! まだギリギリ清楚だから! 清楚な大家さんが夏にちょっと大胆になったお色気イベントの範疇! まだセーフ! エリちゃん不在の内にこうやってちょっとでも好感度稼いどかないと……でもやっぱり恥ずかしい……!」
何か大家さんがブツブツ言っているので顔を見たら……目は涙目ですしね、顔はぼうっと赤くなってるしょ、これ夏にやられてる顔ですわ。
そんな大家さんの顔を肴にちょっとずつアップデート(物理)される下半身を見るのも乙なもの。
ジワジワと裾が持ち上げられ、足首の先は……脛だ。
足袋に覆われていた足首から、素肌がお披露目された。
うーん、遠藤寺の肉付きのいい足や美咲ちゃんの筋肉質な足もいいけど、大家さんのほっそりとした足もまたよし。みんな違ってみんないい。
この脛も可愛らしくて、いや脛って呼び捨てするのも失礼だ。スネちゃま。大家さんのスネちゃま、かいらしなぁ。
色も白くて水どころか銃弾も弾きそうなスベスベさで……ふむ物理無効持ちだな。
スネちゃまも大部分が見えたザマスけど、まだ目的のブツは確認できない。
も、もっと上にあるのか? バカな……まだ、上昇するだと……!
「「ゴ、ゴクリ……」」
俺と大家さんの唾を飲み込んだ音がシンクロした。
「くっ、ここから先は……は、はじゅ、恥ずかしすぎます……! で、でもここで引いてしまったら負ける……! 同棲ロリ自称お嫁さん幽霊とか属性モリモリなエリちゃんに勝つためには、あの子にない部分……大人の色気で挑まないと……! 競うな、持ち味を活かすん……ですっ!」
大家さんが何か、一つ壁を越えた。
そんな強い意思の籠った声と共に――Next stageへ――
そして現れたのは――太もも。
普段着物を着てるから初めて見る太もも。描写することすら躊躇してしまう、禁忌と神秘に包まれた場所。
大家さんがそれを自分から見せつけているというシチュエーションと恥じらいで今にも倒れそうな大家さんの表情で俺の脳はスパークライナーがハイしそうになった。
何とか脳が焼き切れずに済んだのは、その太ももにとても無粋な代物があったからだ。
機械音と共に動作する――小型の扇風機。
女スパイが拳銃を隠し持つポジションに、それはあった。
『何じゃ……ローターじゃないのか……』
落胆したシルバちゃんと同じく、俺も少し落胆していた。
機械が太ももの大部分を隠して残念に感じたということもあるが、どこか期待していたのだ。俺の予想を裏切ることを。
大家さんには特別な何かがあって、涼しさを独占しているのもその何かの恩恵だと。
しかし、実際は俺の想像していた通りの代物だった。
「はわ、はわわ……お父さんにも見せたことが無いところを一ノ瀬さんに……け、結婚……これはもう結婚してもらうしか……はっ!? はい終了! 閉店ガラガラです! と、というわけで見えましたか? 気づきましたか? これが私の秘密でしたぁ!」
大家さんが慌ててシャッターを下ろす。
太ももが隠れる瞬間、扇風機に隠れるように――何かの姿を見た。
「ちょ、ちょっと待った大家さん!」
「へ!?」
慌てて大家さんの手を掴む。
閉じられていたシャッターをこじ開けるように、裾を持ち上げる。
「きゃわー!? な、何ですか一ノ瀬さん!? もう閉店ですよ! サービスタイムは終わりなんですよぉ!?」
大家さんがグイグイ裾を下げようとするが、俺も対抗してグイグイ持ち上げる。
STR対抗ロールで勝利したので、再度太ももと相まみえることになった。
「あ、やっぱり力強い……一ノ瀬さんも男の子なんですね……って、いやいや! あ、あのですね? 一ノ瀨さん、いくら私の太ももが素敵で魅力的だとしても無理やりこういうことをするのは……ま、まあ無理やりも時と場合によってはアリなんですけど……今はダメー! 時が! 時が満ちてないですからぁ! 心の準備がまだなんですぅ!」
