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真・家賃1万2千円風呂共用幽霊付き駅まで縮地2回  作者: タクティカル
真・第一部 シンプルなタイトル編
4/29

デス子先輩

夏休みどこ……? 

 足取り軽く去っていく遠藤寺を見送り、俺は同好会『闇探求セシ慟哭』略して『やみどうこく』――いや、ここは思い切って『やみどう』くらい大胆に略すか。

 そんな『やみどう!』の部室である空き教室の前に立った俺は、いつも通り扉をノックしようとした。


「……いや、待てよ」


 このまま普通にノックをして入ってもいいものだろうか。

 俺の中にちょっとした悪戯心が芽生えた。


 だって、この部室の主である先輩は、普段から俺にスタンガンをかましたり、拉致して椅子に縛り付けたり、肩を露出して湿布を貼らせたり……と、かなりサプライズな演出をお見舞いしてくるし、たまには俺の方からお返しという名の逆サプライズをしてもいいんじゃないだろうか。ちなみに露出肩湿布に関してだけは、今後もどんどんお願いしたい。


 しかし、サプライズか……どうしたものか。先輩をビックリさせる方法。

 全裸で突入してみるか? いやリスクが高すぎる。先輩ビビらせるの引き換えに豚箱にぶち込まれるのはリスクとリターンが釣り合ってない。じゃあ刃牙のドイルみたく、窓ぶち破って教室に侵入……辰巳的にかなり驚きポイント高いけど、物理的に不可能か……。

 うーん、いい塩梅のドッキリって難しいなぁ。下手にやり過ぎると、先輩に嫌われるし。

 適度に『もー、一ノ瀬君ったら……びっくりしたよぉ! デスデス!』くらいの反応で済ませるにはどうすればいいか。


「……うーん」


 ノック無しに入って、突然部屋の電気を付ける。

 こんなもんかな。

 しょぼいが、今出来る犯罪にもならず先輩にも嫌われないサプライズはこれくらいだろ。


 では実行。

 30秒ほど目を瞑り、闇に目を鳴らす。

 俺は大きく息を吸いながら、勢いよく教室の扉を開けた。

 


「狼が出たぞー!!!」



 アドリブのセリフと共に教室に飛び込み、真っ暗な教室の中にある電気のスイッチに向かう。

 そしてスイッチオン!

 教室に電気が付き、闇が淘汰される。

 急に光が差し込んだので、目が痛い。慣れるまでシパシパ瞬きを繰り返す。

 

 さて、先輩の反応はどうだろうか。

 びっくりして椅子から転げ落ちてたりなんかしたら、超ウケル。

 ……。

 さっきから先輩の声が全く聞こえないんだけど。

 え、もしかして最初から誰もいなかったとか? だったら俺、すっごい恥ずかしいんだけど。


「……一ノ瀬くん」


 教室の隅、いつも先輩が陣取ってる辺りから声が聞こえた。

 なーんだ、いるじゃん。

 ようやく光に目が慣れてきたので、驚いているであろう先輩に視線を向けた。


 ――ジャミラがそこにいた。


 正確には、ジャミラごっこをしている誰がかそこに立っていた。

 ジャミラごっこが分からない? ほら、上の服の後裾を頭に被せて、なんだ……画像検索して。

 とにかくジャミラごっこをしている何者か――面倒くさい推理パート省くと先輩がいた。


「……」


 いつも着ている黒ローブを頭の方から脱ごうとしている先輩だ。

 どうやらお着換え中だったらしい。

 ローブの脱げ具合からして、恐らく俺からは見えないが背後から見たらパンツ丸見えだろう。

 うーん、困った。

 漫画とかのラッキースケベ的な場面に憧れてはいたけど、実際自分で体験するとなると、なんかちょっとリアクションに困る。

 顔を赤くして手で目を隠す(勿論指の隙間から見てる)みたいなリアクションをしたいが、それにしてはどうも場面に色気が無い。だってジャミラだもん。


「……」


「……」


 先輩は先ほどの第一声以降、声を発していない。

 ただジッとこちらを見ている。顔はいつもの通り見えないが、ローブで隠されたその表情からは何かしらの圧力――恐らくは非難の感情がヒシヒシと伝わってくる。

 何か言わなきゃ。何でもいい、先輩のジャミラっぷり、イエスだね!とか。


「あの、ジャミ……いや、先輩、その……」


「……一ノ瀬くん」


 やったイベントが進行したぞ。

 先輩はスッと右手を上げ、先ほど俺が操作したスイッチを指した。

 

「……消して」


「はい?」


 リライトしてええええええ!ってこと?


