そろそろ更新《やる》か……♠
エンッ!
――大家チャマのこと、泣かすんじゃねーぞ。
■■■
「うーん……はっ!?」
唐突に意識が覚醒する。
周囲を見渡すと……変わらない景色だ。
エリザと大家さんが買い物をしている下着屋さんが見える場所。
買い物が終わったのか、ちょうど、2人がこっちの向かっている。
買い物袋を持った手を仲良く繋いで、大家さんはちょっとテンション高めに頬を上気して、エリザは真っ赤になった顔を伏せて……ショップ内でどんな話をしたのか……想像するだけで何らかのバフがかかる、尊い光景だ。尊過ぎてToToになっちゃいそうだわ。
だが……何か忘れてないだろうか。
確か、俺は……2人がショップ内で買い物をしている最中に……謎の襲撃者に拉致られたような……。
今でもはっきり覚えている。いきなり背後から膝を蹴り抜かれた衝撃、青臭い臭いが充満するクッサイクッサイ袋に詰められた感覚、そのままどこかに運ばれる感覚……。白昼夢と男汁……もとい断じるにはリアルすぎる。
見ず知らずの襲撃者に運ばれる恐怖といったら……恐ろしすぎてまるで1年近くは運ばれていたと錯覚してしまうくらいだった。ハ〇ヒの最新刊待機してた頃みたいだな……。
「でも、まあ……夢か」
そりゃそうだろう。
こんな平和な昼下がりに人を拉致して、畑の肥料にしたり、お魚さんの餌にするヤバイ人間はいないだろう。
――泣かすんじゃねーぞ。もし泣かしたら、死なない程度に足の先っちょから肉を削いでって、それを目の前で食ってやるからなぁ
クエッ! ケェバブゥ!(多分鳴き声)
いない! いないからさっさと物騒な脳内ボイスは消えてくれ。マジで。
令和になってアペンド凌遅刑推進するヤツとか、間違いなくヤバイ奴だわ。
頼む……夢であってくれ……!
『ふむ。夢じゃないぞ』
唐突に人様のモノローグに割り込んできたのは……シルバちゃん。
俺の脳内フレンズだ。
『悪いが夢じゃぁない。夢じゃよ~と言っても良かったが、妾、前回結構しんどかったからのぅ……妾を労わる気持ちを込めて、聞け』
聞きたくないデース。トムの勝ちデース。
あの後に起こるだろう惨劇なんて知りたくないデース。
『聞け。聞きまくれ』
ヤダーッ! とダン飯のとマ〇シルっぽく訴えてみたものの、シルバちゃんは心の中在住の癖に人の心の機微を理解できない生物。
駄々をこねる俺に無理やり廃棄した記憶を詰め込むのであった。
■■■
「知りたくなかった……」
シルバちゃんが押し込んできた記憶は、それはもう……今にも放棄したい記憶だった。
俺を巡って男と男……オッサンとオッサンとオッサンが争い合う地獄。
やめて! 俺の為に争わないで! マジで! どっか別の場所で俺の関係ない別の理由で勝手に争って滅びてください。こんな記憶消して正解だな。記憶領域のメモリを消化するのが勿体ない。まあ、どうしてもって言うなら、美味い事編集して、刀語の錆〇兵みたく次回予告風にだけ残すけども。
しかし肉屋のおっさんが俺を助けてくれたのか……ありがたい事だけど、これの礼に体の肉を寄越せとか言われても困るからまあ……買い物の頻度を増やすくらいにしておこう。
■■■
と、いうわけで大家さんVSエリザの料理バトルが始まった。
鍋を振るう度に飛び散る汗と汗―――包丁煌めく一閃――ぶつかり合う互いの信念――と言いたいところだが、ぶっちゃけそこまで盛り上がらなかった。
実際、ウチのキッチンは1つしかないから順番に作ることになったし、作ってる間も世間話したり「へー、エリザちゃん。味噌多めに入れるんですねー」「これくらいが辰巳君の好みだからねーっ」「ほほーう、いい事を聞きました」「あー! これ盤外戦術ってヤツ!? ずるいよー!」「勝てばよかろうなんです、勝てばっ!」「大家ちゃんのエプロンかわいーっ! 猫ちゃんだぁ! にゃんにゃん!」「えへへ、にゃんにゃんっ」みたいなバトルとは程遠い時間だった。俺はこの光景を録画化したから寝る前のヒーリングミュージック代わりに聞くけど……貴様は?