「大家さん、ちょっと静かにしてもらっていいでですか?」
「あ、はい。……あぅ、珍しい一ノ瀬さんの真剣な眼にグッときちゃった……でも恥ずかしいものは恥ずかしいです」
太ももに座する無粋な扇風機。
先ほど見た何かを求めて舐めるように観察していると、白い太ももが薄っすら赤く染まっていく。
よく考えたら、この状況って周りから見たら結構アレな状況なんじゃ……という思考はシルバちゃんに預かってもらって、観察を続ける。
すると……やはりいた。
『……?』
扇風機の影に隠れるように、小人さんがいた。
真っ白な着物を着た、小さな雪女みたいな小人さんがいた。
暫く俺を警戒した様子で見ていたが、俺が何もしない様子を見ると扇風機に向かってフーフーと息を吐き始めた。
なにこれ。
『ほう、付喪神じゃな。長い年月を経た道具に霊や神が取り憑いたものじゃ』
あ、知ってる知ってる。アニメで見たわ。あとLike〇ifeでプレイしたわ。氷庫さんが可愛かったなぁ。あと姫子ルートが悲しかった。
『何の話じゃ。……しかし、この道具、それほど年経てはいない筈じゃが』
確かに。
『……! ……!』
しかしちっちゃい雪女ちゃん可愛いなぁ。一生懸命フーフーして頑張ってるなぁ。
警戒されない程度に手を伸ばしてフーフー吐息に手をかざしてみる。ひんやり涼しい。
そうか、この雪女ちゃんのお陰で大家さんは涼しさを得てるのか。
まあ、実際一般的な空調服ってぶっちゃけそこまで涼しくはならないらしいし。
「なるほどなぁ」
「あ、あのー……何やら納得した様子の一ノ瀬さん? そ、そろそろー……下ろしてもいいですか? さ、流石に恥ずかしすぎて何だか頭がボーっとしてきて……あ、涼しい」
雪女ちゃんが慌てて大家さんの頭をフーフーしに行ったので、忙しそうな雪女ちゃんの為にも裾を離す。
ヒラリと着物の裾が舞い降り、下半身を隠していく。
よかったよかった。大家さんが俺の期待を裏切ってくれて。下半身に雪女ちゃん囲ってるとか、流石大家さんだわ。
色々な疑問が氷解(雪女だけに)したので、スッキリした。
改めて大家さんを見るとちょっと距離を取られていたので、さっきシルバちゃんに渡しておいた思考を返してもらってサッと青ざめた。
俺変態じゃん。大家さんの手を掴んで着物の裾を持ち上げて近距離でガン見してる変態ですわ。
罪深過ぎて自らシャトーティフに投獄されたくなったわ。
「ご、ごめんなさい大家さん! つ、つい……」
つい、なんだろうか。つい雪女ちゃんが見えて? Q(急に)Y(雪女ちゃんが)M(見えたから)とでも説明すんのか?
そもそも俺が雪女ちゃん見えたのって、この眼鏡のお陰だよな。大家さんはきっと自分に雪女ちゃんが取り憑いてるなんて知らないはず。
いや、ここで夏のせいにすれば……夏が熱すぎて犯した暴挙にすれば……いや、あんまりなっつん(夏の擬人化)のせいにするのんもなー。
俺がドモリまくっていると、大家さんは顔を赤くしてジットリとした目を向けてきた。
「……一ノ瀬さんのエッチ」
大家さんもエッチだろうが! と反論しようとしたがあんまり反論になってないので「ご、ごめんなさい」としか言えなかった。
「ま、まーまー! まあね! い、一ノ瀬さんも年頃の男の子ですからね、そりゃカワイイ大家さんに興味があるのはしょうがないですしね! ちょっと興奮してオイタしちゃっても若さゆえの過ちですよね! そもそも私が大人の色気を! 大人の色気をほんのちょこっと出しちゃったせいですからね? ふふふ、大人の色気……ふふ、一ノ瀬さんは悪くないです、ええ、男の子を惑わす色気を振り撒く私が悪いんです……うふふ」
くっそマウント取ってくるなこの人。
まあ、興奮してしまったのは事実だからしょうがないけど。でも大人の色気は無かった。それだけは言わせて欲しい。
