バトルオブタマ
ごめんなさい。いつも1話20~25KBで治めていたんですが、書き終えたら50くらい言ってたんで、バトル回だけで区切ります。……バトル回かこれ?
「呆けているでない! さっさと立てぃ! そして敵を『視る』のじゃ! 攻撃が――来るぞッ!」
少女が立っていた。
妖しい色気を感じる褐色の肌、その肌を際立たせる美しい銀髪、俺の腰のちょっと上くらいしかない小さな体躯、風に煽られる度にシャラシャラ音を鳴らす装飾が付いた豪華絢爛なドレス。
それは紛れもなく……ヤツだ。
幾度も俺の心の中で見た。現実には存在しないはずの少女。全てを見通し、仙人めいた言葉を残し、俺の頭の中を掻き回す(物理的に)彼女。
――シルバちゃん。
正式には全てを見通すほにゃららの……なんとか汁の……バリ? バリってる? そんな感じのフルネームだが、よく分からん。住所が俺の脳内な時点で下手な住所不定無職よりヤベー人だ。
目を擦ってみるが、彼女の姿は消えない。そこにはっきりと存在している。
強烈過ぎる存在感を放ち、堂々と立っている。
俺の右手を握る彼女の手は……温かい。血が通った現実の物だった。
つまり。
つまり。
つーまーりー?
「うおおおおお!? シルバちゃん!? うわ、本物だ! すっげ! やっべ!」
脳内にだけしか存在しない、ある意味でアイドルよりも遠い存在であった彼女の出現に俺のテンションは爆上がりした。
「え? なになに!? どういうこと!? 何でここにシルバちゃんが!?」
「待て。説明するのは後じゃ。今は目の前の――」
「うわっうわうわっ! 手柔らか! 髪の毛……やべえ! すっげえサラサラしてる! マイクロファイバーみたい!」
「だから目の前の狐に集中を……ええい! こらっ、どこを触っとる! ひゃ、ひゃめひっ、うひゃひゃっ」
シルバちゃんの頬っぺたもちもちなり……。やべーな。さっきからやべーしか言ってない。脳内図書ちゃんも興奮してて、適切な感想を差し出してくれない。だが仕方がない。だってシルバちゃんだぜ? 想像してみるといい。自分の脳内嫁……いない人はパソコンの中の嫁が――いきなり目の前に現れたんだぜ? そりゃ興奮するしかねーわ。
しかし脳内フレンズのシルバちゃんがどうやって現実に――は!?
「……俺の、能力か?」
ありえるぜ……目の前のタマさんといい、異能バトルラノベが始まりそうな展開だし、ついでに俺の固有異能が目覚めたとしてもおかしくはない。ごく当たり前の展開だ。何だったら遅すぎるぜ……!
理解した。俺の能力『妄想具現化』は妄想を現実化する能力――あ! イカちゃん! イカちゃーん! 来てイカちゃん! IGAAAAAAAAA!!!
俺は願った。生まれて初めて神に願った。イカちゃんの親戚っぽいから邪系の神に願った。
が――
「来ないな」
「当たり前じゃ。何も覚醒しとらんわ。ほれ、狐娘を見てみい」
シルバちゃんに言われて、タマさんを見る。
タマさんは先ほどまでと同じく、今にも俺に飛び掛からんとしているが……その顔には困惑が浮かんでいる。
「……さっきから一人でぶつぶつと、何なん? お兄さん、誰と話しとるん?」
「え? シルバちゃん、見えてない?」
タマさんの視線は完全に俺に固定されている。
いきなり現れた褐色美少女なんて全く見えていない様子。
「何を勘違いしとるか知らんが、ここにいる妾は実体ではない。お主の脳を少し弄って、ここにいるように見せかけているだけじゃ」
「サラッと怖いこと言う……」
これだから人外系の人って怖い。こういう人がお試し感覚で脳に電極ぶっ刺したりするんだ。でもそういう埒外の発想が科学の進歩には必要なので、まあ俺に関係ないところでやってくださーい。
しかし……現実じゃないって。実際にこうやって触ってるんだが。匂いもするし。何か高いお香みたいなエロイ匂いもするし。凌辱系のエロゲで女騎士の心を折る為に部屋に漂ってる紫の煙みたいな? 分かる?
