美咲ちゃん×麦わら小学生×オッサン
バトル回です。
先輩との会合を終えた俺は帰宅することにした。
普通の大学生なら放課後、友人と駄弁ったり、友人同士で集まってマリカーやスマブラに耽ったりするのだろうが、あいにく俺には、遠藤寺しか友人がおらず、その遠藤寺はとっくに帰ってしまったので、やる事がないから速やかに帰る。
「あっつ……」
太陽の熱がジリジリコンクリートを照らしている。
夏真っ盛りだ。地面を見ると焼け焦げてカラカラになったミミズが散らかっている。ちょっと焦げ過ぎた焼きそばっぽい。
早く家に帰らないと、俺もこのミミズ達と同じ運命を辿ってしまうだろう。
駅から大学へ伸びている坂を降りていき、途中で商店街を抜ける。
近くに大学があるからか、買い食いやら友達同士の雑談でそれなりに賑わっている商店街を抜け、アパートがある住宅街を歩く。
ここを曲がれば後は一直線でアパートに到着する、そんな角を曲がった――瞬間
「――カハッ」
腹部に強烈な一撃を受けた。
かなりキツイ一撃だ。問答無用で相手を潰そうとする意思を感じる一撃。殺らないと意味ないよ、そんな漆黒の意思――おそらく監督の指示だろう。知らんけど。
ああ……これは、アレだ。
俺が大家さんと日常的に仲良くイチャイチャしてる姿を見て嫉妬した大家さんのファンクラブ(マジであるらしい)の誰かが、暴走して俺に天誅をお見舞いしたのだろう。きっとそうに違いない。俺だって、もし大家さんのファンクラブに所属していて、大家さんが男とイチャイチャしているのを見たら、凶刃を走らせることに迷いはないだろう。
とうとうその日が来たのだ。大家さんみたいな可愛い大家がいるアパートに住んでる時点で、この結末は予想していた。いつか訪れるであろう最後が来てしまったのだ。
ED18『鮮血の結末』
脳裏にそんなEDタイトルが浮かぶ。
「い、一ノ瀬死すともイカちゃんは――」
腹部の痛みを堪えつつ、普段から考えていた辞世の句を述べる。いや、敢えて台詞は無しでイギーみたくニヤリと微笑むだけでもいいかも……知らねーのかよジョジョだよ。もしくは天に腕を突き上げて雷が落ちるのもいいかも……うーん、人生の最後って迷っちゃう! 1度しか無い機会だし、みんなの記憶に残るナンバーワンかつオンリーワンなエンドを迎えたい。
「……あれ?」
ただいつまで経っても、お迎えが来ない。そろそろ天使ちゃんたちが舞い降りて俺を連れてってくれてももいい時間なんだが……それに、ナイフやら包丁でグサッと来た割りには、それほどお腹が痛くない。最初の一撃から継続したダメージが無い。本来、刃物で相手を仕留めるなら、突き刺した後に内蔵に深刻なダメージを与える為、グリグリと抉り込むはずなのに。
天に向けていた視線を、腹部に向ける。
すると……なんということでしょう。
俺を襲った刺客は、最終話にブラックコンドルを仕留めたチンピラのような風体……ではなく、麦わら帽子を被り、真っ白なワンピースを着た幼い少女だった。
つーか、同じアパートに住む麦わら小学生だった。
「む、麦らァ……」
改めて今の状況を確認する。
刺客と思われる小学生の手元に、光物やそれに準ずる武器はなく、ただ俺の腹部に顔を押し付けているだけだ。
どうやら、アパート近くの角を曲がった瞬間、この麦わら少女が俺に向かって飛び込んできたらしい。
何だ、俺の命を狙う刺客じゃなかったのか……安心安心。
「……っ、……っ!」
少女はブルブル体を震わせ、俺の腹部に押し付けた顔をグリグリ動かしている。
何だなんだ。何がしたいんだこの子は。押し付けてる場所が場所ならプレイの一環に見られるぞ。
あ、もしかして……この状況……
「……相撲か? 相撲を取りたいのか!? なあ、相撲か! 相撲取るか人間!?」
『河童かな?』
シルバちゃんがツッコんできたが、普通に考えていきなりタックルされたら、辻相撲を挑まれたと思うだろう。
こう見えても俺は結構相撲が得意だ。
