ウチのタマ知りませんか?
.hack//ZEROの続編はいつまで待てばいいんですか。
なんかー、生まれて初めてバトルしたらさぁー。
VS相手の美人ボンキュッボン金髪狐耳メイドさんがさぁ。
ロリ金髪狐耳メイドだったんさぁ。
それ見て俺、超驚いたんだぁ。うちな―語で言えばでーじ・どぅまんぎたん! メルニクス語ではバイバ! 俺が昔書いたファンタジー小説で言えばフォンドボー! さかな〇んさん風に言えばぎょぎょぎょ~!
まさか知り合いのメイドさんが妖狐だったなんて想像もせなんだ。
ほんと、世の中って不思議なことで溢れてるんだなぁ。
ここで一句。
『知らなくたって いいじゃないか にんげんだもの』
たつみ心の俳句。
■■■
「つまり――女子高生だったりお婆ちゃんだったり、女子小学生だったり、熟れた体を持て余した主婦だったりした狐耳付けた人達はタマさんが変化(幻術)をかけた姿で、現れた金髪ボインメイドさんが本当の姿と思いきや、本当の本当は――ちっちゃいロリ狐娘さんが本体だったってわけ?」
「ま、そういうことじゃな」
腕組みをした褐色装飾過多美少女こと、シルバちゃんが自身満々に頷く。
「あうぅ……はわわ……」
先ほどまでの豊満ワガママボディはどこにやら、いい感じにロリった……身近な人間で例えるなら大家さんくらいの体になったタマさんは、全ての力を出し切って放心した様子で女の子座りで座り込んでいた。各所に配慮をしない言い方で言えば、催眠肉体改造遊戯中電話越遊戯拡張工事などなど一通りレ〇プレイを経験して解放された熟練同人ヒロインの体だった。当然のように目のハイライトは消えてるし、後半のラリッたム〇ビのように口の端から涎を垂らしている。脱力具合的にこのまま大き目のキャリーケースに詰めれば問題なくお家に持って帰れそう。
「そっか。色々納得したわ」
魂が抜けて今にもソブンガルデに召されそうなタマさんを見ながら納得する。
赤ちゃんプレイがバレて速攻で俺に襲い掛かってきたこととか、赤ちゃんプレイを楽しんでたこととか(この歳で親御の所から離れたことも合わせて)、煽り耐性低そうなところとか……なるほどなぁ。見た目に反してまだ子供だったってことか。そう考えたら色々納得できる。
嫌われそうな暴力ヒロインムーブとか、ご主人様好き好きレズヒロインムーブとか……色々許す! タマちゃんなんだから仕方ないだろ。お金食べたり幼女のヒモになったりしないだけ騎士くんよりマシ! ……騎士君張り合うわけじゃないけど……俺だってその気になればエリザにいろいろお世話してもらえるからな!? 『衣』は黙ってても勝手に用意されてるし、なんだったらアイアン〇ンのシステム的に勝手に着させようとしてくるし、『食』は言わずもがなだし、『住』は辛うじて俺が家賃出してるけどそれ以外の環境生成は全部エリザ任せだし……負けねえぞ!?
『お主はどこの誰と戦っとるんじゃ?』
サ〇ゲを支えてるヒロインの1人とだよ。
ん? 待てよ。タマさんが豊満成人メイドを偽った貧乳ロリメイドだったってことは分かったが……。
「……え、ていうか。シルバちゃん、タマさんが子供だったってこと、いつ気づいたの?」
「……」
何やら全てを見通した体で話していたシルバちゃんに疑問を問いかける。
「最初に会った時、『本来の姿が……ぷーくすくすw』みたいに笑ってたよね? あれっていい歳した大人の女が赤ちゃんの真似とかプププwみたいな笑いだったよね?」
「……」
「でも実際は、本来の姿って……あの幼女だったわけじゃん?」
「……ぷい」
シルバちゃんは明後日の方を見た。
その横は薄っすら赤く染まっている。
「えっと、全てを見通す……なんでしたっけ? 何か噂に寄れば、過去から未来、他の平行世界すら観測出来る妾ってば超ヤバイ妾とか……言ってませんでしたっけ?」
「……ぷぷい」
「妖狐とはいえ、子供の……変化? それに気づかなかったってのは……あの、なんか理由があるんですよね? 難しい変化の術だから子供には覚えられるとは思って無かったとか……そんな感じのこと言ってたような……そこのところ、詳しく聞かせてもらいたいんですが……」
俺はここぞとばかりにシルバちゃんを追及することにした。
色々意味ありげなセリフで誤魔化されそうになったが、最初からシルバちゃんが見破ってたら話は変わっていたはずだ。俺だって『タマさん、もう……そんな大人ぶらなくていいんだよ』みたいに余裕しゃくしゃくで頭撫でたり出来たはずだ。そうなったら『あ、この人……本当のわっちを見てくれてる……』みたいにキュンと来て、あぶねーもうすぐルート突入だわセーブしよ――みたいな展開待ったなしだっただろうに。
そこんとこ、どうなんすかね! ええ、おい!