「人の体臭を何じゃと思っとるんじゃ。……エロイのか?」
すんすんと自分の匂いを嗅ぐシルバちゃん。
褐色ロリが自分の体臭をクンクンする光景……アリだな。実はちょっと気になってる風な感じがいい。俺に絵心があればこの光景を心の中だけじゃなく、紙に書き念じてみんなでシェア出来るのに……!
「ちなみにこうやって触れているのも、あくまでお主の脳がそう錯覚しているだけじゃ」
「えぇ……ほんとにぃ?」
「こういう話を聞いたことがないか? 目隠しをした相手に鉄の棒だと説明して腕にただの箸を押し付ける。そうすると……」
「あ、火傷するってやつ! 何か聞いたことある」
脳が錯覚するとその結果が体に反映されることがある。
そういうことか。
すべては錯覚。この手の感触も、匂いも存在しないものだ。
何だか寂しい……そして怖い。
俺が普段朝起きて飯食って学校に行って勉強して家に帰って飯食って寝る……その一連の行動も脳の錯覚でしかなく、俺の体なんて存在せず、実はガラスの中に浮かんだ電極ぶっ刺された脳が錯覚している幻に過ぎない、そんなことくだらないことを考えてしまう俺は一ノ瀬・辰巳!! 20歳!!! 読者に見られながら今日も妄想キメるぞォ!! 見てろよテメェら!! フッフッフッフッフッ!!
「理解したか?」
「はーい。で、存在しないシルバちゃんは何をしに来たの?」
「ふんっ。この後に及んで何を言っとる? 手助けをしに来てやったにきまっとるじゃろうが」
心底人(地底人みたい)を馬鹿にした表情でシルバちゃんは言った。
「あれは間違いなくお主を殺す気じゃ。アホらしい理由ではあるが、殺意は本物じゃ。既に獣返りを起こして理性も飛びつつある。たかが赤子の真似を見られただけで……まるで童子じゃ」
やれやれと嘆息する。
「いくら未熟な妖怪狐とはいえど、ただの人間であるお主では相手にならん。即殺じゃ、即殺」
「えっと……じゃあ、シルバちゃんがタマさん倒してくれんの?」
おっとここで美少女同士のバトル展開がやっとキマシタか。
ちょうど砂場がそこにあるんで、いい感じにもつれこんで泥んこキャットファイトレディーゴーッ!
審判兼撮影は俺、一ノ瀨辰巳でお送りいたします。
シルバちゃんはやはり人を馬鹿にした表情で俺を見上げた。
「お主は人の話を聞いとるのか? 妾に実体はない。あの娘に触れることなぞ出来ん。触れぬ相手をどうやって御せと?」
「じゃあマジで何しに来たの?」
解説役か? 俺の死亡遊戯の?