そんなこんなで料理バトルはぐたぐたに始まり――途中で何故か雪菜ちゃんから宅配で届いた鯖味噌が参戦することになったけど――終始和やかに終わった。
どの鯖味噌も美味しい。みんな違ってみんないい。みんなが優勝だった。敗者なんていない、2人が勝者なんだ――。
「――と、いうことはー?」
「大家ちゃんとわたし、2人分の言う事聞いてね」
「「ねー?」」
とか言っちゃう2人の可愛いアタックに、まとめてツインバードストライクッ!
やれやれ、仕方ねえなぁ……2人とも、俺の翼決定!
2人が俺にお願いしたお礼とは……え!? エリザ、大家さん……そのちくわで何をするつもりなんだ……!? 次回――『ちくわ! ちくわ! ちくわ癖ついちゃう!』にロックオンっ!
■■■
オッサンWARから数日経て。
今日は遠藤寺と遊ぶ日だ。……いや、今日も、なんだが。
一昨日は昼間っから飲み歩きをして、昨日は午前中に隣町でやってる謎解き脱出ゲームに参加(遠藤寺的に簡単すぎて、ずっと欠伸してた)、午後からは図書館で大学の課題をした。
で、昨日別れ際に
『明日は動きやすい恰好で来てくれ。……ふむ、あとはそうだな……ま、まあ……あれだ。もしかしたら、そのなんだ。当日中に帰れない、なんてこともあるかもないかもしれないからね。世の中何があるか分からないし。だから、いくつか着替えも用意しておいてくれ』
ともじもにょ言われたから、現在の俺は結構大荷物だ。
高校の修学旅行以来使って無かった、ちょっと大きめのリュックサックが久しぶりのお目見えだ。……思い出すなぁ。部屋でみんなと一緒にゲームしようと思って64とか入れていったんだっけ。結局、同部屋の奴ら、女の子の部屋に遊びに行って1人でトラブル〇-カーズやったんだっけ……懐かしい、うふふ。いつもと違う環境でやるゲームちょー楽しかった。遊びに行った連中が先生にバレて、連帯責任で俺も朝食抜きだったっけ……あの罰を受ける時だけ、あいつらと仲間になれた……そんな記憶。小さく輝く大切な光。
<妾、胸が痛い……これが……悲しみ? 大丈夫か? 妾のおっぱい揉むか?>
揉むーッ! と言いながら自分の胸を揉んでみたが、ちょっと乳首が気持ちよくなっただけで最近鍛え気味で固くなった胸に女体特有の柔らかさなどなかった。はァ?
というわけで遠藤寺といつもの待ち合わせ場所である公園に到着。
既に遠藤寺は到着していた。公園入口とかによくある半円形のアレに腰を下ろして、足をブラブラしている。
しかしアレだな。普通の公園にゴスロリファッションの美少女がいる光景ってかなり異質だ。こういう言い方はアレだけど、アイドルのイメージPVみたい。日常的な風景の中で非日常的な恰好するアレ。ぶっちゃけ結構好き。
退屈そうな表情で足をブラブラさせている遠藤寺に近づく。
ある程度近づくと(多分射程距離)ゆっくり顔を上げ、いつものシニカルな笑顔を浮かべた。言っててなんだけど、シニカルな笑顔ってなに? 死に刈る? 死神的な? 鎌? だったら間違いないな。遠藤寺の死に刈る笑顔に俺のハートはもう刈られまくってぺんぺん草の1本も残ってない、クエーッ!