「電気、消して」


 出来ればそのセリフは初めての夜とか、もっと色気がある場面で聞きたかった。

 間違ってもジャミラっぽい女の子に言われたくはなかった。


「あ、電気。はい」


 機械音声のような平坦な口調の先輩に従い、もう一度教室の電気を消す。

 そして世界は再び闇に包まれた……。


「目、瞑って」


「あ、はい」


 言われた通り、闇の中で目を瞑る。

 ここは大人しく先輩に従っておいた方がいいだろう。じゃないと何かヤバイ気がする。100万度の高熱火球とか吐き出されたら死ねる。

 目を瞑ったことで、視覚以外の感覚が鋭敏になった。

 待ってる間暇だし、自分の『はたらく感覚』に耳を傾けてみよう。


 聴覚――ゴソゴソといった衣擦れの音。これは、恐らく先輩が服を着替えている音だろう。え、生着替えってこと? こんな昼間っからJDの生着替えとか放送していいの? 土曜の深夜じゃねーんだぞ? え、何の話ってのりのりて――あ、住んでる所がバレる。

 嗅覚――教室中に漂う怪しげなお香……なんかお祖母ちゃんの家みたいな匂いだな。あと、それに混じってハンバーガーの匂いもする。まーた、昼間っから教室でソロバーガーですか。黒い服着てるヤツはソロで何かしら攻略しないといけないって縛りでもあんのかね。

 味覚――うーん、ほんのり甘い気がする。多分、この教室に澱んでる先輩の微粒子だな。何言ってるか分からんけど。

 触覚――今触れてるこのスイッチ……何だか温かい。俺が何度もクリクリするから照れたのかな?

 

 そして最後のシックスセンス、第六感は『ヤバイ』って告げてる。

 ちなみにヤバイって言葉の語源は戦国時代、戦場で腹這いになってる状態で頭のすぐ上を矢が飛んでいるような危険な状況、ってのが元ネタらしいよ。今5秒で考えた。

 以上、俺の感覚達でした。


「……一ノ瀬くん」


「は、はい」


「電気付けて」


 最早教室の電気オンオフマシーンとなった俺は、スムーズかつ最小限の動きで教室の電気を付けた。

 そして世界は光に包まれた。光あれ。


 教室の隅に視線を向ける。

 ジャミラを卒業した普通の先輩が、床に正座をしていた。

 

「こっち来て」


 有無を言わさない口調で、俺をオイデオイデする。

 さっきから先輩のセンテンスが短くてなんか怖い。

 あと声色が中二モードの芝居がかった感じでもないし、それが崩れた時の素っぽい感じでもない。第三の声色だ。


 あ、今更だけと目の前にいる黒いローブを着た女性が、この同好会の先輩であるデス子先輩だ。

 ちなみにデス子先輩ってのは俺が心の中で呼んでるだけで、ちゃんと名前はある。

 

 座ったまま微動だにしない先輩の前に向かう。


「ここ、座って」


 言われるがままに、先輩の正面に座る。

 あぐらをかこうとしたら「正座」と言われたので、慌てて姿勢を正す。


「……」


「……」


 ローブで顔が隠されて見えないが、視線がずっとこちらに向けられている。

 

「一ノ瀬くん」


「はい」


「どうしてノックをせずに入ってきたの?」


「いや、それは……」


 色々この場を誤魔化せるセリフが浮かんでくるが、先輩の視線にさらされていると、それが全て消えてしまう。無効化タイプの魔眼持ちかな。

 嘘や欺瞞が淘汰され、残ったのは真実だけだ。


「ちょっと、先輩を……驚かせようと、はい」


「そう。あのね、一ノ瀬くん。……そういうのはいいから」


「うっ」


 溜息と共に吐き出された先輩の言葉は、結構キツイものがあった。


「ノックせずに入ってきたり、ノックしないどころか足で蹴り開けてドアに穴開けたり、マンションの壁登って私の部屋の窓から入ろうとしたり……そういうのは、いいから」


「え、何の話?」


 最初以外全く、身に覚えがないんだけど。

 先輩は何だか、俺を通して別の誰かを見ているように思えた。この文章フレーズってよくNTRもののエロゲ―とかに出てくるよね。

 