自分が殺される状況をコメントされるとか、極まったニコ厨だな。そこまで行くんなら自分の葬式生中継から火葬までリアルタイムで配信するわ。
「なぁ……お兄さぁん……さっきからわっちを無視せんで欲しいなぁ。なんなん? 頭おかしぃなったん? それは困るなぁ……久しぶろの狩りやのに、獲物がそんなんじゃぁ……つまらへんやん、しっかりしてやぁ……!」
タマさんの瞳孔がスリット状に変化する。
夜行性動物が持つタペタムの作用か薄っすら目が輝く。
今まで感じたことの無い感覚……恐らくは身近に迫る死の気配に、背筋が凍る。
「じゃあ――行くで?」
四つん這いのままギリギリと体を縮めるタマさん。
「チッ、右に避けよッ!」
シルバちゃんが言った瞬間、タマさんの姿が掻き消えた。
タマさんがいた場所に、抉れ上がった土が舞い上がる。
「えっ」
俺は動けなかった。いやそりゃそうだろ。ナ〇パじゃないんだから、いきなりどっちに避けろって言われても体が反応せん。
「――獲ったあッ」
幼児の如く無邪気なタマさんの声。
獰猛な笑みを浮かべるタマさんの顔が間近に迫る――が。
「……またっ!」
背後から聞こえたその声が苛立たしい物に代わる。
何故なら獲物がまだ生きているからだ。
俺は生きている。
座り込んだままタマさんを見ている。どうやらタマさんは先ほどの位置から見えない速度で俺に向かって直進し、俺の左半身を削るようにすれ違ったようだ。そのまま駆け抜けた勢いで器用に手足を使って円の動きでこちらに向き直った。砂埃が舞い上がる。
「わっちの動きは見えてないはず! 反応も出来てなかったのに……!」
シルバちゃんの指示はタマさんの動作直前にあった。
だが俺は反応できなかった。
しかし生きてる。
「ちっ……ええい! 重い! もっとこう、シャッと動かんか! 愚図め!」
綱引きを頑張る子供のようなシルバちゃんがすぐ側にいる。
反応できなかった俺の体はタマさんに刈られる寸前、シルバちゃんに引っ張られたのだ。シルバちゃんに引き込まれるように地面に倒れ込んのだ。
そうして何とか初撃を回避することができた。
「ふん、分かってはいたが反応できんか。全く……ノロマめっ! お主はあれか!? カカシか!?」
「ご、ごめんなさい……ふふふ」
「笑っとる場合か!」
でもちっちゃい女の子にこうやって調子近距離で罵声浴びたら、何か笑っちゃうじゃん。
可愛いし。恥ずかしいけどなんか気持ちいいし。
「……ぐぅぅっ」
タマさんがグルルと唸る。
「わっちを無視するなぁ! これはどうや!?」
「次は右じゃ! ――ええい!」
シルバちゃんに突き飛ばされる。
すぐ後ろを何かが通り過ぎて行った。
「まだ……やッ!」
「跳べ! ――ああもう!」
突き飛ばされてバランスを崩した状態で、シルバちゃんに背後から持ち上げられる。
先ほど足があった場所の地面が抉れた。
間もなく、ヌッとタマさんが正面に現れた。既に腕を振りかぶっている。
「まだまだッ!」
「後ろに避けよ!」
いや持ち上げられてるんですが。
「もう――オラァッ!」
シルバちゃんがバックドロップの要領で俺を背後へと投げ飛ばした。
そのまま空を見上げたままズサーと地面を滑っていく俺。
「うごッ、くなぁッ!」
タマさんが飛び掛かってくる。
地面に横になっている俺に空から鋭い蹴撃をお見舞いする。あ、パンツ見えた。
「転がるのじゃ! んもうッ!」
蹴り足が俺の腹を貫く直前、横からシルバちゃんのスライディングでカットされ、俺はゴロゴロと地面を転がった。
「……はぁはぁ、お兄さんやるなぁ……今の連撃躱すとか……ほんまに普通の学生?」
「はぁ……ふぅ……妾しんどい……疲れるぞ……」
息を荒げる美女が2人。
そうそう、こういうのが見たかったんだよ。美女同士の熱い戦い……違うな。これはちょっと違うな。
戦いってこういうのじゃなくね?