「やぁ、おはよう。フフッ。毎回思っていることなんだが……『また明日』と言って、実際にこうやって来てくれる。当たり前のことなんだけど……どうして、こんなに嬉しいんだろうね。毎日、初めて君の顔を見る度に、こうやって言語化できない感情が溢れてしまうよ。おかしいよね、くくくっ」
朝の挨拶と共にポエムの先制攻撃だべ!とばかりにお見舞いしてくる遠藤寺。
「おっすおはよう遠藤寺」
俺にポエミングスキルは無いから、返ポエムは出来ない。
だから挨拶を返しつつ――遠藤寺の素の可愛さ100万カワイイ+笑顔で200万カワイイ! いつもの似合ってるゴスロリ服……ではなく、夏風にアレンジ服が加わり200万×2=400万カワイイ!! そして、いつもの3倍の手フリフリ(俺が視界に入ってからフリフリしてた)を加えれば400万×3の バッファローマン!お前をうわまわる1200万パワーだーっ!! 食らえー!
<コピペ改変を諦めるな>
ま、この領域まで来てない人に要約すれば――めっちゃ可愛い服着て笑顔を浮かべた遠藤寺が俺と昨日ぶりに会えてうれしさを隠せないポエムを披露しつつ、手をフリフリしてるわけ。ねえ、知ってる? あの遠藤寺ってゴスロリ美少女、辰巳君の友達なんだって。
「ククク……おや?」
近距離パワー型のスタンド同士で殴りあえる距離まで遠藤寺に近づくと、遠藤寺は興味深そうに俺の足元から頭のてっぺんまでじっくり観察した。いま、俺をジッと見たな。ああ、ジッと見た!!
「ほぅ……ふーん、へぇ……なるほど」
「え、なに? 寝癖とかついてる?」
さっさと自分の頭を撫でつける。
大丈夫のはずだ。今日もELIZAシステム(忙しい朝、ごはんを食べてる間にエリザが髪やら何やらを整えてくれる)により、万全な俺のはず――。
「ああ、違う違う。君の格好が今まで見たことの無い服装だったからね」
ちなみに俺の今日の格好はジャージだ。高校の時に体育の授業で来てたヤツ。ママンがちょっとサイズ大き目に買ったから今でも着られるのだ。正直思い出したくない体育の授業以外にも、冒頭で述べたやっぱり思い出したくない修学旅行のホテルでも着てたので、ヤな記憶に塗れた俺的特級遺物の一つである。高校を卒業したと同時に行け忌まわしき記憶と共に!って感じで制服もろともゴミ置き場に捨てたはずだけど、雪菜ちゃんが『家の前に落ちていましたが?』って持ってきたからやっぱり呪われてると思う。
「高校時代のものか。ふぅん……ほつれや汚れだけでも、君がどういった高校時代を過ごしたのか、ある程度は推理できるね」
口角を吊り上げながら勝手に人の過去を詮索する遠藤寺。ほんま、探偵って……プライバシーの権利って知ってる? 服のほつれとか汚れで過去が分かったら、サイコメトラーEI〇JIはいらねーっつーの。
「ふむ……ということは……これ、くらいかな?」
気が付けば1発軽めの地震が発生すればだいしゅきホールドが極まってしまう至近距離で遠藤寺が俺のジャージスタイルを観察していた。思わず飛びのいてしまう。
「キャッ」
乙女っぽいバックステップと共にオトメボイスが暴☆発。
男勝りなヒロインがうっかり漏らした女の子っぽい声って、長寿故にあんまり感情を出さないエルフがひょんな誉め言葉でうっかり耳だけ赤くしちゃうみたいな尊さあるよね……何の話ですか?
「おっとすまない。君と出会ってから今日までの身体的成長具合と着用しているジャージの劣化具合を観察して、高校生の君がどういった体型をしていたか推理してしまったよ」
「素直にこえーわ」
ちょっと昔の服着ただけで当時の容姿推測されるとか……いつから俺はフリー素材になったんだ?