「……っ」
シルバちゃんの頬が薄っすら赤く染まる。その表情は明後日の方向を見てるので見えない。
「――う、うるさいわバーカ! あれじゃ! お主の脳内がゆるゆるのんびりだらだら空間じゃったから、ちょーっと鈍っただけじゃいっ! 実際アレじゃなからな!? 本来の妾はもっとこう歴史の転換点とか……めいんすとーりーに関わる重要あいてむなんじゃ! お、お主のところにいるのはさぶくえすとみたいなもんじゃ! 休みなんじゃ! 妾は今、長い人生の中で初めてほりでーなんじゃ! ばーか! あーほ! 本気になんてならんわ! 手抜きじゃ! こんなちっちゃい国の片田舎で起こるしょーもない出来事に本気で関わらんわ! なんたって休みじゃからな! 本来の力の100分の……いや億分の一も発揮しとらんわ!」
明後日の方向を向いたまま、今までにない早口で喋るシルバちゃん。
実像じゃなくて俺の脳内が作り出した映像のせいか、やかんみたいな蒸気を頭から発している。
「そんな偉大かつ、普段が普段なら『それは捨てられません』的な扱いをされる超重要アイテムである妾が矮小かつ能力もないヘッポコモブなお主の中に住んでおってやるんじゃぞ? もっと、こう……あるじゃろ!?」
シルバちゃん、切れたッ!!!
自分の責任を俺の能力に転換するとか……無能上司ムーブそのもの。でも、相手が褐色ロリだから許しちゃう。『わ、妾のせいじゃないけど、明日までにやらないといけないこの案件、今日までにやれよッ』的な発言を21:00にいわれてもおこらなーい。はいやりまーす! 喜んで! ウフフ!
相手がどれだけ偉くてヤバイ存在かは未だにハッキリ分かってはいないが、怒らせたままこの場を去られると掃除のおばちゃん感覚で脳内血管を2~3本ぶち抜いていく可能性がある。
というわけで――チェンジ! ごますりクソバード!
俺はシルバちゃん(虚像)に対して、ゴマをスリスリした。
「へ、へへぇ……いつも感謝しておりやす。こんな犬以下の埃パクパクうんこ製造機万年童貞に住んで頂いた上に、時に的確な助言まで……ははぁー、ありがとうございます、お優しいシルバ様」
「……う、うむ。そこまで自分を卑下にすると逆にそんなヤツに住んでる妾なんなん?的な感じもするが……まあいい。分かればよい。これからは妾をもっと崇め奉るのじゃぞ?」
「はっ! シルバ様最高! 最高! イエイイエイ!」
頼む……みんな達もシルバ様最高と言ってくれ……! 俺の脳内血管の為に……!
シルバちゃんイエイイエイ! ロリ褐色ババアイエイイエイ! 早川パ〇セン……グスングスン。心のファイ〇パンチを静めてくれ……!
「……ふん、それでよい。そう、それでいいのじゃ。普段からその態度で妾を敬っていればよいのじゃ。……さて妾は戻る。せいぜい妾の為にその体、養生させるようにな」
どうやらみんな達の声援が届いたのか、シルバちゃんは満足げに頷きつつ、穏便に帰ってくれた。
その姿がキラキラとした粒子と共に消えていく。
シチュ的にギャルゲの人外ヒロインが何やかんやあって消滅する場面っぽくて、パブロフわんちゃん的に涙が出てしまった。しょうがないじゃん。何回同じような場面見ても反射的に泣いちゃうんだ。真人、謙吾、恭介……君らは何回俺を泣かす気なんだい? いい加減、銭形警部に例のセリフ言ってもらうんだからね!