俺、ただぶん回されてるだけじゃん。
2人の美女に2人がかりで攻撃されてるだけじゃん。
俺はゆっくり立ち上がる。
汗を拭うシルバちゃんを見る。
「え? シルバちゃん敵なん?」
「違うわ! お主が全然動かんから、妾が体を張って攻撃を避けさせとるんじゃ! お主の反射神経がちょっと人並み以上なら妾の助言に従って体を動かすだけで華麗に回避できるんじゃぞ!? だのにお主と来たら電柱みたいに突っ立ってるだけ! いい加減攻撃のタイミングは分かったじゃろう!? 自分で少しは避ける努力はせんか!」
「バトル漫画の主人公じゃないんだからさぁ」
何回攻撃されようが、見えない物は見えないし、いきなり避けろって言われても体は動かんて。
あれだよ? 車が突っ込んでくるみたいなもんだぜ? 車が突っ込んでくるから避けろって事前に言われたとして、避けられるか? 何だったら新幹線くらい早いし。
無理無理。無理デース。
「やったらぁ――これでどうや!」
「離れたあの距離から? ――チッ、首に来るぞ! 首を収納せい!」
「いや、合体ロボットじゃないんだからさ――ぐぇ」
シルバちゃんの掌底を顔面に食らい仰け反る。
空を見上げた鼻の先をブーメランみたいな形をしたエネルギー状の何かが通り過ぎて行った。
「わっちの『狐鵜女嵐』を……でもなぁ! 隙ありや!」
「戻ってくるぞ! ヤッ!」
イナバウアー状態の俺の膝裏にシルバちゃんの鋭いキックが炸裂する。
膝かっくんされた俺はそのまま地面に倒れ込んだ。そしてまた空を見上げる。見上げた空をさっきのブーメラン的なエネルギー弾が戻って行った。
はぁ……いい天気。首めっちゃ痛い。このままだと安いおもちゃみたいに首がもげちゃう。
今の状況傍から見ればどう見えるんだろ。俺視点だとシルバちゃんにぶん殴られたり、放り投げられているけど、実際にシルバちゃんは存在しないから、俺が勝手にぶん殴られたような動きで吹っ飛んだり、放り投げられような動きですっ飛んでいるのだろうか……。
ファイ〇クラブかな?
■■■
その後もタマさんVS俺(withシルバちゃん)は続いた。
タマさんの躍動する体から放たれるのは、既存の格闘技には当てはまらない、全く新しい技の数々。
四肢の全てを活用し獣染みた挙動から繰り広げられるそれは絶えず俺に襲い掛かった。
対するシルバちゃんは俺の体を操り、タマさんのありとあらゆる攻撃を回避した。
最初こそ俺の体を雑巾のように雑に扱い、ロボットのおもちゃで遊ぶ子供の如く俺の体を無茶苦茶に振り回した。『ヤキニクロード終盤のひろしを装備したみさえかよ!』とツッコミたくなるような俺への扱いだったが、俺の操縦に慣れたのか徐々に無駄な動きは減り――
「狐牙ッ波斬!」
「ふん」
タマさんが放つ下から襲い掛かる斬撃を俺の肩と腰をクイッと動かし、半身になって躱させる。
極限まで無駄を省いたその挙動で、タマさんの斬撃が目の前を通過する。
「まだッまだや!」
振り上げた腕をそのまま、振り下ろすタマさん。どうやら先ほどの技は振り上げと振り下ろしがセットになった技のようだ。
半身になった俺の体を頭上からの斬撃が襲う。
「温いわ」
シルバちゃんが退屈そうに呟き、俺の右手をゆっくり動かす。
空気を押し出すような緩慢なその動作が、タマさんの斬撃を事もなくいなした。
俺の身を抉るはずだったその一撃が、すぐそばの地面を削り飛ばす。
「な、んでッ! 当たらへん!?」
四肢を駆動させ、俺から距離を空けるタマさんが苦々しく言い放つ。
「くくっ、クカカッ! 無駄無駄ッ! 最初こそ他人の体を操る枷があったが……もう慣れた! フハハッ! 最早、妾が一番、この男の体をうまく操れるんじゃ! フハハハッ!」
そう言って俺の首に跨り高らかに笑うシルバちゃん。
タマさんとの幾度に渡る攻防を経て、そのポジションが一番迅速に俺の体を操れると思ったらしい。
所有者を前に大した自身だ。まあ、実際俺より俺の体を上手く使ってる感は否めないが。タマさんは放つ高速の連撃を片手で叩き落とした時にはマジでそう思った。
それにしてもシルバちゃん楽しそう。分かる。分かるよ。アクションロボットゲーで徐々にプレイが上手くなって無双できると楽しいよね。
「ああああああああぁぁぁ!」
タマさんが獣の様な唸り声をあげながら、こちらに接近して無茶苦茶に爪を振るう。
何やらオーラ的なものに包まれたその爪は、恐らく掠れば俺の体なんてバラバラになるだろうが……
「ほれほれ、雑になってきたぞ。ふわぁ……当たらん当たらん。ほれぇ、もう少しじゃもう少し、あとちょっとで当た……らん! おしかったのぉ! 今のは当たると思ったじゃろ? じゃが当たらん! 既にお主の技は見切ったッ!」
調子に乗ったシルバちゃんはギリギリでタマさんの攻撃を躱すグレイズに挑戦しだした模様。
分かる。慣れて来ると高得点狙いたくなるよね。同じゲーマーとして分かるよ。
でもね、これゲームじゃないンだわ。リアルなンだわ。
ただでさえ前半戦で雑に扱ったせいでボロボロになった服がね、ギリギリで避けるせいで裂けてるの。避けてるから裂けてるの。
俺の脇腹とか乳首とか太腿がちょっとずつ露わになって……この情報いる?