「あのね一ノ瀬くん。ノックはしなきゃダメ。礼儀であり、一般常識だから。将来社会に出たときに、ノックする習慣が付いてないと大変にな事になるんだよ? 今回は教室だったからいいけど、ここが会社の社長室だったらどうするの? 社長室だったら絶対にノックしてたって言いきれる? 習慣が身についてなかったせいで、うっかりノックし忘れた……そんな事無いって絶対に言いきれる?」


 これ、怒られてるんだよな。

 それは分かるんだけど、この教師とか母親に怒られてるのとは違う感じ……なんだろうか。

 

「困るのは一ノ瀬くんなんだよ? それが原因で上司に怒られたり、評価が悪くなったり、最悪クビになって困るのは君なんだよ?」


 この感覚……雪菜ちゃんに説教されている感じに似ている。

 だけど、何か違う。

 怒ってはいるけど、その中にこちらを案ずる感情が伝わってくる、この感じ……。


「あのね、お姉ちゃんね別に君の事が嫌いで怒ってるわけじゃないの」


 姉だあああああああ!!!

 この初めての感覚、お姉ちゃんだ! 他人とも母親でも妹でもない、生まれて初めて感じるこれ……姉だ。姉ちゃん〇しようよ、とかで疑似的に体験したことはあるけど……まさかリアルな景観が出来るとは。そういえば先輩、妹がいるらしいし、お姉ちゃんなんだよなぁ。

 へー、これがお姉ちゃんに怒られてるって感覚かぁ。


「お姉ちゃんね、美咲ちゃ……じゃなかった、一ノ瀬くんの事が心配で怒ってるの。分かる?」


「……はい」

 

 他人のはずの先輩から伝わってくる姉としての感情……何だか本当に申し訳ない気持ちになってきた。

 そうだよな。マナー違反だったよな。先輩を驚かせてやろうと出来心でやってしまったけど、だからってやっていい事といけない事があるよな。


『スタンガンで拉致るのはええんかの?』


 あれスタンガンじゃなくてトールハンマーっていう神器らしいからセーフ。


「……ふぅ。それで私に言うことあるよね?」


「ご、ごめんなさい」


 その言葉は自然と出てきた。


「うん」


 先輩がローブの向こうで笑った。


「よく出来ました。すぐ謝れて偉いね。もうやっちゃダメだよ」


 そう言って頭を撫でて来る。

 あ、ああ、ああああ……お姉ちゃん、デス子お姉ちゃん……デス姉ぇ……

 俺の中に得体の知れない感覚が生まれた。

 マグマのように熱く、それでいて心地よい柔らかさ。そうか、これが弟になるって感覚か。


「デス子お姉ちゃん先輩……」


「っ!? あ、ご、ごめんね! ついいつも妹を叱る時と同じ感じで……」


 ワタワタと両手をばたつかせる先輩。


「俺、ただ先輩をちょっと驚かせたくて……」


「うん、分かる分かる。出来心だったんだよね? 私を楽しませようと思ったんだよね?」


 そうなんだ。

 椅子から転げ落ちた拍子にパンツの一つでも見られればオッケーくらいの出来心だったんだ……。

 それがこんな事になるなんて……やった。この選択を選んだ過去の俺、グッジョブ。


「もう怒ってないからね。今度からちゃんとノックしてくれたらいいから。ほら、私も1人でここにいる時にいきなり入ってこられたら困るから。……い、いや別に変なことはしてないけどね! 自分の部屋じゃないんだし! や、自分の部屋でも変な事はしてないよ!? だ、だからね、えっとえっと……」


 お、いつものガワが剥がれた先輩モードになってきたぞ。

 なんだ、お姉ちゃん先輩モードはもうおしまいか。残念だ。


「先輩、家で妹ちゃん相手だとあんな感じなんですね」


「うっ! さ、さっきの忘れて……忘れてよぉ……」


 忘れてって言われてポンと忘れられたら、MIBはいらねえっつーの!