シルバちゃんの体が全身キラキランに包まれて、やっとその姿を消失させた。
あとは……
「ひっく、ぐすん……いやぁ……見んといてぇ……」
先ほどまでの野生&殺意解放をしていた姿からは考えられないほど、怯え切っているタマさん。
ロリ化したせいで着てる服のメイド服ダボダボだし、バトル漫画の序盤に出てくるイベント戦闘の敵並みのスピードで動いたせいか服はボロボロだ。
ついでに狐耳はほぼ0度に倒れている。
顔を隠すように両手で覆いながら、俺から距離をとるように座り込んだままズリズリ後退している。
「うーん、事案発生、ヨシ!」
いや、よくねーわ。
泣きながら真っ青な顔で逃げる繊維喪失なメイドさん、そしてダメージジーンズならぬオールダメージクロス(強そう。全ダメ軽減しそうな装備)で犯罪感マシマシな俺。
もし俺が第三者でこの状況を目撃したなら『お、撮影か?』と遠巻きで観察するか、ポリスメンに通報するかの一択だろう。……一択?
「ひ、ひぅ……ふ、ふぐぅ……赤ちゃんプレイ見られて、ま、負けた上に……家族以外に見せちゃあかん本当の姿も……へ、へへっ、おわった……わっちの人生、ここで終わり……詰んだ、詰んだぁ! ふふっ、はははっ……うぅ……すんすんっ」
FXでやらかした人特有のぐにゃった顔を浮かべるタマさん。
ロリがその表情を浮かべるとマジで心が痛くなるからやめてほしい。俺、さっきも言ったけど可哀そうなのじゃ抜けないんだ、がいがぁー。
俺は子供に話しかけるように(実際子狐)、優しくタマさんに声をかけた。
「あ、あのタマさん?」
「ヒッ!」
作家が作家ならまず間違いなくジョバらせるリアクションで、体を縮めるタマさん。
俺だったら? んー……本当に、本当に申し訳ないけど……その属性はないんだ。本当にすまないと思っている。希望する人はみんなの心の中にある二次創作畑に種を撒いてほしい。 いつか、綺麗な花が咲くといいね。咲いたらとりあえず見せてね。属性はないけど、興味はある。その興味心のせいで、何度グロ画像に引っかかったか……。
「ごめっ、ごめんなさい……! お、お兄さんがこんなに強いなんて、わっち知らなくてっ、だ、だから、や、やめてっ、ひ、ひどいことせんでっ……! ゆるしてぇ……」
「ちょっ」
「お、お願いやからぁ……な、なんでもするからぁ、いわんで、この体のこと、だまっててぇ……お嬢さんにいわんで……ひぐっ、な、なんでもするから……」
今なんでもって言った?(言った) 初めて言われたけど、この状況でマジでなんでもしちゃう人はそれはそれで豪の者だな……。
こんな怯えられて懸命に取り繕った笑み浮かべられたらマジでなんもする気おきんて! 逆に清潔なハンカチで涙を拭うて!
つーか、さっきまでのイケイケドンドンなタマさんとはまるで別人だな。
今のタマさんは完全に悪戯がバレた子供みたいだ。
『……獣帰りが解けたからじゃろ。本来の姿である獣は理性を手放し、感情のままに動く野放図な存在――じゃが、その反動は大きい。人としての理性、感情が戻ってきた時の心の動揺は……妾には分からん。それに加えあ奴はまだ心も未熟な子供じゃ。荒れ狂う感情に身を嫉かれ、それこそ本当の意味で……子供に返っているのじゃろう。普段変化した成人の姿でしか御せない感情の波に……襲われているのじゃろうな。そもそも普段成人した姿になっているということは周囲に自分が子供ではない、子ども扱いされたくはないという証……それを裏返せば、心の底では本当の自分――子供である真の姿を認めてほしいという機微の現れ……』
「カウンセラーの人ですか?」
俺の心の中に戻ったシルバちゃんが分かった風に言う。
よく分からないが……シャ〇ム的な感じなのか……それとも、トムハン〇ス主演のビッグか……。見た目通りの子供になってしまったらしい。
「ひっく、ひっくぅ……おかあちゃーん……ごめ、ごめんなさい……すんっ、ぐすっ……お嬢さん……助けて、お嬢さん……ぱぱぁ……ひうっ、お、お嬢、■■、■■ちゃぁん……」
ついには身内に助けを呼ぶ始末。
マジで子供じゃねーか。ん? 最後に呼んでたの……誰だろう。なんか気になるな。
しかくしかくちゃん?