連撃の最後を放ったタマさんがバックステップで距離を空けて息を整える。
半ば無心になってシルバちゃんに操られていた俺だが、このままだと全ての衣服を持ってかれて『全裸男VSメイドさん』みたいな極一部の性癖の人にしか刺さらない展開になりそうなので、待ったをかける。
「あのさ、シルバちゃん」
「ん、どうした我が肉体?」
おっと! はい出た! 汝の正体見たりって感じだな。この脳内妖精ちゃん、俺の体の所有権狙ってやがるな。
「いらんわこんなヘボディ。他人の体を操って闘う、初めての経験にちょっと興奮してただけじゃ。……で、何じゃい?」
「いや、このバトル……いつ終わんの?」
タマさんがバトルを挑んできてから、恐らくは30分ほど経っただろう。
ひたすら攻撃してくるタマさん、そして絶対に回避する俺。最早千日手となっていた。
「……お主がそれを言うのか? さっさとあの狐娘に手を出せばとっくに終わっておった話じゃろうに」
バトルの中、余裕が出来てきたタマさんが隙アリとばかしに俺の体を使って反撃をしようとした。大振りな攻撃を完全に回避し、突き出た腕を相手の力を利用してへし折ろうとしたのだ。
だが俺はそれを止めた。
「や、だってさぁ……知り合いのメイドさんぶちのめすのはイカンでしょ。つーか女の子ボコるとか……いくない!」
「は、出た! お主それ、戦場でも同じこと言えるのかの?」
いや、戦場じゃねーしここ。公園だし。真昼間の平和な公園だし。
タマさん殴り飛ばして遺恨残すのは嫌だし、初めて知り合った美少女メイドさんに嫌われるのももっと嫌だし、美少女ボコして綺麗な顔に傷付けたら……かわいそうなのは抜けない。
「ああ、やじゃやじゃ。どうせそう言って女を殴ってついったーで炎上するのが嫌なだけじゃろ。腑抜けめ!」
シルバちゃんはSNSの方から来た人なの?
「ハァッ、ハァッ……何で……当たらんのぉ……最初はみょうちきりんな動きで完全に運任せの素人かと思ってたのに……こんなん、ガチの達人クラスの動きやん……」
タマさんがこちらを睨みつけながら、息も絶え絶えに言う。
「ハッ! 妾を誰じゃと思っておる? 万象見通■銀■■シルバ■オール――数多の過去未来、そして全ての平行次元を見通す――神の眼ぞ! どれだけの戦場をどれだけの武を極めし者を『視て』いると思う? 妾にかかれば、こんなもやし男子を一流の武芸者に見せかけることなど容易いわ! クカカッ! ああ、愉快愉快! 相手の膝を付かせ、歯噛みしている様子を見るのは愉しいのぉ!」
うーんやっぱりシルバちゃんってSNSの闇が産んだ魔物かなんかでは?