小学生の頃、田舎の祖母ちゃんの家に遊びに行った時は、いつも家の近くにある川に住む河童オジサンに稽古をつけてもらったからな。……ただあのオッサン、今考えるとただのホームレスなんだよな……しかも授業料代わりに渡すキュウリの食べ方が凄い変態的だった。こう、息を荒げつつ流し目で俺を見ながら舌を扇情的に這わせて……うん、この忌憶は封印しておこう。
「よし、相撲するならここは危ないな。土がある場所にしようぜ? あと、服が汚れるとアレだし、スクール水着に着替えた方が……」
「……! ……ッッ! ……ッッッ!」
俺の提案に、麦わら小学生は否定するように顔を左右に振った。
ちなみに先ほどからこの小学生が喋らないのは、普段からスケッチブックを使った筆談をコミニュケーションの手段にしているからだ。
ここで唐突なキャラ紹介。
この麦わらワンピース小学生は、俺が住んでいるアパートの住人だ。先ほども述べた通り、スケッチブックによる筆談をコミニケーションの主としている。あと、パパが筋肉もりもりマッチョマンで怖い。
ちなみに病気で言葉を使えないわけではなく、だたそういうキャラを演じているらしい。かなり特殊なキャラ性だが、そのキャラを中学、高校……と続けていくのか、どこかで黒歴史として封印するのか、正直楽しみではある。
「……っ」
少女は相変わらず体を震わせながら、俺の腹部から顔を離した。少女が流した涙やら鼻水がベットリ付着していてお腹の辺りが湿っている。ふむ、この部分は切り取って後で鑑識に回しておくか……。
少女は震える手で、背負っていたスケッチブックに何事かを書いた。
そして俺に見せて来る。
『たすけて』
たすけて……助けて?
ふむ、穏やかじゃないですね。こんな昼間っから助けを求めて来る小学生……事件性を感じる。
改めて麦わら小学生を見ると……体中が薄汚れている。真っ白だっただろうワンピースのそこかしこに茶色い汚れが見える。
そして、何だか……臭い。
全体的に臭気を纏っている。あまり近づきたくないタイプの臭さだ。逆に言えば近づきたくなるタイプの臭さも存在するわけだが、それをこの場で語ると明らかに尺が足りなくなるのでいつか出るだろう完全読本で語ろうと思う。
「つーか、お前臭いな……何? 何から助けろって?」
『――来る、あいつが……来る!!!』
そう書くと少女は涙目で俺の背中に隠れた。
うーん、なんだろう。この状況……何だか、デジャブを感じる。前にもこういうことがあったような……。
俺が過去話の回想をしていると、すぐ近くのマンホールが突然、カタカタ揺れだした。
「……ひゃわぁ!?」
麦わら少女が無口系キャラを放棄した、可愛らしい悲鳴をあげつつ、俺の背後に回った。
かくいう俺もビビリでね……いきなりマンホールが動き出したから、少女と同じように可愛らしい悲鳴をあげたが、割愛する。男の悲鳴とか聞いても楽しくないし。
少女と2人で震えていると、マンホールの蓋のカタカタがどんどん激しくなってきて――爆発した。
爆音と共に、マンホールの蓋が跳ね上がる。
瞬間、人影も飛び出てきた。
「――エントリィィィィィィィィッ!!」
掛け声とは全く別の意味と共に地下から吹きあがってくる人影。
人影は生意気にも地面にヒーロー着地をかました。
「フシュゥゥゥゥ……」
地下から飛び出してきた謎の人物は、深く息を吐いた後、顔を上げこちらを見た。
「麦わらちゃん……みーつけたぁぁぁぁ……」
「…………あぅ」
少女と同じく薄汚れた謎の人影――怪人ハゲエプロンこと肉屋の親父の粘っこい視線に充てられ、麦わら少女は卒倒した。
なるほど、少女はこのハゲから逃げていたらしい。通りでデジャブを感じるはずだ。前にも同じことがあった。あの時はオッサンから逃げる為にゴミ箱に隠れていたが、今回は下水道に隠れていたのだろう。
「ようやく追いつけたぜぇ……下水の匂いで俺を撒こうとするなんて考えたなぁ……だが無駄、無駄無駄無駄ァ! 麦わらちゃんが発するロリ臭は……下水の匂いなんて凌駕してるからなぁ! どこまでも地の果てだって追いかけるぜぇ! ヒヒヒッ!」
「うわぁ」