『いや、それは表現的なアレで。妾も使ってるアレじゃ。……何で妾がこんな説明せんとあかんのじゃ』
シルバちゃんが何か言ってるが、俺は完全にお手上げだった。
泣いてる子供に相対した経験が足りな過ぎる。
どうすればいいか分からない。
とりあえずは落ち着かせないといけないのだろうが、その方法が分からない。
身近な小さい子供雪菜ちゃんは、俺が物心付いた時にはその辺の大人よりしっかりしていた。
雪菜ちゃんが泣いてる姿なんて想像……出来ないか? 俺がもっと小さい頃、小学校に入ったばっかりの頃に、あったような……くそっ、思い出せん!
この場にエリザがいたらなぁ。アイツ、ああ見えて子供の扱い上手いしな。前に大家さんがウチで一緒にトランプした時、顔に滅茶苦茶出るタイプの大家さんがボロ負けして歳不相応の駄々こねた時もいい感じに治めたしな。最終的にエリザの膝枕で眠る大家さんをエリザがあやすっていうよく分からない空間が出来てたし。あの時の尊い光景ときたら……思い出すだけで、3秒スーパーアーマーのバフが付くわ。
まあいない幽霊のことを言ってもしょうがないか。
とにかく目の前のタマさんだ。
困った。困ったなぁ。これ結界とかいうのがあるからいいけど、その結界とやらが解けて、もし他に一般人が入ってきたら……俺、ヤバくね?
泣いてる! 美少女! 金髪! メイド! 互いに衣服乱れてる! うーん、スリーアウト……いや、ゲームセットだな。人生の。
「■■ちゃん……たすけてぇ……もう意地悪しないからぁっ、ちゃんとするからぁ……一緒にいさせてよぉ……ごめん、ごめんなさい……」
「たまさん……」
完全に電柱状態の俺。
犬に小便引っかけられようが動かないだろう。
それなりに良識があって自身もある大人なら、抱き締めて『君は悪くない』とか言えるんだろうけどさぁ……こちとら20歳そこそこの子供もいない子供なんすよ。ショーンさんとこのマグワイヤさんじゃねーんですよ。つーかその役割、俺じゃないし。
参ったなぁ。
参り過ぎてまいんちゃんになっちゃうわ。地雷を踏んだって意味でね! 上手い! ヤマダ君! 座布団一枚! あ、ご時世的にデジタル座布団でヨロ!
「……うーん、どうしよ」
脳内でソーシャルディズタンス笑点を開始しちゃうくらい余裕に見える俺だが、実際はかなり困っていた。
下手に慰めようとしてセクハラで訴えられるのも嫌だし、向こうが人外特有のルールを適用して『クッ、敵に慰められるとは……これ以上生き恥をさらしせん!』みたいに自害されても困るし……。
こうなったら最終手段である、首に手刀でもお見舞いしたろうか……と思っていたら、想定外の人物が現れたのだった。
「……ふむ。待ち合わせ時間になっても来ないから迎えに来たんだが……何だか、面白いことになってるようだね」
公園の入り口。
セリフとは裏腹につまらなそうな表情をした女性が立っていた。
大きなリボンに目立ちすぎるゴシックロリータファッシン。
人気投票1位の彼女――遠藤寺が立っていたのだった。
■■■
「遠藤寺?」
公園の入り口に遠藤寺が立っていた。
いつもの表情で。何もかもに退屈したような表情で。つまらなそうな表情で立っていた。
時計を見る。
遠藤寺との集合時間――その時間から20分ほど時間が経過していた。
どうやらタマさんとのやり取りで思ったより時間が過ぎていたらしい。
「ボクは」
遠藤寺が俺の方を見ながら眉を顰めて言う。
「時間を守らない人間が嫌いだ」
「ご、ごめん」
明らかに俺を咎めた表情だったので、素直に謝る。
しかし、色々と問題があったわけで――
「嫌いだ――そう、嫌いだった。それはあくまでボクの時間を無為に減らされることに対しての嫌悪感、拒否感だった」
遠藤寺がムスっとした表情のまま俺に近づいてくる。
「だが――今回は違う。心配したんだ。時間になっても来ない君を」
息が接するほど近づいた遠藤寺が、俺の頬を撫でる。
「……何かあったんじゃないか。事故にあったんじゃ? 急病を患ったのでは? ……とても心配したんだ。君がいつまでたっても来ないから」
睨みつけるような遠藤寺の顔だが、俺はその中に別の感情を見た。
