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31. 擬態している魔物が多いと聞いた

 オルニスをはさむように、オレが前に、後ろにセレナがついて隊列を組みながら慎重に前へと進んでいく。

 

「ダンジョンって初めてなんだけど、なにをすればいいの?」

 

「ん~、そうだなぁ。研究のために学者先生がついてきているならその護衛がメインになるが、今回はダンジョン内での収集作業だな」

 

「とにかくめずらしいものを見つければいいってことね」

 

 オルニスがうんうんとうなずきながら周囲に視線をめぐらせる。見えるのは年代を感じさえる苔むした木々ばかりであった。


「ちょっと待ってくれ」

 

「どうした? セレナ」

 

 セレナは木の幹を指差す。そこは成長の過程でできた洞ができた箇所で、ざらざらとした灰色の木肌が見えるばかりである。

 しかし、じっと見つめていると、二つの琥珀色の目が見開きこちらを見つめ返してくる。

 

「そいつなら、大丈夫だ。森の小動物をエサにする猛禽類で、人間を襲ってくることはない。それにしても、セレナ、よくわかったな」

 

「ライルからあらかじめ擬態する魔物が多いと聞いていたからな」

 

「へー、すごいもんね、ほとんど木と同化しているように見えるわ」

 

 オルニスが感心するようにしげしげと見つめる。

 

「擬態してるやつらは隠れるようとするおとなしいものが多い。だけど中には奇襲をしかけてくるやつがいるから注意しろよ」

 

「ところで、さっきから歩きながら木に刻みをいれてたけど、もしかして……」

 

「察しがいいな、トレントっていって木自体に擬態しているやつがいるからな。他の探索者も、こうして木に印をいれておくことで区別できるようにしておくんだ」

 

 歩きながら、手に持ったナイフで浅めに傷をいれていく。

 

「なるほどね。わたしもやってみよ」

 

 そういってオルニスが手近な木にナイフをつきたてる。

 途端に、風が吹いたわけでもないのに枝がしなり始めた。

 

「えっと……、もしかして、当たり?」

 

「くるぞ! なるべく距離をとるんだ」

 

 セレナが盾を構えトレントの前面に立つ。


 頭上より、まるでムチのようにしなる太い枝の一本が振り下ろされた。

 地響きをたてながら地面にぶつかり、その一撃の重さによって地面がえぐれていた。

 

「これ、どっから攻撃すればいいのよ!?」

 

「こいつはローパーの一種で軟体動物だ! 幹の部分に攻撃するぞ!」

 

 ローパーといえば、水場に生息する多数の触手をもつイソギンチャクのような魔物である。

 しかし、このトレントは陸上生活に適した体に変化させた変異種だった。


「こいつは中々に硬いな」

 

 セレナは重い一撃を盾で防ぎきれないと悟り、回避に専念しながら、すきをみて一撃を叩き込む。

 しかし、その硬く柔軟な外皮に苦戦しているようだった。

 

 火炎術を使いたいが、こんな森のなかで火をおこせば自分たちまで火にまかれかねない。

 

 セレナを援護するように、風の刃を飛ばすが表面を削り取るにとどまっていた。

 

「ここはわたしの出番ね! 練成! 重厚なる盾(タワーシールド)よ」

 

 オルニスの体をすっぽりと隠すほどの背の高い盾が現れる。その表面は赤熱し、マグマのように流動している。

 まるでそれ自体が炎の塊であるかのように、熱気がこちらまで伝わってきていた。


 トレントもその熱気に脅威を感じたのか、振り払うように枝の一振りが襲いかかる。

 

「くあっ」

 

 ドシンという重い音が響き、オルニスの小柄な体では盾を支えきれず吹き飛ばされそうになるが、背中をささえてやり押しとどめた。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。……そのまま支えてて」

 

 熱の塊ともいうべき赤熱の盾に触れたトレントの枝もただではすまず、炭化しぼろぼろと崩れていく。


「セレナ!」


 一声かけると、数瞬目線を合わせただけで、状況を飲みこみオルニスの援護へと回る。

 死角より攻撃しようとした枝をセレナとオレがさばき、オルニスを支えながら、トレントの幹まで到達した。

 

 焼き鏝のように赤熱の盾を押し付けると、炭化した樹皮がめくれあがり、そのやわらかな内臓が露わになる。

 飛び込んだセレナが剣の切っ先を鍔元まで埋め込ませると、トレントが苦悶の声をあげながら崩れ落ちた。


「なんか、タコみたいね」

 

 へにゃりと力を失った枝が地に垂れる様子をみて、オルニスがおかしくてたまらないといった感じ笑っている。


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