「君はかなり痩せていたみたいだね」
「ん ああ、あの頃は親は家にいなかったし、雪菜ちゃんも忙しかったし、昼飯食う機会が……って、そんなのどうでもいいだろ」
このままだと初勃起の日まで予測されそうなので、話題を強引に変える。
「遠藤寺こそ、今日は……アレだな。何ていうか……うん、その……」
「なんだい?」
「その……ほら……」
「なにかな? 今日のボクがどうしたんだい? 君の言葉で聞かせてほしいね」
ずずいと近づいてくる遠藤寺。
表情こそいつもの余裕を含ませたそれだが、何かを期待しているかのように頬が赤くなっている。
期待されているのが分かる。いつもと違う服を着てきた遠藤寺が俺の言葉に期待をしているのが分かる。
しゃーねーなーもう! 今日のお前、可愛すぎ――と決めたいところだったが、
「わァ……あァ……」
と言葉にならない始末。はぁ? どうしてくれんの?
<誰に何を切れとるんじゃ?>
こんな時にも言葉が出ない俺ッ、不甲斐ない俺ッ! そんな俺はWHOGUY!? いつだってホワイ!?
<ラップ回に逃げるな>
だったらさぁ! どうすればいいの?
教えてよ、シルバちゃん!
<知らんわ。妾はお主のママじゃない。……心に浮かんだセリフをあるがまま言うしかないじゃろ。心はいつだって裏切らんからの。ほれ、言ってみぃ。恐れずに、な>
やっぱママじゃん。心の中にママがいる俺って強すぎでしょ。いつかシルバちゃん、俺のピンチで『妾の辰巳に手をあげたァァァァッ!』みたいに覚醒するに違いない。
というわけで心のままにかく語る。
「だ、だからさぁ……夏っぽくて、その……涼しそうで……ところどころメッシュになってて……か、かわいい……ヨ」
「……」
サカモト〇イズの電車シーン並みに超至近距離で俺の顔を見つめる遠藤寺。
少しだけ目を見開き『ほぅっ』と小さく息を吐いた。頬を染めてた赤がゆっくり広がる。じわっと耳まで広がったところで唇を噛んで顔を離した。
「……そうか。へぇ……そうかぁ。ふふふ……ククク……」
んで自分の格好を見下ろしながらニヤニヤ笑う。
「クククッ……いや、朝から悩んだ甲斐があったよ」
見ているだけで暑そうな遠藤寺のゴスロリファッションだが、夏仕様の為か、可動域にメッシュが入り、生地も全体的に薄めだ。風通しが良さそう。それでいて機能性がデザインを邪魔してない。
遠藤寺がくるりとその場で回る。
スカートがフワッと浮いて裏側の生地もいつもと違って、匠の仕事ですねぇ……とか思った。
「今日はかなり動く予定だからね。いつもより動きやすい服装を選んだんだけど……なるほど、こういうのもアリか。……ふぅん、この辺に視線がよくいってるね」
パサパサとメッシュの入った部分……脇下とか腰横の部分を強調する。
「タマさんに勧められたときはどうかと思ったけど……なるほど。男の子はこういうのが好き……ね。ククク……帰ったらタマさんに礼を言わないと」
多分、構造的にそこをメッシュにしたら、通気性がいいんでしょうね。結果的に普段は見えない脇とか腰の辺りがメッシュ越しに露わになってるから、もう……アァー! ダメダメ、エッチすぎます! タイツもこれ……スケスケやんけ! デニール値低すぎッィ! メッシュ部分も同じくらい薄いしちょっと突いただけで貫通しちゃいそう……理性値低めのビルドじゃ暴走するぞ! いや、しないけどね! 若さゆえの過ちなんて! ばるばる~(混乱)
「……ふふん♪ さ、そろそろ行こうか。おっと、ボクを見るのもいいけど、しっかり足元も見るようにね。今から行くところは油断したら骨の1本や2本は折れるから」
今日はこのHDFの遠藤寺と遊びに行くのか……大丈夫か俺。遠藤寺は数少ない親友だぞ? でもかわいいし、今日はこんな格好だし、自分を律するのに骨が折れる……ん? 骨が折れる?