「……本当に、心配したんだ。君は今まで約束を破ったことはなかった。ボクが提示したどれだけつまらないことでも――それが約束なら、必ず守ってくれた。だから本当に……心配したんだ。待っている間……心が。心が溶岩のように熱く……いや、その表現は陳腐だね。とにかくボクの人生の中で最も不安を感じた時間だった」
遠藤寺はずっと俺の顔を見たまま、俺の頬に触れたその手を少しずつ下ろしていった。
首から胸、そして心臓。
そして手。
「全く……君はいつだって、ボクの心をざわめかせる。……何もなくて、よかった」
遠藤寺が俺の右手に触れ、そのまま自分の心臓に持っていく。
布越しに感じた柔らかな感触と共に、フルマラソンを走り切った奏者の様な脈動を感じた。
「……分かるかい? この鼓動は……君のせいだよ」
ドクンドクンと脈動する心臓を感じさせながら遠藤寺がそんなセリフを薄く微笑みながら言うもんだから、思わず遠藤寺ルートに入ってしまうところだった。
そーいうとこ! 遠藤寺のそーいうとこ!
恐ろしく整った顔でそーいうこと言われるとさぁ……ルートに入りたくなっちゃうじゃん。実際はルートなんてないのに。入った後に『……え? 一緒に帰って噂されるとのとか……』みたいに言われるでしょ!? あぶねー!
俺は遠藤寺の布越しムッチリマウンテンから退山した。布越しでも変化した遠藤寺山がほにゅんと元の形に戻って、ああ……これが天地創造ね、って思った。勉強になる。
「……む。もっと触っていてもよかったのだけど……まあいい。しかし……ふぅん。なにやらややこしいことになっているようだね」
何だか不満そうな遠藤寺が、俺、そして……タマさんを見る。遠藤寺が現れてから、完全に静止したタマさん。
「すん、ぐすっ……ふぇ? 誰ぇ?」
こ、これはいかん。
タマさんをセリフから察するに、タマさんは遠藤寺に正体を隠しているはず!
遠藤寺はリアリスト。オカルト方面には疎い。自分に仕えてたメイドが妖怪狐だなんて流石に知らないはず!
つまりは遠藤寺の視点からすると……。
時間通りに来なかった相手を迎えに来たら、なんと……衣服を乱れさせた見知らぬ金髪幼女の目の前に――俺! しかも涙ボロボロ! あと衣服も!
ギルティ! ありえないほどギルティ!
さ、裁かれちゃう……。
だって遠藤寺って探偵だもん! 罪を犯した人間を問答無用で罰する立場だもん! 何だったら罪を糾弾することにエクスタシーを感じちゃう類いの人間だもの!
顔を覆っていたタマさんが、遠藤寺を発見する。
「――お、おじょっ!? な、なんでお嬢さんがここに……え? 結界は? 結界貼っとるから普通の人間はここに……いや、お嬢さん普通の人間ちゃうわ!?」
四つん這いのなったままのタマさんの顔が真っ青になる。
どうやらタマさんがここにいるのは、遠藤寺は存ぜぬ……独断専行による行動らしい。
「は、はわわぁ……こ、このままじゃ、お嬢さんにお仕置きされゆ……ん? いや、ちょい待てよ。……わっちの今の姿、普通にただの幼女やん。そこら辺歩いてる、ただのロリメイドやん! お嬢さんにこの姿はバレてないはず……!」
そこら辺にただのロリメイドが歩いているかはさて置いて、タマさんの言う通りだ。
この場において、タマさんは遠藤寺の見知らぬ他人だ。
ちなみにさっきからタマさんの心の声的な声がバンバン聞こえてるが、それはあくまで立ち位置的なものであり、俺にはボソボソ聞こえるが、遠藤寺には聞こえていない……ジョジョのバトル空間的なアレだ。
「……ということは、このわっちがお嬢様の仕えるわっちとはバレてないはず」
もちろん俺が『あの幼女、ユーのメイド狐。メーン』みたいな供述をすることも考えたが……いや、普通に考えて信じるわけないでしょ。
供述したところで『そうか。じゃあ続きは然るべき場所で頼むよ』みたいに流されるだけ……
「――きゃ、きゃぁー……わっちはメイド。お嬢さんとは何の関わりも無い、その辺を歩いてたただの野良メイド……やで?」
先ほどまで泣きわめいていたタマさんは一瞬で涙を拭い、バストアップショットの下に名前と役割が出そうなテンションでモニターの向こうに向かって挨拶という名の自己紹介をした。
<偶然辺りを歩いていた『野良メイド』>
あ。テロップ入った! シルバちゃんと同期してるから見えるけど……被害者的な字幕見えた!
