6. まさか自分と年も変わらないとは
「これから、夕飯を一緒にどうだ?」
無事に一仕事を終えた後は、必ず酒場へと足を伸ばしていた。この一杯のために生きているといえる。
だが、今回は新しくパーティーに加入したセレナの歓迎という意味合いもあった。
セレナも誘ってみると、二つ返事でついてきた。
着いた先はギルド会館から少し歩いた先にある食事処・酒場という看板が掲げられた店だった。
オレンジ色の照明が木製のテーブルやカウンターを照らす店内、場所のせいか冒険者の姿が多かった。
すれちがった男たちがセレナの顔をぽーっとした表情で凝視しているので、手を払って追い散らす。
空いたテーブルに腰掛けると、対面に座る彼女の様子をうかがう。
相変わらずキレイな女性だった。真珠のような光沢を放つ肌に、ほのかに色づいた頬、銀細工のような細い髪。すべてが匠による技のように完成されている。
「どうした?」
「い、いや、なんでもない。ところで、バートランドは、最近こっちにきたのか?」
この街で見ない顔だし、おそらく他の街から流れてきたのだろう。雪のように白い肌と、特徴的な銀髪は北方地域の出身のものと予想していた。
「ああ、いままではノースガンドで活動していた」
ノースガンドといえば北の山脈のふもとにあるという街の名前で、予想は当たっていたようだ。
一度だけ行ったことがあったが、動きを妨げる深く積もった雪と、肌がめくれあがるような寒さでえらく難儀した覚えがあった。
「あっちは雪が深くて大変らしいな」
「そうだな。魔物との戦いよりも、雪との戦いのほうが大変なぐらいだよ」
そういって彼女は苦笑する。
笑うと目じりに笑い皺ができ、ずいぶんと印象が柔らかくなる。
普段はクールな美人といった感じだが、笑顔の彼女には親しみやすさを感じる。
これは、男が放っておかないだろう。
「一応聞いておくが、オレは独身で、パーティーもいまはオレ一人な状態だ。声をかけてくれたのはうれしいが、そんなところに入ったら旦那が心配しないか?」
「え?」
彼女が不思議そうに首をかしげている。あまり、そういうことは気にしない性質だったのか?
「私は独身だ。それに、今年で30歳になって……いきおくれというやつだ。だから、あまりそういうのは気にしないでくれ」
まさか、自分と年がほとんど違わないとは思わなかった。改めてみるが、とても30代とは思えない。
「あー、その、すまん。これだけの美人だと男が放っておかないと思ってな」
「世辞はよしてくれ。いつも剣ばかり振っているせいで、男など寄ってこないのだから」
セレナはそういって、二の腕を見せてくる。よくひきしまった白磁のような滑らかな肌に目が吸い寄せられそうになる。
たまらず、ゴホンとせきばらいをして気を取り直す。
「オレも似たようなもので、今年で33歳だ。ちなみに恋人なんてできたこともないぞ」
「そ、そうなのか」
なにいってるんだ、オレは……。セレナがオレの顔をまじまじと見つめて困惑しているじゃないか。
早く話題を変えよう。
「ところで、どうして活動拠点を変えようと思ったんだ? むこうなら、フロストウルフの毛皮で結構稼げるだろうに」
北方の大雪山に生息する魔物フロストウルフは、雪にまぎれるような純白の毛皮をしている。雪の中で相対するには脅威となる魔物だったが、同時にその毛皮は他の地域では珍重され、高値で取引されている。
「その……だな……。ちょっとした事情だ」
危険と隣り合わせである冒険者になるものはなにかしら事情を抱えているものが多い。犯罪などよっぽどのことがなければ、冒険者ギルドは誰でも受け入れている。
「悪い、へんなことを聞いたな。改めて聞くが、バートランドはこのパーティーで大丈夫か? オレとしてはすごく歓迎したい気持ちだ」
「私はもとより入るつもりだったのだ、こちらからもよろしく頼むよ。それと、呼び方はセレナと名前で呼んでくれ」
「わかった、セレナ。オレのこともライルと呼び捨てにしてくれ」
握手を交わすと手の平にはやわらかさはなく、剣ダコのゴツゴツとした触感がかえってきた。そこには長年の冒険者としての積み重ねがあり、頼もしさを感じるであった。