うーん、このオッサンが現在まで収監されずに生存出来ている理由が心底気になる。
マジでこいつ、アーカム〇サイラムとかに収監しとくべき存在だろ。あとデッド〇ン・ワンダーランドとか。
とにかく娑婆に置いといていい存在ではないだろ。
「さーて、ようやく追い詰めたことだし、俺の家に連れ帰って――ロリ年上女教師の背徳赤点放課後補修をみっちり4時間してもらうぜぇ……」
うーん、発狂しそう。SAN値チェックに成功しても、将来の人格形成に多大な影響を与えそう。
お祖母ちゃん(存命)からロリには優しくしろと遺言を受けていた俺は、流石にこの状況を見過ごすことは出来ず、背後で失神している少女を守りつつ前に出た。
「ど、どうも……」
「ん? 何だァ? てめぇ……」
麦わら少女に向けられていたオッサンの獣欲めいた視線が俺に向けられる。
怖い! 問答無用で敗北宣言したい!
だが背中で泡を吹きつつ、リアルタイムで悪夢にうなされている少女を見捨てるのは、人としてどうかと思う。
「お、おつカラーズ! ほ、ほら、俺だよ俺」
「ちっ、どっかで嗅いだ匂いだと思ったら……てめえか」
「そうそう。いつもあんたの店で買い物してる心優しい大学生です」
何故か分からないが、このロリ以外の興味はないオッサンは、俺に優しい。優しいというか、敵対しないというか。
とにかく、俺だって分かってもらえば、この場は収めてくれるはず。
「そうか。……さっさと、麦わらちゃんをこっちに渡せ。今すぐ渡せばてめえの命だけは助けてやる。だから早く渡せ、速やかに殺すぞ」
あれ?
「いや、あの、俺なんだけど……ほら、オレオレ」
敵意が無いことを示す為、可愛らしいポーズであるニコピョン族のポーズをとったが、オッサンはそんな俺を見て地面に唾を吐いた。
「カー……ペッ! 糞キメえな! 今のテメェはマジで捻り潰したくなるぜ! 前までは何か知らんがすげえロリ臭――大家ちゃまを凌駕するかもしれねぇロリ臭を纏ってたが……今のテメェからは微塵も感じねぇわ……何だったんだろうな今までのは……」
あ、あれ……おかしいな。
様子がおかしいぞ? 今までエリザと一緒に買い物とかしてた時は、何やかんやおまけをしてくれたり、優しくしてくれたはず……
「チッ、変だな……テメェを見れば見るほどムカついてくるぜ。何でテメェみたいなロリさを微塵も感じさせないガキに優しくしてやってたんだ俺は……」
もしかしてアレか。エリザが居たからか。ある意味永遠のロリであるエリザが憑依してたから、そのエリザを感じて俺に優しくしてくれたのか。
ということは今の俺はこのオッサンにとって、他のロリ以外の人間と同じ扱い……。
「おい時間切れだ」
おっさんは唐突に左手を突き出してきた。
俺の3倍はデカい手だ。だが、想像以上に綺麗な手だ。しっかり手入れをしているのか、肌荒れもないし肌質も綺麗だ。爪もしっかり整えてある。
「おう坊主。俺の手はデカいだろ? そして綺麗だ。だろ?」
「そ、そうですね」
「俺の手はな、左右でちゃんと役割を分けてるんだ。左手は――ロリを愛でる為の手。ロリの頭を撫でて、可愛い服を着せて、美味いもんを食わせてやる……その為の手だ」
突き出していた左手を引っ込め、右手を突き出してくる。
そちらは先ほどとは単体に、酷使しているのか肌荒れが見られ、肌の色もどこか……赤黒い。
「この右手は……何に使うと思う?」
「さ、さぁ……カレー食べたりとか?」
知らないし、知りたくもない。
だが、オッサンから知りたくもない情報が無慈悲に告知される。
「この右手はなぁ――テメェみたいな気に入らないヤツを……ドカバキグシャーしちゃう手なんだよォ!」
そう言うとオッサンはその巨大な右手を振り下ろしてきた。
すさまじい勢いだ。
あの巨大さと振り下ろすスピードから考えるに、俺みたいな人間1人を消し潰すことも可能だろう。まるで人間1人なら容易く食い破る一撃、名づけるなら――『一食い』
この後に待っているのは唯一無二の死――
え? 俺、マジでこんな意味不明なシーンで死ぬの? ロリコンのオッサンの一撃で?