「……しかし、妙じゃな」
操縦席に座ったシルバちゃんが不思議そうに首を傾げる。
メイドさんが半狐人間になった以上に不思議なことがあるのだろうか。
「それじゃ。先ほどからあれの攻撃をいなしてるとどうも違和感がのぉ。妖怪狐は人間よりずっと長く生きる。あの見てくれなら……200、いや300は生きとるはずじゃ」
四つん這いの獣スタイルで息を荒げるタマさんを見るシルバちゃん。体勢のおかげで、豊満な胸が重力に従っておっぱいぶるんぷるんだ。
あのおっぱいで300歳は無理でしょ。……いや、人外ならあり得るのか。
「それだけ生きてるにしては荒い。先ほどからの技の数々、確かに鍛錬を積んだそれではあるが……それにしたって経験が足りておらん。卓越した才能に振り回されておる、そんな具合じゃ」
「ほほーう」
分かんね。俺的にはすっげえ早いし、すんごい鋭い攻撃にしか見えね。深道〇キングに出場したら即効で一桁まで上り詰めるやろなぁくらいの感想しかない。
「こちらを攻撃するに至った経緯も妙じゃ。たかが赤子の真似じゃぞ? 300近く生きた人外の存在が20も生きとらん小童に戯れを目撃されたところで……ああなるかの? 理性を放り出して獣返りまで起こすほど精神的な負担を?」
「確かに。もし俺が長寿の吸血鬼だとして、300歳近い御年になって従者の美少女吸血鬼(右腕的存在。性的にもw)と赤ちゃんプレイしている所を人間になったばっかりの新米吸血鬼(親に虐待してる死にかけてるところを保護した。まだ10歳)に目撃されたとしても……マンネリになりつつあったプレイに新たな一石を投じる波紋キタコレとはなるけど、あんな子供みたいにパニックになることはないだろう」
「お主マジで黙れ。せめて心の中で呟け。口に出してしまえば猥褻関係の罪でしょっぴかれるぞ」
うんママ!
ん? シルバちゃんの推理が正しいとして……どういうことだ?
色々、見た目とやってることに齟齬があるってことだよな。
「……業腹じゃが妾も認めるしかあるまい。これ妾にとって最大級の罵声じゃが……『妾の眼が曇っておった』」
シルバちゃんが舌打ちをする。
「あの狐娘、最初に遭遇した時に赤子やら老婆に変化しておった。いや、正確には肉体は若いメイドのままで幻惑の術を周囲にかけておった。故に……本当の、真実の姿を見誤った」
真実って……え? ナイスバディなメイドさんが本当の姿なんでしょ?
「戯れを見られただけでお主を亡き者にしようとする短絡的な精神性、肉体に追い付いていない未熟な技術、そして――ふん、喜べ。戦いは終わりじゃ。あやつに戦う能力は既にない」
シルバちゃんの言葉を聞いてタマさんを見る。
そういえば……攻撃がない。最初は攻撃と攻撃の間はほとんどなかったのに、徐々にその間隔は長くなっていった。今も結構長い間、シルバちゃんと話していたのに……。
「はぁ……はぁ……あぁ……くっ、はっ……あ、あかん……!」
タマさんが苦しそうに胸を押さえた。
果物に例えるのは陳腐なので敢えて卵に例えるとダチョウの卵クラスの大きな胸が歪む。割れない? 大丈夫?
「戦う者として最も適した肉体に反したすたみなの無さ、そしてお主は気づいておらんかったと思うが妖力を使った攻撃も最初に比べて随分弱弱しくなっておった。そういった戦闘での自らの余力を管理出来ない未熟さ。……ふん、最低限の妖力も切れたようじゃ」
「あ、あかん……ああああっ」
おや、タマさんの様子が……
「変化の術の中でも肉体そのものを変化させる術は難易度が高い。それこそ歳を経た化生じゃなければの。そういう意味ではあの娘……小童ではあるが、ふんっ、なかなかやる」
シルバちゃんが微笑む。何だか嬉しそうだ。こう……河原で殴り合った相手と分かりあった、みたいな?
「違う」
違うらしい。
「あ、ああああああああっ」
「ほれ。『本来』の姿が現れるぞ」
歯を食いしばり何かに耐えるようなタマさんの体が弛緩し、突然、ボウンと煙に包まれる。
そうして。
煙が晴れた場所にいたのは、成人したセクシーメイドさんではなく――
「……ふやぁ」
魂が抜けたように脱力したちっさい金髪メイドさんがいた。
この気 何の気 またロリだああああ!




