44. オレたちのパーティーに入らないか
オルニスがノースガンドに旅立った後、度々手紙のやりとりをしていたそうだ。
オレも、元気にしているかと心配になり一度手紙を出したことがあった。しかし、返事は『心配ないから子供扱いしないで』というそっけない一言だった。
手紙から2週間後。
玄関をやや乱暴にノックする音が聞こえた。
たぶんあいつだろうなと扉を開けると
「来たわよ!」
そこには久しぶりに見るオルニスの姿があった。
小さな体で胸を張り、自信満々の笑みを浮かべている。
「ひさしぶりだな、オルニス」
セレナも同様に、笑顔でオルニスを出迎えた。
家のリビングにて互いの近況を交えて、会話は盛り上がった。
グレイシア家に戻ったオルニスは、当主である父親と再会した結果、初めは何を言われるかと身構えていたが、特に何を言われるわけでもなかった。
そして、迷いの樹界でのことを話し、さらにオルニスが開発した魔法のカバンを見せたところ、かなり興味をもったらしい。
空間魔術によって内部を亜空間にし、カバン一つで驚異の収納量をもつことができる発明であるわけで、ひとつの技術革新といえるものだ。
ようやく父親に自分の力を認めさせることができたようで、よかったなと褒めるがオルニスが不満そうな顔をしていた。
さらに話を聞くと、グレイシア家援助の元に魔法のかばんの開発が進められることになり、安定供給を目標とした生産技術確立のための研究主任にオルニスが抜擢されたそうだ。
「結局、グレイシア家のためにわたしががんばったみたいで、くやしいじゃないのよ! しかも、身内だからってだけで重要なポストを与えるとか、ほんっとに昔からかわらないんだから!」
「利益のからむ案件で、重要なポストをそんな単純な理由で与えることはないだろ。そいつは、オルニス自身の能力が認められたからじゃないのか?」
「むー、そうかもしんないけどさぁ~」
いまだに納得できていないようだったが、結局最後まで研究に携わっていきたいという思いで、父親からの申し出を受けいれたらしい。
「んで、今回はどうしてここに? オレはいくらいてくれてもかまわないんだが」
「それは、ガンツのおじいちゃんに用があったのよ。いろんな魔物の解体してきたあの人なら、魔物の素材について色々知ってそうでしょ」
魔法のかばんに使用する安価で安定して手に入る材料探しをしているそうで、この地域周辺の魔物にくわしいガンツじいさんに聞きにきたらしい。
「とりあえず、これ、試作品よ。あんたたちに、あげるわ」
机の上に乗せられたのは、二つのポーチだった。腰に固定できるもので動きをさまたげることもなく、冒険者などの動きやすさ重視の人間に人気のでそうな一品であった。
「いいのか、まだ貴重なもんじゃないのか?」
「気にしないで。そのうち市場にも出回ってくるだろうし。冒険者のあなたたちが使ったときの感想とかもききたいしね」
どんなものかとバックルでとめられたフタをあけようとしたところ、オルニスが慌てたように止めに入る。
「ちょ、ちょっと、まって。まだ、あけちゃだめ」
「なんだよ、もったいぶるなよ。少し見てみるだけだからよ」
「いいから! 開けるのはわたしが帰ってからね!」
さてはオレたちを驚かせようと、この中に何か仕込んだのだろう。
「ライル、楽しみは後にとっておこうじゃないか」
セレナにもわかったようで、お互いに苦笑をうかべながら後で開けることにした。
「ところで、セレナ、この家にライルと一緒に住んでるって、ほんと?」
「そうだな。一部屋貸してくれるというので、甘えさせてもらっている」
オルニスはじっとセレナを見ながら、そっとため息をはいた。
「そっか、さすがはセレナ。わたしが後押しするまでもなかったみたいね」
「なんのことだ?」
「あんたには関係のないことよ」
よくわからないが、セレナとオルニスでのなにかやりとりがあったのだろう。
「どうせなら、オルニスも今日は泊まっていくか? まだ部屋は余っているぞ」
「……いいわよ。もう宿もとってるし」
てっきり、もっとセレナと話せるからとうなずくと思ったが、オルニスは首を振った。
滞在中のオルニスは、昼間はガンツじいさんのとこに出向き、夜遅くまで魔術教会支部で研究員と話し合っている生活を送っていた。
何か手伝えることはないかと聞くと、必要な魔物の素材リストを渡された。
「どうせなら、リストの魔物を一緒に狩りにいかないか?」
「……いい。忙しいのよ」
久しぶりに3人でのパーティーが組めるかと期待していたが、結局セレナと二人で狩ってきた魔物をガンツじいさんに渡すだけになってしまった。
ガンツじいさんと話すオルニスを遠目に見たが、いつもどおりの研究に対して熱心な姿がそこにあった。
そして、オルニスがまたノースガンドに戻る日がやってきた。
「それじゃあ、行くわね。おかげでいいデータが集まったわ」
いつもどおりの調子でさっさとノースガンド行きの馬車に乗り込もうとするオルニスだったが、どうしてかその背中に寂しさを感じた。
滞在中もときおり何か物言いたげな顔をしていることがあった。視線が合うとなんでもないという顔をとりつくろっていた……。
「そういえば、オルニス、一つ聞いていなかったことがある」
「なによ?」
「オレたちのパーティーに入らないか?」
「……なんで、いまさら、そんなことを」
「なし崩しで一緒に活動していたけど、ちゃんと聞いてなかったからな」
「……そんなん、いわれなくても! とっくにパーティーに入っているに決まっているでしょう!」
「そうか、困ったことがあったらすぐにいってくれ。騎竜便でもなんでも使ってすぐにかけつけるからよ」
隣に立つセレナも大きくうなずき、オルニスは顔を見せないように馬車に乗り込み、そして、馬車は出発していった。