マジで? 育ててたらいつの間にか愛着が沸いてた子供を庇って死ぬ――ピッコロさん的死に方じゃないの? あと教会の残骸の中で相棒と酒を酌み交わしながら死ぬ何とかウッドさんみたいな! そんな死に方がいいんだけど。
俺の死に方、こんななの? いやすぎるんだけど……
どんな人間にとっても死は平等だ。
金持ちだろうが、イケメンだろうが、有名人だろうが……訪れる時には訪れる。
だが、ありがたいことに、俺の死は今日じゃなかったらしい。
「ちえりゃあああああああ!!!」
突然飛び込んできた人影の飛び蹴りが、オッサンの無防備な胸部に突き刺さった。
住宅街を震わせる激しい一声と比例するように、オッサンが激しく吹き飛ばされる。
「シッ!」
飛び蹴りの勢いそのまま宙返りをして、地面に着地し、裂帛の息吹と共に構え取る少女――美咲ちゃん。
「ふぅー……えっと、あれ? 何かわるーい気を感じて飛び出してきたけど……大丈夫、辰巳?」
腰を深く落としたまま、いつもの笑顔を向けて来る美咲ちゃん。
この子は美咲ちゃん。色々あって俺のジョギングに付き合ってくれている、心優しい現役女子高生だ。適度に日焼けした肌とフリフリ揺れるポニーテールが今日も眩しい。
「み、美咲ちゃん?」
「おはよー辰巳せんぱーい! ん? えっと、もうお昼だからこんにちは? とにかくやっほー! 元気?」
俺は麦わら少女を腰に巻いたまま、尻もちをついた状態で首振り人形みたくカクカク首肯した。
「そっかそっか。何かねぇ、お昼ご飯の後のランニングしてたら、辰巳先輩の匂いがしてさ。わーいって感じで走って行ったら、熊みたいな大男に襲われる瞬間でさ! 思わず飛び蹴りしちゃって……えっと、倒しちゃってよかった? もしかして知り合い? すっごい、今までに無いくらい悪い気を感じたから、思わず急所に一撃入れちゃったけど……」
「知らない人かな」
悪い気とかいうあやふやな感覚で大の大人を卒倒させてしまった事に関しては思う所があるが……このオッサンならいいだろう。それにロリを救うための致し方ない犠牲、ロリテラルダメージだ。全く気に病む必要はない。
何ならもう一撃か二撃入れて、当分娑婆に戻ってこれないくらい痛めつけて貰ってもいいだろう。
「うん、助かったよ。美咲ちゃんが来なかったらどうなってたか……」
「え、そう? あたし先輩の役に立った? ほ、ほんと? ……えへへ」
俺の言葉にくすぐったそうに笑う美咲ちゃん。尻尾が生えてたらブンブン激しく揺れているだろう。うーん、やっぱり犬っぽい。匂いでこの場所まで辿り着いたとか、更に犬っぽさを感じる。ん? 犬だったら唐突にち〇ちんって声をかけても法には触れないよな……。
「だ、だったら褒めてもいいよ? お姉ちゃんね、いつもあたしがちゃんと宿題した時とか、頭撫でて褒めてくれるんだけど……た、辰巳もそうしていいよ? 特別だからね?」
特別だったらしょうがねえな。
リアルJKの頭を撫でるとか、時代が時代だったら晒し首にされるべき悪行だけど……特別だったら、しゃーなーなーもー!