「なあ、遠藤寺。今骨がどうとかって……」
「ん? ああ。言って無かったかな。今から行くのはボクが昔通ってた訓練――っと、すまない」
言葉の途中で遠藤寺が腰メッシュの前辺りに手を入れる。へ~、そこポケットになってるんだぁ! そこに潜ってその先を探検したいというフロンティアスピリッツ~。
「一体なにかな――」
スマホを取り出して画面を見た遠藤寺が眉を顰める。不機嫌そうに右頬がつり上がり、今にも舌打ちしそう……
「チッ……」
した! 今舌打ちした! ああ、したな……。
そのままスマホをポケットにイン! ああ、丁寧にインしないと! 生地薄いんだから、乱暴にしたらポケットが破れて、スマホが飛び出しちゃうじゃんか! そのままスマホがスカートから落ちたらまるで遠藤寺の産卵期って……コト!?
<錯乱……しとるのか?>
「さ、行こうか。早くいかないと、今日中に帰れないからね。……まぁ、ボクはそれでも―――」
生地が薄いせいでスマホがブルブル震えるのが分かる。
「と、とりあえず早く移動だけしよう。朝からタマさんを撒いてきたからね。仕事柄追跡は得意だったけど、その逆はあまり――」
震えるぞポケット! 強張るぞ(遠藤寺の)フェイス!
「うっかり君と出かけると言ってしまってね。そのせいで朝からタマさんに付きまとわれて――」
ブルルルルルァッ!(振動音)
「フンッ!」
あんまり聞いたことない裂帛の気合と共に、遠藤寺のスマホは遠藤ニーで粉砕された。
「さ。行こうか」
「よし行こう!……とはならないんだが。え、スマホ……どうすんのそれ」
遠藤寺スマホは粉微塵になって死んだ……時間戻せるタイプの能力者じゃないと修理は無理そう。
「大丈夫さ。どのみち、今から行くところでは取り上げられるからね」
「それはそれで色々聞きたいことが……おっと、失礼」
ポケットに入れてたスマホが振動したので取り出す。
最近撮った大家さんとエリザが恋人繋ぎをしながら、テレビを見ている待ち受け画面に通話の通知が入っていた。
反射的に出る。
『あ、あのぉ……一ノ瀬くぅん……どうもぉ……』
おどおどといったオノマトペを漂わせる声が聞こえる。知り合い(遠藤寺)の知り合いである女刑事だ。
1回会ったことがあるが、声と同じくオドオドした雰囲気を漂わせた巨乳のアニメ声刑事だ。巨乳の、な。
『え、えっとぉ……も、もしかしたらなんですけどぉ……遠藤寺様、目の前に居たり、しませんかぁ……』
視線を遠藤寺に向ける。
露骨に嫌そうな顔をしつつ、首を横に振った。
「……ボクはいないと言ってくれ」
「ボクはいないって」
「君さぁ!?」
遠藤寺に怒られた。言われた通り言ったのに。……へへ。
「どうして笑うんだい!? 怒ってるんだがっ!」
いや、だって遠藤寺に怒られるとかレアな経験だし、何だかくすぐったい。
『い、今の声は遠藤寺様ぁ……! お、お願いですから変わってくださいぃ! こ、このままだとわ、私……よく分からない事件の犯人にされちゃいますぅ!』
という感じの電話がたまに遠藤寺にかかってきては遠藤寺が出向いて事件を解決するのが探偵遠藤寺のスタイルだ。
電話向こうの巨乳女刑事はしょっちゅうよく分からない事件に巻き込まれては、唯一の探偵知り合いである遠藤寺に助けを求めて来る。遠藤寺は謎を解ける、刑事は事件を解決して職場で名声を得る、ウィンウィーン。
「さっきも言ったがボクはいない」
「って」
『ほ、ほんとにヤバイんですぅ! き、気が付けばなんか四角い部屋に閉じ込められてて、他の部屋もおんなじような部屋ですけど、トラップとかあって……ああ!? 黒人の人が調子に乗って来たぁ!』
それはもう詰んでね?
