3. セレナの実力
「あなたが、パーティー募集をしていたライル・ガランディア殿か」
鈴のようによく通る声であった。真面目な口調と口元を引き締めた表情のせいか、こちらも若干緊張してしまう。
「パーティーに入ってくれるというのは、本当、なのか?」
「もちろんだ。二言はない」
彼女はまっすぐに視線を向けながら、はっきりとうなずいてみせた。
改めてその顔を見ると非常に整っていた。冒険者などという危険な仕事をせずとも、店の看板娘として働けばそれだけで引く手あまただと思えるほどだった。
こんな女性がいたのなら、ギルド内でも噂になってそうなもんだが、はて?
気づけばギルド内の連中も騒ぎ始めている。その中には依頼主である男も含まれていた。
「ええと、あんたは?」
「すまないな。話の腰を折ってしまったようだ。しかし、貴殿も幸運だな。かの、ライル・ガランディアに依頼を受けてもらえたのだから」
「そ、そうなのか?」
男がオレの顔を見る。その視線からは、懐疑的なものと期待がない混ざになったものが感じられた。
こんなとき冒険者ならどう答えればいいか決まっている。
「もちろんだ!」
太陽が高くのぼり、容赦ない日差しが照りつける岩石地帯。オレとセレナの数時間前にできたばかりの急増パーティーが、岩陰に身を潜ませていた。
空を見上げると、多数のワイバーンが空を行き交っている。繁殖期に入ったため、もともとの獰猛性に加えて、すこしでも栄養をとろうとエサとなる捕食対象を探している。
まともな人間ならこんな場所に近寄ろうとは思わない。
しかし、傍らのセレナに目を向けると、落ち着いた様子で周囲に警戒を向けている。
依頼者が急ぎということで、早足できたが息を乱した様子もなかった。風が通り抜け、彼女の銀色の髪をがさらりとゆらす。
「なあ、バートランドさんよ。本当にいいのか、こんなところまでついてきて?」
セレナはオレの質問に、「なにか、問題でも?」とでもいいたげに見返してくる。
彼女の実力がわからず、いざとなったら一緒に逃げ出せる心構えをしておきながら、手順の説明にはいる。
標的はロックレプタイルという名の小型の爬虫類で、岩のすき間に住む虫や小型動物を主食とするおとなしめの魔物であった。
問題は周囲の岩陰にとけこむような灰色の肌をし、非常に見つけにくいという点にあった。
「いた、あいつだ」
運よく、岩の上で日光浴をしている一匹を見つけた。
一見すると、ただの岩の塊にみえるが、あれは擬態した姿である。
足音を忍ばせながら、そろりそろりと近づいていく。
四足を使ってすばしこく動き回り、岩のすき間に逃げてこんでしまうため、不意打ちの一撃で仕留める必要があった。
周囲の警戒をセレナに任せ、魔術触媒となる杖を手に術式を組みながら、死角からゆっくりと近づく。
そして、魔術の有効範囲まで近づいたところで、杖の先端を向けて練り上げた魔力を一気に解放した。
ロックレプタイルが気づいたときには全身が霜で覆われていき、身動きが取れなくなっていく。
「さすがだな。見事なものだ」
「なあに、たいしたことはない」
首だけをのこし全身を氷付けにされたロックレプタイルを、感心したようにセレナがながめていた。
手放しに褒められることに照れを感じながら、トドメをさした獲物の死体を空間魔術でつくった異空間に放り込む。
「ライルは空間魔術もつかえるのか」
「便利だからな、おぼえておいた」
「へえ、私は魔術はからっきしだから、うらやましいな」
「オレの場合は、必要になったらその都度教えてもらったり、他人のを真似て覚えていっていただけだから、ほとんど我流だよ」
剣の方はギルドの剣術指南役に教わったので、そこそこ形にはなっているが、本職には勝てないだろう。
「私は魔術よりこっちの方が性にあっていたようでな。遠距離はもっぱら弓に頼っている」
そういって、彼女は背負っていた弓を構え、矢を番えひきしぼり始める。
しかし、彼女の視線のさきは岩が転がっているばかりである。
いったい彼女はなにを狙っているのだろう?
彼女の意図がわからないまま見ていると、風切り音とともに矢が放たれた。
そして、矢がつき立った先には、コロリと転がるロックレプタイルがいた。
尋常ならざる腕前に、オレはあんぐりと口をあけていた。