俺は仄かに汗の匂いを纏っている美咲ちゃんに近づき、汗のせいかしっとり濡れている頭を撫でた。
久しぶりの感覚だ。
いつも頭を撫でていた相手――エリザがいなくなってから、久しぶりの行為だ。
近頃のJKにしては珍しく一切染色していない黒黒とした髪の毛を撫でる。
俺と身長があまり変わらない美咲ちゃんが、膝を折ってくれるおかげで自分の胸元辺りにある頭を撫でる。
「えへ。えへへへ……お姉ちゃんに似てるけどちょっと手つきが違う……」
頭を撫でながら感じる。
リアルJKの頭を撫でる行為――罪深すぎる。
来世に使うだろうポイントをガリガリ削っているような気がする。このまま来世ポイント(だろう物)を今使ってしまったら、来世の俺、生物を通り越して無機物――缶ジュースのプルタブになっちゃわない? 大丈夫? 可愛い女の子が自ら開けてくれるならいいけど『あーん、開けらんなーい。お願い♪』とか言って胸毛ボーボボーのオッサンに開けられたら死んでも死にきれないぞ……。
「えへへ……」
ま、来世のことなんてどうでもいいか!
来世って今さ! って偉い人が言ってたもんな! 来世より今だ!
今はくすぐったそうに笑う美咲ちゃんの頭を撫でるターン!
「ふふ、えへへ――ッ!」
撫でられてくすぐったそうにしていた美咲ちゃんが、突然、俺を突き飛ばし、自分は背後にステップした。
一体なんだ……と思っていたら。
「フゥゥゥ……いい一撃、だったなぁ……」
と深く息を吐いたオッサンが立っていた。
「……んー。鳩尾に思いっきり入れたはずなんだけど。半日は動けなくなるはずなんだけどなぁ」
オッサンから距離を置いた美咲ちゃんが、構えたまま心底不思議そうに言う。
オッサンは半日昏倒するだろう一撃を食らったとは思えないほとピンピンしていた。
「ま、いっか。――シッ!」
「ぐぅ!」
美咲ちゃんがオッサンの側頭部に強烈な足撃を入れる。
防御すらせず側頭部を打ち込まれたオッサンは、白目を向きながら撃ち抜かれた方向に倒れた。
と思いきや、跳ね上がるように立ち上がり、そのまま美咲ちゃんに向かって巨大な右手を振り下ろした。
「ズェアッ!!!」
「わわわっ。何このおじさん!? 物凄いタフだ!?」
食らったら即死確定なオワタ式一撃を身軽なステップで回避する。
「ガハハッッ! 無駄無駄ァ!」
海賊みたいに笑うオッサンの視線の先には――今もなお俺の背後で気絶中の麦わらロリ。
「場にロリが存在する限り俺は何度でも蘇るゥ! 可愛いロリが居れば俺は無敵だぜぇ! ガハハッ!」
リバイバ〇スライムみたいなオッサンだな。
ただの思い込み(プラシーボ)にしか思えない発言だが、実際美咲ちゃんの一撃を食らってもピンピンしている。
「これでっ――どうだっ!」
オッサンが振り回した右手を掻い潜りながら放つ水面蹴り。
強烈なその一撃がオッサンの巨体を転倒させる。重力に弾かれて地面に倒れこむオッサンの背中に多段ヒットする踵落としをお見舞いする美咲ちゃん。
「グァァァッ!」
よし、流石に今のはかなり効いただろう。
こうしちゃいられねぇ!
