4. これはまいったな
普段ロックレプタイルは岩陰に潜み、体温調節のための日光浴時にその姿をさらしてしまう。そのため、灰色の肌を生かして周囲の岩に擬態するという特性をもつ。
さきほどの一匹を見つけたのはかなりの幸運だったはずだったが、彼女はあっさり次の一匹を見つけてしまった。
矢の刺さった死体を回収しに向かうと、ごつごつとした岩がころがる足場の悪さにもかかわらず、セレナはひょいひょいと軽い足取りでついてくる。
弓の腕といい彼女は一体何者なんだ?
これだけ目立つ見た目ならば、知っていておかしくないはずなのだが……。
「どうした?」
黙って見ているとセレナが振り向き、そして、その顔が警戒の色に染まる。
遅れて振り返ると、一匹のワイバーンが空で旋回飛行を繰り返している。
あれは、ワイバーンが仲間に敵の存在を知らせるための行動だったはず。
「見つかった!? 逃げるぞ!」
ワイバーンたちが集まる前に、これまでの隠密行動をやめて走り出す。
頭上ではギャアギャアと耳障りな鳴き声が聞こえる。次第に、羽ばたき音の数が増えていく。
「ガランディア殿、これは、まいったな」
「ああ、そうだな」
目の前には切り立った崖。落ちれば間違いなく命は助からないだろう。ワイバーンたちが少ない方向へと逃げていったのだが、どうやら追い込まれていたらしい。
「ワイバーンというのは、ずいぶんと賢いものなのだな」
ワイバーンは本物の竜と比べればひとまわり小さい亜竜であったが、群れをなし効率的な狩りもするという。
その狡猾さ故に恐れられているはずなのだが……。
「本当にまいったな」
セレナは笑っている。
背負っていた盾を構え、剣を抜き放った。
上空からはばたき音とともに怪鳥のような甲高い鳴き声が降りかかってきた。
セレナが盾と剣を構えながら、自らの体の二倍以上もあるワイバーンの前に立ちはだかる。
ただの蛮勇とも見える行為であったが、彼女の表情は落ち着いたもので、その目は上空より飛来するワイバーンの挙動を完全に追っていた。
せまる爪先を盾でいなすと同時に、盾を大きく横にふりワイバーンの体勢を崩す。
そして、大上段から振り下ろされた剣がワイバーンの片翼を根元から断ち切った。
さきほどの弓による射撃では針の穴をとおすような腕前を見せたというのに、今度は荒々しい戦士のごとき力強い動きをみせている。
血をまきちらしながら地面へと落下し、痛みと混乱で暴れまわるワイバーン。そんな仲間の惨状を見ているのか、上空のワイバーンたちの鳴き声がいっそう激しくなる。
そんな魔物たちをに対して見せ付けるように、地面に倒れるワイバーンの頭部へと剣を突き立てた。
「さあ! 次にこうなりたいヤツはいるか!」
帰り血に染まる顔に笑みを浮かべる彼女は、白と赤のコントラストがゾッとするほど美しかった。
言葉は通じないはずの魔物たちが、セレナを警戒するように上空で距離を保とうとする。
注意はすべて彼女にむかっていて、しかけるなら今だろう。
「バートランド! 耳をふさげ!」
次の瞬間、上空で大きな爆発が起きる。突然の音と振動に驚き慌てるワイバーンたち。
「なんだ、いまのは?」
「爆裂魔術だよ。爆発範囲をひろげて見た目を派手にした分、ほとんど威力はない。いまのうちに逃げるぞ」
ワイバーンたちが混乱から立ち直る頃には、オレたちの姿は既にそこにはなかった。