 何が何でも覚えててやるからな!

 なるほど、先輩を適度に怒らせたら、お姉ちゃんモードになるのか……メモメモ。


「家で妹ちゃんに何で呼ばれてるんですか? お姉ちゃん? ねぇねぇ? 姉貴? あ、先輩だったら姉上とか姉君とか呼ばせてそう」


「うぅぅ……ああ、もう!」


 露出している皮膚を真っ赤に染めた先輩は、突然立ち上がって先ほどまで俺がクリクリしていた電気スイッチに走って行った。

 そのまま飛びつくように電気をオフにする。

 そして世界は闇に包まれた~ 2nd IGNITION~ 


 バタバタ走る音、そしてガタガタ何かを動かす音が聞こえた。

 後者は恐らく椅子だろう。


 暫くしてから、部屋の隅にある先輩のスペース辺りに薄っすら光が灯った。

 ゆらゆら揺れる光、蠟燭だ。

 蠟燭の火に照らされ、ぼんやり人影が現れる。

 椅子に座った黒いローブの少女。まあ、先輩だ。


「はぁ……はぁ、はぁ……よ、ようこそ一ノ瀬後輩……ふぅ、ふぅ……フフフ……我が深淵の領域に……待っていましたよ」


 ハァハァ息を荒げながら、いつもの中二モードに入った先輩。

 どうやら一旦リセットをかけたいらしい。

 こんな事をしてもさっきのお姉ちゃん先輩モードの記憶は無かったことにならないのに。

 だがいい。俺もさっき先輩を怒らせてしまった。その詫びに先輩の茶番に付き合ってやるとしよう。


「ええ、先輩。呼び出されたので来ましたよ」


「ふ、フフフ……ふぅふぅ……で、では会合を始めるとしましょうか」


 どうでもいいけど先輩マジで体力ないな。

 ちょっと教室の中を走って往復しただけなのに、息荒れすぎだろ。

 さっきから先輩の乱れた呼吸で蠟燭の火が消えそうなんだよ。


■■■


「では、今後の活動――主に夏季休暇中の我が同好会の活動について話し合うとしましょうか……フフフ」


「夏休み中もなんかするんですか?」


「ええ、もちろん。と言っても活動自体はこれまでと変わらず、人に非ざる者、闇に生きその姿を社会から隠している物、妖怪、都市伝説、幽霊、その他もろもろを発見することが我等の目的です。……あ、デス」


 あ、今デス付け足した! キャラ戻したんだったらちゃんとしてくれよな。


「じゃあ、今までと一緒で街中歩き回ってふしぎ発見する感じですか」


「……あの番組は好きデスが、もっとこう、深淵で闇っぽい影に潜む、こう……我等の活動はそんな感じなんデスよ。一緒にしないで下さい」


 相変わらずふわっとした説明だな。

 改めて説明するが、この同好会の活動はネットとか人の噂で集めた都市伝説やら妖怪みたいなこの世に存在していないとされている物を捜索するのを目的としている。

 ぶっちゃけオカルトサークル的なものだ。そう言うと先輩は「あんなお遊びと一緒にしないでください! ワタシ達のはガチデスから!」とぷんすこするので少し面白い。

 今のところ、この活動でそれらしい物を発見したことはない。情報を元に向かっても、海坊主って情報で言ったらハゲのオッサン(しかもロリコン)だったり、人魚の肉を食べた永遠の少女って情報はウチの大家さんの事だったり、超能力者がいるって情報で向かったらただの人形遣いの青年だったり……外ればかりだ。だからと言ってこの世にそういった存在がいない、とは言い切れない。だってウチにガチの幽霊いたし。いたもん! 幽霊いたもん! ほんとだもん!