「よしッ!」
ここで俺がTOUJO! 守るのはYOUJO! オッサンが浮かべる苦悶のHYOUJO! そろそろ終わらせないと気になるKINJOからのKUJO! レミ×咲はSIJO!
女の影でバトルの解説なんてしてらんねえ!
必殺のカポエラン(中学から極めてきた我流の格闘技)をプレゼントフォーユー!
LAボーナスは俺のもんだぁ!
「オラアアア!!!」
俺は勢いよく立ち上がり、オッサンに最後の一撃をお見舞いしようと走り出した。
アイ〇ックさん直伝のストンプを頭部に食らわせ――
「効かねぇなぁ……BBAの攻撃なんて、いくら食らっても痛くも痒くもねぇなぁ……」
――ようと思ったが、オッサンが全国のJKに謝るべき失礼なことを言いながら立ち上がりだしたので、そのまま反対側に走り抜けた。
『お主は何がやりたいんじゃ』
脳内に響くシルバちゃんの声に「自分でも分からないです」と素直に答えた。
一方、オッサンにBBA呼ばわりされて、ちょっとショックを受けた様子の美咲ちゃん。
「うっ……あたし高校生なのにババアって言われた……む、むかつくぅ……」
軽く地団太を踏む美咲ちゃん。ちょっと頬も膨らませててカワイイ。
「あ? BBAがそんな顔しても可愛くねーんだよ。さっさと失せろや! それかママの腹ん中に戻ってもっかいロリになってから来いや!」
くっ、生JKに向かって何てことを……不敬罪を適用してやろうか。
ちょうど背後に回ったことだし、背中にサクッとバックスタブお見舞い出来ないだろうか……あ、いや無理だわ。
オッサン、視線は美咲ちゃんに向けてるけど、ずっと麦わらロリをターゲッティングしてるわ。感覚で分かる。意識されてんのが分かる。
「む、むかつくー……辰巳先輩もいるのに、いい所見せらんないし……仕方ない」
そう言うと美咲ちゃんはスマホを取り出した。
お、ポリスメン召喚か? しかし、いくら国家権力とはいえ、このオッサンを何とか出来るのか? ニューナンブくらいの弾丸だったら弾きそうだし……。
そもそも気絶してるロリを体にくっ付けてる時点で俺もヤバイな。
「あ、もしもし。はい、オッス! 美咲です、オッス!」
どうやら電話の相手は警官ではないらしい。
「はい先輩! ちょっとお願いが……はい。実はちょっとヤバイのと戦ってるので、アレ外す許可を……はい、ヤバイです。マジヤバです」
相手は……部活の先輩だろうか。
ちなみに電話中だが、オッサンは問答無用で美咲ちゃんに攻撃をしている。
電話をしながら華麗にステップを踏み、パリィし、カウンターを入れる美咲ちゃん。うーん、器用だ。可愛い女子高生がカッコいいアクションしてる姿を生で見られるとか、最高に得難い経験だ。惜しむらくはジャージを着てるから、チラリズムを全く期待出来ないのが残念だ。
「え? 強さ? えーと、前の合宿で戦わされた熊よりも強いと思います、オッス! 急所も全然効かなくて……はい、オッサンです。え? ちん――」
一瞬、美咲ちゃんが俺を見て顔を赤くした。
「えっとえっと、はい、そこもさっきから何発も入れてるんですけど、全く……だから……え! やった! 2つ外していいんですか!? ありがとうございマス! はい! はい! はい、終わらせたらちゃんとパンも買ってきます! ちくわパンとたくあんパン! え? あと5分!? わ、わっかりました! オッス! 失礼しまし――たッ!」
オッサンの顔に飛び蹴りをかまし、そのまま後方に距離をとる美咲ちゃん。
そして手にしていたスマホをポッケに入れて、フフンと得意げな笑顔を浮かべる。
「先輩の許可出たから、今からちょっと本気出すし。あ、見ててね先輩。瞬殺だから瞬殺」
オッサンの向こうにいる俺にフリフリ手を振ってきたので、振り返す。
よく分からんが、美咲ちゃんの本気が見られるらしい。アレを外すとかどうとか……ま、まさかブラを外すのか? あ、ありえるぜ……ブラと言えば拘束具の一種、それを外すことで身軽になるのは理に適っている。
つ、つまり昼間っから生JKのお着換えタイム突入ってわけ? オッサンに見られたら可哀そうだし、いざとなったら俺で隠さなきゃ……!