<近所を散歩してたメイドの少女に訪れた悲劇とは……!?>
くっそ! タマさんの下にテロップが入ってきやがった!
外的な要素が強すぎるシルバちゃんとの同期を切って、遠藤寺に向かい合う。
「ふぅん。君がいつまで立っても来ないから、迎えに来たら……衣服を乱れさせた幼いメイドと君……ふぅん、何とも珍妙な組み合わせだ」
遠藤寺の鋭い目がタマさんを捉える。
固定ダメージ2000くらいを相手に与える遠藤寺の視線に対して、タマさんは顔中に汗を流しながら答えた。
「わ、わっちはぁ……き、近所のお屋敷で奉公してるメイドでぇ……なんかぁ……歩いてたらぁ……この男の人にぃ……ら、乱暴……ちょ、ちょっとだけ乱暴された……かな?」
こ、このメイド……!
自分の正体を隠しつつ、俺を社会的に抹消する気か……!
言動に良心を感じなくもないが……そんなもん、証言台では無意味なんだよ! 間違いなく重い罪で裁かれちゃう!
「い、いや遠藤寺! 違うんだ! その、あの……このメイドさんは、そのアレで……あのぉ――俺は悪くねぇ!」
はい終わりーお疲れー。
ロリメイドがタマさんだって証明なんて出来ないし、発言した時点で頭おかしいヤツ認定されるから限界まで言い訳考えてたけど……無理!
咄嗟に出ちゃった発言も終わってる。
つーかこの状況で自分の無実を訴える方法とかねーだろ。結界のせいで、現場を目撃してる善意の第三者もいないし。
あれ……? これ……冗談抜きで詰んでね?
マジのマジでヤバイ状況じゃね?
遠藤寺は友人だ。いや、親友だ。自称探偵とか言っちゃう変わった性格だけど、親友である俺には寛容だ。言わなくても困ってたら助けてくれるし、俺の事情を知ってるから積極的にお金も貸してくれる。出てない授業の代行もしてくれるし……そういう奴だ。だけど――犯罪行為には容赦をしない。普通の人なら面倒だから見逃す軽犯罪からテレビに映るような重犯罪まで、彼女の前では等価値だ。全てを等しく扱う。例えそれを犯したのが誰だって。
遠藤寺はそういうヤツだって俺は知ってる。
つまり――ヤバイ。
「あ、あのぉ……乱暴されたって言っても……そ、そのちょっと触られたとか、そんくらいで……あ、服! え、えっと服は……に、逃げる時に転んで……」
遠藤寺が犯罪絶対許さないマンであることを知ってるタマさんが、情状酌量の余地がありそうなコメントをするが……結局のところ、裁かれることには違いない。
ジッとタマさんを見る遠藤寺。
ある程度情報を集めたのか……はぁ、と溜息を吐いた。
遠藤寺が俺の方を見る。
次いでゆっくり口を開く。『この変態ロリコン犯罪者が』みたいな想像するだけで涙が出そうな発言を覚悟していたが……薄っすらピンクの口紅を塗った口から出た言葉を俺の予想とは違っていた。
「……ウチのタマさんが迷惑をかけたみたいだね。……ああ、もう」
遠藤寺は片手で顔を覆っていた。
その手で覆われた以外の部分は真っ赤に染まっていた。心の底から恥ずかしい、と。
例えば、若くして自分を生んだ母親に来なくていいと言った翌日、授業参観にバッチリメイクをして来たのを目撃してしまったような。そんな表情だった。
『分かる』
脳内シルバちゃんが腕組みをしつつ言った。
次で終わり! ハイ終わり! 閉廷!