「というわけで一ノ瀬後輩。今後も常日頃から超常的な存在を探し求めるのデス! そして定期的にここにきて、ワタシに報告をするように」


 という感じでたまーにこの教室に来て『何も発見出来なかったッス』と報告したり、ネットでそれらしい書き込みを2人で読んだり、先輩が集めたオカルト文献を読んだり、不思議探索をする為外でフィールドワークをしたり、そんな活動をしている。


「定期的ってどんくらいですか?」


「え? んんー……っと、週に……3回くらい?」


「えぇ、多くないですか?」


「じゃ、じゃあ……2回?」


 週4回遠藤寺と会う事になってるから、ここに週2回来てたら1日しか自由な日がないな。

 そりゃ困る。何もせず家でゴロゴロする日が欲しい。何もしないことをする――それって人間に許された究極の特権だし。きっと将来、社会に出たらその特権も剥奪されるだろうし、今の内に謳歌しておきたい。


「あ、じゃあ4回でどうです? ……月に」


「え! そ、そんなの駄目! ……げほん。流石にそれは少なすぎるかと。一ノ瀬後輩、アナタは我らの活動を何だと思っているのデスか? いずれ来る暗黒時代に備え、闇に生きる者たちの手を取り、彼らを束ね、その先頭に立つ――それが我等が目指す至高の目的。それなのに一ノ瀬後輩、あなたときたら――ね、ねえ……同好会いや? もう飽きちゃった? やめたい?」


「いや、別にそういうわけじゃないですけど」


 突然先輩が弱弱しい口調になったので、調子が狂ってしまう。

 モジモジと手の指と指を突き合わせる。


「そ、そっか。うん、それだったらいいんだけど……あ、あのね。も、もうちょっと来て欲しいかなぁって。えっと……あ、そうだ! 規約規約! 学校の規約でね、同好会でも夏休み中は月に6回……じゃなくて8回、活動しないと部費が出ないって規約があるの。だから、出来たら週2回は来ててほしいなあって……ダメ?」


 小首を傾げながら言う先輩。

 そんな風に言われたら断れないな。規約ならしょうがないか。規約とリンパの流れには逆らえないからな。

 何やかんや先輩にはお世話になってるし、この同好会が潰れたりしたら目覚めが悪い。

 何より先輩と過ごすのは結構楽しいし。先輩結構無自覚にエロイし。いい匂いするし。ここが無くなったら俺、この大学内で暇を潰す所無くなるし。大学構内にポツポツ休憩スペースあるじゃん? あそこで衆目に晒されながら休憩できる人ってマジで尊敬する。


「じゃあ週2回……来ます」


「ほんと!? ……フ、フフフ、それでこそ我が同志よ。今後もあなたの活動に期待していますよ……」


 先輩が組んだ両手で顔を隠しながら、低い声で笑う。


「フフ、フフフ……フフフフ……♪」


 ん? 何か……揺れてる? 気のせいか先輩の体が揺れてる気がする。

 テーブル越しに見える上半身に特に動きはない。

 だったら下半身に何か……よし。


 ――透けるとんグラァァァァァス!!!


 説明しよう。 

 透けるとんグラスとは、俺が持つ……というより、俺が装備している眼鏡ことシルバちゃんの特殊能力である。

 文字通り物体を透けて見ることができるのだ。エリザがいなくなってからあったゴタゴタで使えるようになった能力である。

 ちなみに服を透けさせてパンツとか見放題じゃん、と思うが何をどう透けさせるかはシルバちゃんの気分次第なので、そういった事は出来ない。いくら頼んでもしてくれない。

 

『ふむ? はいはい』


 目が熱くなって、テーブルが透き通った。

 そして現れる先輩の下半身。

 その下半身が揺れていた。

 楽しそうに足をブラブラさせていた。

 どうやら足をブラブラさせていたから、体も揺れていたらしい。


「なるほど」


「フム? どうかしましたか一ノ瀬後輩? さて、次回の会合ではまた外に出歩くとしましょうか。何やら面白い情報が手に入ったのでね。冷蔵庫を引きずる謎の少女――フフフ、これはまさしく、妖怪の類に違いありませんよ……フフフ……」


 怪しげに微笑みつつ、子供の様に足をぶらつかせる先輩を見ながら愉しい時間を過ごした。




 


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