「よーし」
美咲ちゃんが突然屈みこむ。そしてジャージの裾を捲り上げた。そして現れる女子高生の脛――に巻き付く無機質感バリバリの重り。
それを外し、地面に落とす。ズン……と地面が揺れた気がした。
こんな漫画みたいな光景を見ることになるとは……つーかブラじゃないのか……残念……。
「じゃ、行くよッ!」
ピョンピョンと身軽そうに跳ねていた美咲ちゃんが、地面を蹴る。
その速度は先ほどの比ではなく、ぶっちゃけ何も見えなかった。ただ美咲ちゃんらしき残像がオッサンを一方的に蹂躙する光景。
「糞ガァァァァ!!!」
拠点に入られてプンプンなアイ〇ズ様みたいな声をあげつつ、オッサンは闇雲に手を振り回した。
だが当たらない。当たるはずがない。
「ロリが見てる前でこんな無様な真似見せるなんて――いや、これはこれで気持ちいいなぁ! もっと見てくれぇ!!!」
恍惚としたオッサンがただ嬲られる光景を見た俺は……
「うーん、何か……うん」
正直、ちょっとテンションが下がっていた。
だって見えないもん。さっきまでは美咲ちゃんがカッコ可愛く戦ってる姿が見られてウハウハだったけど、今……オッサンが嬉しそうに苦悶の声をあげながらボコボコにされてる光景しか見えないもん。俺は一体何を見せられてるんだ。オッサンがリョナられて喜ぶ性癖なんて持ってないよ。もっと美咲ちゃんを見せてくれよ! バトルの解説も雑になるわ! つーわけで以下略。
それから。
絶対に復活するオッサンVS絶対にオッサンを倒すJKの勝負は……時間切れに終わった。
目を覚ました麦わらロリが目の前の光景にドン引きしてそのまま近くの壁を登ってアパートに逃げてしまったからだ。
ロリがいなくなった事でやる気を無くしたオッサンは「もういいわ。ロリがいないからかーえろ」とノシノシ帰ってしまった。
残された俺とハァハァ息を荒げてちょっとエロイ美咲ちゃん。
「むぅぅ……倒しきれなかったぁ……!」
「お疲れ美咲ちゃん。あとありがとう助けてくれて」
「んーん、全然いいよ。辰巳が困ってたらいつでも助けに来るから! でも……むむむ……もっと修行しないと……」
オッサンを滅ぼせなかったことが、かなり堪えたらしい。
多分、アレ人間じゃなくて妖怪とか怪物に近い存在だから、倒すなら神秘性に籠った概念礼装とかがいると思う。
「あたしもっと強くなるから! もっと強くなって次はカッコいいところ見せるからね! 辰巳先輩があたしに見惚れるくらい、強くなっちゃうから!」
強さで見惚れさせるとか、発想が古代のそれだな……。
「わ!? あと3分だ!?」と言って走りさる美咲ちゃん。
俺は美咲ちゃんの背中を見送り、誰が通報したか分からないけど、今更になって到着した警官相手に穴と空いたコンクリートとか凹んだ壁の説明をすることになった。
いつも俺を職質する警官ちゃんだ。
数か月前、俺がこの辺りに越してきてから間もなく『腐った目をしている。何らかの犯罪の起こすのでは?』と懸念の声があり、結果、警官ちゃんが定期的に俺のショクムをシツモンしてくることになった。しかし、警官ちゃんは俺の事がキライみたいで、いつもいつも不愛想かつ高圧的に職質してきて、俺の心はイタイイタイなのだった。
バトル回でした。