大家さんはロリカワイイ。決して大人の魅力なんてない、と。
それはそれとして、秘密――扇風機について言及してみた。
「これですか? ふふーん、凄いでしょぉ? これ手作りなんですよ? 服と扇風機を一体化させる……こんな発想を思いつくなんて、流石私と思いませんか!?」
「いや、普通に売ってます」
「え? う、売ってるんですか?」
スマホを操作して空調服のページを表示する。
「ほ、ほんとだ。……よ、よかった。特許とか申請してなくて。恥をかくところでした」
「でも手作りって凄いですね」
ちょっと落ち込んだ大家さんをフォローする。
実際、空調服を手作りするとか、想像も出来ない難しさのはずだ。
「え。そうですか? えへへ、私って器用ですから。でも、結構大変だったんですよ、これ作るの。お金も掛かりましたしねー。夏でも涼しさを得る為に試作品もいっぱい作って、色々迷走もして……通気性のいい生地で作ったり、生地の裏に冷たいゼリーを張り付けたり、馬鹿には見えない着物、いっそのこと氷で着物を作ったら? なんてことも考えましたからね!」
「溶けますよね」
「いや、それくらい迷走してたんですよ。去年の夏は、ほんとーに暑かったんです。いっそのこと着物キャラ捨てて、水着で夏を過ごそうと思いました」
もしその時、大家さんが着物キャラを捨てていたなら、目の前には水着の大家さんがいたわけか。
そっちの世界線も見てみたいなぁ。ただキャラ的には出オチ感が凄い。ずっと水着のキャラって……大道〇きらか。
「そしてある夏の日、遂に私は天啓を得たんです。着物と扇風機を組み合わせる神がかった発想を……!」
その前に氷で出来た着物を思いつく辺り、去年の夏はそれはもう酷暑だったんだろう。
確か、去年の夏、俺は受験勉強をしてたっけ。
エアコンが壊れてクッソ暑い部屋の中で雪菜ちゃんと勉強。『兄さんの視線がいやらしいので』って言って意地でも薄着にならない雪菜ちゃんがぶっ倒れて、初めて介抱したり……色々あったなぁ。俺が生まれて初めて作ったクソ不味いお粥を文句も言わずに食べてくれて、あ、確かあの時は『手が使えないので兄さんが――』……ん? メールだ
『それ以上思い出すと兄さんの大切なフィギュアを全て溶かして固めたものを送り付けます』
ウチの妹ってエスパーだっけ? こおりタイプだったはずなんだけど……コワイ!
大切なフィギュアちゃんたちが批判上等な前衛アートになるのは嫌なので、これ以上考えないようにする。
「そして遂に完成したのがこの『対酷暑用着物型決戦兵器フェンリル-Ⅱ』です。……まあ、完成したのは夏が終わってからなんですけどね」
「意味ねー」
しかし去年作った物に付喪神が宿ったのか。
『まあ年が浅い物でも、作り手の執念やその他の要因で付喪神が取り憑くこともあるの。稀の中の稀じゃが』
ふーん、稀なんだ。大家さんすげーな。
『カカカ……愛情、慕情、嫉妬、憎悪、憧憬、欲望、優越、劣等、希望、絶望、空虚……人間が持つ感情は時に世界の道理すら捻じ曲げる。……それはお主もよく実感しておるだろう?』
俺が一番実感している? どういう意味だ?
その言い方だと、他にも俺の身近に付喪神を宿した何かがあるみたいだけど。
『カカカッ……ま、いずれ分かるの、いずれな』
きーにーなーるー!
あとそういう伏線染みた意味深なセリフをサラッと言うのってすっげえ憧れるー!
「このフェンリルを元に『対寒冷用着物プロメテウス』『農耕用着物パールヴァティー』『水泳用着物ワダツミ』『看護用着物ディアン・ケト』を作成したんですけど……み、見たいですか?」
大家さんが嬉々としてそんな事を語るので、思わずハイと答えたら、後ほど家でご飯を食べる時に大家さんのファッションショーをすることになった。
どうでもいいけど、モチーフにしてる神話くらい統一して欲しい。
そう思う俺であった。