『あ、だ、だめ……ほらぁ! そこヤバイ部屋じゃないですかぁ! ノコギリ刺さったヤバそうな人がいるんでうけど!? 大丈夫ですか!? えぇ!? そっちからは半魚人が!?』
C〇beとCA〇INの夢のコラボか? もう一個Cが入ればCCCコラボだな……。
『し、しぬぅーっ! さまぁ! 遠藤寺さまぁ! ほ、ほんとに! もう無理ぃ! た、たすけぇてぇ!』
「って」
遠藤寺にスマホを渡す。
「……ぐむぅ」
ぐむぅとか言った。
「ぐむぅ……ぐむむぅ……」
ぐむむぅとか言った。
まるで本当の両親を殺した犯人が自分を育ててくれた親代わりの人間だと分かってそれでも拳銃を向けた時みたいな表情でぐむぐむ言ってた。ウケル。
「ふふっ」
「ぐむぅーっ!」
ちょっと笑ったらちょっと投げられた。
背中からビターンと地面に叩きつけられたけど、あんまり痛くなかった。
「ぐむ、ぐむむぅ……はぁ。もう……せっかく君と2人で過ごす……ちくしょう……準備頑張ったのに……」
「行ってあげろよ」
「ひ、他人事だと思ってぇ……他人事だと思ってぇ……!」
ビターンとされたままだったので、俺は遠藤寺を見上げる形。
思ってぇ、のところで軽めの地団太をしたので、軽くスカートの中身が見えた。こ、これは……
<女子的に言わせてもらえば、勝負下着……じゃな。準決勝レベル、といったところか……>
これが勝負下着かぁ……へェ……。ヒモォ! モヒィッ! モッヒモッヒッ!
ほどきてぇェ……。ほどきてェよなァ……。
あ、謎を解くと紐を解くと、かけてるのか! やるぅー!
「くぬぅ……」
「俺も楽しみだったけどさぁ……ほら、夏休みはまだ長いだろ。別の日に行こうぜ。いつでも付き合うからさ」
つーか遠藤寺の発言曰く、なんかヤバそうなとこに連れていかれそうだからな。
もっと準備しとかないと。エリザを憑依とか。
「刑事さんが色々あって休職することになったら、遠藤寺だって困るだろ」
「……ぐぬぅ。ぐぬぅっー!」
遠藤寺はバリバリ実力ある探偵だが、まだまだ経歴が浅い。経験を積むための仕事を回してもらうためにツテは必要なのだ。
地団太を踏んだり、唇を噛み締めたり、せっかく綺麗に整えたふわふわヘアーをかき乱したり……冷静さとは程音遠いムーブの遠藤寺は、1度、大きく深呼吸して……いつもの冷静さを取り戻した。
「……うん。君の言う通りだ。遊びにはいつだって行けるけど、アイツ……彼女の命は一つしかないからね。謎を定期的に供給してくれる稀有な存在は大切にしないと」
「令和のネ〇ロか?」
遠藤寺はパッパと髪を整え、今日のファッションに合った鞄から上着を取り出して羽織った。メッシュが見えない! メッシューがッ!?
「――というわけで、今日の予定はキャンセルだ。残念だが。……残念だが」
「残念だよな」
「……本当に残念だと思ってる?」
ジットリした目を向けて来る遠藤寺。
内容は怖そうだけど、何だかんだ遠藤寺が誘って来る遊びは愉しかったり、ヤバめでも最終的に俺の為になるものだったりするから、素直にうなずく。
「……そうか。だったら……うん。じゃあ、また次の機会に、ね」
「またな。頑張れよ遠藤寺」
「はいはい。……はぁ」
とぼとぼと公園の出口に向かう遠藤寺。
その先には車が止まっていた。運転席から狐耳メイドさんが顔を出して投げキッスをしてきた。
「……むぅ……今日でキスくらいは……うまく行かないものだね、推理は簡単なのに……ちくしょう」
ぶつぶつ呟きながら車に向かう遠藤寺。
頑張れ遠藤寺。
俺は探偵を頑張ってるお前が好きだぞ! 夏休み中は海行こうな! ゴス系の水着期待してるぞ!
この後、色々遠藤寺の予定が重なり、次に会ったのは2週間後だった。
2週間後、久しぶりに遠藤寺と会って飲み明かした俺が翌日目を覚ましたのは遠藤寺の部屋だった。
つーかこれ(更新速度)が限界。




