8. なんか大変そうだな
吹き抜ける風が草原をゆらし、頬をなでる。
おだやかな陽光が、馬車の荷台へと降り注ぐ。
このまま寝たら気持ちよさそうだが、いまは荷馬車護衛の真っ最中であった。
護衛対象は、ロックレプタイル討伐の依頼をしてきた男、スヴェンという名前で隣街の商会からの使いらしい。
客から注文を受けていたロックレプタイルの納品が間に合わず、従業員総出でほうぼうを駆け回っていたとのこと。
「申し訳ない、護衛まで引き受けてくださるなんて。本当にお二人にはお世話になります」
最初の頃の勢いはなく、いまは丁寧な口調であった。まあ、それだけ焦っていたということだろう。
「かまわんよ。依頼料に色もつけてもらったしな」
「ワイバーンを倒すほどのお二人に守っていただけるのですから、必要経費として十分ですよ」
褒められて悪い気はしない。サービスとして氷結魔術でロックレプタイルを冷凍保存してやった。
「ところで、スヴェン殿、なぜ急にロックレプタイルが必要になったのだ?」
「それは……」
「依頼主の秘密は守るが、話しにくいことなら聞かないでおくよ」
「ここまでしていただいたのです。お二人には話しておきましょう。商会の恥となるので、あまり口外出来ない内容なものでして」
スヴェンは渋面をつくりながら、重い口を開いた。
「先日のことですが、ロックレプタイルの素材の発注を受けまして、無事に買い付けたものを倉庫に保管していました。ですが、納品の1週間前に盗まれてしまいまして」
「盗まれただぁ!? それは、なんとも災難だったな」
スヴェンが口を濁したわけがわかった。商会で保管している品物が盗まれるなど、客からの信用問題となる。
物品自体の損害よりも、客からの信用を失うことのほうがよほど手痛いものとなるだろう。
「実は、盗難にあったのは、これで二度目でして。前回はなんとか品物を納めることができたのですが、今回失敗したら私どもの商会は終わるところでした」
「警備の人間はおいていなかったのか?」
「一応、夜の間、従業員が交代で番をするようにしていたのですが……」
「そこはプロに頼むべきだろう」
「私どももそう商会長に提案したのですが、いつくるかわからない盗人のために、ずっと人間を遊ばせるのはもったいないとおっしゃられまして」
スヴェンは疲れた表情で語りだし、さらにでてくる商会長についての愚痴。
「オレは冒険者だからよくわからないが、なんか、大変そうだな」
「そうなんですよ! この前も、急に注文をとってきたといって、むりやり仕事をねじ込んできてですね。既に仕事はパンパンになっていたっていうのに!」
スヴェンは目を血走らせながら、鼻息を荒くする。
それをみて思ったのは、やっぱりオレは冒険者でよかったということぐらいだった。